テイクアウト商品のイメージ。厚手のランチボックスに詰められたお弁当や、コーヒーカップなど

コロナ禍の影響でテイクアウトを始めた飲食店が増えています。デリバリーとは違い、購入者に持ち帰ってもらうテイクアウトは、とくに食中毒に対する配慮が必要です。

では、テイクアウトでお弁当などの飲食物を販売するとき、どの点に注意すれば食中毒を防ぐことができるのでしょうか。

今回は、テイクアウトを始める際に知っておきたい、食中毒の基本知識や食中毒を予防するためのポイントについて紹介します。

飲食店における食中毒の現状

イメージ:テーブルをきれいなダスターで掃除している様子

厚生労働省の食中毒統計資料によると、令和2年(2020年)度に発生した食中毒は887件です。

そのうち、飲食店での発生件数は375件ともっとも多く、全体の約42.3%にものぼるほどです。

出典:厚生労働省「食中毒統計資料:令和2年(2020年)食中毒発生状況」

飲食店で食中毒が発生した場合、クレームだけでなく衛生管理に関して保健所の調査が入ります。中には、訴訟問題に発展している例もあります。

食中毒は場合によっては死に至る恐ろしいものです。飲食物を提供するうえで、食の安全をいかに守り、安心を提供していくかを十分に注意しなければなりません。

食中毒の主な原因

テイクアウトのイメージ写真。カウンター越しに男性スタッフが紙袋に入れた商品を女性客に渡している風景

食中毒を引き起こす主な原因となるのは、細菌やウイルス、寄生虫などの病原物質です。一般的には、以下のものが知られています。

  • ノロウイルス【ウイルス】
  • E型肝炎ウイルス【ウイルス】
  • アニサキス【寄生虫】
  • サルモネラ属菌【細菌】 
  • 腸管出血性大腸菌(O-157)【細菌】 
  • 黄色ブドウ球菌【細菌】
  • カンピロバクター・ジェジュニ/コリ【細菌】

そのほか、キノコ類などに含まれる毒を摂取したことが原因で、食中毒を引き起こすことも多くあるので注意が必要です。

  • 毒キノコ
  • ふぐの内臓
  • 毒草(アジサイや水仙の葉など)
  • ジャガイモの芽

これらを調理時に取り除き、付着や増殖を防ぐには、テイクアウトに応じた食中毒対策を行う必要があります。

テイクアウト時の食中毒対策の三原則

ここからは、テイクアウト向けの料理の基本となる、食中毒対策の三原則について紹介します。

もちろん家庭での食中毒対策にも共通するものですが、ここではとくに飲食店における対策のポイントについて確認していきましょう。

付けない

とにかくまずは、食中毒菌を料理に「付着させない」ことが重要です。調理時にこまめに手洗いを行い、直接調理後の料理に触れる盛り付けの際には、菜箸やビニール手袋などを活用しましょう。

生の肉や魚類に触れたときは、菌が付着していることもあるのでその都度手洗いや調理器具の洗浄を行う必要があります。

また、食材や食品ごとに管理を行い、生の肉や魚と野菜類を加工する調理器具(まな板・包丁など)はわけるなどの対策も必要です。さらに、寄生虫や毒類を取り除き、料理に混入しないように注意しましょう。

増やさない

テイクアウトで特に重要になるのが、食中毒菌を「増やさない」ことです。食中毒の菌が増えやすい温度は20℃~50℃程度だといわれており、店頭販売などで料理を常温で置いたままにしていると菌が増殖しやすくなります

とくに夏場や梅雨時は温度・湿度ともに高くなりやすいので注意しましょう。お客様には、菌が増殖する前に召し上がっていただく必要があるため、調理後2時間以内に提供できるようにするのがおすすめです。

販売時に2時間以内に食べて欲しい旨を伝えたり、夏場などは保冷剤を添付したりして、温度を上げないよう注意が必要になります。

やっつける

テイクアウトだけでなく、店内で調理して提供する場合も食中毒菌を「やっつける」ことが、食中毒を防ぐうえで重要になります。

基本的に食中毒菌は加熱処理で死滅させることができるため、加熱処理が必要な物はしっかりと火を通しましょう。

とくに、肉や魚などはテイクアウトで提供する場合、必ず中までしっかりと加熱しておくことが大切です。

また、生の肉や魚を処理した調理器具は、熱湯で殺菌消毒を行うなどしておきましょう。

テイクアウト提供を行う上での注意点

テーブルの上に並べられたいろんな種類のベーグルサンド

ここからは、テイクアウトで料理の提供を行う際の注意点について解説します。食中毒の予防対策に加え、テイクアウト営業をはじめるにあたって、営業許可を得る必要があるので確認しておきましょう。

営業許可の取得

食中毒対策以前に、テイクアウトをはじめるにはまず営業許可を得る必要があります。ただし、開業時に営業許可が出ている食材(店内で提供している料理)に関しては、新たに営業許可を取得しなくてもテイクアウト販売可能です。

食べ物によって許可を得る必要があるので、自分の店舗で提供している料理以外のものやテイクアウトで提供する際に申請が必要なものには注意しましょう。

  • パンや菓子類
  • 乳製品
  • 食肉製品
  • 魚肉ねり製品
  • 清涼飲料水
  • 乳酸菌飲料
  • 食用油脂
  • マーガリンやショートニング
  • みそ、醤油
  • ソース、たれ類
  • 酒類
  • 豆腐、納豆
  • 麺類
  • おそうざい
  • 缶詰
  • 添加物
  • 冷凍食品

これらに該当するものは営業許可を得る必要があるので、テイクアウトで提供するものに応じて申請する必要があります。

また、該当するものがわからない場合は、テイクアウトで提供したい料理について保健所に相談してみると良いでしょう。

食べ物の管理方法を記載

食中毒を防ぐためには、購入してくれたお客様に適切に管理してもらうことも大切です。

そのため、消費期限(時間まで記載)や保管方法(要冷蔵など)を記載し、商品の入れ物にシールを貼って明示しておきましょう。また、口頭でも料理を手渡す際などに伝えるようにしておくとさらに効果的です。

季節によって提供品を変える

梅雨時期から夏場にかけては、とくに食中毒が発生しやすい時期になります。そのため、長持ちする物を提供するようにメニューを変えるなどして、食中毒に配慮することが重要です。

また、期間限定の料理として販売することで、消費者の購買意欲アップにつながる可能性があります。

食中毒が起こりやすい食べ物は避ける

食中毒がとくに起こりやすい食べ物は、テイクアウトでの提供を避ける必要があります。

刺身や生もの、生野菜、低温調理の食べ物などは食中毒が起こりやすいので避けることが大切です。

食中毒を引き起こしやすい具体的な食材や料理については、次項で紹介していますので、参考にしてみてください。

また、テイクアウトをはじめるにあたって、押さえておきたいポイントについては以下の記事でも紹介しています。

クックビズ総研:飲食店のテイクアウト導入。押さえておきたい3つのポイントとは?

食中毒が起こりやすい食べ物・食材

イメージ写真。銀色のボウルに卵を割っていれている写真

ここからは、食中毒が起こりやすい食べ物や食材の具体例について紹介します。店内で提供する際には問題ないものでも、テイクアウトでは食中毒のリスクがあるものも多いので、必ず確認しておきましょう。

加熱が充分でない、卵・肉・魚

刺身やレア加減で焼かれている肉、半熟卵などの加熱が十分でない卵、肉、魚などは、食中毒を引き起こしやすい食材です。

加熱が充分にされていないと、菌を「やっつける」ことができておらず、菌の増殖によって食中毒を引き起こすおそれがあります。

卵はサルモネラ菌、牡蠣はノロウイルス、イカや魚類はアニサキス、腸炎ビブリオ、加熱が充分でない豚肉はE型肝炎ウイルスなどが発生しやすいので注意が必要です。

これらの食材をテイクアウトで扱う際には、充分に注意しましょう。

おにぎりや手巻き寿司など手を使って食べるもの

おにぎりや手巻き寿司など、手で食べるものも食中毒を引き起こしやすいので注意する必要があります。

調理過程で十分に配慮していても、実際に食べるお客様の手に菌が付着している可能性があるためです。

傷やニキビなどを触った後に手に付着しやすい黄色ブドウ球菌などによって、食中毒が発生する場合があります。

手に付着した菌を料理に移さないために、おしぼりやウェットティッシュを添えて渡すことで、予防することができるでしょう。

また、おしぼりなどが用意できないときは、口頭で「手を綺麗にしてから召し上がってください」と伝えたり、割りばしなどを添えたりするのもおすすめです。

配慮すべき項目は多岐にわたりますが、事故を防ぐためにも十分に対策を講じる必要があります。

編集後記

テイクアウトをはじめる飲食店が増加し、店舗で提供している料理をそのままテイクアウトで提供する店舗も少なくありません。

しかし、食中毒を予防するためには、テイクアウトに適した料理を厳選して用意することが大切です。

調理工程や使用する食材の取り扱い方などにも注意し、自店の料理を安心して楽しんでもらえるように対策しておきましょう。