少子高齢化による人口減少などを背景に、日本国内で人手不足の問題が顕在化し始めています。なかでも飲食業界の採用難は深刻で、有効求人倍率は調理3.14倍、接客3.91倍と高水準(2018年6月 厚生労働省「職業別有効求人倍率(パートタイムを含む常用)」より)。
2017年の未充足求人は26万人(2017年6月末日現在 厚生労働省「雇用動向調査」より)に上り、飲食サービス業はすべての産業のなかで最も採用が難しい産業となっています。
さらに、飲食サービス業の入職率は33.5%、離職率は30%(2017年 厚生労働省「雇用動向調査」より)。この数字は全産業のなかでもっとも高く、飲食サービス業は人材が新規に入職しても辞めていってしまう、人材が定着しにくい産業であることがわかります。
飲食業界の採用難を乗り越え、人材を確保し、職場で長く仕事をしてもらうためにはどうしたらいいのでしょうか。
2019年3月に開催された“アジア最大級の食品・飲料専門展示会”「FOODEX JAPAN 2019」の外食フォーラムでは、クックビズ株式会社 クックビズフードカレッジ専任講師・荒木寿夫さんが「採用難を乗り切るために!事例で学ぶ、効果的な採用方法と従業員教育で定着化へ」と題したセミナーを行いました。
セミナーは3つのテーマ構成。
- デキル店舗の応募対応術
- 面接からはじまる!辞めない環境づくり
- 定期的な成長機会、学習機会が離職率を低下させる!
応募対応・面接・人材育成のポイントについて、成功事例のエピソードなどを交えながら解説する実践的な内容でした。
飲食業界で長く人事を担当してきた人材ビジネスのプロフェッショナルである荒木さんが説く、採用難の乗り切り方とは?当日のセミナー内容をご紹介します。
【2021年・最新の情報はこちらから】
デキル店舗の応募対応術
求人広告を出せば多数の応募者から連絡が来る……という楽観的な状況ではなくなっている今、応募受付け時にきちんとした対応をとり、応募者を「逃さない」工夫が必要になっています。
■求人掲載開始時のチェックポイント
求人サイトや求人媒体に求人広告を掲載する場合、電話かWEBで応募を受け付けるケースがほとんどです。その場合、応募受付担当者を明確にし、電話応対やメール管理をする関係各所に必ず、スタッフ募集を開始したことを共有しましょう。
採用活動をしていることを知らないスタッフが電話を受け、応募者にそっけない対応をしてしまった場合、応募時の印象が悪くなります。電話の近くにスタッフ募集を開始したことを共有するメモを置くのもいいでしょう。
メールの返信は、できるだけ早く送りましょう。応募メールの確認漏れがないように周知し、レスポンスは5分以内を目標に。メール受信当日には必ず返信できるように準備しましょう。WEB応募対応時のメール文面をあらかじめ用意しておくことも大事です。
■電話受付のコツ
応募者から電話がかかってきたら、「笑声(えごえ)」で対応しましょう。「笑声」とは、電話口の声から笑顔が想像できるような話し方のことです。電話応対は見た目の情報がないため、声の情報が重要になります。
相手がお客様ではなく求職者だとわかったとたんに声のトーンが下がった、などの対応の悪さは、応募者に「自分は求められていない」というネガティブなメッセージを送ることになります。
■WEB・メールでの応募対応のコツ
面接の“ドタキャン”の理由として、連絡・対応が遅かったことを上げる応募者は多くいます。応募受付メールにすぐに対応できるよう、応募受付担当者がスマートフォンでメールを見られるように設定しておくことがおすすめです。すぐに対応できない場合は、求人媒体などが提供している「自動返信メール」のシステムを利用するのもいいでしょう。
メールで連絡すると、返信が応募者に届いていないリスクがあり、応募者の確認が遅くなることもあります。メールを送った後、電話連絡をして応募者と直接お話をすることも重要です。
成功事例 〜応募受付・自動返信メールにひと工夫
応募者と面接に至る確率が80%と高い、某ブライダル企業では、応募受付時の自動返信メールの定型文にオリジナル文面を追加しています。業界の性格上、土日祝日は電話対応やメール対応ができないことを注記し、面接でよく受ける質問とその回答をQ&A方式で掲載。こうした、ちょっとしたアイデアと気遣いで応募者の印象が良くなります。
面接からはじまる!辞めない環境づくり
応募者と面接するチャンスを得たら、選考過程で応募者の志望度が上がるように、職場の魅力が伝わる対応をすることが大切です。
■面接前準備のポイント
面接日前日には応募者に連絡し、日時や持ち物の確認をしましょう。面接のドタキャンを防ぐためにも、前日連絡は重要です。
面接場所が不潔であるとイメージダウンにつながるため、事前に清掃をしておきます。面接担当者の清潔感も応募者の印象を左右するので、身だしなみには気を配りましょう。特に飲食店の場合は衛生上、爪が伸びていると悪い印象となります。
失敗事例 〜通路においた食材ダンボールが不潔な印象に
ある飲食店の採用を辞退した応募者にその理由を聞くと、面接時に店の通路脇に食材の入った段ボールが無造作に積まれていたため、不潔で食材を大切に扱っていない印象を受けた、という答えが返ってきました。応募者は店内の様子を注意深く見ています。
■面接実施時のポイント
応募者はお客様と同様に扱い、「上座」にお通しします。応募者は緊張していますので、できれば飲み物をお出しして、天候の話など採用活動とは直接関係のない世間話をするなど、緊張感を和らげる配慮をしましょう。
面接担当者が一方的にしゃべることは避けます。短い時間でもいいので、質疑応答の時間を必ず設けましょう。法律で禁じられている質問(本籍・出生地に関すること、家族に関することなど)には注意が必要です。
成功事例 〜緊張もほぐれて好印象!ドリンク提供での心遣い
ある企業は採用面接時に、紙コップでお茶を応募者にお出しします。紙コップには「緊張しているかもしれないけど、がんばってね」などのメッセージが手書きしてあり、それを見た応募者は驚きとユーモアを感じて気持ちがほぐれます。この企業は採用時の受諾率が100%で、辞退者はゼロという実績が何年も続いています。
■クロージングの大切さ
ほとんどの応募者は、複数の飲食店で面接を受けています。合否の結果をいつまでに、どんな方法で連絡するかは、あらかじめ伝えておきましょう。採用の方だけに連絡するケースもありますが、返事を待っている応募者は、連絡漏れなのか不採用なのか判断できず不安な気持ちになります。不採用であっても必ず連絡をしましょう。
■すぐに辞めてしまう原因とは?
早期離職した方の多くは、面接時に聞いていた事前情報と入社後の実態が違うことを理由にあげます。辞めない環境づくりは、面接でのやりとりからはじまります。面接では応募者の質問を受け、できれば店内や厨房、オフィスなどを案内して、一緒に働くことになるスタッフと顔合わせしておくとよいでしょう。就業前に店の雰囲気を知ってもらうことで、ミスマッチを防ぐことができます。
定期的な成長機会、学習機会が離職率を低下させる!
離職率が高い飲食業界。入店後に人材が定着するように、適切なフォローを続けていくことが重要です。
■外部研修会社を活用
入店後のフォローとしては、店長や人事担当者との面談で仕事を振り返ったり、スキルアップ研修の定期開催など、継続的に学習機会を設けることでモチベーションの維持・向上が期待できます。
研修は、外部の専門機関に委託するのもひとつの選択肢です。
クックビズ株式会社の「クックビズフードカレッジ」は、飲食サービス業界に特化したプログラムが強み。多くの飲食関連企業で実績を上げています。
人材採用のノウハウが詰まった「飲食人材採用 GUIDE BOOK」
「FOODEX JAPAN 2019」のセミナーでは、参加者に「飲食人材採用 GUIDE BOOK 2019」が配られました。この冊子は、人材採用についてのノウハウがぎっしり詰まった一冊で、人材募集時の電話応対トークマニュアルやメールのサンプル文、面接時に使える「面接シート」など、採用活動で使えるテンプレート類も充実しています。
クックビズ株式会社のホームページから無料でダウンロードできますので、ぜひ採用活動に役立ててください(ダウンロードには、メールアドレスや電話番号の登録が必要です)。
人事のプロフェッショナルが経験に基づいて提案する応募対応・面接・人材育成のノウハウには、採用難を乗り切るための知恵が満載です。
人手が足りないのに人材が採用できない、採用後の定着率が悪いというお店は、改めて、これまでの採用活動を見直してみてはいかがでしょうか。
取材協力
イベント名 | 「FOODEX JAPAN 2019」 |
サービス名 | クックビズフードカレッジ |