「レーヌ デ プレ」は、オープンから1年を待たずしてミシュランガイドで星を獲得。順風満帆に思える中原さんですが、実は料理にまったく興味がないところからスタートしているのだとか。そんなシェフが、なぜミシュランで星を獲得するまでになったのか?

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「正直、地元を出るためなら何でもよかったんですよ」———–

——–中原さんが料理の道に進もうと思ったきっかけは何でしたか?

中原氏:高校球児だったので、野球以外は何にもしてなかったんですよ。高校3年生になって進路を決める時に、とりあえず地元を出て外の世界を見てみたいと思いました。そして、調理の専門学校に入学し、その年の夏には滋賀のホテルに就職が決まりました。

——–料理の道に入ったのは本当に偶然だったんですね。就職先のホテルに入ってからは、心境の変化がありましたか?

中原氏:そこでも一年くらいは料理に興味が持てなかったですね。ただ、職場の上司に「何でもいいから料理の本を読みなさい」「月に一度は評判のレストランに行って料理を食べ、サービスを受けなさい」とアドバイスされたんです。それを実践するようにしてから、少しずつ興味がわいてくるようになりました。ここでは、基本中の基本を教えてもらいました。この時にはじめて、フランス料理を真剣に学びたい、そのために東京か大阪かフランスのいずれかに行って修行しようと思ったんです。

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日々進化する師匠の料理に追いつけ!
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——–料理の道を極めようと思い立った時に、修行先はどのようにして決められたんですか?

中原氏:料理の本を見て、一番きれいな料理を作っているところに行こうって決めたんです。それで、目にとまったのが京都ブライトンホテルの滝本シェフの料理でした。日本人でもこんなに繊細でアーティスティックな料理が作れるのかと衝撃を受けました。そして、直接電話をして修行したいとお願いしました。

——–すごくおもしろい決め方ですね。そして直談判されたと。とてもシンプルかつスピーディに決まったんですね。実際、ホテル内レストランにはいられて、いかがでしたか?

中原氏:最初は大変でした。シェフの考えについていけなかったんです。たとえば、昨日と同じ料理でも使う皿が変わったりするんですよ。

こっちは昨日と同じメニューだから、昨日と同じ皿を準備していると別の皿を持ってくるよう指示が飛ぶ。もう訳がわからなくて、はじめはイライラしましたね。でも、ある時ふとシェフの考えていることがわかったんです。昨日より今日、今日より明日と料理を進化させたいんだなと。だから、中身は同じでも皿の種類や盛り付け方でもっと良くしようとしているのだと気づいたんです。

——–そういう滝本シェフの思いが中原さんに伝わったんですね。それからは、どのように対応されましたか?

中原氏:シェフの思いや考え方に、ついていこうと必死にやりました。とりあえず、すべての皿をすぐ出せるように準備しました。とにかく、この人のサポートを完璧にやってみよう、と腹をくくりました。

——–なるほど、発想をガラリと変えたんですね。その結果、何が得られましたか?

中原氏:師匠の下で働いている時は、やはり苦しくしんどいことの方が多かったのですが、すべて今の自分の礎(いしずえ)になっています。滝本シェフは憧れであり、今も尊敬している人物のひとりです。

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中原シェフのお料理の特徴のひとつは“火入れ”の素晴らしさ。
皮目はパリッと中はレアに仕上げるには、経験とカンがものを言う。

 どんなお客様にも平等に、決して手を抜かない———–

——–独立から一年を待たずしてミシュランの星を獲得されましたね。今後の目標などをお聞かせいただけますか?お店を拡大したり人を雇ったりするご予定などはありますか?

中原氏:料理人であり経営者である今は、お客様に喜んでいただく料理を提供し続けることに尽きます。お店の規模を大きくしたり、支店を出すことは考えていません。人を雇うことも今は考えられないですね。自分ですべてやりたいんですよ。人に任せると、やっぱり自分の味ではなくなってしまうと思うんです。それがイヤなんですよね。そして、この仕事はとても厳しくしんどいことが多いので、若い人にオススメはできないですし(苦笑)

——–ミシュランの星について、こだわりはありますか?

中原氏:そうですね。僕がコックコートを着ている間は、ぜひ獲りたいタイトルですね。そのための秘訣などはわかりませんが、どんなお客様に対しても平等に接すること。気を緩めることなくサービスし、お料理を提供しないといけないと思います。あとは、自分を信じて日々努力するだけですね。

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料理も装飾もシンプルに。素材で勝負する「引き算の美学」———–

——–中原さんのお料理は、見た目の美しさ(お皿に広がる世界観)と食材の火入れが特徴的だと思うのですが、モットーにしていることはありますか?

中原氏:シンプルさを大切にしています。ひとつの料理の中に同じ食材を調理法を変えて使うとまとまりやすいんです。食感や味も楽しめますね。そして、ひとつのお皿にアレコレ盛り込まず、主となるものが何かをきちんわかるようにしています。色目もたくさん使うのではなく、なるべくシンプルに。

——–なるほど、シンプルさはお料理から伝わってきますね。そして盛り付けがとても美しい!盛り付けや料理のアイデアはいつ考えているんですか?

中原氏:いつとは言えないのですが、通勤の電車の中や新しい食材に出会った時にふっと降りてくることがあるんですよ。自分でも不思議なのですが、それは本当に神がかっています(笑) なので、いつそれがやってきてもいいように常にメモを持ち歩いていて、その場で調理法をメモしたりイラストを描いたりしています。

仕事をやめたら沖縄に移住して毎日釣りをしたい(笑)———–

——–今後の目標や夢について、お聞かせいただけますか?

中原氏:料理って終わり(ゴール)がないんですよね。これが理想の料理で、これ以上のものはない、なんてありえませんからね。ただ、昨日より今日、今日より明日、もっといいものができるはず、と思って日々向き合っていくだけです。自分にしかできない発想で、自分にしか作れない料理をお客様に提供し、僕の伝えたいことがお客様に伝わった時はとても嬉しいですね。

——–何歳くらいまで、今の仕事を続けられますか?

中原氏:将来のビジョンは55歳まではしっかり働いて、その後は沖縄などの暖かい土地に移住してゆっくり釣りでもしたいですね。今は、やりたくてもできないことが多い(ガマンしていることが多い)ので、仕事をやめたら好きなことをしてのんびり暮らしたいです。まだ20年近く先になるので、それまではバリバリ働きますが(笑)

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「レーヌ デ プレ(Reine des pres)」
京都府京都市上京区中町通丸太町下る駒之町537−1

【編集後記】
歯に衣着せず、はっきりストレートにお話してくださった中原シェフ。はじめは、その風貌から恐い人かな(失礼!)と思っていたのですが、こちらの話を目を見てきちんと聞いてくださる、とても素敵な方でした。

料理の道は、しんどいことが多いので若い方におすすめはしない、とおっしゃっていたのがとても印象的でした。それは、ご自分が経験をされてきたからこその本音なのでしょうね。

中原シェフの”引き算の美学”とも言うべき哲学は、お料理やお店の装飾などすべてに貫かれていて、実に潔いと感じました。お皿に描かれたアートのようなお料理とメートルの山守さんの心地よいサービスに、また会いに行きたいと思います。中原シェフ、本当にありがとうございました。(取材・文:橿本)