
日本酒造組合中央会の主催による「How to 英語で接客」セミナーが、2019年8月23日と9月10日に開催された。
「世界的なスポーツイベントが続く期間、訪日外国人の消費支出はビジネスチャンス。皆さんはこの大きなチャンスに対する準備ができているでしょうか?」というリアルな問いかけに、ホテル、小料理屋、居酒屋など約60名の飲食業者が集まった。
目次
さまざまな世界的なイベントは日本酒の認知アップと消費拡大に絶好の機会
昨今のインバウンドブームで、政府の予想をはるかに超える年間3,000万人にのぼる外国人が来日しているが、その大半が日本酒を楽しみ、購入するといった状態にはまだ至っていないのが現状だという。
今後もさまざまな世界的なイベントが続くが、訪日客の増加に対して、飲食店は今何をすべきか、何ができるのか。今回のセミナーで、統計数字やアンケートデータを見ながらわかりやすく解説するのは、年間1万6,000人が来館する「日本の酒情報館」館長の今田周三氏だ。
■スポーツ観戦で来日する欧米・オセアニアからの旅行客は、飲食にお金を消費する傾向
2019年10月、スポーツの世界的大会が長期間開催されるため、欧米・オセアニアからの訪日客が非常に多い。今田氏によると、欧米系の訪日客は飲食にお金を使う傾向にあり、スポーツ観戦目的での来日の場合、長期滞在者が多いのが特徴。長期滞在が可能ということは、比較的富裕層が多いと推測できる。
訪日客による経済効果は期待大。ただし、ただ漠然と「外国人観光客がたくさん来る」と捉えるのではなく、どんな層の外国人なのかを客観的に分析し、ニーズを理解した上で具体的な手立てを考えることが重要となる。
■訪日外国人の多くが期待する「日本食」、そして「日本酒」
「平成29年訪日外国人消費動向調査」(観光庁)によると、訪日客が来日前に期待していたことの第1位は「日本食を食べること」(70.6%)、滞在中に実際したことでもダントツの1位が「日本食を食べること」(96%)である。実際にしたことの第5位には「日本の酒を飲むこと」もランクインしている(43.6%)。
飲食店がすべき施策は「外看板」「メニュー」など4つ
もっと訪日客の来店数を増やしたいと考える飲食店がすべき具体的な施策として、セミナーでは次の4つがあげられた。
<外国人客向けに飲食店がしておくべき施策4つ>
- ポイント1. 心に障壁を作らない
- ポイント2. 何の店かわかる外看板
- ポイント3. メニューの工夫
- ポイント4. サービス料の説明
この4つのポイントについて、具体的に解説していこう。
■ポイント1. 心に障壁を作らない
まずは、飲食店側が相手の立場に立つことが大切。外国人のお客様も緊張していることを理解しておきたい。流暢な英語は求められてはいないので、簡単な単語と身振り手振りで伝えればOK。笑顔で対応して、緊張をほぐしてあげよう。
■ポイント2. 何の店かわかる外看板
外国人客に向けてのおもてなしに欠かせないのは、日本語と英語が併記された外看板だ。
東京都産業労働局観光部が行った「訪日外国人への他言語対応に関するWEB調査」でも、外国人観光客が感じた不便・不満のトップ5は、「どんな種類の店かわからない」「メニューの内容がわからない」に集中している。
“Sake Bar”、“Yakitori”などのジャンル、英語の料理名、価格、写真があるだけでかなり入店の敷居を下げることができる。外国人にとってわかりやすい外看板になっているか、ぜひ一度チェックを。
■ポイント3. メニューの工夫
外国人にとってオーダーしやすいメニューは、英語と日本語が併記され、写真が付いたもの。料理名の英語訳が完璧でなくても、写真があればイメージがつきやすい。また、人気メニューランキングや店長のおすすめがあると、日本料理の知識がない人でもオーダーしやすいので喜ばれるだろう。
(記事の最後にメニュー作成に役立つ情報をまとめているので、ぜひ参考に)
■ポイント4. サービス料の説明
外国人観光客とのトラブル事例としてよく取り上げられるのが「お通し」。あらかじめ「お通しはテーブルチャージ、日本のカスタム(習慣)です」と説明することでトラブルを回避できる。
無理にお通しをなくす必要はないと今田氏は言う。
「メディアでは訪日客とのトラブルについてネガティブな面がクローズアップされがちですが、そもそも日本と他国では文化が違うということをまず理解すること。そして外国人客に日本の文化を伝えることも大切なことです。」
今すぐ使える!日本酒を上手に説明する英語表現
では、接客時に日本酒の微妙な味わいをどうやって英語で説明すればいいのだろうか。セミナーでは、横浜で日本酒立ち飲みバー「名酒センター横浜」を営むブライアン・ハトー氏を講師に迎え、実用的な英語フレーズを学んだ。
では、実践的な接客テクニック・英語フレーズの内容を紹介していこう。
■お客さんとのファーストコンタクトは単語3つでOK
お客さんが入店したところからチャンスは始まるので、まずはつかみが大事!まずはHelloの後に続く声かけの例から。
<ファーストコンタクトの声かけフレーズ>
“この店は初めてですか?”
First time here?“ちょっと待ってください。”
Wait just a moment.“好きなところに座ってください。”
Find your place.
3単語くらいであれば、覚えるハードルが低いだろう。
■日本語でそのまま伝えて、あとから英語で補足
続いて、「立ち飲み」「飲み放題」などお店のシステムを説明していこう。
<お店について説明するフレーズ>
“立ち飲み”
Standing bar.“2時間飲み放題”
All you can drink for 2hours.
無理に英訳しようとせず、日本語の文化に根差したものはまず日本語で言ってOK。英語は補足で構わない。例えば立ち飲みを説明するなら、「This is TACHINOMI style, standing bar.」となる。
「Sake(酒)」、「Yakitori(焼鳥)」、「Umami(旨味)」など、いくつかの日本語は既に国際的に認知されている。おつまみは「Otsumami」と日本語でそのままを伝える方が喜んでもらえて、むしろトレンドだそうだ。
■日本酒の味わいを英語で表現する
では、次は日本酒をおすすめする英語フレーズだ。
<日本酒を紹介するフレーズ>
“日本酒を試してみますか?”
Would you like to try Japanese sake?“日本酒は以前に飲んだことがありますか?”
Have you had sake before?“本日のおすすめ”
Today’s recommendation.
セミナー中、特に参加者の熱が入ったのが、お酒の味を表現する語彙。ここでは一部を紹介する。
<日本酒の味を表現するフレーズ>
- full body(フルボディ)=芳醇な
- refined(リファイン)=洗練された
- refreshing(リフレッシング)=爽やかな
- crisp(クリスプ)=キレのある
- smooth(スムース)=口当たりのいい
- ricey(ライシー)=米の香りがする
- lactic(ラクティック)=乳製品のような
- nutty(ナッティー)=木の実のような
■「よくある勘違い」をふまえて日本酒を紹介する
日本人には当たり前のことでも、外国人にはそうでないことも多数ある。
例えば、外国人にはお猪口をショットグラスと勘違いして一気に飲んでしまう人が多い。「日本酒はワインのようにゆっくり味わって」と伝えておきたい。
<日本酒の味わい方を説明するフレーズ>
“日本酒はビールのように作るが、ワインのようにゆっくり味わいます。”
Sake is made like beer, but enjoyed like wine.
日本人は「甘口」をsweetとつい表現してしまいそうだが、それは間違いだとハトー氏は言う。実はsweet(甘口)は梅酒のような強い甘さを指す表現。日本酒の甘口を表現するのであればoff-dry(辛口でない)が適切となる。
<日本酒の味わいを説明するフレーズ>
“こちらの日本酒は甘口です。”
This sake is off-dry.
■日本酒初心者の外国人に喜ばれる接客
英語の接客でのポイントは「どれが欲しいですか?」ではなく、リード&ガイドするのがベスト。外国人のお客様は教えてもらいたがっていると捉えて、怖がらず、一歩前へ進む気持ちでおもてなしすることが大切になる。
具体的なアドバイスを、2つ紹介しよう。
1)日本酒は「おすすめセット」で紹介する
外国人が何十種類もある日本酒の中から選択をするのは無理なので、お店側があらかじめ「おすすめセット」を用意しておくのがおすすめだ。日本酒3種類のおすすめセットを紹介するなら、バランスの取れたタイプ・辛口・生酒のように、タイプの違うものを組み合わせるとよいとハトー氏はアドバイスする。おつまみもセットを作っておくと、オーダーがスムーズになる。
2)日本酒はわかりやすいストーリーで紹介する
精米歩合や米の種類などの情報は知識のない外国人には難しいので、「このお酒は田舎に住んでいるおじいちゃんが作っていて…」というように、わかりやすいストーリーで紹介するのがオススメ。その方が記憶に残りやすく、良い印象を抱きやすいという。
アドバイス)日本酒を全く知らない外国人におすすめの日本酒
・今田氏「香りの高いお酒は、外国人に喜ばれる傾向にあります」
・ハトー氏「バランスの取れたミディアムタイプを最初におすすめして、そこを基準に2杯目以降、もっとドライ、甘口と変化を付けて紹介していくのも良いですよ」
日本酒の消費拡大のカギは訪日客が握っている!
今回のセミナーを主催した日本酒造組合中央会は、全国約1,700の清酒・焼酎の製造者が加盟する組合で、日本酒の国内外のプロモーションに取り組んでいる。
日本では、若者のアルコール離れをはじめ、人口減、高齢化などもあり、日本酒の消費増大はなかなか期待できない。日本酒の消費量を伸ばすための施策は、これまで若年層への興味喚起イベントや海外輸出に関する取り組みなどさまざま行ってきたが、日本酒を外国人客にどうすすめたらよいかに焦点を当て、現場で接客されている人たちへアプローチしたのは今回が初めてだという。
■接客がレベルアップすれば、外国人の日本酒ファンも増えるはず
日本酒を海外に売り込みにいっても、旅費、見本市参加費用、滞在費など、コストがかかり過ぎるため、たとえ契約が成立しても見合わないことも多いという。
さらに、海外の既存市場は現在飽和状態でもある。例えば、日本酒造組合中央会に加盟する日本酒メーカー約1,400社のうち約700社は、規模の大小はあれ、すでに輸出実績がある。また輸出される日本酒の1/3はアメリカ向けだが、アメリカの日本酒販売店はサンフランシスコ、NY、ロサンゼルスに集中し、他都市での流通はまだ少ないのが現状だ。
そこで目を付けたのが、インバウンドブームで増加し続ける訪日客だ。
「旅行者の宣伝・口コミ効果は非常に高い。かつコストがかからない。これを活かさない手はないですよね。問題は、外国人が日本酒に触れることができる接点をどう作ってあげるかです」(今田氏)
日本の酒情報館に来館する1万6,000人のうち2割弱が外国人だが、「日本酒を楽しめる良いお店はありませんか?」と聞かれた時に、英語メニューがない等の理由で、なかなかいいレコメンドができなかったと今田氏は言う。今回のセミナーの発案には、そういった自身の経験も大いにあったようだ。
■セミナーでシェアされていたお役立ち情報
今回のセミナーでは、役立つ情報源の紹介や、語彙リスト・会話集など役立つアイテムが多数配布されていた。
<日本酒を紹介する英語接客のお役立ち情報>
- 公的機関が発行している各種インバウンドマニュアル(ホームページからダウンロード可能)
「飲食業者のためのインバウンド対応ガイドブック」農林水産省(平成30年版)
「外国人観光客対応ツール活用マニュアル」公益財団法人 東京都生活衛生営業支援センター(平成29年3月)
- 英語のメニュー作りが手軽にできるサイト「EAT東京」
これは東京都多言語メニュー作成支援WEBサイト。料理名の翻訳だけでなく、写真を用意すれば、デザインパターンを選んで、メニュー表のレイアウトまですることが可能。
- 英語・日本語併記の写真入りメニューのお手本「接客と商品説明のための簡単な英会話集」など(プリント配布)
■今後のセミナー開催予定
「今後も講座内容をブラッシュアップさせていきます。外国人向けの接客ノウハウと言語表現のアドバイスの両軸からサポートし、飲食店にとっての実用度を高めたいと考えています。」(今田氏)
年明け以降は、定期開催を予定。ロールプレイで練習する少人数制のワークショップを希望する声もあるそうで、そうした講座も検討中だ。
日本酒の魅力をしっかり伝えていくためには、飲食店側が英語での接客サービスに対する十分な準備をする必要がある。こうした実践的なノウハウを紹介してもらえるセミナーを活用する価値は大いにあるだろう。
取材協力
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