第1回記事に引き続き、消費税増税に伴う飲食業界や飲食店経営における疑問にお応えします。 第2回のテーマは、「増税後、価格は据え置くのか?飲食経営にまつわる、4つの疑問を解消!」です。
- ◎目次◎
- 1.正直なところ、増税後の飲食業界ってどうなるの?
- 2.あなたのお店は、価格転嫁派?それとも価格据置派?
- 3.損益計算書が、増税対策の鍵を握る?
- 4.価格を据え置きにした場合、どうなってしまうの?
目次
1.正直なところ、増税後の飲食業界ってどうなるの?
消費税増税が正式に発表されてから、住宅や自動車などの高額商品に対して、駆け込み需要が起こりました。しかしそれも、最近ではひと段落がつき、消費者の財布のひもは固くなるばかり…。 日常品や外食への消費を抑える傾向にあると言われており、あまり良い状況とは言えません。たとえば、博報堂生活総研では、以下のような市況に対する見解を発表しています。
2013年12月は増税前最後のボーナスを原資に、耐久消費財など高額商品を今のうちに買っておこうとする意欲が高まりました。その結果、消費意欲指数は昨年最高値を記録。上昇幅は過去最高となりました。 2014年1月はその反動が大きく、全性年代で消費意欲指数が低下しています。消費意欲指数の理由を見ても、「12月に家電製品などを買い換えたばかり」、「年末に大きな買い物をしそう」などの理由で、1月は消費を抑えたいとする答えが目立っています。 引用:博報堂生活総研「消費意欲指数・デフレ生活指数」2014年01月07日
振り返ってみると、過去に消費税が3%から5%に引き上げられた際(1997年)にも、外食産業は大きな痛手を負っています。お店で飲食をする人が極端に少なくなり、それに比例して業界全体で売上が大きく減少しました。実際、以下の外食産業市場規模の推移を見ると、1997年を境に、市場規模は、下落の一途をたどっています。
※参考資料:平成24年外食産業規模推計値について(公益財団法人 食の安全・安心財団)
2.あなたのお店は、価格転嫁派?それとも価格据置派?
そんな中、増税分を価格に反映させるか、価格を据え置きにするか…まだ頭を悩ませている店長さんもいらっしゃるのではないでしょうか。 前回の消費税率アップの際は、増税後もメニューの価格を据え置きにする店舗がほとんどでした。理由は、値段を上げることで客数が減り、売上が下がるのでは?という心配があったからです。 しかし、そのような考えだけで価格を据え置きにするのは、あまりに危険。仕入金額や賃貸料、リース料等にも増税分が上乗せされるのですから、店舗側の負担が大きすぎます。資金繰りに失敗して、閉店に追い込まれては元も子もありませんよね。 価格転嫁か、価格据置か。慎重に判断したいところです。でも、どうやって?
3.損益計算書が、増税対策の鍵を握る?
「価格転嫁するにしても、価格据置策をとるにしても、消費税増税が利益や資金繰りにどれほどの影響を与えるのかを具体的にイメージすることが大切」 こう語るのは、(株)OAGコンサルティングの田中繁明代表。第1回記事「迫る、消費税増税!飲食店・店長が知っておきたい9つの基本」でご紹介した、(株)河内屋主催による「新・消費税対策セミナー」では、講師として消費税増税に向けたシミュレーションについて解説されていました。 ちなみにみなさんは、自分のお店が月にどれだけの売上を上げ、利益を生み出しているかをご存知ですか?これが意外にも、「あまり把握していない」と答える店長さんは少なくないんですよね。「損益計算書なんて見たこともない」という方も珍しくはありません。自らオーナーを務めている場合は別ですが…。 《損益計算書》
ということで、まずは「損益計算書」を準備するところからスタートです。毎月の売上高、原価、人件費、減価償却費、営業利益、当期純利益…正しい数値をそろえた上で、価格転嫁をした場合のシミュレーションを立ててみましょう。
※価格転嫁(かかくてんか)とは? 小売業が原材料の価格上昇を取引価格に反映させて負担させること、材料費の価格増を消費者に負担させることを意味する表現。 引用:Weblio辞書
4.価格を据え置きにした場合、どうなってしまうの?
ここからは、「価格据置策」をとった場合の、数値的なインパクトを見ていきます。なお、試算に必要となる数値データは損益計算書に記載されていますので、そちらを参考にしてください。 「価格据置策(かかくすえおきさく)」とは、3.でお伝えした「価格転嫁」とは対称に、小売業が材料費の価格増を消費者に負担させることなく、提供価格をそのままにすること。増税分はコスト削減で吸収するなど、企業側の工夫によって対応することが多い。 例えば大手外食企業で例をあげると、ファミリーレストランチェーン「サイゼリア」は、価格据え置き策を取ることを発表しています。
ファミリーレストラン大手「サイゼリア」は、来春の消費増税後も、主要メニューの税込み価格を据え置く方針を決めた。増税分はコスト削減で吸収する。外食大手で据え置きを表明したのは初めて。堀埜一成社長が9日、2013年8月期決算の会見で明らかにした。 引用:朝日新聞DEGITAL 「サイゼリヤ、消費増税後も価格据え置き 主要メニュー」
下記のシミュレーションでは、分かりやすいように、仕入にかかるコストのみを計算します。実際は、人件費、光熱費、家賃、リース料等の諸経費も差し引かれますので、より大きなインパクトが予想できます。(すべて税込金額で試算)
価格据置のため、お客様からいただく金額(月間売上)は変わりません。しかし、食材や消耗品、備品等、仕入れにかかる金額には新しい税率が適用されるので、当然のことながら、仕入価格は上がっていきます。 さらに、毎月150万円の借入金を返済していたとすると…?
増税後にどれだけのインパクトがあるのか、一目瞭然ですね。上記の図のように、消費税5%時と比べると、消費税8%時にはキャッシュ:16万円減、消費税10%時にはキャッシュ:26万円減となっています。先にも述べましたが、ここにさらに人件費、光熱費、家賃、リース料等の諸経費が差し引かれます。それらを含めて試算すると、場合によってはキャッシュがマイナスになることさえあり得ます。
消費税増税が、飲食店経営に与えるインパクトは多大
このように、数値的な影響度合いをしっかり理解した上で、適正な価格設定を行うこと。それが、消費税増税をうまく乗り切るポイントになります。なお、計算の仕方が分からないという場合は、一度税理士や会計士に相談してみてくださいね。 (取材・記事:金光、編集:大住) 第3回は、来週2月17日(月曜)に公開いたします。テーマは、「消費税増税に向けて!飲食現場における、4つの大切な心構え」です。よろしければ、またお読みください!