飲食業界で独立を考える料理人に送る、10のメッセージ

こんにちは。「飲食業界で独立を考える料理人に送る10のメッセージ」第4回。
今回のテーマは、「教えてくださいといわれたら。人を育てる料理人であれ」です。

教えてくださいといわれたら・・・人を育てる料理人であれ

普段よくあることですが後輩に「料理を教えてください」と言われたら、僕は迷わず「うん、いいよ」と答えます。
質問されたことには全部答えますし、技術も何でも教えます。
ただそれ以上何も聞いてこないと教えることはありません。本来料理の仕事なんて本気でやる気と興味があれば、自分で調べて学習しますし技術もまずは見て覚えるようなものです。
―というのも以前の考え方。もうこういう考え方も古いように思います。

お店全体=チームが強くなるために、教える姿勢が大切

木下シェフ、料理シーン

お店とは一つのチームです。
チームが強くなるにはスタッフそれぞれのレベルアップが必要です。
自分だけがホームランを打てるようなバッターでもその前にヒットを打って走者が出ていなければ沢山点は取れません。

そのためにはまずこちらからアクションを起こし後輩に仕事を教えなければなりません。
後輩が仕事を覚えこなせる仕事が増えると自分の仕事量が少なくなります。
そうすると空いた時間に自分が新しい事ができるようになります。

新メニューを開発したり、料理のクオリティを高くしたりできます。
また、空いた時間に自分が他の持ち場を補佐することでお店全体が効率よく回ります。
結果的にそれがお店全体のレベルアップにつながります。

仕事を教える、というのはなかなか難しいもので一筋縄ではいきません。
同じ教え方をしてもすぐできる人もいれば、なかなかできない人もいます。
言葉で説明するだけで済むのか、実際に自分がやってお手本を見せるのか、状況は様々です。

人に教えることで、自分のレシピを見直すきっかけに

そして料理を教えるのにはやはりレシピをとっておくことが重要です。
駆け出し当時、自分が覚えるためにとっておいたメモでも教える時に非常に役に立ちます。

僕は今まで多数ではないですが後輩に料理を教えてきました。
そしてその度に自分のレシピを確認していました。改めて見直して、これでよかったのかな、とかちょっと変えた方がいいかも、と気付くこともあります。

古いレシピなんかだとノートを開くと、この時は自分がどんな気持ちで仕事をしていたのかを思い出し、目の前の後輩と当時の自分をリンクさせて教えることができます。

後輩が作ったパン

後輩の失敗で、レシピを改善

また、後輩に料理を教えると自分では考えられないミスをすることがあります。
もちろん作業を見ていれば未然に防ぐこともできますが、そのミスが自分にとっても後輩にとってもいい経験になります。

なぜミスしたのかを追究するとその時の後輩の心理や考え方が分かり、時にとても面白い発想を持っていることもあります。

細かい部分まで教えるとそれに忠実に作業しますが、ある程度の部分まで教えて作業をやらせてみると、そこで後輩は自ら作業の仕方を考え、考える力が付くでしょうし、さらに改めて自分がやっている作業を後輩のやり方と比較して見直すことができます。

数年前、後輩にパンの作り方を教えたことがありました。料理自体もほとんどしたこともなく、パン作りも初めてでしたが出来上がりがとても素晴らしく美味しいものでした。ただ何か僕が作るものとは違うので作り方を確認して聞いてみたら、僕が渡したレシピの材料を間違えて作っていました。
でも結果的に美味しいものが出来たので、僕自身も新しい発見ができ勉強になりました。

自分が心を開くことから始める

そして後輩と接することで大切なのは、やはり自分からコミュニケーションを図る、ということです。
僕は休憩中にコーヒーを一緒に飲んだり、仕事終わりのお疲れビールを一緒に飲んだりしたり、その他時間がある時に後輩といろんな話をします。

仕事の話やくだらない話、将来の夢や悩みや相談など何でも話します。
自分が心を開くことで後輩も心を開いてくれます。

これは先輩後輩との関係だけではなく、全ての人との関係についても同じことが言えると思います。
お互いの距離感が近くなり話がしやすくなってくると仕事もしやすくなってきます。

例えば後輩が「トマトソースをこちらに回していただけますか?」とか「そこの鍋を取ってもらえますか?」と先輩に対して言うことができ先輩を使うことができるようになります。それが仕事の効率アップに結び付くことになります。

また、オープンキッチンならスタッフ同士の声の掛け合いがあり、お店の雰囲気もよくなります。

お客様に、後輩を紹介しよう、どんどん褒めよう

後輩をお客様にどんどん紹介することも大事です。
「これは(後輩の)○○君が作った料理ですよ」とか「○○君は最近こんなことができるようになりましたよ」とお客様の前で褒めてあげることで後輩は自信も付きますし、お客様から自分自身に対しての評価も高くなります。

お客様の前で「こいつはダメなやつだ!」なんて叱ってはいけません。
それは自分には指導力がないんです、と言っているようなものです。

相性が合わない人と組めば、面白いものが出来上がる

僕自身あまり大きなお店で働いたこともなく、人の動きも激しかったので、そこまで人を育てた経験はありませんが、後輩と接する時は後輩というよりも前に一人の人間として見て接しています。
生まれた年や育ってきた環境が違うだけで同じ人間同士です。

ちょっと自分の方が、その職に於いて知識と技術が長けているだけです。始めから相性が全て合う人はそうそういませんが、合わない人だからこそ、その人と組んで一つの物を作りあげると面白い物が出来上がると思います。

若い人の発想力は、時に知らず知らずにできていた自分の固定観念を払拭してくれることもあります。
そして教えることで教わることがあり、自分自身の成長につながることと思います。

次回は年明け1月10日に更新です。
コラムに対するご意見、ご感想などもお気軽にお寄せください。

<コラム作者紹介>木下誠吾

香川県出身。調理師専門学校卒業後、船上料理人として就職。その後イタリア料理店で、23歳にして料理長を任せられる。レストラン新店立ち上げ、店長兼料理長としてレストラン経営を任せられるも、あえなく閉店。その後、ダイニングバーへ転職し、2010年から「オステリア エ バール インコントロ」の料理長としてオープンから関わり、お店は界隈の人気店として定着。2013年からはイタリアンワイン卸会社へ転職。3年後の独立目指し、今はワインの知識と自身の人間性を高めるべく、毎日仕事に取り組んでいる。家庭では、バリバリ働く妻と4歳の娘がいる。

【連載企画/飲食業界で、独立を考える料理人に送る、10のメッセージ】

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