近年、日本の飲食業界でも急増している外国人労働者。日本で働く外国人労働者は、真面目で飲み込みの早い人が多いと高評価ではあるものの、日本的なサービスにはなかなか適応してもらいにくいため、現場では苦労があるようです。
そこで、今回は現場で外国人が感じているギャップや、その溝を埋めるための工夫ポイントなど詳しくご紹介したいと思います。
外国人と日本人のスタッフ間にある「文化のギャップ」とは?
外国人が日本の飲食店にスタッフとして採用されるには、日常会話レベルの日本語を話すことができ、研修やOJTを通じて日本の文化やサービスについてもある程度理解できることが前提になると思います。ですが、育った国によって生じる価値観や文化の違いによるギャップはあって当たり前。実際に日本で働く外国人が感じるギャップについて解説したいと思います。
■ギャップ1 お客様への「おもてなし」
飲食業界の人事担当者や現場責任者は、外国人スタッフのことを「真面目」「頭がいい」「働き者」と高く評価していますが、一方でどうしても埋めにくいお互いの文化のギャップがあると言います。
出身国によってさまざまではありますが、外国人から見ると日本のサービスは「おもてなしの心」を重視した独特の文化だと言えます。
一方、例えばアジア圏の場合、スタッフとお客様は対等な立場という考えが強いため、日本人からすると「無愛想」と感じられる接客がスタンダードだと考えている傾向があるようです。飲食店のスタッフがものを食べながら接客をする場面も見受けられ、「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」といった言葉をかけず、お客様に対する感謝の姿勢を伝えない接客も少なくありません。
■ギャップ2 「衛生」に対する考え方
多くの外国人は日本に「清潔」なイメージを強く持っているようですが、確かに日本の飲食業界の衛生管理は世界でも高水準と言えるでしょう。ただし、一般店においても、厨房まわりはもちろん、働くスタッフの身だしなみまで細かく衛生管理がルール化されているのは、外国人スタッフからすると「なぜ、そこまで?」と感じることも多いようです。
外国人に日本のサービス文化を知ってもらうために必要なこと
日本人にとっては当たり前のことでも、外国人スタッフへ伝えるのが難しいのが日本のサービス文化。どう教育すれば、より理解を深めてもらえのか、外国人への伝え方のポイントをご紹介します。
■「なぜ必要なのか」理由を明確に伝える
新人教育のためにどの飲食店でもマニュアルが存在するはず。そこには、「こういった場合は、このように対応しましょう」とルールだけが明記されていて、なぜそうするのか理由まで説明されているものは少ないのではないでしょうか。
日本で育った日本人には説明不要なことでも、外国人スタッフには「どうしてそんなことをするの?」と、腑に落ちていないルールがたくさんあります。ここで大切なのは「なぜ、そのルールが必要なのか」をきちんと説明することです。
■「衛生管理」が必要な理由は具体的に説明する
世界レベルでみても高水準な日本の衛生管理も、外国人にとっては不思議がいっぱいあります。仕事中にマニキュアやアクセサリーを身につけていることには何の違和感もないので、「どうして仕事中に指輪を外さなきゃいけないの?」「シンプルなものだったらいいでしょう」と思っているケースも少なくありません。
マニキュア・ピアス・ネックレスがNGな理由
「仕事中にマニキュアやアクセサリーを身につけていると、異物混入のリスクが発生します。そのため、色や大きさに関わらずいかなるマニキュアやアクセサリーも身につけるのはNGです」
指輪がNGな理由
「指輪と指の間は洗浄ができないため、菌の温床となり二次感染のリスクが発生します。必ず外すようにしましょう」
長い爪がNGな理由
「爪には細菌が溜まりやすいなので、長い爪は二次感染のリスクが発生します。短く切りそろえ、清潔に保つようにしましょう」
髪の毛を束ねる理由
「特に長い髪の毛は抜け落ちると異物混入のリスクが発生します。勤務前にはブラッシングをし、長い髪の毛は束ねるようにしましょう」
このように、外国人スタッフに「なぜ、それがダメなのか」を説明する際には、理由を明確に伝えるとより理解が深めてもらえるはずです。
■外国人が覚えやすい「挨拶の仕方」と「敬語の使い方」
外国人スタッフには、接客や同僚とのコミュニケーションですぐに使える挨拶や敬語のフレーズを伝えておくとよいでしょう。日本語のように敬語の使い分けが細かく必要な言語もめずらしいので、わかりやすく覚えやすいかたちで教えてあげることが大切です。
「挨拶」のキーワードは「あ・い・さ・つ」
挨拶はコミュニケーションの基本です。気持ちの良い挨拶をされて不満に思う人はまずいないでしょう。言葉が完全に通じなくても、気持ちの良い挨拶で円滑な人間関係と働きやすい職場を作ることができます。
挨拶の仕方のポイントは、頭文字が「あ・い・さ・つ」となっているため、外国人の方にも覚えてもらいやすいでしょう。
- 「あ」……「明るく」
明るい声と表情で挨拶しましょう- 「い」……「いつでも」
忙しさや気分によってではなく、いつでも挨拶しましょう- 「さ」……「先に」
相手が挨拶してからではなく、相手よりも先に挨拶しましょう- 「つ」……「続ける」
挨拶ができる状態を継続しましょう
敬語は日本人でも間違って使ってしまうほど難しい文法なので、外国人にとってはなおさらのことでしょう。敬語をきちんと覚えてもらうには、ある程度の時間と教育が必要ですが、ここではすぐに使える「クッション言葉」と「マジックフレーズ」をご紹介しましょう。
敬語で便利な「クッション言葉」と「マジックフレーズ」
「クッション言葉」
外国人のコミュニケーションスタイルの特徴として、Yes・Noをはっきり伝えることが挙げられますが、日本人のコミュニケーションではあまりにストレートだと相手に失礼な印象を与えかねません。
そこで便利なのが「クッション言葉」です。お客様にお断りやお願いをする際に、言葉の頭に付けるだけで丁寧な印象を与えることができます。
「あいにく」「恐れ入りますが」「申し訳ございませんが」「できましたら」「もしよろしければ」「お手数をお掛けしますが」「失礼ですが」などが挙げられます。「マジックフレーズ」
「マジックフレーズ」のカテゴリは大きくわけて「感謝」「謝罪」「共感」の3つがあります。それぞれの具体的なフレーズをいつでも言えるように覚えておけるとよいでしょう。
- 「感謝」のマジックフレーズ
「ありがとうございます」「助かりました」「お世話になりました」「お心遣いに感謝いたします」「ご丁寧にありがとうございます」「勉強になります」「おかげさまで」- 「謝罪」のマジックフレーズ
「申し訳ありません」「失礼いたしました」「ご迷惑をおかけしました」「お手数をおかけしました」「ご心配をおかけしました」「深くお詫びいたします」「お役に立てず…」- 「共感」のマジックフレーズ
「おっしゃる通りです」「確かにその通りです」「ご心配ですね」「お察しいたします」
日本語に不慣れな外国人には少し難しい言葉ですが、どれか1つでも覚えておくと日常生活のさまざまなシーンで役立ちます。
文化の違いは当たり前。なぜ?を解消してサービスレベル向上を!
違う国で育った人と一緒に働くときに、必ず浮き彫りになるのが習慣や価値観の違いなどの文化のギャップ。お互いを理解し合うためには「なぜ、そうするのか」その理由まで明確に伝えることが不可欠です。お互いの違いを知ることはストレスではなく、新しい発見につながる楽しさもあります。
世界から見れば日本の文化や日本人の考え方が独特であるということを念頭に、外国人スタッフが日本の飲食店で本来の持ち味を発揮しながら生き生きと働ける環境を整えていきたいですね。
■この記事の指南・監修
クックビズフードカレッジ講師 荒木寿夫
大学卒業後、アパレルメーカーを経てマンションコンシェルジュ、飲食業界で人事・採用・教育を担当。現在、クックビズフードカレッジにて、飲食業界の各企業向け人事ノウハウや研修サービスを提供。飲食業界や人材業界での知見を活かしたメディア出演も多数。
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