
「キャリアアップ助成金」もらえる金額&受給条件【概要編】では、7つある各コースの内容や受給条件などについて紹介しました。今回は、実際に「キャリアアップ助成金」を申請する際に役立つ、対象条件や必要な書類、申請までの流れなどを説明します。
目次
- 1 「キャリアアップ助成金」の支給対象となる事業主とは
- 2 全コース共通して必要な「キャリアアップ計画書」とは
- 3 助成金額に必ず出てくる「生産性要件」とは
- 4 1.「正社員化コース」を活用する際の注意ポイント
- 5 2.「賃金規定等改定コース」を活用する際の注意ポイント
- 6 3.「健康診断制度コース」を活用する際の注意ポイント
- 7 4.「賃金規定等共通化コース」を活用する際の注意ポイント
- 8 5.「諸手当制度共通化コース」を活用する際の注意ポイント
- 9 6.「選択的適用拡大導入時処遇改善コース」を活用する際の注意ポイント
- 10 7.「短時間労働者労働時間延長コース」を活用する際の注意ポイント
- 11 キャリアアップ助成金の申請書類について
- 12 まとめ
「キャリアアップ助成金」の支給対象となる事業主とは
「キャリアアップ助成金」の全コースに共通して、以下の条件を満たしている事業主が支給対象となります。
- 「雇用保険」に加入した事業主であること
- 有期契約労働者のキャリアアップを図る担当者の「キャリアアップ管理者」がいること
- コース実施日までにキャリアアップ計画を作成し、所轄の労働局長の受給資格の認定を受けること
- キャリアアップ計画期間内で適切にキャリアアップの取り組みを行うこと
- 対象労働者の名簿や賃金台帳、出勤簿などの法定帳簿を整備、保管していること
また、以下の条件に該当する申請事業主は助成金を申請することができません。
- 不正受給してから5年以内の事業主
- 支給申請した年度の前年度より前の年度の労働保険料を納入していない事業主
- 支給申請日の前日から過去1年間に労働関係法令の違反を行ってしまった事業主
- 性風俗関連業、接待を伴う飲食業、これらの営業の一部を受託し営業する事業主
- 反社会的勢力と関わりのある事業主
- 支給申請日または支給決定日の時点で倒産している事業主
- 助成金の不正受給が発覚した場合に行われる事業主名簿の公表について同意しない事業主
全コース共通して必要な「キャリアアップ計画書」とは
「キャリアアップ助成金」を申請するためには、全コースに共通して「有期契約労働者等のキャリアアップに関するガイドライン」に沿った「キャリアアップ計画書」を作成する必要があります。
「キャリアアップ計画書」とは、労働者のキャリアアップに向け、大まかな取り組み(対象者、目標、期間、事業主が行う内容など)をあらかじめ記載した申請時に必要な書類のことです。
ハローワークへ提出して管轄労働局長の認定を受けなければならないため、少なくとも計画を実行する1ヵ月前には提出しておくのがおすすめです。また、「キャリアアップ計画」は当初の予定を記載するものなので、実施後に変更することが可能です。ただし、変更する場合は管轄労働局に「キャリアアップ計画変更届」を提出する必要があります。
助成金額に必ず出てくる「生産性要件」とは
キャリアアップ助成金を活用するにあたり、受給できる金額に差が出てくるのが「生産性要件」です。
「生産性要件」とは、今後日本社会が直面する労働力不足を補うため、労働生産性を高める取り組みを行い、効果があった事業主に対して行われる助成金の上乗せ制度です。具体的には、規定に沿って算出された生産性伸び率が要件を満たしているかで判断されます。
◆「生産性要件」の詳しい情報はこちら
1.「正社員化コース」を活用する際の注意ポイント
「正社員化コース」で最初に注意すべきポイントは、対象者を入社時にあらかじめ正規雇用労働者または多様な正社員(短時間正社員・勤務地域限定正社員・職務限定正社員)として雇用する約束をして雇い入れた場合は、助成対象外となります。
また、転換制度に規定したものと異なる手続き・要件・実施時期等で転換した場合や、順序を間違ってしまった場合にも助成対象外となってしまいます。さらに正社員転換後は転換前より賃金5%以上増額が必須になります。
正社員化コースの申請に必要な書類
- 管轄労働局長の確認を受けた「キャリアアップ計画書」
- 転換制度または直接雇用制度が規定されている労働協約、または就業規則など
- 対象の労働者の雇用契約書、賃金台帳、タイムカードなど
正社員化コースの申請までの流れ
- 対象労働者を6ヵ月以上雇用
↓- 「キャリアアップ計画書」の提出
↓- 就業規則の整備
↓- 正社員への転換(賃金5%以上アップ)
↓- 転換後の賃金を6ヵ月分支給した日の翌日から起算して2ヵ月以内に申請
2.「賃金規定等改定コース」を活用する際の注意ポイント
「賃金規定等改定コース」は、全従業員を等しく2%増額改定した場合と雇用形態別・職種別に増額した場合で助成金の受給額が異なります。また「職務評価」の手法の活用により賃金規定の改定を実施した場合、1事業所あたり「19万円(大企業の場合は24万円)」が増額されます。
◆「職務評価」の詳しい情報はこちら
賃金規定等改定コースの申請に必要な書類
- 管轄労働局長の確認を受けたキャリアアップ計画書
- 転換制度または直接雇用制度が規定されている労働協約または就業規則など
- 対象の労働者の雇用契約書、賃金台帳、タイムカードなど
- 対象の労働者の雇用契約書、または労働条件通知書など
賃金規定等改定コースの申請までの流れ
- 「キャリアアップ計画書」の作成・提出
↓- 賃金規定等の増額改定の実施
↓- 増額改定後の賃金に基づき6ヵ月分の賃金を支給
↓- 6ヵ月分の賃金を支給した日の翌日から起算して2ヵ月以内に支給申請
3.「健康診断制度コース」を活用する際の注意ポイント
有期契約労働者に対して「法定外の健康診断制度」を新たに規定し、 延べ4人以上実施した場合に助成される「健康診断制度コース」。助成金の申請は、1事業所につき1回のみ申請となります。
健康診断制度コースの申請に必要な書類
- 管轄労働局長の確認を受けたキャリアアップ計画書
- 健康診断制度が規定されている労働協約、または就業規則および健康診断制度が規定される前の労働協約、または就業規則
- 対象の労働者が健康診断を実施したこと、および実施日が確認できる書類(実施機関の領収書や健康診断結果表など)
- 対象の労働者の雇用契約書、賃金台帳、タイムカードなど
健康診断制度コースの申請までの流れ
- 「キャリアアップ計画書」の作成・提出
↓- 就業規則等へ健康診断制度の規定
↓- 延べ4人以上に健診を実施
↓- 実施日の属する月の賃金支給日の翌日より2ヵ月以内に支給申請
4.「賃金規定等共通化コース」を活用する際の注意ポイント
有期契約労働者に対して、正社員と共通する職務等に応じた賃金規定を新たに導入した場合に受給することができる「賃金規定等共通化コース」。助成金の申請は、1事業所につき1回のみの申請となります。
賃金規定等共通化コースの申請に必要な書類
- 管轄労働局長の確認を受けた「キャリアアップ計画書」
- 健康診断制度が規定されている労働協約、または就業規則および健康診断制度が規定される前の労働協約、または就業規則
- 対象労働者が健康診断を実施したこと、および実施日が確認できる書類(実施機関の領収書や健康診断結果表など)
- 対象労働者の雇用契約書、賃金台帳、タイムカードなど
賃金規定等共通化コースの申請までの流れ
- 「キャリアアップ計画書」の作成・提出
↓- 有期契約労働者と正社員に共通する賃金規定の作成・実施
↓- 新たな賃金規定に沿った形で6ヵ月分の賃金を支給
↓- 3の賃金支給日の翌日より2ヵ月以内に支給申請
5.「諸手当制度共通化コース」を活用する際の注意ポイント
有期契約労働者に対して正社員と共通する新たな諸手当(家族手当や住宅手当など)制度を導入した場合に助成金の受給が受給できる「諸手当制度共通化コース」。助成金の申請は、1事業所につき1回のみ申請となります。
諸手当制度共通化コースの申請に必要な書類
- 管轄労働局長の確認を受けたキャリアアップ計画書
- 賃金規定等が規定されている労働協約または就業規則
- 増額改定前および増額改定後の賃金規定等(新たに賃金規定等を整備する場合は、増額改定前の賃金規定などは除く)
- 対象労働者の増額改定前及び増額改定後の雇用契約書など
- 対象労働者の賃金台帳、出勤簿、タイムカードなど
諸手当制度共通化コースの申請までの流れ
- 「キャリアアップ計画書」の作成・提出
↓- 新たな諸手当制度の導入
↓- 新たな諸手当制度に沿った形で6ヵ月分の賃金を支給
↓- 3の賃金支給日の翌日より2ヵ月以内に支給申請
6.「選択的適用拡大導入時処遇改善コース」を活用する際の注意ポイント
社会保険の選択的適用拡大制度が導入されることに伴い、新たに社会保険の適用対象となる有期契約労働者の賃金を一定額引き上げた場合に助成金が受給できる「選択的適用拡大導入時処遇改善コース」。助成金の申請は1事業所につき1回のみとなります。
選択的適用拡大導入時処遇改善コースの申請に必要な書類
- 管轄労働局長の確認を受けた「キャリアアップ計画書」
- 増額改定前および増額改定後の賃金規定など
- 対象労働者の増額改定前、および増額改定後の雇用契約書など
- 対象労働者の賃金台帳、出勤簿、タイムカードなど
選択的適用拡大導入時処遇改善コースの申請までの流れ
- 「キャリアアップ計画書」の作成・提出
↓- 社会保険の適用拡大措置に関する労使合意措置
↓- 有期契約労働者の社会保険加入手続き・基本給アップ
↓- 基本給アップ後6ヵ月分の賃金支給日の翌日より2ヵ月以内に支給申請
7.「短時間労働者労働時間延長コース」を活用する際の注意ポイント
「短時間労働者労働時間延長コース」は、有期契約労働者の一週間あたりの所定労働時間を5時間以上増やした場合や、賃金規定等改定コースの適用とあわせて実施し、有期契約労働者の一週間あたりの所定労働時間を1時間以上5時間未満延長することで適用されます。また。このコースの対象となる労働者とは、一週間あたりの所定労働時間を増やす前日より6ヵ月間、社会保険の加入対象者ではなかった有期契約労働者で、助成金の申請は1事業所につき1回のみとなります。
短時間労働者労働時間延長コースの申請に必要な書類
- 管轄労働局長の確認を受けたキャリアアップ計画書
- 増額改定前および増額改定後の賃金規定など
- 対象労働者の週所定労働時間の延長前、および延長後の雇用契約書など
- 対象労働者の賃金台帳、出勤簿、タイムカードなど(週所定労働時間の延長前6ヵ月分及び延長後6ヵ月分)
短時間労働者労働時間延長コースの申請までの流れ
- 「キャリアアップ計画書」の作成・提出
↓- 1週間あたりの所定労働時間延長の実施
↓- 延長後6ヵ月分の賃金を対象労働者へ支給
↓- 3の賃金支給日の翌日より2ヵ月以内に支給申請
キャリアアップ助成金の申請書類について
キャリアアップ助成金の申請書の入手は、厚生労働省のホームページから入手できます。コースごとに必要な書類が違うので、申請するコースを確認して該当書類を選んでください。
また、キャリアアップ申請書のガイドラインについても、厚生労働省のホームページで紹介されているのでチェックしてみてください。
◆キャリアアップ計画書のダウンロードはこちら
◆キャリアアップ助成金の必要書類チェックリストはこちら
まとめ
キャリアアップ助成金について、各コースの必要書類や申請までの流れについてご紹介しました。助成金を受給するためには、いつ・何を「実施」するのかがポイントになります。各コースで設定されている手順を守らないと適切に助成金の受給ができない可能性があるので、自社で申請手続きを行う場合は、必ず行政官庁のホームページをチェックし、不明点は担当窓口に相談しながら取り組むことが大切です。
もしも、申請書類や取り組みに不安がある場合には、手続きやアドバイスを行ってくれる社会保険労務士(社労士)という専門家に依頼するのも手段のひとつ。支払う費用は事務所などによってさまざまですが、より確実に助成金を受給することができます。
※この記事内容は、2019年12月時点の情報となります。最新情報は別途ご確認ください。
<記事監修>
企業名 | 社会保険労務士法人クエスト 代表社員 本田忠行さん |
<参考>
企業名 | 厚生労働省 |