アルバイト採用には、求人雑誌や求人サイト、SNSなどさまざまな媒体を活用する採用手法がありますが、最近の飲食業界で主流となりつつあるのが「リファラルリクルーティング」です。
「リファラル(referral)」とは「委託・紹介・推薦」という意味で、「リファラルリクルーティング」とは、自社の社員、社外の信頼できる人脈からの紹介や推薦による採用活動のこと。
採用活動にかかるコストやリスクを抑えながら、定着率向上も実現できるという新しい採用手法として定評のある「リファラルリクルーティング」について、ご紹介したいと思います。
目次
「リファラルリクルーティング」にかかるコストはどれくらい?
「リファラルリクルーティング」の魅力のひとつに、コストを抑えられることが挙げられますが、実際にはアルバイト採用で1名あたりにどれくらいのコストがかかるのでしょうか?
■紹介料の相場は1人あたり5000円
さまざまなジャンルの飲食業界の方からヒアリングしてみたところ、「リファラルリクルーティング」では、人材を紹介してくれた人と実際に採用された人の両方へ紹介料を支払うケースが大半のようです。
そのほかの紹介料の支払いの考え方として、
- 紹介してくれた人だけに支払う
- 採用された人にだけ支払う
というケースもあるようです。
ただし、紹介料発生には「採用された人が1カ月~3カ月勤務したこと」が前提条件になっている場合がほとんどです。
紹介料は、1人あたり5000円前後が相場です。
つまり、1名のアルバイト採用にかかるコストは約1万円(紹介者へ5000円+採用された人へ5000円)となります。求人広告などの媒体を利用した場合などと比べてみても、これはかなりのコスト削減になると言えます。
ただし、人を介して紹介してもらう「リファラルリクルーティング」の場合、不採用を出す際には注意が必要です。
■紹介してもらった人材を不採用にする場合の注意ポイント
不採用の通知には、丁寧なフォローが大切です。気まずく感じる採用担当者も多いと思いますが、紹介者には感謝の言葉とともに、不採用の理由をきちんと伝えておきたいもの。その際には、勤務シフトの調整など就労条件の折り合いがうまくいかなかったことを伝えると良いでしょう。
ポイントは、考え方や志向性など個人的なことを不採用の理由に挙げないこと。挙げてしまうと「せっかく紹介したのに…」と思わぬところで紹介者のモチベーションを下げてしまう可能性があります。紹介者は今後も友人・知人関係を続けていくのですから、ふたりの関係に影響しないよう採用担当者は配慮する必要があります。
「リファラルリクルーティング」で定着率が高いのはどうして?
飲食業界で最も効果的に「リファラルリクルーティング」を活用しているのは、アルバイト採用の際に学校やサークルのつながりで仲間を紹介してもらうケース。しかも、友人の紹介を経て採用されたスタッフの定着率は高い傾向になると言われています。それはなぜでしょうか?
■仲間同士で支え合う環境が作りやすい
仲間同士の場合、自分がアルバイトをしてよく知っているお店のことについては、嬉しかったことや悩みを含めて本音で話をしているケースがほとんどです。職場の雰囲気やお店の良い部分と悪い部分など、ある程度は事前に理解した上で面接を受けに来るため、採用後に「こんなはずじゃなかった」と職場にギャップを感じるミスマッチが防ぐことができるのです。
そのため、「せっかく育てたのに辞めてしまった…」といったような採用後の離職率も低く抑えることができるのです。
さらに、仲間同士で勤務すると、自分たちでシフトの調整をしたり、悩んでいることことがあっても気軽に相談しあうなど、お互いを支えあう環境が築きやすいようです。これはマネジメント上のメリットとも大きいと言えますね。実際、同じ学校やサークルの仲間がいる職場ではスタッフの結束力が固く、店全体の活性化にもつながるケースが多くあります。
「リファラルリクルーティング」だからこそ、気をつけておくべきことは?
採用コストが抑えられ、職場の活性化にもつながる良いこと尽くしのようにも聞こえる「リファラルリクルーティング」ですが、導入することのデメリットやマネジメントをする上で気をつけるべきことを解説したいと思います。
■結束力が強いからこそ任せっきりにしないこと
仲間と一緒に働くわけですから、新しいメンバーも職場に早く打ち解けることができ、チームワークを発揮しやすいというメリットがあります。しかし、チームワークや結束力が強いからこそ、慢性的な不満が蓄積されるとその結束力が逆に働いてしまう可能性もあります。
例えば、飲食店側がアルバイト側の信頼関係を失ってしまうと、スタッフがまとめて辞めてしまうようなことが起きる可能生があります。マネジメントがうまくいかない状態が続いてしまうと、店の運営や経営にも打撃が大きくなってしまいます。
そうならないためにも、何か困ったことがあれば店長や社員に相談できる環境作りは必須です。定期的にアルバイトリーダーとは直接面談する時間を取って、現場の不満や困っていることがないか、アルバイトスタッフ全体の状況をチェックしたり、SNSなどを活用して気軽に相談できる目安箱のような仕組みをつくるのもひとつの方法でしょう。
また、コミュニケーションを取りやすい環境を作るためにも、接客時や職場の仲間同士のトラブルがあった場合には、アルバイトリーダーに対応をすべて任せてしまうのではなく、店長や社員が率先して対応する姿勢を見せ、日頃から信頼関係を構築する努力が大切です。
そのためにも「リファラルリクルーティング」を活用している職場の店長や社員は、現場で何が起こっているのか、どんな不満があるのかきちんと引き出すために必要な「傾聴力」「質問力」、そして頑張っている人をきちんと正しく評価する「承認力」や「リスペクト」のスキルを磨いていく必要があります。
この「承認力」や「リスペクト」に関して、モチベーションと深い関わりのある面白い理論がありますのでご紹介します。
■働く人たちのモチベーションを左右する「動機付け衛生要因理論」
アメリカの臨床心理学者フレデリック・ハーズバーグが提唱した、「動機付け衛生要因理論」の中では、職務満足に関する要因には「不満足要因」と「満足要因」があるとしています。
「不満足要因」=「衛生要因」とは、会社方針や職場環境、給与、対人関係などを指します。これらの要因が不十分なときに人は不満足と感じます。ただし、これら要因が十分であっても満足感をもたらすわけではありません。
一方、「満足要因」=「動機付け要因」とは、仕事内容や達成感、承認、責任、昇進、成長の可能性などを指します。これらの要因が十分であるときに、人は意欲が高まります。ただし、これら要因が不十分であっても不満の原因にはなりません。
つまり、時給を上げたり休日を増やすことは不満の解消にはつながりますが、それが直接的に働き手の満足につながるわけではないのです。働き手の満足感やモチベーションアップは、仕事内容や達成感、承認などによって得られるものだと考えらえているのです。
アルバイトの結束力をさらに高めるためには?
「リファラルリクルーティング」で得たアルバイトの結束力は、働く一人一人が自主的に考えることを促し、より強いチームワークを発揮させてくれます。ですが、任せすぎてしまうことによって一気に全体のモチベーションが下がってしまうこともありますから、マネジメントする側の力量も問われることになります。
そこで、「リファラルリクルーティング」を活用しながら、さらに職場やチームワークを活性化させていくための取り組み例をご紹介しましょう。
■社員登用も見すえた高いモチベーションの醸成
チームワークをさらに活性化させるために、企業ではさまざまな取り組みがされています。
例えば、店舗の多い事業所では、チーム間競争ができる施策を作っているケースも多く見られます。例えば、おすすめメニューの売上を個人やチームで競い合わせたり、店やチームで掲げた目標やスローガンが達成できたか成果発表(フィードバック)をしっかり行う取り組みなどがあります。
また、本来は社員や店長以上で開催されるキックオフミーティングにバイトリーダーも参加してもらい、会社としての方針や目標、結果を一緒に振り返りながら所属する店への帰属心やモチベーションを養うのもひとつ。こうした取り組みは、アルバイトからの社員登用を視野に入れた人材育成や、人材の見極めの場としても効果的な側面もあり、人材確保が難しい飲食業界では注目されている取り組みのひとつでもあります。
今後も広がりが期待される「リファラルリクルーティング」
人と人とのつながりを活用して人材採用を行う「リファラルリクルーティング」。最近では直接的な候補人材の紹介以外にも、求人情報を自社の社員や関係者などのSNSを使って拡散するなど、活用方法にも注目が集まっています。
コストを抑えて良い人材を確保するだけにとどまらない「リファラルリクルーティング」は、人材確保が厳しいと言われる飲食業界にとっての救いの一手となるかもしれません。
■この記事の指南・監修
クックビズフードカレッジ講師 荒木寿夫
大学卒業後、アパレルメーカーを経てマンションコンシェルジュ、飲食業界で人事・採用・教育を担当。現在、クックビズフードカレッジにて、飲食業界の各企業向け人事ノウハウや研修サービスを提供。飲食業界や人材業界での知見を活かしたメディア出演も多数。
クックビズフードカレッジ
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