「飲食業界で、独立を考える料理人に送る、10のメッセージ」第3回をお届けします。
今回のテーマは、「先輩がやめていきなり料理長に!? 焦らないために今からやっておくべきこと」。
このコラムを読まれている方の中には、すでに料理長になっておられる方もいらっしゃると思いますが、その方にも是非読んでいただいて何かを感じてもらえば、と思います。まず料理長とは厨房部門の最高責任者であり、お客様にとって唯一無二の存在であります。
先輩がやめていきなり料理長に!? 焦らないために今からやっておくべきこと
昨今、飲食店の数も増えスタイルも多様化しています。
お店の中で一人だけで料理部門を全て任されてこなしている料理長もいれば、沢山の料理人を従えた料理長もいます。
肩書きは同じですが、両者を比較すると仕事内容が大きく違ってきます。
なので今回は「厨房責任者になる!?」という意味合いでもってテーマをしぼることにします。
今回のこのテーマ、まず結論から述べますと極めて単純ですが、焦らないためには先輩がいる間に料理長の仕事を自分が全てできるようになればいい、ということだけです。ただ、そこまでの状態にもっていくのが大変です。
料理の仕事に初めて就いていきなり料理長を任せられることはありえません。
けれども遅かれ早かれ何年か経つとその日はやってきます。
料理長になるまでには段階を踏んでいかなければなりません。
教わるより、教えることのほうが難しい
始めは自分の仕事を覚えることで一生懸命だと思います。
次に後輩ができると今度は教える立場になります。先輩から仕事を教わりながら、後輩に今まで自分がやっていた仕事を教えるので一気に大変になります。
教わるよりも教えることの方が難しいということにこの時気付かれると思います。
技術職なので当然自分にそれなりの技術も身につけておかなければなりません。
そして料理長になるともっと大変です。
厨房の仕事全てに責任を持たなければなりません。
ほとんどの場合、現場に先輩がいないので全て自分で考え、スタッフの動きや能力などを見て指示していかなければなりません。
また、料理以外の仕事も沢山増えます。ホールに出てお客様に挨拶したり、原価を計算したり、メニューを考えたりと厨房を離れることも多くなります。
段階を踏むことで共通して言えることは、ポジションが上がるにつれ、頭を使うことが多くなり仕事の責任が重くなるということです。
料理長に一番近いポジションは二番手(副料理長)です。
自分が二番手で料理長が在職している間に料理長の仕事を全て引き継ぎ、問題なくこなせるようになっておくことが自分にとってもお店にとってもいい状態です。
与えられた仕事もこなせられないのに、新しい仕事は任せられない
この「二番手」の段階にかかわらず、どのポジションであっても、常日頃先輩の仕事の動きを見て覚え、できそうならば自分からやらせてもらうように申しでることが大切です。ただその大前提に自分の仕事がいつもきちんとこなせていなければなりません。
与えられた仕事もこなせられないのに新しい仕事は任せられませんから。
しかし初めに述べたようにお店の数は増え、人の動き(退店、異動など)も激しくなっています。
スタッフの病欠や急用なども含め、急に今までやったことのない仕事をその日やらないといけない、という状況も多々あることと思います。
大切なのは、日頃の観察・コミュニケーション
そんな急な変化に耐えるためには、日頃から他のスタッフの動きをよく見て覚え、コミュニケーションをとっておくことが大事です。
僕は20歳の頃に働いていたレストランで最初の2年間はほぼ下仕事。
3年目で先輩が順に辞めていきポジションがトントンと上がり、肩書きこそなかったものの事実上の料理長になりました。
最後の先輩が辞める一か月前ぐらいからは仕事を引き継ぐ期間もありましたが、いざ自分が料理長の立場になってやってみても初めは全然こなせませんでした(詳しくは、第1回記事「料理人は、失敗を失敗と考えるべからず」にて)。
ランチタイムで団体のお客様から一気に複数のオーダーが入り、パスタと同時に沢山の魚を焼かなければなりませんでしたが、段取りが悪く全く仕事がこなせませんでした。結局お客様の昼休みの時間の間に料理の提供が間に合わずに、オーナーの判断でその団体のお客様からは代金をいただかずそして途中で帰っていかれました。その時僕は、仕事をこなせなかったことが悔しくて、涙が出るほどでした。
「やった事のないこと」を「やった事のあること」に変えていく
今となればこの苦くて辛い思いもいい経験ですが、お客様に迷惑をかけるようなことはあるべきではないと思います。
いきなりやった事のないことをするのは誰だって少しは焦ります。
「やった事のないこと」を「やった事のあること」に変えていけば焦りはなくなってきます。
そしてそれがきちんとこなせるようになれば今度は自信が付いてきます。
自信は経験値に比例するものです。
同じ仕事を繰り返しするのでも、ただこなすのと何か効率のいい方法を考えながらするのでは経験値も変わってきます。
1日1日流れる時間の速度は皆同じですが、その中に何を詰め込むかは自分次第です。
仕事のやり方や人の動き、次の仕事の予測など。
常に何か意識を持って取り組むことで不測の事態にも落ち着いて対応できるものと思います。
次回は、クリスマス直前の12月20日(金曜)更新です。
よろしければ、またお付き合いください!
<コラム作者紹介>木下誠吾
香川県出身。調理師専門学校卒業後、船上料理人として就職。その後イタリア料理店で、23歳にして料理長を任せられる。レストラン新店立ち上げ、店長兼料理長としてレストラン経営を任せられるも、あえなく閉店。その後、ダイニングバーへ転職し、2010年から「オステリア エ バール インコントロ」の料理長としてオープンから関わり、お店は界隈の人気店として定着。2013年からはイタリアンワイン卸会社へ転職。3年後の独立目指し、今はワインの知識と自身の人間性を高めるべく、毎日仕事に取り組んでいる。家庭では、バリバリ働く妻と4歳の娘がいる。
【連載企画/飲食業界で、独立を考える料理人に送る、10のメッセージ】
- 第1回 料理人は、失敗を失敗と考えるべからず
- 第2回 オープンキッチンでフライパンばかり見ていると損をする
- 第3回 先輩がやめていきなり料理長に!? 焦らないために今からやっておくべきこと
- 第4回 後輩に「教えてください」と言われたら。人を育てる料理人であれ
- 第5回 「パスタメニューを考えてきて」と言われたら。お客様の意見をメニュー開発に活かせ
- 第6回 「“レストランからバーに転職なんて邪道だ!”は大きな間違い」
- 第7回 「 忙しい料理人パパもイクメンになれる。積極的に育児しよう!」
- 第8回 「一人●役のバールは、経験値を貯める最高の場所である」
- 第9回 競合店比較でわかった!お客様がレストランを選ぶ基準は料理じゃない