イメージ:無機質な雰囲気の厨房の写真。大小さまざまなシルバーのお鍋やフライパンが並んでいる

もし、あなたが飲食店としての新しい業態を模索しているなら、「ゴーストレストラン」も選択肢のひとつかもしれません。これはコロナ禍で注目を集めている、新しい飲食店の営業形態です。

今回はゴーストレストランの概要やメリット、開業の注意点について紹介していきます。

ゴーストレストランとは

イメージ:料理人の手元。鯛の刺身を引いている

最初に、「ゴーストレストラン」とはなにか、どんなお店を指すのかについて、詳しく解説します。

デリバリーやテイクアウトを中心に営業する飲食店のこと

「ゴーストレストラン」とは実店舗を持たずに、デリバリーやテイクアウトを中心に営む飲食店のことを指します。

ゴーストレストランはもともと、2014年頃にNYで誕生したといわれています。その後、同じくアメリカ生まれのUber Eatsとともに、日本にも導入されました。

ゴーストレストランはUber Eatsと混同されがちですが、両者はまったく異なる営業形態です。

Uber Eatsはお客様の依頼に基づいて、飲食店の料理をお届けする「配達代行業」です。これに対してゴーストレストランは、あくまでも飲食店が主体となります。

Uber Eatsがゴーストレストランの料理を配達するケースもあるので、しっかり区別しておきましょう。

日本ではUber Eats上陸の2016年から普及

ゴーストレストランはUber Eats上陸の2016年頃から日本でも普及しはじめ、2017年に渋谷で開業したデリバリー専門のカレー店「6curry」が、日本におけるゴーストレストランの第1号店だとされています。

その後Uber Eatsや出前館などのデリバリー代行サービスの増加とともに進化を続け、2019年にはデリバリーに特化したゴーストレストランが登場しています。

飲食店が宅配した料理をお客様が自宅で食べる飲食スタイルは、日本ではそう珍しいものではありません。日本にはもともと出前や仕出しといった宅配サービスがあるため、ゴーストレストランを受け入れやすい下地が整っていました。

さらに料理の宅配を専門的に請け負うデリバリー代行サービスが生まれたことや、目新しさも普及に拍車をかけて、いまではさまざまなスタイルの店が生まれています。

たとえばハードロックカフェやカプリチョーザなどを運営する株式会社WDIが運営するゴーストレストラン「WE COOK」は、ひとり用の火鍋やつけ麺タイプのフォーなどのニッチな料理を提供することで人気を集めています。

また、合同会社Wiaasのゴーストレストラン「デリステーション」は、既存店舗の厨房とシェフのアイデアを生かした業態開発が特徴です。

料理人の個性やストーリーを基盤とした業務開発はふたつの軸で取り組まれています。ひとつ目は「データ分析を起点とした開発」、ふたつ目は「シェフ起点の開発」です。デリバリーにおける業態開発のカギである、3,4キロに住むユーザーを理解し、ニーズのある新料理をシェフのクリエイティビティを活かしながら開発しています。

現在は全国に展開して、飲食店の可能性を広げています。

コロナ禍でゴーストレストランが成長を続ける理由

イメージ:少し暗めの落ち着いた雰囲気のレストランのカウンターテーブル

ゴーストレストランはコロナ禍で集客が難しい状況でも成長している、将来有望な営業形態といえるでしょう。

ここからは、ゴーストレストランが成長を続ける理由を解説します。

開業資金が抑えられる

ゴーストレストランの最大の魅力は、少ない開業資金で営業をはじめられることです。

厨房さえあれば開業ができるため、高い家賃がかかりません。またお店の内装などに設備投資をする必要もなく、スピーディーな開業も目指せます。

ゴーストレストランでの調理は、「シェアキッチン」といわれる既存の飲食店や貸店舗のキッチンスペースを間借りし行われることが多いです。
一般的に新規店の立ち上げには、数百万円から一千万円前後の開業資金がかかります。しかし、シェアキッチンを使えば高額な厨房機器を揃える必要もなく、数十万円程度の初期費用でも開業が可能です。さらに早い段階での初期費用の回収が見込めます。

特に、すでに営業している飲食店ならほとんど資金がかからず、新規参入がしやすいといえるでしょう。従業員を雇用する必要もなく、さらにコストを減らしてスリム化することが可能です。

また都心の一等地などの出店場所にこだわる必要がなく、デリバリーの需要が高そうな住宅街やオフィス付近などでも開業できます。

ゴーストレストランのひとつの特徴としては厨房と料理人がいれば、ひとつの場所でお客様に飽きさせない和洋さまざまなメニュー展開や商品開発を行うことができる点です。
ユーザーを魅了する料理を地域ごとに分析し、開発・展開していくことが成功のカギになるのではないでしょうか。

実店舗を持たないことでさまざまな制約を受けにくい

ゴーストレストランは飲食店にありがちな、さまざまな制約を受けにくいのも魅力のひとつです。

たとえば、客席のある飲食店の場合は、雨が降ると出足が鈍るなど、集客がその日の天候に左右されることが多いです。

ゴーストレストランはお客様が出かける必要がないデリバリーやテイクアウトを主体とする営業体系なので、売り上げが天候の影響を受けにくい傾向があります。天気が悪いと外出せずに自宅で食事をとる人が増えるため、むしろ雨の日のほうが、注文率アップが期待できるでしょう。

なにより実店舗のないゴーストレストランは、コロナ禍の緊急事態宣言による時短営業の影響を受けにくいという利点があります。

業態の変更といった経営判断もスムーズ

飲食店営業のシンボルともいえる実店舗がないことで、業態の変更などの経営判断がスムーズにできるのも、ゴーストレストランの良いところでしょう。

お客様はお店を見て味の判断をする傾向があり、店舗の外観やインテリアは、和風・洋風などの料理とイメージをあわせる必要があります。そのため、実店舗の場合はお客様のニーズや流行にあわせて、業態を変えるということがなかなかできません。

ゴーストレストランなら斬新なメニューにもチャレンジしやすく、ひとつの厨房で複数業態のレストランを運営することも可能です。オーナーの判断で業態をスピーディーに、しかもコストをかけずに増やしたり、変えたりすることができるため、売上を伸ばすためのPDCAサイクルを上手く回せるでしょう。

また、ゴーストレストランはお客様が利用する客席がなく、お客様への提供時間や接客スタッフなどの提供サービスの負担が軽減され、厨房業務のみに専念できます。お客様をお待たせすることなく料理提供ができることは、お客様の満足度の向上につながるため魅力的なポイントですよね。

ゴーストレストランを経営するときの注意点

イメージ:フードデリバリーのバッグを背中に背負い、自転車に乗ってデリバリーをするマスク姿の男性

最後に、ゴーストレストランの経営をはじめる際の注意点を紹介します。

経営に踏み切る前に、ゴーストレストランならではの顧客ニーズや最新ニュースをチェックしましょう。

デリバリー可能範囲内に顧客が限定される

ゴーストレストランの営業は、デリバリー可能な範囲に顧客が限定されがちです。飲食店の需要を把握して、デリバリーが可能な範囲で顧客をリピーターにする工夫を考えておく必要があります。

厨房があればどこでも営業できるものの、デリバリーができる地域に限界があることは理解しておきましょう。

デリバリーにかかる費用は意外と大きい

ゴーストレストランは少ない開業資金でもはじめることができるとはいえ、デリバリーにかかる費用が意外と大きいことには注意しなければなりません。

まず、包装容器や運搬できる食器などの費用がかさみます。さらに配達を代行業者に依頼をすると、そのぶん手数料がかかります。

基本的にメニュー代金は手数料などを考慮して決める必要があるため、ゴーストレストランは割高な価格帯になりがちです。消費者のニーズや集客範囲の相場をチェックして、価格で不利にならないように営業していく必要があるでしょう。

顧客の反応がつかみにくい

顧客の反応がつかみにくいのも、ゴーストレストランのデメリットのひとつです。

お店への反応を知るとなれば、ネットのレビューでしか判断がつかないため、料理の味や見た目に関するリアルな感想を得にくい傾向があります。シェフやスタッフの目の前でお客様が料理を食べるわけではないため、お店の認知度を上げるためのマーケティングが困難になるでしょう。

基本的にデリバリー代行業者から得られるのは、顧客のニックネームや注文回数などの簡易な情報のみです。リピート客の確保や育成が難しいため、業界の最新ニュースを把握すると良いでしょう。

編集後記

ゴーストレストランはメリットが大きいぶん注意すべき点もあるため、飲食業界にまつわるニュースを的確に把握して、経営に役立てる必要があります。

世の中の飲食業界のトレンドや動きに対して常にアンテナを張り、最新の情報を常に入手できるようにしておきましょう。