ホールスタッフ(女性)

飲食店にとって働き手の要となるパート・アルバイトスタッフ。良い人材を確保しできるだけ長く働いてもらえることが、店の運営や経営に直結すると言っても過言ではありません。

そのためには、求人募集の段階からどんな時間帯にどんなスタッフが必要かを把握して、働き手の希望やニーズとあった採用をする必要があります。
そして、雇用条件、税金、社会保険、といった制度面の知識もしっかり押さえて、スタッフを支えていくことが大事です。

今回は、「アルバイトを採用する前に知っておきたい基礎知識」として、アルバイトやパートで働く人にはどんな種類(属性)があるのか、そしてそれぞれの雇用条件や制約についてご紹介していきます。

アルバイト・パートで働くスタッフの種類について

飲食店でアルバイト・パートとして働く人たちの種類(属性)は、フリーター・学生・主婦・シニアの4つに大きく分類されます。

● フリーター

店側にとっては、ガッツリ働いてくれるアルバイトの要的存在。他のアルバイト・パートに比べて時間の制約が少なく、バイトリーダーもフリーターから選出されるケースが多い。

● 学生

高校生や専門学生、大学生などいわゆる学業と両立しながら働く存在。そのため働くことができる時間帯は夕刻以降が多く、就職等を機に退職してしまうケースがほとんど。

● 主婦

主婦の場合、「扶養控除」や「配偶者控除」「配偶者特別控除」の枠内で働くことを希望する人が多く、子どもの有無や年齢によって希望する時間帯などもさまざま。

● シニア

主にリタイアした高齢者の働き手。年金受給との兼ね合いから「年金減額」の対象にならない厚生年金加入の対象外の範囲で働くことを希望する人が多い。

アルバイト・パートで働く人たちが気にする税金について

特に主婦のアルバイト・パートで働く人たちは「103万円の壁」「130万円の壁」を気にしています。

これは、夫がサラリーマンの場合、主婦は一定の収入以内で働いていれば税金優遇メリットがあるのですが、ある一定の収入を超えてしまうと逆に税金が課せられてしまい、受けたい控除が受けられなくなるため、それを避けるように働き方を制限・調整することを指します。

では実際、働く側が気にする「税金」「控除」について、具体的な年収金額と合わせて解説していきましょう。

未使用のタイムカードと給与袋

■ 年収100万円を超えると住民税、103万円を超えると所得税が発生する

自治体によっても多少異なりますが、年収100万円を超えると住民税、年収103万円を超えると所得税を支払うことになるのは、ご存知ですか?

これは、正社員であってもアルバイト・パートで働いた場合であっても、給与を受ける人であれば全員共通にかかる税金です。
時給によって月の勤務日数が変わってきますが、月額にして約8万5000円程度の収入が上限になるので、この範囲内での勤務を希望するスタッフも少なくないでしょう。

● 学生アルバイトやフリーターの「扶養控除」について

親の扶養に入っている人が年収103万円を超えた場合、親の扶養から外れてしまうので親は「扶養控除」が受けられなくなり税金が高くなります。

● 主婦の「扶養控除」と「配偶者控除」「配偶者特別控除」について

夫の扶養に入っている主婦が年収103万円を超えた場合、夫の「扶養控除」の対象から外れてしまいますが、「配偶者控除」が適用されます。さらに、年収が103万円を超えても141万円未満であれば、夫の所得によって段階的に「配偶者特別控除」を受けることができます。

● 学生のアルバイトは「勤労学生控除」で130万円まで無税

生活費などのためにアルバイトをしている学生を対象にした「勤労学生控除」という制度を適用すると、103万円を超えてもさらに27万円分控除=130万円まで非課税の枠が拡大されます。ただし、本人による「確定申告」が必要となります。

■ 年収130万円を超えたら、健康保険と年金の支払いが発生する

親や夫の扶養に入っている場合、自分で健康保険料を納めなくても親や夫の健康保険証を使って治療を受けることができます。

しかし年収130万円を超えてしまうと健康保険も自分で納めることになります。

また、学生の場合、20歳を過ぎたら年金は自分で納めなくてはいけませんが(届け出によって卒業まで免除できる制度あり)、結婚して夫の扶養に入っていればこちらも免除されています。
これも、130万円を超えたら自分で国民年金に入るか、勤め先の厚生年金に入り保険料を納める必要が出てきます。

アルバイト・パートとひとことで言っても、種類(属性)によって働ける上限や制約が異なることがわかっていただけたでしょうか?

雇用する飲食店側は、忙しい時間帯に短時間の勤務を希望する主婦のパートを増やしたり、終日忙しい曜日には長時間働けるフリーターで固めたりなど、どの時間帯や曜日に何時間働けるスタッフが何名必要か、あらかじめシフトシミュレーションで算出しておくとよいでしょう。

働く側の条件や希望が理解できていれば、仕事によってはアルバイト1名が8時間続けて行う業務を、4時間×2名のパートで業務シェアすることによって、幅広い種類(属性)のアルバイト・パートから採用が可能になる場合もあります。

アルバイト・パートの社会保険の加入条件について

フリーターなどフルタイムで働けるアルバイトは飲食店側にとって非常にありがたい存在ですが、ある一定の勤務時間や出勤日数を超えた場合には、社会保険や有給休暇、産休・育休などそれぞれ加入・付与する必要があります。

具体的にどの制度にどんな加入条件があるのか詳しくご紹介していきましょう。

雇用契約書のアップ

■ 社会保険の種類について

社会保険とは、「雇用保険」「労災保険」「健康保険」「厚生年金保険」の4種類を言います。
法人・個人事業主問わず、加入義務があるのは「労災保険」と「雇用保険」。飲食店の個人事業の場合、「健康保険」と「厚生年金保険」の加入義務はなく、法人であれば「雇用保険」「労災保険」「健康保険」「厚生年金保険」には絶対加入となります。

それでは、それぞれの社会保険について詳しくご説明していきましょう。

① 雇用保険

雇用保険とは、別名「失業保険」と言われるもので、労働者が失業した場合などに労働者の生活や雇用の安定を図る失業給付を行うための保険。
会社が労働者を1人でも雇う場合は、雇用保険の加入が義務付けられています。

【加入条件】

1年以上継続して雇用されることが見込まれ、さらに週20時間以上勤務する場合には、アルバイト・パートであっても雇用保険の加入対象となります。

雇い入れ時には1年以上の雇用が見込まれていなかった場合でも、契約を更新するなどで1年以上の雇用が見込まれるようになった時点で加入対象に。
ただし、学生や満65歳を超えて雇用された人については雇用保険の対象になりません。

② 労災保険

労災保険は「労働者災害補償保険」の略で、業務時間帯のケガや業務に起因するケガや病気をした場合に、治療費や休業時の賃金が補償されるだけでなく、障害が残った場合の障害年金、死亡時の遺族年金が支給される保険です。

雇用保険同様、労働者を1人でも雇う場合は労災保険の加入が義務付けられています。

【加入条件】

労災保険は、雇用形態にかかわらずすべての従業員が対象となります。例えば週1日だけのアルバイト・パートであっても、企業は必ず労災保険に加入しなくてはなりません。

労災保険については1人ずつの加入手続きは必要なく、保険料の納付の際にアルバイト・パート分の給与も含めて保険料を計算することになります。

③ 健康保険

健康保険は労災保険とは違い、業務以外で病気やケガをしたときに治療費の補填をしてくれる制度です。

また、病気で会社を休む際に一定期間賃金補償したり、出産時の賃金補償や一時金を支給する目的で活用される保険です。

【加入条件】

アルバイト・パートの場合、年収130万円を超えた場合や「1日、または1週間の所定労働時間」と「1カ月の所定労働日数」の両方が、正社員の4分の3以上であれば強制加入となります。

※この場合の比較対象となる正社員は、そのアルバイト・パートと同じ職場で同じような業務をしている正社員。

④ 厚生年金保険

厚生年金保険は、加入者が一定の年齢になった時に、国民年金と合わせて老齢年金を支給するための保険です。

また、業務外における障害認定を受けた場合は障害年金、加入者が死亡した場合は遺族年金を支給するための保険です。

【加入条件】

アルバイト・パートの場合、年収130万円を超えた場合や「1日、または1週間の所定労働時間」と「1カ月の所定労働日数」の両方が、正社員の4分の3以上であれば強制加入となります。
※この場合の比較対象となる正社員は、そのアルバイト・パートと同じ職場で同じような業務をしている正社員。

アルバイト・パートの有給・産休・育休について

アルバイト・パートの就業規則から漏れがちな有給や産休・育休について。

これらは就業規則での規定がなくても労働基準法で定められたものなので、取得資格のあるアルバイト・パートから請求があった場合は付与する必要があります。

デスクの上のノートパソコンをバックに、浜辺をイメージした砂の上で休暇・バカンスを楽しむのミニチュアの人形たち

① 有給休暇

アルバイト・パートであっても有給休暇が発生する条件は正社員と同じです。

労働時間や日数が少ない分、有給休暇の発生する日数についても労働日数に応じて少なくなり、所定労働時間や所定労働日数に応じて有休を付与する「比例付与」に基づいて算出します。

<年次有給休暇の比例付与>

年次有給休暇の比例付与。詳細は表

※「週の所定労働時間」「週の労働日数」「年間の所定労働日数」のいずれかが該当すれば、所定の有給休暇付与に該当します。

① 産休・育休

アルバイト・パートについても、産前6週間・産後8週間の産休取得が可能。
ただし、この間の給与等については雇用側の支払い義務はありません。

育児休業については以下の二つの条件をいずれも満たす場合に取得可能となります。

  • 1年以上継続雇用されていること
  • 子どもが1歳を超えても継続して雇用することが見込まれること

つまり、雇用側とアルバイト・パート側の双方がともに長期勤務を希望している場合にのみ、育児休暇の取得が可能になります。

税金や社会保険の取り締まりが強化!?

2016年度(平成28年度)からスタートしたマイナンバー制度の導入や、超高齢化社会に向けて社会保険制度の財政は今まで以上に厳しくなり、保険の未加入や税金の未納に対する調査や罰則規定が強化されると言われています。

アルバイト・パートを雇用するときは給与の額面だけでなく、働く人にかかる税金や社会保険料など雇用側の負担金も含めて、どんな人を雇用するか判断する必要があると言えますね。

■ この記事の指南・監修

クックビズフードカレッジ講師 荒木寿夫

大学卒業後、アパレルメーカーを経てマンションコンシェルジュ、飲食業界で人事・採用・教育を担当。現在、クックビズフードカレッジにて、飲食業界の各企業向け人事ノウハウや研修サービスを提供。飲食業界や人材業界での知見を活かしたメディア出演も多数。

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