
コロナ禍の現在、店舗だけで利益を得るのではなく、新たな販路開拓のひとつとしてネットショップの通販を開始し、「より多くのお客様に食べてもらいたい」と考えるお店も多いのではないでしょうか。
ここでは、飲食店のネット通販の始め方や注意点をはじめ、実際に飲食店のネット通販で成功した事例を紹介します。
飲食店でネット通販・ECを始める方法
近年、飲食業界でもネット通販を展開しているお店が増えています。無料で利用できる通販サイトもあるため、一昔前に比べると簡単に通販を開始することが可能になりました。
しかし、食品を扱う関係上、注意しなければならないポイントもいくつか存在します。ここからは、6つのステップに分けて、ネット通販を始める方法をご紹介します。
ステップ1 販売する商品を決める
まずは、ネットショップで販売する商品を決定しましょう。商品選びには、お店の方向性やコンセプト、ウリを明確にすることが重要です。
例えば、食材や調味料にこだわっているお店であれば、そのまま仕入れた食材や調味料を商品として販売するのもおすすめです。パスタ専門店であれば、パスタソースをレトルトに加工して販売することができます。
また、食品の販売だけでなく、お店で実際に使うジョッキやお箸などを自社のオンラインショップで販売したり、トートバッグやエコバッグなど、お店のオリジナルグッズを作って販売したりする飲食店もあります。
お店で出している料理のなかには、梱包や配送に高いコストがかかるものや、生鮮食品を使う料理など、ネット通販に向いているものと向いていないものがあるので注意しましょう。ネット通販で販売することが難しい商品が多い場合には、通販用に新しくメニューを開発することも良い方法です。
ステップ2 保健所で食品製造許可をもらう
飲食店を始める際には飲食店営業許可証を取得しなければなりませんが、この許可証で販売が許されるのは「持ち帰り」や「配達」など、当日中に食べることが前提の食品のみです。
そのため、販売する商品が決まっても、許可証を取得せずにそのまま販売すると違法になってしまいます。トートバッグや食器などは販売しても問題ありませんが、食品をネットで販売するには食品衛生法に基づく営業許可を取得する必要があるのです。
また、ネットショップで販売する食品の種類によって、取得しなければならない許可証が異なる点も注意しましょう。
例えば、お店で製造したものや、加工した食品をネットショップで販売する際は、「製造・加工業」の免許を取得しなければなりません。
ジャムや缶詰を販売する場合は、「かん詰又はびん詰食品製造業」の免許、食品を冷凍して販売する場合は、「食品の冷凍または冷蔵業」の免許が必要です。
さらに、これら製造業の許可をとるには、店内に製造用のキッチンや厨房が必要なケースもあります。
仕入れた商品をそのまま販売する場合は、新たに許可を取得する必要がない場合もあるため、営業施設の所在地を所管する保健所や営業許可を受けた保健所に相談し、確認しておきましょう。
ステップ3 実際に商品を試作後、検査機関などで検査・確認
販売する商品を試作する段階に来たら、検査機関へ検査に出します。この検査にもさまざまな種類がありますが、最低限必要な検査は大腸菌などの菌やウイルスの検査です。
大腸菌の検査で陰性にならなければ、商品を出荷することができません。必須項目とはされていないものの、推奨されている検査には、賞味期限の検査やアレルギー物質の検査が挙げられます。
また、食品関係において「異物混入」もまた健康被害に繋がる重大なトラブルです。検査を受け、安全を担保しておきましょう。
ステップ4 ネットショップの開設
販売する商品の体制が整ったら、いよいよネットショップの開設です。ネットショップの開設方法は、主に以下の3つの方法があります。
- Web制作会社にECサイトを制作してもらう
- 楽天やヤフーショッピング、Amazonなど、既存のECモールへ出店する
- 自分でネットショップを制作する
どの方法でスタートしても問題はありませんが、大切なのは集客力の高いページにすることです。
また、いくら見た目がおしゃれでも、安全性や美味しさが伝わらなければ購入に至らない場合があります。商品を購入してもらえるよう、料理の写真や掲載する情報にもこだわりましょう。
ステップ5 利益ができる価格設定を考える
商品の価格設定は非常に重要な項目です。ネット通販で販売するには、販売手数料や原価、総量、梱包資材代金、広告費などといった費用が発生します。
なかでも特に重要となるのは、ネットショップの販売手数料です。例えば、楽天やヤフーショッピング、AmazonなどのECモールに出店するならば、毎月固定費がかかるほか、売上げに対する手数料がかかる場合があります。無料ECサイトでも販売手数料はかかるので、注意しましょう。
ネットショップ販売にかかる諸費用は事前に計算しておいた上で商品の値段を決めないと、売れても利益が出ない状況になってしまいます。
ステップ6 商品の梱包・発送方法を検討
食品をネットショップで販売するとき、冷蔵、冷凍発送が必要な商品を扱うこともあるでしょう。その際は、食品の冷凍または冷蔵業の免許が必要です。
商品が破損しないようにする梱包方法や、安全にお客様に届けられる状態の梱包方法をしっかり考えておかなければなりません。
調理が必要な食品の場合や、食べ方が特殊な商品の場合は、説明書きを添えておくと親切です。お店の信頼感や認知拡大につながるように、ショップカードや商品案内のチラシ、納品書や送り状の同梱も忘れないようにしましょう。
飲食店でネット通販・ECを開業する際の注意点
多くの飲食店がネット通販に参入していますが、知識がないまま販売していると違法行為になる恐れがあります。ここでは、ネットショップ展開するときの注意点をご紹介します。
食品表示は必ず記載する
飲食店では食品表示の義務はありませんが、ネット通販をする場合は原材料名やアレルギー、添加物など食品表示法に基づいた項目を包装容器に記載しなければなりません。
あらかじめ、ネット通販の商品ページにも記載しておくようにしましょう。
食品表示法の新基準に基づく食品の義務表示事項を、以下にまとめました。
■表示が必須の項目
- 名称
- 保存方法
- 賞味期限又は消費期限
- 原材料名
- 添加物
- 内容量
- 栄養成分の量と熱量
- 食品関連事業者の氏名又は名称及び住所
- 製造所又は加工所の所在地及び製造者又は加工者の氏名又は名称
■一定の要件に該当する場合に表示が必要な項目
- アレルギー物質(特定原料の成分を含む食品に必要)
- 原料の原産地名(国内で製造した加工食品に必要)
- 原産国名(輸入品に必要)
- 遺伝子組換え食品に関する事項(遺伝子組み換え作物を含有する食品に必要)
- 指定成分等含有食品に関する事項(指定成分を含有している食品に必要)
- L-フェニルアラニン化合物を含む旨(アスパルテームを含む食品に必要)
- 機能性表示食品に関する事項(該当する食品に必要)
- 特定保健用食品に関する事項(該当する食品に必要)
- 乳児用規格適用食品(該当する食品に必要)
引用サイト:早わかり食品表示ガイド 令和2年11月(消費者庁)
食品衛生法に基づく営業許可が必要な業種
食品関係の営業許可は、食品衛生法に基づき、34業種が定められています。さらに、各都道府県の条例で定められているものもあるため、管轄の条例を調べておきましょう。以下に、東京都が定める営業許可種類をまとめました。
■調理業
- 飲食店営業
- 喫茶店営業
■処理業
- 乳処理業
- 特別牛乳さく取処理業
- 食肉処理業
- 集乳業
- 食品の冷凍業又は冷蔵業
- 食品の放射線照射業
■販売業
- 氷雪販売業
- 食料品等販売業
- 乳類販売業
- 食肉販売業
- 魚介類販売業
- 魚介類せり売営業
■製造業
- 菓子製造業
- あん類製造業
- アイスクリーム類製造業
- 乳製品製造業
- 食肉製品製造業
- 魚肉ねり製品製造業
- 清涼飲料水製造業
- 乳酸菌飲料製造業
- 氷雪製造業
- 食用油脂製造業
- マーガリン又はショートニング製造業
- みそ製造業
- 醤油製造業
- ソース類製造業
- 酒類製造業
- 豆腐製造業
- 納豆製造業
- めん類製造業
- そうざい製造業
- かん詰又はびん詰食品製造業
- 添加物製造業
- つけ物製造業
- 製菓材料等製造業
- 粉末食品製造業
- そう菜半製品等製造業
- 調味料等製造業
- 魚介類加工業
- 液卵製造業
引用サイト:営業許可の種類・概要(東京都福祉保健局)
この中でも製造業の許可は、高度な設備が必要で取得が難しいとされています。
梱包・配送費用を考える
ネット通販で販売するにあたり、梱包料金や配送費が大きな出費となる場合があります。
商品のサイズや配送先、配送サービスによって配送料が異なりますので、どこの配送業者を使うか、配送費を少なくできる方法はないか考えておきましょう。
梱包にかかる資材や説明書き、ショップカードなどもコストがかかるため、できるだけ費用を抑えられるように考慮する必要があります。
特定商取引法を理解する
ネット通販を行うには、消費者の利益を守ることを目的として制定された、特定商取引法をしっかり理解しておかなければなりません。
広告の表示方法や前払式通信販売の承諾等の通知など、後々トラブルとならないために、チェックしておきましょう。
飲食店におけるネット通販・EC開業の成功事例
実際に飲食店がネット通販を展開して、成功した事例を紹介します。
塚田農場
塚田農場は、人気メニューをミールキット化し、自宅でも楽しめる商品として自社ECサイトで販売し成功しました。
契約農家が丁寧に生産する地鶏を、消費者に向けて直接販売したいという思いで、契約農家や生産者支援として産直食材ネット販売も行っています。
■サイト:おうち塚田農場
べランディング鳥幸
来店しなくても、自宅で本格焼鳥を楽しめる「焼鳥ミールキット」を開発し、ネット通販を展開しました。生産者支援プロジェクトとして、銘柄鶏の消費を促しています。
毎月焼き鳥が届く定期購入や、オリジナル焼き台も好評です。定期購入では、初回のみオリジナル焼き台・タレ瓶・ハケが同梱されています。
■サイト:VERANDING TORIKO
ラーメン凪
自社工場の製品を、急速冷凍したこだわりのラーメンセットなどを、自社オンラインショップで販売しています。
ラーメンの販売のみならず、ラーメン丼やTシャツ、タオルなど、オリジナルグッズも展開しており、顧客のファン化に成功しました。
■サイト:ラーメン凪 オンラインショップ
パンとエスプレッソと
食パンやフレンチトーストの販売に加え、冷凍パンの販売をスタートして、より通販で購入できる種類を増やしています。
ショッピングバッグの販売をすることで、ギフトや手土産用としても購入してもらえるよう、細かな配慮をしているのがわかります。
■サイト:パンとエスプレッソと(通販ショップ)
ANA
航空会社のANAでは、国際線エコノミークラスで提供されている機内食を、ANA公式通販サイトで販売して成功しています。
本来なら飛行機に乗らないと食べられないものをネット通販で販売したことが話題となって、10万食以上が完売しました。
■サイト:ANAショッピング A-style
麺屋武蔵
ネットショップ作成サービス「BASE」でECサイトを立ち上げ、生麺とスープのお土産ラーメンセットを販売しています。
通販サイトを業者に依頼すると多くの費用と時間がかかりますが、無料でネット通販サイトが構築できる部分に着目してBASEを活用したとのことです。
スープが多少ぬるくなっても美味しく食べられるよう、味が調節されている部分にもこだわりを感じます。
■サイト:麵屋武蔵
このように、ネット通販を導入して成功した飲食店は多いです。どのお店でも、さまざまな工夫をしているのがわかります。
他店の取り組みやアイデアを知ることで、自分のお店に生かせるアイデアが浮かぶかもしれません。もし飲食店の最新の取り組みや情報を知りたいなら「ククロ」がおすすめです。
「ククロ」では飲食業界のトレンドを日々配信しているため、いち早く最新情報をチェックすることができます。飲食関係者の方はぜひ活用してみてください。
編集後記
飲食店がネット通販に参入するには、さまざまな注意点があります。しかし、なかには成功している店舗も多いため、参入してみる価値はあるでしょう。
他店の情報を集めながら、ぜひネット通販の参入を視野に入れてみてください。