東京は世田谷区成城学園前。駅から少し歩けば、きれいに区画された閑静な住宅街が広がります。
そんな成城学園前駅から5分ほど歩いた所にある、大きな赤いのれんが目印の和食店が、今回取材した「四季膳 ほしや」です。
現在(2014年3月)38歳という年齢でこの店の経営者をしている星谷さん。
その若さにも驚きですが、今回クックビズから採用が決まった小山さんは、なんと弱冠18歳!
何年も経験を積んだ即戦力の人材が多く求められるこの業界。星谷さんは、どうして彼を採用するに至ったのか。小山さんにどんな魅力を感じたのか。
小山さんを採用した理由と、その人材育成についての考え方を、たっぷりとうかがってきました!
私が全力で伝えれば、相手も全力で応えてくれる。その繰り返しで、人は育ちます。
──小さなお店と言って過言ではない「四季膳 ほしや」で、今回小山さんのような若手を採用したのは、どんな考えからなのですか?
星谷さん:経験を積んだ即戦力の方を採用すれば、現場の人間にとっても非常に助かる部分は多いです。
でも私は、この世界は料理の技術よりもまず「人間性」が問われると思っています。
年齢がある程度上の方は、良くも悪くもすでに考え方が固まってしまっている方が多く、これまで面接していた方々には、そういった私の考えに近い方がなかなかいませんでした。
その点、経験の無い方や浅い方は、まずこの世界に必要な「人間性」から身に付けていくことができることもあり、若手の方を採用しました。
──なるほど、将来性を見込んだのですね!では面接に際して重要視している部分は何ですか?
星谷さん:第一に絶対に一生この世界でやっていくんだ、という「覚悟」ですね。
板前の世界は正直、厳しいです。労働時間が長い、給料が安い、休みの日が不規則など、この世界ではどれも当たり前で、自分でお店を持ちたいと思うならなおさらです。
そのぐらいの気持ちがないと、やはり続かないと思います。
──そうなると、若手の教育がとても重要になってくると思います。どんな教育方針を持っておられるのですか?
星谷さん:板前は、とにかく「人間性」が料理に出ます。仕事が汚い人、雑な人はそれなりの味。
逆に丁寧に、またスピーディーに仕事ができる人は、やはり一流の味を生み出せます。
なので若い時にその人間性を育てることが欠かせません。
「挨拶をする」「時間を守る」「ていねいに掃除をする」など、基本的なことですが、そういったことをとにかく体に染みつかせて、板前としての人間性を習得してもらいます。
料理の技術ははっきり言って二の次。
技術はその後でもどれだけでも身に付けられます。後からでも全然遅くありません。
──具体的にはどんな接し方をしているのですか?
星谷さん:昔の職人は頭ごなしにあれやれこれやれと言う方が多かったように思いますが、今はそういうことをやっても人は育たないと思います。
なので私は、本人が将来どうなりたいのかを細かく聞き、そのためにいま何をしなければいけないか、ということを導いていくような、スタンスでいます。
接する上で大切なことは、「常に全力でいる」ということ。
こちらが全力で伝えることで、必ず相手も全力になってくれますから。叱ることももちろん多いです。
将来を考えたら、ダメなものはしっかりダメと言ってあげることが、本当の優しさだと私は思います。
また、実際に若い頃につけていた、レシピや考え方を書いたノートをほとんど見せています。
普通の料理人はもったいぶる方もいたりするんですが、私はそれだけ下の人間が成長してほしいと強く思っているから何でも教えてあげるようにしています。
「舌の肥えたお客様を満足させたい」という想いを胸に、20代で東京へ。
──そういった考えは、やはり経験されてきたことが活かされているのでしょうか?
星谷さん:そうですね。私は静岡県で生まれ育ち、高校卒業後から県内の和食料理店で約8年間修行しました。
そこの親方から、先ほどお話した「人間性」の部分など、多くのことを学びました。
初めて料理人の世界に足を踏み入れたそのお店が親方の店で本当に良かったと思っています。
今でも年1回以上は必ず親方の所へ挨拶に行くほどです。
もっとも今は「下の人間を育てること」が親方への最大の恩返しなのではないかと思っています。
──素敵ですね。他にどんなお店を経験されてきたのですか?
星谷さん:和食店を辞めてから次に、ダイニングバーで2年間、最終的には店長も経験させてもらいました。
ここでは、カウンターキッチンでお客様と触れ合える楽しさを学びました。
現在のオープンキッチンというスタイルもここでの経験があったからだと思います。
その後、お客様を喜ばせたいという思いがさらに強くなり、経験の長かった和食の技術を高め、勝負したいと思うようになりました。
そこで、長年お世話になった静岡の地を離れ、舌の肥えたお客様が多くいる東京に進出することにしました。
店を転々として修行をした後、この「ほしや」をオープンさせ、おかげさまで現在(2014年3月)で開業5年となりました。
──実際に働かれている小山さんはどんな活躍ぶりですか?
じつは初日から厨房に立ってもらっているんです。お客様からしたら、立派な板前に見えることがあるかもしれませんね。
ただ、現在もまだ入社して半年ほどで、味付けはまだまだ。
ですが、徐々に料理の下ごしらえや、盛り付け、ホールでの接客なんかもやってもらっています。
──小山さんにはどんな人物に育ってほしいですか?
星谷さん:若いですが、「お店を出したい」というしっかりとした目標をもっていて、それに向かって正直にまっすぐ生きているという印象です。
やる気があって、負けず嫌いで覚悟もあります。
これからはまず、上の人やお客様など、まわりの人の気持ちをよりくみ取って行動できるようになっていってほしいですね。
今はそんな「人間性」をしっかりと磨いてほしいです。
──最後に、今回クックビズを利用してみていかがでしたか?
星谷さん:今回担当していただいた方が、なんと和食店のホール経験者だったので業界のことをわかっておられて、やりとりが非常にスムーズな印象でした。細かいことをいちいち説明しなくてもニュアンスで会話ができ、伝えられるので、常に気持ち良くコミュニケーションがとれました!
編集後記
2009年3月、世田谷の閑静な住宅街にお店を構える正統派の日本料理店「四季膳 ほしや」。「和食」「日本料理」という世界は、昔ながらの職人気質の世界が広がっているという印象をお持ちの方も少なくないと思います。
ですが、今回取材にご協力いただいた星谷さんは、ご自身の修行や体験の中で学び、経験してきたことをそのままの形で次の世代に伝えるのではなく、時代の流れに合わせた人材の育成を進められているとのこと。
重要無形文化財としても認定されるなど、今や世界中から注目を浴びる「和食」「日本料理」。
そんな日本の古き良き文化は、伝承スタイルこそ形を変えながらも、確実に次の世代、そしてその次の世代へと受け継がれていくんですね。
ぜひ今回入社された小山さんもこの星谷さんの元で一人前の料理人へと成長され、「和食」「日本料理」の素晴らしさを次世代に受け継いでいってくれることを願っています。
(取材・記事:佐藤、編集:世古)