こんにちは。クックビズ総研編集部の永本です。
難波の新歌舞伎座の裏手、通称「座裏」と呼ばれるエリアを席巻し、関西バール文化の先駆けと言われる「ピエーノ」。
2013年グランフロント大阪の南館7階に「PIENO festa ピエーノ フェスタ」を出店したことでも、話題になりました。それから10カ月程が経った今もその勢いは止まらず行列が絶えない人気ぶり。
「ピエーノ」を運営する株式会社 泰丸代表取締役であり、オーナーシェフの上西弘泰さんに、その成功の裏にあるアイデアや、ユニークなスタッフ指導法など、飲食業界で働くうえで役立つヒントがたくさん詰まったお話をうかがいました。
ミナミからキタへ!原点こそすべて
───グランフロント大阪の「PIENO festa ピエーノ フェスタ」が大変賑わっておられますね。取材前、ランチで伺ったのですが、行列ができていて数十分まちました。大阪ミナミからキタの商業施設へ、バールという業態そのままで出店されようと思われた理由は何だったのでしょう?
上西さん:バールは自分たちの原点ですから、そこは変えたくなかったんです。幸いにも出店のお話をいただいたときに、ミナミの一号店そのままを持ってきて欲しいと言ってもらえて。
ただ1店舗分だと坪数が小さすぎて採算が合わないので、2店舗分を使いたいとお願いしたらすぐにOKの返事をいただきました。それで決めましたね。「自分たちが今までやってきたことをここで振り返りたい」そんな想いもありましたし、将来の店舗数拡大にむけ、アンテナショップになればという考えもありました。
───商業施設内の店舗と路面のお店。色々と違うことも多いように思います。どんな工夫をされてらっしゃいますか?
上西さん:確かにそのままと言っても商業施設に合わせたメニューを考えなくてはいけません。やはり売り上げのためにはお酒を頼んでもらいたいので、「飲み食べ放題」といったグランフロントだけのメニューを作ったり、夜には4リットルのタワーピッチャーをお出しして楽しんでいただいています。天井に届くほどの高さがあるので、皆さんびっくりされますよ(笑)。
もちろんメニューのクオリティは一切下げていません。なんばにある既存店同様、仕入れには力を入れていて、実際に産地に足を運んで選び抜いた食材を取り寄せています。「信州サーモン」や境港の鮮魚、お肉もただの和牛ではなくて、脂が上質で口の中で溶ける「万葉牛」というA4クラスの牛肉を仕入れています。
───原価率は当然ながら、上がってくると思いますが・・・。
上西さん:そうですね。でも、私の考えでは、原価率40%かけてもいいと思ってます。素材が良いとアレコレひねくり回さなくても、シンプルな味付けで十分においしいんです。食材がよければ、味も安定します。最近はどのお客様も舌が肥えておられますから。
───キタとミナミでお客様の層に違いはありますか?
上西さん:ありますね。やはりグランフロントは近隣の会社で働く会社員、特にOLさんが多い。それからショッピングに来られる10代の方も。商業施設なので、なかなかお酒が出ないのは辛いところですが、ありがたいことにリピーターのお客様が多く付いてくださって、とても良い手ごたえを感じているところです。
スタッフが育つユニークな指導法
───スタッフさんの育成で、何か特別なことはされていますか?
上西さん:弊社は新卒採用もしていて、若いスタッフが多いんです。入ったばかりのスタッフだと、まず市場の魚屋に修業に出てもらうんです、週に2回ほど。
魚をさばけるようになってほしいという想いからですね。私たちが若い頃は自分で勉強しに行ったのですが、今の時代ではなかなかそうはいきません。市場で鮮魚に触れ、さまざまな魚の種類を覚えて、目利きも出来るように勉強してきてもらいます。
───それは驚きです。随分ユニークな指導法ですね!
上西さん:現場の経験は大事ですからね。他には役職別の勉強会などを設けています。企業理念や行動指針に基づいて、振り返りしたり。企業理念は、2号店を作った頃に、ゆくゆくはチェーン展開をするために必要だろうと、作成しました。
例えば、行動指針は、報告・連絡・相談、いわゆる「ほうれんそう」や、お客様のご要望に簡単に「NOと言わない」など、「あたりまえのことをあたりまえに出来るようにしよう」という内容の10個の約束事なのですが、それに基づいてスタッフ全員が同じ目標のもと、働けるようにしています。全部覚えてないスタッフもいますが(笑)。理念や行動指針を明確に示すということは、大勢のスタッフを率いていく上で、大事なことだなと思いますね。
───シェフ自身はお若い頃、目指す先輩などはいらっしゃったのでしょうか。
上西さん:私はあまり他人と比較したりしないんです。自分で考えて創り上げていくことが好きなんですね。ですから独立は早くから考えていました。
最初はお好み焼き屋で働いていたのですが、ひょんなことから洋食屋へ移り、そこで自分はお酒も好きだし将来は気軽に飲める立ち飲みのお店ができたらいいな、なんて思うようになったんです。まさにバールでしょう、それって。リーズナブルにお酒も料理もお出し出来て、洋食の経験が活かせる。そこからどんどん具体的に進めていきました。
───シェフから見て伸びるスタッフはどこが違うとお感じになられますか?
上西さん:はっきり言うと、頭であれこれ考えるより行動できる人ですね。複雑にこねくり回してしまうとあまり続かないんです。それよりもどんどん手を動かして技術を自分のものにしていく。
がむしゃらに働いて気がついたらその経験が身についていた、そんなものだと思うんです。ちなみに今私の片腕として働いてくれているマネージャーは、実は以前は和食の板前だったんですよ。全くイタリアンのキャリアはなかった。それでも一生懸命働いてくれるうちに頼もしいパートナーになってくれました。
───スタッフさんの中には、独立を考えるスタッフもいらっしゃいますよね。
上西さん:独立したいというスタッフがいれば私は応援しますよ。お店を出すための信用として必要であれば、弊社の看板をどんどん利用してくれていいと思ってます。
飲食業界全体で、独立希望者が減ってきたという話もありますが、弊社のスタッフは「独立したい」と入ってくるスタッフが多いです。自分のお店を持つって楽しいことだと私は思っていて、実際にやってみても後悔したことはありません。
将来的には、47都道府県全てに店を出店したい。弊社で経験を積んだあと、地元に帰ってピエーノの店をする…一人ひとりの独立の目標をサポートしたいですね。
料理は自分の歩むべき道が分かる仕事
───そう笑顔で話されると、シェフがご自分のお仕事に大変やりがいを感じて楽しんでらっしゃることが伝わってきます。
上西さん:本当に楽しいですよ、この仕事は(笑)。例えば料理を作って盛り付けるときなんか、自分の頭で描いたとおりに出来上がっていく、イメージがそのまま形になる。
こんなことが出来るのは芸術家などのほかに料理人くらいじゃないのかなって思っています。なかなか自分の思い通りになる仕事って少ないですけど、料理ならそれが出来る。もし作ってみてそれが自分のイメージと違っていたら、すぐに課題も見えてきますしね。
どこをどうすればより良くなるか、自分の歩むべき道がはっきり見えてくるんです。それが楽しい。これから飲食業界を目指す人、特に料理人になりたい人には、この歓びをぜひ味わってもらいたいですね。
───ありがとうございました!
「実は人見知りなんですよ」と仰りながら、とてもにこやかに丁寧にお話しくださった上西シェフ。店舗数が6店舗に増えた今も、シェフは、グランフロントの店舗でキッチンに入り、日々スタッフに指導されています。これからますます増えてゆくスタッフと共に、東京へ、そして全国へと夢が広がるバール「ピエーノ」から今後も目が離せません。
企業紹介
企業名 | 株式会社泰丸 |
URL | http://www.yasumaru.co.jp/ |
(取材・記事作成:永本)