カウンター内にバンダナをつけた男性が2人立っており、カウンター席に赤い服の女性が座っている様子の写真

料理人なら誰もが、いつかは自分の店を持ちたいと思っているのではないでしょうか。しかし実際のところ、開業に行きつくまでにはいくつものハードルがあり、自分の料理や発想で勝負する勇気も必要。独立開業したい気持ちはあってもあと一歩が踏み出せない人が多いのが現実でしょう。

今回紹介する「西荻窪manana(マニャーナ)」は、開業独立を目指す料理人の「あと一歩」を後押しする短期賃貸店舗。店を持ちたいけれど、まだ自分のレシピが完成していない…、出店場所を探しているけれど、いい物件に出会えない…、いきなり開業するのではなく、まずは期間限定で腕試しをしたい…など、飲食店を開業したい人のモヤモヤを解消してくれるスペースです。この賃貸店舗のオーナーである横井朝子さんに運営の目的やビジョンをうかがい、ここから巣立った料理人にmananaでの経験を語っていただきました。
(写真:右から「西荻窪manana」オーナーの横井さん、取材時にmananaで出店していた「ジビエバルざんざ亭」スタッフの吉澤さん、「ジビエバルざんざ亭」主人の長谷部さん)

必要なのは「企画とレシピ」だけ!料理人が1人ですぐに開業できる店

JR総武線・中央線の西荻窪駅から徒歩5分。「西荻窪manana」は、飲食店や雑貨店などが軒を連ねる賑やかな界隈にある小さなスペース。飲食店設備が整った店舗で、開業を目指す料理人に期間限定で賃貸しています。2015年6月にオープンして以来、2018年2月現在で7つの飲食店やユニットがここを拠点とし、巣立っていきました。

白い壁に焦げ茶色の大きな観音開きの扉の店構えの写真

「西荻窪manana」の周辺には住宅も多く、地元のお客様が帰宅途中にふらっと立ち寄って常連さんになってくれることもあるとか。

オーナーの横井さんは、当初、自身が所有している物件を人に貸すことで何かしたいなと漠然と思っていました。こだわりのある雑貨店や骨董品店などが多い西荻窪という場所柄、ギャラリーの運営も選択肢の1つでしたが「もともと飲み食いが大好きで。知り合いの料理人に『初期費用なし、営業許可もとってある飲食店用の短期賃貸スペースがあったらおもしろい』とアドバイスされて、それならやれるかもしれないと思ったんです」とオープンの経緯を振り返ります。偶然にも、横井さんが大学時代に食品衛生管理者の資格を取っていたこともあって、飲食店の営業許可を取得しやすい条件が整っていました。

横井さんが営業許可を取っていることで、「西荻窪manana」では、料理人が身1つですぐに店を始められます。カトラリーや食器、基本的な調理器具まで揃っているので「ここで店を出すのに必要なのは、企画とレシピだけなんです」と横井さん。
敷金・礼金は不要。家賃は1か月10万円です。

5坪でカウンター8席 「西荻窪manana」の間取りと備品

店舗の広さは5坪。基本的にカウンターのみの8席ですが、借り手によっては空きスペースにテーブル席を設けて営業するケースもあるそう。3口のガスレンジと排気設備は家庭用のもの。90cm×45cmのコールドテーブル、90cm×45cmの2槽シンク、ディスプレイ用冷蔵庫と冷凍庫が備えられています。

■「西荻窪manana」間取り図

お店の間取り図

5坪で8席。テーブルと椅子を持ちこんで席数を増やすことも可能。横井さんによれば「椅子を減らして立ち飲み店風に使ってもらってもいい」とのこと。

ほかに、鍋、ボウル、バットなどの調理道具(包丁・まな板は要持ち込み)、食器、ワイングラス、カトラリー類も用意。一般の賃貸店舗同様、壁に釘を打つことは禁止していますが、入店する店がそれぞれに工夫して個性的に内装をアレンジしているようです。
オーナーの横井さんのこだわりは、大きな黒板。「黒板なら、メニューを書いても絵を描いてもいい。店ごとに自由に使ってもらえると思ったんです」。
取材時に出店していた「ジビエバルざんざ亭」(2018年1~3月出店予定)は、店の看板メニューであるジビエ料理にちなんで、壁に鹿の角と骨をディスプレイしています。テーブルを2卓持ち込んで8席追加して、カウンターと合わせて全16席で営業していました。

3枚の写真を組み合わせた店内の装飾の写真

写真左:3口のガスコンロと換気扇(写真提供「西荻窪manana」)。
右上:大きな黒板の使い方に店ごとの個性が出る。
右下:「ジビエバルざんざ亭」の店内には鹿の角と頭骨が飾られている。釘打ちは禁止だが、原状回復できる範囲で各店ごとに工夫が凝らされる。

「西荻窪manana」を経て独立した料理人たち―ポップアップを経験するメリットとは?

これまでに「西荻窪manana」で出店した料理人やユニットのうち、2018年2月現在で3店舗が独立開業し、飲食店として営業を続けています。

■西荻窪mananaを経て独立した店(開業順)

独立開業した店のうち、吉祥寺の「Cosi Cosi」は「西荻窪manana」初代の出店者。シェフの石井厚次さんは2015年6月〜8月までの3か月間出店した後に1年間のイタリア修業に出ました。帰国後、再度「manana」で10日間限定で出店して腕試しし、2017年、吉祥寺に店を構えます。

カウンターとキッチンスペースに男性がいる写真

「Cosi Cosi」はイタリア料理をベースにしたワインバル。「西荻窪manana」時代から多くのお客様が訪れていた。(写真提供「Cosi Cosi」)

「Cosi cosi」の石井さんは、「西荻窪manana」で期間限定の出店を経験したことの一番のメリットは「自分のやりたいことの試行錯誤がローリスクでできたこと」だったと言います。
「mananaの前にも一度ポップアップを経験していて、その時にオペレーションや価格設定、レシピについては手応えを感じていました。mananaでは、店を長く続けるにはどうしたらいいか、自分の店がお客様の日常に溶け込むにはどうしたらいいのかを考えながらトライを続けていました」。
西荻窪の地元の常連客もつき、期間限定でありながら人気店に。イタリアから帰った後の営業では、違ったコンセプトの実験もできたと言います。
「西荻窪に人脈ができたことは大きかったです。吉祥寺に店を構えることになって距離的に近いこともあり、その人脈に今もとても助けられています」。
開業前の腕試しによって、大きな収穫があったようです。

いい店が増えてほしい 独立開業を目指す人たちの拠点に

オーナーの横井さんが「西荻窪manana」出店条件としているのは

  • 原則として、週5日は営業すること
  • 本気でお店を出そうと思っていること

といったこと。

開業を目指している人を対象としていますが、リタイヤしたり、何かの事情で一時的に料理から離れてしまった料理人のポップアップ店舗としても相談にのってくれるとか。3か月の契約を基本として、希望があれば5か月くらいまで、交渉の上契約できます。

「いいお店が増えるのはいいことだと思います。mananaがその出発点になれば嬉しい」と横井さんは言います。今後のビジョンとして「西荻窪は人気の街ですが、シャッターが下りたままの空き店舗もかなりあります。そういった場所にいい形でいろんな店が入って、街全体がもっと盛り上がったらいいなと思います」と、街の活性化にも思いを寄せています。

5坪の濃密な空間は、料理人が1人でオペレーションするのにちょうどいい広さ。カウンター越しにお客様の反応をダイレクトに感じられることも大きな学びにつながりそうです。修業先の店を辞めてから、また、海外修業を終えて帰国してから自分の店をオープンするまで、ポップアップ店舗で試行錯誤してみるというのは、1つの有効な時間の使い方と言えるのではないでしょうか。

2018年2月現在、「西荻窪manana」では4月からの出店者を募集中です。我こそはという方、まずはぜひmananaに足を運んでみてはいかがでしょう?

店舗名 西荻窪manana
SNS twitter
Facebook
店舗名 ジビエバルざんざ亭
SNS Facebook