paters

飲食店を開業するには店舗の物件契約、器や調理道具の購入、内装工事や宣伝費用など、多額の初期費用が必要となります。

こうした開業資金は、貯金や金融機関からの融資で賄うことがこれまで当たり前でしたが、近年登場した「クラウドファンディング」という仕組みを使って、実際に初期費用の資金調達を行い開業する飲食店がいま増えてきています。

クラウドファンディングとは?

人とお金

クラウドファンディング(英語: Crowdfunding)とは、不特定多数の人が通常インターネット経由で他の人々や組織に財源の提供や協力などを行うことを指す、群衆(crowd)と資金調達(funding)を組み合わせた造語である。ソーシャルファンディングとも呼ばれる。

出典:Wikipedia「クラウドファンディング」

このように、クラウドファンディングとは“個人・法人に関わらずインターネットを介して資金調達の呼びかけを行う仕組み”を指します。

ただのカンパとして資金を募るのではなく、プロジェクトにおいての支援金額に応じたリターンも提示するなど、プロジェクトは、

  • 寄付型
  • 購入型
  • 投資型

の3つに区分されますが、ほとんどのプロジェクトはこの内の「購入型」に属し、支援金額に見合ったリターンを用意することでプロジェクトが成り立ちます。

実例としては、以下のようにプロジェクトとリターンが用意されます。

プロジェクト内容 リターン
新商品開発のための資金調達 商品販売前の事前予約
ゲストハウス補修のための調達 宿泊・利用チケットの販売
飲食店開業のための資金調達 飲食割引チケットの販売

クラウドファンディングを使って飲食店は開業可能なのか

こうしたクラウドファンディングの仕組みを利用して飲食店の開業に繋げることは誰しもが可能なことなのでしょうか。

今回は、実際に購入型(支援金額に応じたリターンを設定するタイプ)のクラウドファンディングに挑戦し、飲食店の開業資金として250万円(現金での支援も含む)の資金調達に成功した、東京都阿佐ヶ谷にある【ひみつきち&BAR「PATERS(ぺーたーず)」】の代表谷川直斗さんにお話を伺ってきました。

物件初期費用と改装工事費250万円をクラウドファンディングで補填「PATERS(ぺーたーず)」

PATERS

■ひみつきち&Bar PATERS■
東京都杉並区阿佐ヶ谷に店舗を構えるカフェ&バー。
日中はコワーキング利用やレンタルスペースとしての活用、夜の営業時間は通常のBAR営業と、1日を通して営業を行う。
2017年1月、代表の谷川氏を含めた3人のメンバーでクラウドファンディングに挑戦し、初期費用として250万円の資金調達に成功し開業。
翌年4月から正式に店舗をオープンし、現在に至る。

───まずはじめに、クラウドファンディングで資金調達に挑戦したきっかけをお伺いしてもよろしいでしょうか?

谷川氏:ぼくたちが資金調達で募ったのは開業資金とお店の内装工事のお金でした。3人でお店をスタートさせたのですが、当時の貯金額は3人合わせても80万円程度。開業後の運転資金のこともを考えると、登記を行い法人格で登録し、実店舗を構えた上で融資を受けないとお店はスタートできませんでした。

そこで、法人登記の費用と物件契約初期費用、お店の改修費用にあてる資金を調達するためにクラウドファンディングに挑戦したんです。

面白いことを主催するのが好きだった、それを形にしてほしい人がいた。

PATERS集合写真

───なぜ飲食店を開業しようと思ったのでしょうか?

谷川氏:ぼくたちは、お店を立ち上げる1年以上前から、仲が良かった友人3人組で毎月のようにイベントを開催していましたが、そこでいつも一番の課題になるのが“場所代”でした。毎回場所を抑える手間と、都内でイベントをするためにかかるレンタルスペースの費用が本当に高くて。。

他の方に聞いても、やはり「イベントを開催したい!」といった場合に抱える一番の問題が“場所代”でした。
だったら「みんなにも安く使ってもらえて、自分たち自身も心置きなくイベントができるスペースを作ろう!」と思ったのがキッカケです。

───飲食店の開業において、クラウドファンディングでの資金調達はいくらくらい可能なのでしょうか?

谷川氏:資金調達の金額自体は、リターンの内容とお店への信頼度で大きく変わると思っています。

極端ではありますが、「お店が存続する限りファーストドリンクを無料」などのリターンを用意した場合、お店自体が長く続くと思ってもらえれば、1人の方から10万円でも支援して頂けるかもしれません。しかし、いざお店をオープンした後にそのような大きな負担になるリターンを設定してしまうと、後々苦しくなってしまいます。

クラウドファンディングでの資金調達は、カンパではなくあくまでファンド(投資)なので、必要に見合った目標金額の設定と、ムリのないリターンの用意が重要だと思います。

リターンを通して支援者に頂いた、“お金”以外のもの。

内装塗装作業

───実際にリターンはどのようなものを用意すればいいのでしょうか?

谷川氏:さきほど申し上げた通りカンパではなくファンドなので、大前提として支援してくださる方にとってメリットを感じて頂けるリターンを用意しなければなりません。その上でぼくたちの場合は、店舗契約のための資金調達が大きな目的であるものの、お金と同じくらい大切に考えていたのが“仲間”を募ることでした。

そういった理由もあってリターンは、

  • お店に来て頂けるような事前予約の仕組み
  • 自分たちと同じ熱量でお店を愛して頂ける内容

を意識して用意しました。

「飲食店は開業してから2〜3年は下火の状態を我慢しなければならない」ということを飲食業の先輩から聞いていました。「お店を知ってもらって、常連さんになってもらうには時間がかかる」と。

しかし、そういった状況は避けたいという思いがあり、クラウドファンディングでは「飲み放題チケット」「開業記念パーティー参加チケット」「1日店長になれる権利」など、新規オープンしたお店に「来る理由」になるようなリターンを用意しました。

また、その“事前予約”としての意味を込めたリターンの他に「お店の改装工事を手伝える権利」「カクテルを考案できる権利」「フードメニュー試食会参加権利」なども用意。

お金を出してお店の改装を手伝わされるなんて、常識で考えればおかしな話かもしれません。
しかし、実際に支援してくれる人はいて、OPENに向けたお店の内装工事を運営メンバーと一緒に行うことで、ぼくたちと同じ目線でPATERSを愛してくださいました。

また、なにより大切で、嬉しかったのが“熱のこもった宣伝”でした。ぼくたちはお店をオープンさせるにあたって、一切の広告宣伝費をかけていません。
プロジェクトに支援してくださったり、一緒に内装工事を手伝ってくれたみなさんが、FacebookやTwitterなどのSNSを使って、まるで自分事のようにPATERSのことを宣伝してくださったんです。

「お客さんとスタッフ」という関係性を曖昧に

談笑する複数の男性

───支援してくださった皆様は、PATERSとどのように関わっているのでしょうか?

谷川氏:ぼくたちはイベントを開催し続けていたときから、イベントに来てくれるみんなのことはお客さんではなく、イベントを一緒に盛り上げてくれる仲間だと思っていました。それは飲食店という形になった今でも変わりません。

店員も一緒になってお客さんと飲むし、たまにスタッフが潰れます。そんなときはお客さんがお店の締め作業を手伝ってくれたりします。お店のスタッフとして“お客さん”を迎えていたとすれば、サービスが足りず怒られてしまうかもしれないけれど、その辺りを“あえて”曖昧にしてあります。

ぼくたちはPATERSのスタッフとして、お店に足を運んでくれる方は一緒にPATERSを盛り上げる仲間として、みんなで一緒にPATERSを盛り上げていきたいと思っています。

ポイントは“共感”。想いに共感して頂けて、はじめてクラウドファンディングは成り立つ。

───クラウドファンディングで開業資金の調達を経験した上で、成功の秘訣や注意点としてお伝えできることはありますか?

谷川氏:クラウドファンディングは挑戦すれば誰であってもお金を出してくださるわけではないと思っています。

ぼくたちには飲食店を開業したいという目標の先に、「みんなと一緒に運営するお店を作りたい」という想いがありましたので、支援をしてくださった皆様はPATERSのお客さんではなく、一緒に店を経営をしている仲間だと思っています。

クラウドファンディングでは、自分の想いに共感してくださった方が支援をしてくださいます。ただし、それは同時にお客様を裏切るような行為は絶対にできないということです。

お金を出して頂くということは本当に軽く考えてはいけないもので、自分にとってどうしても叶えたい想いがあって、それを叶えるのに1人ではできない時、はじめて利用するものだと考えています。

飲食店は、店主の趣味嗜好やこだわりが強く反映される経営が多いと思います。もちろん、それがお店の色であり、味だと思います。
ただ、クラウドファンディングで支援を募って飲食店を開業するのであれば、自分の趣味嗜好だけでお店のことを考えてはいけません。

ファンド(投資)の名の通り、支援者の方々は、ぼくたちの想いに共感して投資をしてくださっているので、裏切るようなことはあってはならないんです。

───大変貴重なお話を伺わせて頂き、ありがとうございました。

谷川氏:こちらこそ、ありがとうございました。

クラウドファンディングの代表的なプラットフォーム

飲食店開業のためにクラウドファンディングに挑戦する際にオススメのプラットフォームを紹介します。

日本最大級のクラウドファンディングプラットフォーム「CAMPFIRE(キャンプファイヤー)」

CAMPFIRE

CAMPFIRE

日本最大級のクラウドファンディングのプラットフォームです。

プロジェクトの内容は個人規模のものから行政が関わるものまで幅ひろく、自由度が高いことが特徴です。
手数料も日本国内のプラットフォームで最安値。(事務手数料12%+決済手数料5%)。

PATERSは、こちらの「CAMPFIRE」で資金調達をされました。

日本初の飲食特化型クラウドファンディングプラットフォーム「Kitchen Starter(キッチンスターター)」

キッチンスターター

Kitchen Starter

日本初の飲食業界特化のクラウドファンディングプラットフォームです。飲食店開業のための仕組みだけではなく、食品にも特化したプラットフォームとして「Food up!」など、フード産業全体に特化しています。

飲食店の開業においてクラウドファンディングを利用するメリット

資金調達

自分の夢を叶えるためにコツコツと貯金をして飲食店を開業するという、従来の独立の在り方はこれからも大切にされていくと思います。

ただ、クラウドファンディングの登場によって、これまでとは違った新たな方法が生まれました。今後、“自分のお店を構える”という目標を持った方がお金を理由に“夢”を諦めなくてもいいかもしれない。そう考えると、クラウドファンディングで開業資金を募ることに飲食業界の新たな可能性を見出すことができます。

改めて、飲食店の開業においてクラウドファンディングを活用するメリットを以下の3つにまとめます。

  • 資金面の支援
  • 開店当初からお客さんが足を運ぶ仕組み作り
  • 熱のある広告・拡散

今後、クラウドファンディングが自分のお店を開業したい思っている方の、ひとつの道となれば幸いです。

取材協力

店舗名 ひみつきち&Bar PATERS
日時 2018年4月20日(金)~30日(月・祝)各日12:00~21:00 L.O. 20:30
住所 東京都杉並区阿佐谷南1-33-5 2F
電話番号 03-5929-7033
営業時間 18:00〜24:00
アクセス JR中央線・総武線「阿佐ヶ谷」駅 徒歩5分
丸の内線「南阿佐ヶ谷」駅 徒歩5分