中華鍋が炎に包まれている写真

2017年、大晦日の渋谷。センター街にある飲食店で火災が発生し、雑居ビルから炎が上がる様子が報道されました。年末の買い出しや年越しイベントの客で賑わう繁華街は一時騒然となり、大混乱。渋谷センター街では同年12月4日にも焼肉店の火事があったばかりでした。

都内の火災件数は全体として減少傾向にありますが、飲食店の火災件数は増加しています。全国的に見ても、死傷者が出るケースや、店から出た火が大きな災害につながってしまった事例があります。

今回は飲食店での火災発生原因をデータから探り、なかでも注意しておくべきダクト火災に焦点をあて、飲食店で最低限やっておくべき防火対策について専門家に聞きました。

火災件数は減っているのに、飲食店の火災は急増中!

東京消防庁管内の火災件数を示したグラフを見ると、火災の件数は増減を繰り返しながらも、全体として減少傾向です。一方で飲食店の火災件数は、こちらも増減はありますが増加傾向。とくに平成26年からの伸びが目立ちます。

<東京消防庁管内の火災件数の推移>

火災件数の推移を表したグラフ

東京消防庁予防部予防課「飲食店の厨房施設等に係る火災予防対策ガイドライン」より

飲食業は火を使う仕事であり、火災の危険はつきものですが、それにしてもなぜこんなに火災が増加してしまっているのでしょうか。

東京消防庁が平成24年に発表した「飲食店の厨房設備等に係る火災予防対策等検討部会報告書」では、飲食店の火災の増加について

  • 「調理手法の多様化や調理の効率化」
  • 「調理時間の短縮のため、厨房設備等の高火力化や複合化が進んでいること」
  • 「店舗営業時間が長時間化して昼夜を問わず厨房設備等を使用するためメンテナンス等に要する時間も短くなってきていること」
  • 「非正規雇用従業員の依存率が高まって調理人等の専門家の取扱いの機会が減少してきていること」

が背景にあるのではないかと考察し、厨房設備等を取り巻く環境が変化してきていると指摘しています。

飲食店の火災の原因は人為的なミス

飲食店の火災の原因のトップは「放置する・忘れる」。火器の不具合ではなく、人為的なミスなのです。厨房で鍋を火にかけたまま別の仕事に取りかかり、いつの間にか忘れ、気づいた時には火が燃え広がっていた…といった状況が想像できます。

<飲食店の出火原因>

過去5年間の飲食店の出火原因の割合を表した円グラフ

東京消防庁予防部予防課「飲食店の厨房施設等に係る火災予防対策ガイドライン」より

総務省消防庁は飲食店関係者向けに、厨房のなかで火災が起きやすい場所や取り組むべき防火対策をまとめた動画を配信しています。
飲食店の火災にフォーカスした内容で、日頃から気を付けなければならないポイントがまとまっています。

火をつけたまま「放置する・忘れる」ことで、どのように火が広がっていくのか実験した映像もあるので、ぜひご覧ください。
火災予防のポイント 厨房に潜む危険を知る」(本編14分)総務省動画チャンネルより
火災予防のポイント 厨房に潜む危険を知る」(ダイジェスト版3分)総務省動画チャンネルより

飲食店特有の「ダクト火災」とは?

総務省消防庁の動画でも紹介されている通り、飲食店の火災はコンロ周辺で起きるとは限りません。ここ最近注目されているのは「ダクト火災」です。2017年11月に名古屋市の焼肉店で起きた火災や、12月4日に起きた渋谷センター街の焼肉店での火事も、ダクト火災でした。

ダクト火災とは、排気用ダクトで発生する火災のこと。ダクトそのものは不燃材料で作られていますが、その表面に蓄積した油や埃に調理の際の火などが引火し、火事を起こします。厨房のコンロの上や、焼肉店の客席のコンロ・七輪などの上、または無煙ロースターの下に設置された排気用ダクトから火が出るケースが増えているのです。

ダクト(管)は天井や床下などに配置されていることが多く、火災に気づくのが遅れ、発見した時には既にかなり火が回っていることもあります。ビル内の火災でダクトが他の階までつながっている場合、延焼を招いてしまうことも。ダクト火災は他の火災よりもリスクが大きいと言えます。

コンロの上に鍋が2つ置いてあり1つから炎の柱が上がっているイメージ写真

ダクト火災のイメージ。厨房のコンロの調理火等からグリスフィルターやダクト内の油塵に引火し、火災につながる。
総務省消防庁「火災予防のポイント 厨房に潜む危険を知る」動画より

「ダクト火災」を防ぐために、やっておきたい防火対策

飲食店の火災の中でも、リスクが高く、日々のメンテナンスで対策が必要な「ダクト火災」に焦点をしぼり、その傾向と対策について専門家にお聞きしました。

一般社団法人日本空調システムクリーニング協会(JADCA)は、空調や厨房排気設備のプロフェッショナルを育成し、診断士の資格試験などを行っています。評価委員長の花木俊介さんは厨房排気ダクト火災の調査・研究に携わり、さまざまな実験にも立ち会ってきました。

花木さんは、最近のダクト火災について「焼肉店で起きたダクト火災についての報道では、お客様の肉の焼き方について注意喚起するようなコメントもありましたが、施設・設備を管理する立場では、店側のメンテナンス不足を指摘せざるを得ないです」と言います。

スーツ姿の男性がノートパソコンを広げて説明をしている写真

一般社団法人日本空調システムクリーニング協会 評価委員長 花木俊介さん

ダクト火災を防ぐため、飲食店のスタッフが最低限やっておくべき対策はなんでしょうか。花木さんに解説していただきました。

■ダクトの点検・清掃のポイント

花木さんは、レンジフード(天蓋)、グリスフィルターの日常的な点検・清掃は必須だと言います。グリスフィルターは、取り外して清掃しましょう。さらに、火が出た際に作動する防火ダンパーや自動消火装置ノズルまで清掃するのがベターとのこと。防火ダンパーは油汚れが0.2mm程度の厚さになると固着してしまい、いざという時に機能しなくなる恐れがあり、自動消火装置ノズルも、油汚れが蓄積すると作動しないケースがあります。油汚れが0.1mmほどの厚さになったら清掃が必要です。油汚れは、食器などを洗うのと同様、アルカリ性の洗剤を使って落とすのが良いそうです。

「本来は、ダクトの内部まで常に清掃されているのが理想ですが、なかなかそこまでは難しいと思います。厨房排気設備を清掃する専門業者に、定期的に点検・清掃を依頼していただきたいです」

ダクトの政争の様子の写真が4枚組み合わさっている写真

左上:一般的なレンジフード(天蓋)とグリスフィルター。
右上:グリスフィルター等は、取り外して丸洗いしたい。 
左下:グリスフィルターの奥に設置されている防火ダンパー。火災の際に閉まって延焼を防ぐが、汚れているといざという時に正常に作動しないことも。 
右下:自動消火装置ノズルの油汚れも清掃が必要。
(写真提供:一般社団法人日本空調システムクリーニング協会)

ダクトの清掃は一度やれば終わり、というものではなく、定期的に継続して行なう必要があります。

花木さんは「飲食店、とひとくくりに言っても、すし店やコーヒー店などはほとんど油を使わないですよね。ダクトの清掃・点検は、店ごとの油汚れの度合いによって頻度を検討する必要があります」として、

  1. 営業時間の長さ
  2. 調理数
  3. 油の使用量
  4. 導入しているグリスフィルタの性能

この4項目でその度合いを見極めてほしいと指摘します。

具体的には、焼肉店、中華料理店、ラーメン店、天ぷら店、揚げ物をよく提供する洋食店などは油の使用量が多いので汚れが蓄積しやすくなります。また、夜だけ営業している店よりも、昼夜通しで開けている店は、こまめに清掃・点検が必要です。

さらに炭や薪などの固形燃料を扱う店も油煙が出やすいため、注意が必要です。花木さんの知る事例では、薪を使って肉を焼くレストランで、かなり意識的にダクトを点検・清掃していたにもかかわらず火災が出たことがあるそうです。そのケースでは、留意していたとはいえ、清掃の頻度が、汚れの蓄積するスピードに追いついていなかったと考えられます。

排気ダクトの点検・清掃については、東京消防庁が発表している「飲食店の厨房設備等に係る火災予防対策ガイドライン」にくわしい情報が掲載されています。こちらもあわせてチェックしておきましょう。

今後、油や固形燃料を多く使うジャンルの飲食店をオープンしようと考えている方は、厨房設備の設計段階から、メンテナンスしやすい排気ダクトの導入を検討しましょう。
空気が乾燥する冬の時期は特に、火の元の管理や厨房内の清掃に気を配って、火災を出さないように注意しましょう。

取材協力

企業名 一般社団法人 日本空調システムクリーニング協会(JADCA)
URL http://www.jadca.jp/