HACCAと書かれた紙とノートパソコンがデスクに置かれている画像

2018年6月13日、「食品衛生法等の一部を改正する法律」が公布されました。

この法律によって、原則としてすべての食品等事業者はHACCPハサップ)の手法を導入することが義務付けられました。法の施行は公布から2年以内となるため、HACCPが制度化されるのは2020年。さらに1年間の経過措置期間があり、2021年までには飲食店を含むすべての食品等事業者がHACCPを導入しなければなりません。

HACCPに取り組むにあたって、まずHACCPとはなにか?という基本的な情報や、今回の法改正の内容を解説し、飲食店向けの手引書などをご案内します。さらに、HACCPの理解を深めるセミナーに参加し、HACCP導入を取り巻く食品業界の現状についてお聞きしました。

そもそも、HACCP(ハサップ)とは?

HACCP(ハサップ)とは、“Hazard Analysis and Critical Point”の頭文字をとった語です。

厚生労働省のホームページでは、
「食品等事業者自らが食中毒菌汚染や異物混入等の危害要因(ハザード)を把握した上で、原材料の入荷から製品の出荷に至る全工程の中で、それらの危害要因を除去又は低減させるために特に重要な工程を管理し、製品の安全性を確保しようする衛生管理の手法」
と定義されています。

国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)の合同機関である食品規格委員会(コーデックス)から発表された国際的な規格で、アメリカ合衆国、EUなど、先進国を中心に世界各国でその採用が義務化または奨励されています

世界各国のHACCPへの取り組み状況を表した厚生省の資料

世界各国のHACCPへの取り組み状況(厚生労働省資料「食品衛生規制等の見直しに向けた検討状況に関する情報提供」より 平成29年12月)

なぜHACCP(ハサップ)の導入が必要なのか?

■国際基準に合わせた衛生管理

食品等事業者は、食中毒や異物混入等の事故が起きないように日頃から衛生管理に取り組んでいるはずですが、国内での食品関連の事故は後を絶ちません。O157やノロウィルスなどによる食中毒のニュースは、今もしばしば耳に入ってきます。
一方で、グローバル化の進展によって日本の食や食品を取り巻く環境が変化し、国際基準に合わせた食の安全、衛生管理が求められています。インバウンドの急増やオリンピック開催のタイミングも重なって、日本もHACCP導入を義務化すべきとの議論が高まったのです。

実はこれまで、厚生労働省は「総合衛生管理製造過程」(通称“マルソウ”)という食品安全管理の認証制度を設けていました。この制度は食品等事業者の一部のみが対象となっており、さらにHACCP の考え方を取り入れてはいるものの、日本独自の内容で国際基準に達しておらず、認証を受けた企業からも事故が発生する事例がありました。食品衛生管理の国際標準化を目指す過程で、「総合衛生管理製造過程」の認証制度は廃止に。改めて、飲食店を含むすべての食品等事業者を対象にHACCPの手法を導入することが規定されました。

■飲食店がHACCP(ハサップ)の手法を導入することの意義

日本では、食中毒の約60%が飲食店で起きているという現実があります。

平成29年食中毒発生状況を表した厚生省の資料

平成29年食中毒発生状況(厚生労働省資料「飲食店における衛生管理」より)

食中毒などの事故を起こすと、お客様に多大なご迷惑をおかけするだけではなく、店のブランド、イメージが損なわれ、取り返しのつかないダメージを被ります。店の衛生管理を見直すことは、お客様のためにも、お店のためにも重要なことです。

HACCP(ハサップ)の手法とは?

HACCPは、食品規格委員会(コーデックス)が定めた7原則12手順に沿って進められます。厚生労働省の資料「ご存知ですか?HACCP」によれば、「原材料の受入から最終製品までの各工程ごとに、微生物による汚染や異物の混入などの危害を予測した上で、危害の防止につながる特に重要な工程を連続的・継続的に監視し、記録することにより、製品の安全性を確保する衛生管理手法」とあり、製造の全工程における「危害の予測」「監視」「記録」をすることが重要なポイントと言えます。

HACCP方式と従来方式との違いを表した厚生省の資料

HACCP方式と従来方式との違い(厚生労働省資料「ご存知ですか?HACCP」より)

食品衛生法で定められた内容―法律上どのような取り組みが求められているのか?

■改正食品衛生法の、HACCP(ハサップ)に関連した条文

では、今回の法改正で、HACCPへの取り組みはどのように規定されているのでしょうか。

改正法の「第50条の2」には

厚生労働大臣は、営業の施設の衛生的な管理その他公衆衛生上必要な措置について、厚生労働省令で、次に掲げる事項に関する基準を定めるものとする

と記述され(条文のカッコ内の記述は省略)、“次に掲げる事項”として

  1. 施設の内外の清潔保持、ねずみ及び昆虫の駆除その他一般的な衛生管理に関すること。
  2. 食品衛生上の危害の発生を防止するために特に重要な工程を管理するための取組(小規模な営業者その他の政令で定める営業者にあっては、その取り扱う食品の特性に応じた取組)に関すること。

と記述されています。

第50条の2の2にある「食品衛生上の危害の発生を防止するために特に重要な工程を管理するための取組」という語が、HACCPを指しています。

■各食品等事業者に求められていること

特に重要な工程を管理するための取組」と、そのあとに続く「(小規模な営業者その他の政令で定める営業者にあっては、その取り扱う食品の特性に応じた取組)」という記述にのっとって、HACCPへの取り組みは大きく2つのカテゴリに分けて制度化されることになりました。

厚生労働省の資料「HACCPに沿った衛生管理の制度化」には、より具体的な概要が示されていますが、その大きな区分は、
「特に重要な工程を管理するための取組」は、HACCPに基づく衛生管理
「取り扱う食品の特性に応じた取組」は、HACCPの考え方を取り入れた衛生管理
の2つです。

HACCPに沿った衛生管理の制度化を表した厚生省の資料

HACCPに沿った衛生管理の制度化(厚生労働省資料より)

「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」は「HACCPに基づく衛生管理」に比べて簡略化されたアプローチと言えます。
それぞれの対象事業者については上の図におおまかな分類がありますが、各食品等事業者がどちらの衛生管理方法を導入しなければならないのか、現時点(2019年1月)では明確な規定はありません。

2018年12月に全国で行われた厚生労働省主催の説明会では、一案として、食品の製造及び加工に従事する者の総数が50人未満である事業所は「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」の対象とする、という目安が示されていますが、決定事項ではありません。この線引きは今後、内閣が定める政令によって規定されるのを待つことになります。改正食品衛生法にまつわる政令・省令は、2019年夏ごろまでに公布される予定となっています。

また今回の制度化では、HACCP導入について「認証」の取得は不要です。実施状況については、保健所等が、営業許可の更新時や通常の定期立入検査等の際に、HACCPの手法を用いて衛生管理計画の作成や実践がなされているか監視し、指導することになります。

飲食店のHACCP(ハサップ)導入

では、今回の法改正によって飲食店に求められるHACCPへの取り組みとはどのようなものでしょうか。

これまでに見てきた法改正の内容から、個人経営の小規模な飲食店は、HACCP制度化の2つのカテゴリのうちの「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」に対応することになると考えられます。
公益社団法人日本食品衛生協会が発行する「HACCP(ハサップ)の考え方を取り入れた衛生管理のための手引書(小規模な一般飲食店事業者向け)」では、「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」について、

今取り組んでいる衛生管理とメニューに応じた注意点をあらかじめ衛生管理計画として明確にし、実施し、記録する、この一連の作業のことです。したがって、これまでとは全く異なる対応ではありません。計画や記録により、衛生管理を『見える化』することです

と説明しています。

手引書には、「見える化」の具体的な方法や、記録様式のフォーマット、記載例などが掲載されています。この手引書は、小規模な飲食店のHACCP導入の指針となるテキストです。一度きちんと目を通しておきましょう。

今回の法改正の内容やHACCPの義務化について、条文や資料を提示しながら見てきましたが、食品等事業者と一言で言っても業態は多様で総括的に語ることが難しく、どう進めたらいいのか、どこまで対応するべきなのかよくわからないという声が多いようです。
厚生労働省のホームページには「HACCPに沿った衛生管理の制度化に関するQ&A」の文書があります。具体的な事項に答えているので、こちらも一度参照すると、理解が深まるでしょう。

また、厚生労働省が2018年12月に全国で開催した改正食品衛生法の説明会では、今回の改正の骨子や今後のスケジュール、現状で出ている政令・省令の内容案が示された資料「『食品衛生法等の一部を改正する法律』に基づく政省令案の検討状況に関する情報提供」が配布されました。この資料の6ページから14ページに、HACCPについての記述があります。

「HACCP(ハサップ)制度化(食品衛生法改正)への対応」セミナーで、取り組みの現状を聞く

NSSスマートコンサルティング株式会社は、国際標準化機構(ISO)が策定する国際規格についてのコンサルティング業を行う会社ですが、お客様からの要望に応えてHACCP導入に関するセミナーを定期的に開催しています。
セミナーの運営を担当する、ISOサポート事業部マネージャーの岡信一さんは「“HACCP義務化となったけれど、どう対応すべきなのか、何から手を付けていいのかわからない”と、お客様から当社にご質問をいただくことが大変多かったので、こういったセミナーを企画しました」と言います。

セミナーでは、講師からHACCPの基本的な知識や義務化までの流れ、取り組みの姿勢などが解説されます。

HACCP導入の現場に多く立ちあってきた、当セミナーの講師は、「法改正によってHACCP導入は義務化となりましたが、国による認証制度はありません。各自治体や業界団体による認証制度はありますが、基準にはばらつきが見られます。明確な基準がない中でどうしたらいいのかわからない、という場合は、国際規格であるISO22000の基準をクリアすることを目指すのもひとつの手です」と言います。
ISO22000とは、食品安全マネジメントシステムに関する国際規格で、その内容にはHACCPの手法も含まれています。

ISO認証支援株式会社の岡さんがホワイトボードの前で話している様子

NSSスマートコンサルティング株式会社 ISOサポート事業部マネージャー 岡信一さん

岡さんは、「法律が整備される前から、食品等事業者の方たちは安全の担保として、取引先企業からHACCP導入を求められてきました。ある大手小売り企業はISO22000を取得していない会社とは取引をしない、という姿勢を示しています」と、既に顧客側がHACCP導入を含めた高いレベルの衛生管理を要求してきている現状を説明します(ただし、ISO22000をはじめとした民間の認定制度を利用することを、政府や諸官庁が勧めているわけではありません)。
NSSスマートコンサルティング株式会社では、定期的にHACCP導入についてのセミナーを開催しています。食品等事業者全般を対象にしたセミナーですが、HACCP導入の現場を良く知るスタッフから最新情報を得ることできる内容です。

日本の食の国際化や、食の安全に対する意識の高まりから義務化が決まったHACCP。今後、改正食品衛生法にまつわる政令・省令の情報に注目し、HACCPに沿った衛生管理の実施に向けて各飲食店も準備をはじめましょう。

■取材協力

企業名 NSSスマートコンサルティング株式会社
関連URL 厚生労働省 HACCP(ハサップ)情報ページ