注目の飲食経営者やオーナーシェフへのロングインタビュー企画。今回は、初めて関西の経営者にご登場いただきます(前回までは、東京の経営者の方々が中心でした)。記念すべき、関西第1回目は、株式会社かめいあんじゅの代表取締役社長・真鍋 純氏。1980年設立(1972年創業)、本場フランスのビストロ文化を、他に先駆けて日本で紹介した株式会社かめいあんじゅ。
フレンチ・イタリアン・製パン・製菓と4部門が連携し、クオリティの高い店舗経営を行なっています。
料理人集団として、「全員経営」を掲げ、人材育成を重視。現在、同社代表取締役社長を務める真鍋氏は、もともとイタリアンシェフであり、料理人出身の経営者。
一店舗ごとにクオリティの高い店舗作り、近年はスペイン居酒屋「バルマル」のヒットでもしられる同社の経営と真鍋氏の仕事観、労働観に、クックビズ生田が切り込みました!
目次
イタリアン料理人として入社。料理だけでなく、接客、経営も経験する中で成長していった。
生田:40年以上の歴史を持つかめいあんじゅ様に、真鍋様は、いつ頃入社されたのでしょうか?
真鍋氏:およそ30年前のことです。調理師学校を卒業し、かめいあんじゅへ新卒で入社しました。その理由は、働くお店を決めるために食べ歩きをしていて、一番カルボナーラがおいしかったのが、かめいあんじゅのお店だったからです。ちょうど、弊社が創業10年位で、「ビストロ・ダ・アンジュ」や「サンタ・アンジェロ」など、フレンチとイタリアンの5店舗を展開していた頃ですね。
生田:まだまだイタリアンのお店も少なかった時代ですよね?
真鍋氏:大阪街場でフレンチとしては一番古いお店ですし、大阪でイタリアンといえば、当社ともう一店舗ぐらいしかありませんでした。バブル期直前で、当時イタリアンやワインを楽しむ人といえば、本当にオシャレで、感度が高い人々ばかり。その頃から、かめいあんじゅという会社は、人材育成に重きを置いていることは業界で知られていて。学校の先生には、「かめいあんじゅはきびしいから、お前みたいな中途半端な人間は絶対に続かないぞ」と言われましたね(笑)。
生田:かめいあんじゅ様は、その当時から人材育成で知られていたと?
真鍋氏:そうですね。創業オーナー(現・代表取締役)である杉山の考えから、料理だけでなく、マナーやサービスの教育も重視しており、料理人で入社してもまずはサービスの現場経験をつむことからスタートします。料理人であると同時に、経営者であれ、という考えから、損益計算書の勉強もみんなでしていましたし、料理だけではない、「お店を持つために必要なノウハウ」を全て学べる体制を整えている。これは今も変わっていませんね。
社長も役員も、全員が職人出身。「よいものを安く提供する」という想いを実現するために。
生田:かめいあんじゅ様では、「全員経営」を掲げ、料理人やパティシエといった職人の方々に対して、経営者としてのノウハウを身につけることを重要視されていますが、それはなぜでしょうか。
真鍋氏:お店を持ちたいなら、料理だけでなく、サービス、空間作り、店舗経営などあらゆる能力が必要となります。ですから当社では新卒入社の場合、お客様の視点を学んでもらうため、調理人希望者もサービスの仕事もします。
また、「全員経営」という理念を掲げ、「技術」と「経営」のバランスを取りながら、各自が自らの仕事を進めています。料理や接客とは別に、経営を担う専任者を入れたほうが効率がいいのかもしれませんが、経営ができる人間が料理への探求が少なかったり、現場が好きではないという場合も多い。創業当時から貫いてきた「よいものをリーズナブルに」という想いを守るために、あえて料理人やブーランジェ、パティシエなど職人が経営スキルを身に付けることにこだわっています。
もっと言うと、関連会社の輸入会社(カリテ・エ・プリ)のスタッフも、元調理師ですし、バルマルを展開するアプレシアも同様です。例えば、輸入会社のスタッフなら、輸入した商品をトラックに店で運ぶのは何時ぐらいがいいか。輸入食材の価格と質のバランスを考え、価格は高くとも品質的には輸入したほうがいい、といった判断などができますよね。「おいしいものをリーズナブルに提供したい」という価値観が同じ人間がやったほうが、完成度合いは高いでしょう。現場が好きな人、料理が好きな人に経営や数字を教えたほうが、効率は悪いかもしれませんが、理念は守れるのではないかと考えています。
生田:効率よりも、理念を重視したということですね。なかなか真似のできないことだと思います。
海外研修を通じて、価値観を共通化。目線を上げ、仕事に誇りを持って打ち込んでほしい。
生田:かめいあんじゅ様では、入社3年目以上の社員の方々を対象に、フランス・イタリア・ドイツなどへの海外研修も積極的に行なわれてらっしゃいます。40年前から海外研修をしていたというのは、本当ですか?
真鍋氏:そうなんです。1号店のビストロをオープンしたときから、海外研修を実施していました。創業オーナーの杉山は、「ワインを勉強したい」といったスタッフに、自分より先にソムリエ研修を受けさせたり、フランスへ研修に行かせたり。そうして、自分より先に技術を持たせ、やる気をさらに引き出したりして、お店のレベルを上げようと取り組みました。そうして成長したスタッフが帰ってきてから、杉山自身が後から渡仏したほど、働く人材の成長を優先していたのです。
生田:なるほど。創業当時から続いていることなのですね。海外研修を行なうにはコストもかかると思いますが、それ以上の利点があるのでしょうか。
真鍋氏:かめいあんじゅでは、店舗を通じて、ヨーロッパの文化を日本のお客様にご紹介しています。モデルとなる店舗が海外にあり、研修時も単なる旅行ではなく、現地のシェフや経営者とコミュニケーションを取り、実際に厨房に入ります。海外研修の一つのメリットは、価値観や情報を共通化できる点ですね。例えば、新店の内装を作るときも、「ローマのあの通りの角にあるお店のイメージで」といったらみんなが分かる、とか。さらに日々の業務でも、「あの店はテーブルクロスをちゃんとしいていたよね」って言うと、現場のスタッフがすっと理解できたりする。オーナーや一部の人間が知っているだけでは、「継続」できない部分がある。スタッフ一人ひとりがプライドを持ち、クオリティの高い店舗を維持し続けるために、海外研修はスタッフの共通認識を生み出す、必要な要素だと思っています。
あとは、全体的に人材の目線が上がるというメリットもあります。現場の仕事は日々忙しく、大変なことも多い。ともすればマンネリ化しますし、下を向きがちになります。「もうすぐ海外研修がある」と考えることで、日々の業務にメリハリがでてきます。また、海外研修後にやってほしいことが具体的になっている場合も多く、「日本に戻ってきたら、海外で学んだことを活かして新メニューの構成を決めよう」と決まっていると、研修へ行くまでにやっておくべきことも具体的になるので、日々の仕事の目線が上がるんです。
生田:教えるよりも、海外研修がきっかけとなり、本人が大切なことに「気づく」きっかけになるということですね。
真鍋氏:海外研修は入社3年以上の社員が対象です。数年勤務している人だと、「カルボナーラ、先輩の言うとおりつくってるけど、本場ではこの通りなのかな?、コショウのふり方ってこれであってるんだろうか」と知りたい欲求がたまってくるんです。そのくらいの時期に海外へ行ったほうが、課題も明確で、吸収できる情報が多い。ですので、あくまで入社3年程度は現場で経験を積んでから海外へ、という流れにしています。
たとえば、大阪・福島にある「ルーチェ」のピッツァイオーロ、高橋は、毎年イタリアで開催されるピッツァ選手権に出場しています。2011年日本人1位をとっているので、「今年はそれ以上の賞を取りたい!!」と本人も高いモチベーションで日々取り組んでくれていますね。
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