
日本に押し寄せるインバウンド(訪日外国人旅行者)の波。あなたのお店では、何か対策を講じていますか?
8月8日(木)、ホテルグランヴィア大阪で行われた「インバウンド対策セミナー」(主催/大阪市、株式会社ぐるなび)に参加。対策ポイントから、災害時の対応まで情報を入手してきました。
ではさっそく今のインバウンドの状況からご報告します。
インバウンドをとりまく環境について
キャリーバックを片手に、今や日本のいたるところで賑わう外国人観光客。クックビズ総研編集部がある大阪駅周辺も、中国語、英語など、さまざまな言語が飛び交い、毎日大変な賑わいをみせています。
それもそのはず、2018年の年間訪日外国人数は、ついに3,000万人の大台を超え、前年比8.7%増の3,119万1,900人に。日本政府観光局が統計を取り始めた1964年以降、過去最多となりました。
2018年は、西日本を中心に地震、豪雨、台風と災害続きで、東アジア市場を中心に旅行控えがみられたものの年末には回復。中国を筆頭にアジア圏のほか、アメリカ、オーストラリア、欧州各国など、そのほとんどの国で過去最高の旅行者数を記録しました。
2019年度については、すでに4~6月の統計がでています。以下、旅行者数の多い国・地域からランキングにしてみました。
【訪日外国人旅行者数】(2019年4~6月)
順位 | 全国籍・地域 | 訪日外国人旅行者数/人 | 前年比 |
1位 | 中国 | 200.2万 | ↑ +23.5% |
2位 | 韓国 | 177.1万 | ↓ -5.6% |
3位 | 台湾 | 116.6万 | ↓ -6.8% |
4位 | 香港 | 58.2万 | ↑ +3.6% |
5位 | 米国 | 49.8万 | ↑ +11.9% |
6位 | タイ | 33.5万 | ↑ +3.2% |
7位 | フィリピン | 17.4万 | ↑ +23.8% |
8位 | オーストラリア | 15.1万 | ↑ +17.3% |
9位 | シンガポール | 12.1万 | ↑ +4.1% |
10位 | マレーシア | 11.8万 | ↓ -2.2% |
10位 | インドネシア | 11.8万 | ↓ -8.7% |
(出典:観光庁【訪日外国人消費動向調査】2019年4-6月期の全国調査結果(1次速報)の概要)
表をみると、アジア圏が多いものの、欧米からの訪日外国人数が増えていることがわかります。ランキング圏外でも、スペイン(+25.5%)ロシア(+21.9%)カナダ(+12.3%)ドイツ(+11.1%)など大幅に増えています。
欧米では1回あたりの休暇日数が長く、旅行者一人あたりの旅行支出が多いのが特徴です。かつては「爆買い」という言葉が流行語になりましたが、現在は買い物よりも体験や飲食に多くお金を使う傾向にあります。また、旅慣れたツーリストが増えたことにより『量より質を重視したおもてなし』が重要なキーワードに。
【一般客1回あたりの費用別旅行支出】
2013年 | 2016年 | 2018年 | |
宿泊 | 33.6% | 27.1% | 29.3% |
飲食 | 20.5% | 20.2% | 21.7% |
買物 | 32.7% | 38.1% | 34.7% |
(出典:観光庁「訪日外国人の消費動向」年次報告書)
大阪市×ぐるなび主催「インバウンド対策セミナー」をレポート
今後、増えると予想される訪日外国人の飲食消費3兆円をどう取り込むか。
大阪市と株式会社ぐるなびが主催する「インバウンド対策セミナー」では、飲食店関係者などたくさんの方が会場に集まりました。
冒頭では、大阪市経済戦略局 観光部長・秋田 健治さんが「今後、まだまだ増えると予想されるインバウンド対策について、セミナーで得たノウハウを実践で役立てていただき、それが大阪の魅力につながっていければ」とあいさつ。
■口伝えで世界中に広がった“大阪流のおもてなし”
基調講演では、株式会社ライトハウス 代表取締役社長兼ブランディングプロデューサーの巽 益章(たつみよしあき)氏が登壇。『世界から大阪へ、大阪から世界へ~口伝えで世界中に広がる「大阪的おもてなし」』と題して、同社のインバウンド成功例について体験談を話されました。
株式会社ライトハウスでは、運営する「松阪牛焼肉M」の複数店舗が、世界最大の閲覧数を誇る旅行口コミサイト「トリップアドバイザー」で、入賞し続けています。昨年は、同サイトの「トラベラーズチョイス・レストランアワード2018」を受賞。日本で第1位・アジア全体で第5位として評価されています。大衆点評では、最高評価の5つ星を獲得。
海外から絶大な信頼を得る店づくりについて、巽さんは、「1人のスタッフの“おせっかい”から同社のインバウンド戦略が始まりました」と話します。
※株式会社ライトハウス 巽 益章氏については、こちらの記事も有り
たとえば、初来店のお客様からご要望があればホテルまでお迎えに上がったり、次の観光先に迷っているお客様がいたら、近隣の人気撮影スポットまで案内して撮影してあげたり。「旅行中に困ったことがあれば、いつでも相談にのりますよ」と、名刺を手渡してお客様をサポートするのだそう。
「大阪にいる間は“うちのお客様”というスタンスです」とニッコリ。『人と店』ではなく『人と人』のおもてなしが、訪日外国人の共感をよび、「まるで友人にもてなされているよう」「こんなサービスを今まで受けたことがなかった」とお客様が口伝えで広めてくださり、さらにはSNSでも発信。それを見た人が、「日本の飲食店にこんな人がいるなんて」「日本に行くなら〇〇さんに会いに、あのお店に行こう!」と話題に。
■“差別化”ではなく、突き抜けたサービスを!
巽さんは、前述のようなおもてなしについて、社内ではオペレーションが崩れるという理由から大きな反発が出たことも明かしてくれました。また社外では、銀行の融資担当などから“インバウンドは、ただのブーム”だと苦言を呈されることも多かったと当時を振り返ります。
しかし、それでも巽さんは「常識をくつがえす勇気と覚悟をもつこと。上の立場に立つ人は、自分の常識の枠をはずすことが大事」とアドバイス。社長という立場の人は、自分が経験したことを基に社員をリードしようと考えがちですが、時には自分の知見にとらわれない柔軟さが必要だと言います。
「言葉についても外国語が話せるかどうかはほとんど関係がなく、伝えたいと思う気持ちがあれば中学校レベルの英語であっても十分に通じます。まずはゲストである外国人の不安を取り除くことがポイントです」とコメントしました。
そしてインバウンド獲得に向けての第一歩として、「“差別化”ではなく、突き抜けたサービスを!」と話し、最後に3つのポイントを紹介してくれました。
【インバウンド成功への3つのポイント】
- ポイント1:常識をくつがえす勇気と覚悟をもつこと
- ポイント2:周囲を巻き込むこと
例えば、自分の店だけでなく、他店といっしょに地域で取り組んだり、メーカーや取引先から情報をもらうなど- ポイント3:“おせっかい焼き”は武器になる!一歩踏み込んだサービスを心がけること
災害に備えよう!インバウンド向けのリスク対策
同セミナーでは、「災害リスク対策」についても分科会が開かれていました。世界的に見ても、日本は災害の多い国です。インバウンド対策の一環として、訪日外国人向けの災害への備えは、ぜひともしておきたいですね。そこで基本的な支援、対応についてご紹介します。
■災害が発生したら、多言語でアナウンス!周囲にも呼びかけよう
外国人旅行者は、習慣や文化、経験、知識の違い、言葉の壁などから、被害の規模や影響をきちんと把握することができません。そのため災害時に過剰な反応や、安易な行動をとってさらに困難な状況になったり、混乱するケースが多いようです。
災害発生時の外国人旅行者のための基本的な支援・対応については以下のとおり。
【支援の基本ポイント】
- 災害が発生したら、多言語でアナウンスしたり、多言語のホームページなどを案内。その際、語学ができる利用者など周囲に協力をあおぎ、速やかに情報が伝わるように心がけます。
※停電により館内放送できない場合もあるので、拡声器、メガホンなど代替品をあらかじめ準備を! - 災害情報および交通機関の運行状況を調べ、宿泊施設まで安全に帰るために必要な支援をしましょう。
特に代替交通機関など運行状況の問い合わせが多いので、あらかじめ情報提供するための手順を定めておくことも有効です。 - 宿泊施設まで安全に移動できない場合は、可能な限り近くの施設内に一時的に避難させるか、近隣の安全に避難できる場所へ誘導します。
- 各国領事館が発信している情報を確認するよう案内します。
■観光庁では、災害時用の多言語ツールも用意!上手に活用を
【備えのポイント】
もしもに備えて、「緊急時の避難のご案内」などを作成し、多言語の音声案内や対応文例を準備しておくとよいでしょう。
観光庁では、災害時に外国人が情報収集できる多言語ツールや、施設や飲食店が外国人を案内するためのお役立ちツールをHPに掲載しています。
まとめ
飲食店における海外インバウンドの対策といえば、語学力のあるスタッフの雇用や、外国人向けのメニューの工夫などを想像していましたが、そんな特別なことよりも、もっと大切なおもてなしの基本があったのだと目から鱗が落ちました。海外と日本の架け橋になるような店づくりをしたいですね。固定概念にとらわれずに、相手の懐にまずは飛びこむこと。一歩を踏み出す勇気を持つこと。今からトライしてみませんか。
日本は災害の多い国なので、緊急時の対応策なども事前に準備しておきたいですね。
<取材協力>
イベント名 | インバウンド対策セミナー |
主催者 | 大阪市/株式会社ぐるなび |
<参考資料>
観光庁【訪日外国人消費動向調査】2019年4-6月期の全国調査結果(1次速報)の概要
観光庁「訪日外国人の消費動向」平成25年 年次報告書
観光庁「訪日外国人の消費動向」平成28年 年次報告書
観光庁「訪日外国人の消費動向」2018年 年次報告書