牛肉赤ワイン煮込み

最近の栄養学では、「糖質制限食(ローカーボ)」が注目されています。血糖値を上昇させる糖質を制限し、たんぱく質や良質な脂質、食物繊維を中心に摂取するこの食事法は、糖尿病やメタボリックシンドロームの方に効果的とされています。

「糖質制限食(ローカーボ)」は「米、麺、パンなどの主食を抜いて、おかずをメインに食べる食事」というイメージを持っている方もいるかもしれませんね。ですが実は、バターなど動物性脂質が多く、高カロリーで健康的ではないイメージを持たれがちなフランス料理が、「糖質制限食(ローカーボ)」として優れていること、みなさん知っていましたか?

「糖質制限食(ローカーボ)」とは?

「糖質制限食(ローカーボ)」は、糖質のコントロールを主とした食事法。基本的な考え方は、血糖値を上昇させる糖質の摂取をできるだけ低く抑えて、食後の高血糖を防ぐというものです。

糖質は、たんぱく質、脂質と並ぶ三大栄養素のひとつで、体を作る大切な栄養素かつエネルギー源です。砂糖やお菓子を思い浮かべる人が多いですが、炭水化物から食物繊維をひいた残りの栄養素のため、ご飯、麺、パンなどの主食にも多く含まれています。じゃがいもやカボチャなど、芋類に含まれるでんぷんも糖質です。お米からできた日本酒から作られるみりん風調味料、ソースやケチャップにも意外に多く含まれている場合があります。


芋、パスタ、米

2010年の厚生労働省「日本人の食事摂取基準」によると、平均的な大人が必要とする糖質の量は1日100gとされています。
一方で、1食あたりの糖質量は、明確な指針があるわけではなく、糖尿病やダイエットなど個々人の目的や状況に応じて、選択されているようです。主に、1日3食のうち、何食、主食を抜くかという主食の抜き方で糖質のコントロールを行う方法や、1食20g〜40gなど1食あたりの糖質量を目安にする方法などがあるようです。

食材に含まれる糖質量の表
出典:かんたん糖質制限食.net

現代人の食生活がいかに糖質過剰摂取の状態にあるか、よくわかりますね。

運動不足などの生活習慣と食生活の変化により、近年では肥満や高血糖など生活習慣病が増えているため、「糖質制限食(ローカーボ)」は糖尿病やメタボリックシンドロームの方のための食事法として広く取り入れられています。
インスリンが発見される前の糖尿病治療には、糖質制限の考え方が浸透していたようですが、インスリン注射が当たり前になり、食生活も変わったことで、いつしか糖質制限による治療は姿を見せなくなりました。
最近になって、糖質制限の効果や安全性も再び広く知られるようになり、低糖質商品の種類やおいしさが改善され、ダイエット法や生活習慣病対策として日常生活に取り入れる人も増えています。


体重を気にする女性

「糖質制限食(ローカーボ)」と相性の良いフランス料理

ところで、フランス料理が「糖質制限食(ローカーボ)」と相性が良いことは、まだあまり知られていません。フランス料理といえば美食の代名詞とも言われ、バターやクリーム、高カロリーというイメージを持たれる方が多いため、驚かれる方もいるのではないでしょうか。

「糖質制限食(ローカーボ)」においては、脂質の量は問題とされません。むしろ良質な脂質はエネルギー源として活用するという考え方です。その良質な脂質こそが、バターなど飽和脂肪酸であることが最新の脂質栄養学ではわかり、糖質制限食に応用されています。その上で、あくまでも、糖質が少ない食材、調味料、調理法を採用することが基本です。通常、油や脂肪の取りすぎを控えるカロリー制限型ダイエット(低脂肪・ローファット)では脂質を避けますが、良質な脂質とたんぱく質は体を作ってくれる必須の栄養素と捉え、「糖質制限食(ローカーボ)」では摂取制限をしません。

フランス料理でよく使われるバターやクリーム、オリーブオイルなどは、料理に使ってもまったく問題ないのです。むしろ、飽和脂肪酸は酸化しにくい油として最新の脂質栄養学では注目されています。また、フランス料理は、野菜のブイヨンや魚介・肉のスープをベースに、ワインやハーブなどと煮詰めて作ることが多く、メインディッシュに使われる肉や魚は、食材自体に糖質をほとんど含んでいません。

ここまでで、フランス料理が「糖質制限食(ローカーボ)」として実は理想的であること、なんとなく理解していただけたでしょうか?


野菜のテリーヌ

糖質制限(ローカーボ)フランス料理メニューの組み立て方

では、フランス料理のコースメニュー(スープ・前菜、メインディッシュ、デザート)を例に、具体的な糖質制限のポイントについて紹介していきましょう。

まず、フランス料理では、基本的にデザート以外では砂糖を使用しません。これは和食や他のアジア料理との決定的な差であり、「糖質制限食(ローカーボ)」に向いている利点といえます。

では、コース料理の流れにそって説明していきましょう。

●スープ・前菜

食材選びのポイント

  • 芋類や糖質の多い根菜(じゃがいも、かぼちゃなど)は糖類が多いのでNG

調理法のポイント

  • スープのとろみ等で小麦粉を入れる場合は控えめに
  • ポタージュへのクリームの使用はOK
  • バターやオイルの使用はOK
  • パンを合わせないことを念頭に、ある程度のボリューム感を出せるとよいでしょう

●メイン

食材選びのポイント

  • 肉や魚自体は、特に食材選びにおいて気にすることはありません
  • 付け合わせ程度に根菜を1、2切れ使い、ボリューム感を出すのはOK

調理法のポイント

  • 糖質を含むので、小麦粉は控えめに
  • ベシャメルソースやムニエルといった調理法、パン粉焼きなどは避けたほうがベター
  • シンプルなソテーやグリルが理想的
  • スパイスやハーブを多用し、食感を重視するなど、五感で味わう料理法を効果的に活用するのがおすすめ
  • たんぱく質の適量な摂取が栄養欠乏を防いでくれます。体重1kgに対し、1g以上の肉や魚を取るようにしましょう

●主食とワイン

主食

  • パン・パスタ・米などは使用を避けます
  • 本格的な糖質制限食メニューを提供しているレストランでは、大豆粉やブラン(ふすま粉)のパンを作っているところも
  • そもそも炭水化物がなくても満足感の高まるコースを考えるのも一案です

ワイン

  • フランス料理はワインと組み合わせてこそ美味しいもの。辛口のワインは赤でも白でも、血糖を上げないとも言われています。避ける必要はないでしょう
  • 赤ワインは、「フレンチ・パラドックス=脂質の多い食生活をしているフランス人に、なぜか心筋梗塞が少ない」に象徴されるように、血液をさらさらにしてくれる効果があります

●デザート

食材選びのポイント

  • 小麦粉等を使用したケーキはNG
  • フルーツは、あんず、いちごやラズベリーなどは100gあたり7g程度。少量の糖質しか含んでいないので、少なめなら使用OK

調理法のポイント

  • 砂糖やシロップ類は避け、天然の甘味料を用いて甘さを出す
  • チーズを使ったデザートはおすすめ。ナッツや、少量のドライフルーツなら総糖質量で調整

こうしたポイントをおさえれば、「糖質が少なくても満足度の高いフランス料理」は実現可能です。糖質がなくても、メインディッシュに十分なボリュームがあれば満腹感が損なわれることはありません。また、コース全体を通じて多様な食材を使う工夫ができれば、料理に奥行きを与えることができるでしょう。


フランス料理コース

「糖質制限食(ローカーボ)」と相性の良いフランス料理

フランス料理にも欠かせないデザート。糖質制限の中でどうやって甘さを出すかは、多くの料理人が頭を悩ませ、知恵を絞ります。もちろん、精製された白砂糖や甜菜糖、シロップ、はちみつなどの使用は避けなければいけません。発がん性物質等の疑われる人工甘味料も避けたいところです。

そこで、甘みを出すのに重宝するのが、天然成分由来の甘味料です。
たとえば、トウモロコシの発酵成分から取れる「エリスリトール」。単体では砂糖の1.5倍程度の量で砂糖と同じ甘さを出すことが出来ます。血糖値は全く上がらず、体への危険性もないとされています。この「エリスリトール」に植物「羅漢果(ラカンカ)」から抽出した甘味エキスを加え、砂糖と同じ量で同じ甘さを得ることのできるようにした甘味料も販売されています。

他に天然甘味料としては「トレハロース」や「マルチトール」、「パラチノース」などもありますが、こちらはいずれもゆるやかな血糖値の上昇がみられます。
デザートの種類としては、ケーキ類などは避け、小麦を使わないムースやアイス、フルーツジュレのようなものならアレンジもしやすく、季節のバリエーションも出しやすいでしょう。


オレンジゼリー

「糖質制限食(ローカーボ)」の今後

フランス料理が「糖質制限食(ローカーボ)」として優れている点をご紹介してきましたが、いかがでしたか?

砂糖を使うことが多い和食やアジア料理では、厳格な「糖質制限食(ローカーボ)」を実現しようとすると、外食でも自炊でも、ハードルが高く感じられるかもしれません。
それとは対照的に、フランス料理では、穀類や芋の摂取制限を意識するくらいで、比較的楽に糖質制限に取り組むことができます。糖質を制限したことで食事の満足感が下がる印象もあまりないでしょう。

食のニーズの多様化の中で、今後ますます「おいしく、楽しく、健康的」な料理へのニーズは高まっていくでしょう。厚生労働省の調査によると、糖尿病患者とその予備軍の数は過去最高を更新しており、「糖質制限食(ローカーボ)」への注目もこれからさらに高まるに違いありません。外食でも糖質を制限したい人は年々増えており、飲食店でも「糖質制限食(ローカーボ)」に積極的に取り組む価値はありそうです。

(監修:管理栄養士 大柳珠美)