透明瓶の中に木の枝と小銭が入っている

キャリアアップ助成金」とは、非正規雇用労働者の企業内でのキャリアアップを促進するため、正社員化や処遇改善の取り組みを実施した事業主に対する助成金の一種。労働者の意欲や能力を向上させ、事業の生産性を高めたり、優秀な人材を確保するために有効な手段のひとつと言えます。
労働者と事業主、双方にとってとてもメリットのある制度なので、知っておいて損はありません。目的別に細かくコース設定されていますので、順を追って説明します。
なお、申請する際に必要な書類などについては、「キャリアアップ助成金」申請の流れ&注意ポイント【手続編】をご覧ください。

目次

労働者側・事業主側にとってうれしい「キャリアアップ助成金」

「キャリアアップ助成金」は、日本国内の非正規労働者の減少と、非正規雇用の企業内でのキャリアアップ促進を目指し、厚生労働省が力を入れている助成金制度です。
また、短時間労働者や派遣労働者など、非正規の労働者を雇用している事業主側にとっては、従業員の待遇改善やスキル・モチベーションのアップにつなげることができる有意義な助成金として注目されています。

現在用意されているコースは7つあり、それぞれ目的に応じて助成金額や適用条件が異なります。

目的別に設定された7つのコース

  1. 正社員化コース
  2. 賃金規定等改定コース
  3. 健康診断制度コース
  4. 賃金規定等共通化コース
  5. 諸手当制度共通化コース
  6. 選択的適用拡大導入時処遇改善コース
  7. 短時間労働者労働時間延長コース

1.「正社員化コース」の適用条件と助成金額

青白のボーダーTシャツを着た笑顔の女性カフェスタッフ
有期契約労働者等を正社員に転換(賃金5%アップ必要)した場合や、多様な正社員(短時間正社員・勤務地限定正社員・職務限定正社員など)に転換した場合に助成金を受給することができます。

<対象となる労働者>

  • 雇用期間が通算して6ヵ月以上の有期契約労働者(有期契約労働者から転換する場合は雇用された期間が通算して3年以内の者に限る)
  • 雇用期間が6ヵ月以上の無期雇用労働者
  • 同一業務に6ヵ月以上継続して労働者派遣に従事している派遣労働者
  • 事業主が実施した有期実習型訓練を受講し、修了した有期契約労働者等
  • 社長・取締役の3親等以内の親族ではない者

そのほか過去3年以内に正規雇用者として雇われた経験がないこと、などの複数の要件が設けられています。

<助成金額>

有期契約労働者 正社員への転換:1人あたり57万円(42万7,500円)
※生産性の向上が認められる場合:1人あたり72万円(54万円)
有期契約労働者 無期契約へ転換:1人あたり28万5,000円(21万3,750円)
※生産性の向上が認められる場合:1人あたり36万円(27万円)
無期契約労働者 1人あたり28万5,000円(21万3,750円)
※生産性の向上が認められる場合:1人あたり36万円(27万円)

※大企業は( )内の金額
※1年度1事業所当たり20人まで申請可

2.「賃金規定等改定コース」の適用条件と助成金額

電卓の上に女性と子供の小さなフィギュアがのっている
有期契約労働者の賃金規定を改定し、基本給を2%以上増額させた場合に助成金を受給することができます。
また、「すべての有期契約労働者」が対象の場合と、「一部の有期契約労働者」が対象の場合に、それぞれ助成金額が設定されていることや、3%以上の増額改定や職務評価を導入した場合には、加算額が設けられています。

<対象となる労働者と助成金額>

1.すべての有期契約労働者が対象の場合

1人~3人 9万5,000円(7万1,250円)
※生産性の向上が認められる場合:12万円(9万円)
4人~6人 19万円(14万2,500円)
※生産性の向上が認められる場合:24万円(18万円)
7人~10人 28万5,000円(19万円)
※生産性の向上が認められる場合:36万円(24万円)
11人~100人 2万8,500円(1万9,000円)
※生産性の向上が認められる場合:3万6,000円(2万4,000円)

2.一部の有期契約労働者が対象の場合

1人~3人 4万7,500円(3万3,250円)
※生産性の向上が認められる場合:6万円(4万2,000円)
4人~6人 9万5,000円(7万1,250円)
※生産性の向上が認められる場合:12万円(9万円)
7人~10人 14万2,500円(9万5,000円)
※生産性の向上が認められる場合:18万円(12万円)
11人~100人 1万4,250円(9,500円)
※生産性の向上が認められる場合:1万8,000円(1万2,000円)

※大企業は( )内の金額
※1年度1事業所当たり100人まで申請可
※申請回数は1年度1回のみ

3.「健康診断制度コース」の適用条件と助成金額

健康診断問診票の上に聴診器
有期契約労働者に対して、法律で定められた基準を超えた内容の健康診断制度を新たに設け、延べ4人以上の労働者に対して健康診断を受診させた場合に助成金を受給することができます。

<対象となる労働者>

  • 無期雇用契約者ではない者
  • 週当たり所定労働時間数が、正社員の4分の3以上ではない者
  • 検診受診日に雇用保険の加入者である者
  • 社長・取締役の3親等以内の親族ではない者
  • 支給申請日に離職していない者

<助成金額>

1事業所につき38万円(28万5,000円)
※生産性の向上が認められる場合:48万円(36万円)

※大企業は( )内の金額
※1事業所当たり1回のみ申請可

4.「賃金規定等共通化コース」の適用条件と助成金額

コインを積み上げた山いくつかを高さ順に並べている
有期契約労働者に対して、正社員と共通する職務等に応じた賃金規定を新たに導入した場合に助成金を受給することができます。
このコースの対象となる労働者は、次の要件すべてに該当することが条件となります。

<対象となる労働者>

  • 新たな賃金規定の導入日の前日より3ヵ月以上前から、導入後半年以上継続雇用されている有期契約労働者
  • 正社員と同一区分に格付けされている労働者
  • 新たな賃金規定導入日以降の期間に雇用保険の加入者である者
  • 社長・取締役の3親等以内の親族ではない者
  • 支給申請日に離職していない者

<助成金額>

1事業所につき57万円(42万7,500円)
※生産性の向上が認められる場合:72万円(54万円)

※大企業は( )内の金額
※1事業所当たり1回のみ申請可

そのほか、賃金規定を共通化した有期契約労働者の人数が2人以上である場合には、その人数に応じた加算額が設けられています。

5.「諸手当制度共通化コース」の適用条件と助成金額

机の上に電卓、家の置物、トラックのミニカー
有期契約労働者に対して、正社員と共通する新たな諸手当(家族手当や住宅手当など)制度を導入した場合に助成金を受給することができます。
このコースの対象となる労働者とは、次の要件すべてに該当することが条件となります。

<対象となる労働者>

  • 新たな諸手当制度の導入日の前日より3ヵ月以上前から、導入後半年以上継続雇用されている有期契約労働者
  • 新たな賃金規定導入日以降の期間に雇用保険の加入者である者
  • 社長・取締役の3親等以内の親族ではない者
  • 支給申請日に離職していない者

<助成金額>

1事業所につき38万円(28万5,000円)
※生産性の向上が認められる場合:48万円(36万円)

※大企業は( )内の金額
※1事業所当たり1回のみ申請可

そのほか、諸手当制度を共通化した有期契約労働者の人数が2人以上である場合には、その人数に応じた加算額が設定されており、さらに共通化した諸手当が2つ以上である場合には、その数に応じた加算額が設けられています。

6.「選択的適用拡大導入時処遇改善コース」の適用条件と助成金額

目覚まし時計とコイン積み上げた
社会保険の選択的適用拡大制度が導入されることに伴って、新たに社会保険の適用対象となる有期契約労働者の賃金を、一定額引き上げた場合に助成金を受給することができます。このコースの対象となる労働者とは、次の要件すべてに該当することが条件となります。

<対象となる労働者>

  • 有期契約労働者である者
  • 賃金引き上げ日の前日より3ヵ月以上前から継続雇用されている有期契約労働者
  • 賃金引き上げ日の前日より以前の3ヵ月間、社会保険の加入対象ではなかった者
  • 社長・取締役の3親等以内の親族ではない者
  • 支給申請日に離職していない者

<助成金額>

3%以上5%未満 人当たり2万9,000円(2万2,000円)
※生産性の向上が認められる場合:3万6,000円(2万7,000円)
5%以上7%未満 1人当たり4万7,000円(3万6,000円)
※生産性の向上が認められる場合:6万円(4万5,000円)
7%以上10%未満 1人当たり6万6,000円(5万円)
※生産性の向上が認められる場合:8万3,000円(6万3,000円)
10%以上14%未満 1人当たり9万4,000円(7万1,000円)
※生産性の向上が認められる場合:11万9,000円(8万9,000円)
14%以上~ 1人当たり13万2,000円(9万9,000円)
※生産性の向上が認められる場合:16万6,000円(12万5,000円)

※大企業は( )内の金額
※1事業所当たり1回のみ、45人まで申請可
※1事業所につき支給回数は1回まで
※令和2年3月31日までの暫定措置

7.「短時間労働者労働時間延長コース」の適用条件と助成金額

女性カフェスタッフが小さな時計を持っている
有期契約労働者の1週間あたりの所定労働時間を5時間以上延長した場合や、「2.賃金規定等改定コース」の適用とあわせて実施し、有期契約労働者の手取り収入が減少しないように、1週間あたりの所定労働時間を1時間以上5時間未満延長することで、新たに社会保険の適用対象とした場合に助成金を受給することができます。

<対象となる労働者>

  • 一週間あたりの所定労働時間を増やす前日より6ヵ月間、社会保険の加入対象者ではなかった有期契約労働者
  • 社長・取締役の3親等以内の親族ではないこと
  • 支給申請日に離職していないこと

上記条件を満たしているうえで、次のいずれかの要件に該当する者

  • 1週間あたりの所定労働時間を5時間以上増やした日の前日から起算して過去6ヵ月以上継続雇用されている有期契約労働者
  • 1週間あたりの所定労働時間を1時間以上2時間未満増やした日の前日から起算して過去6ヵ月以上継続雇用されている有期契約労働者で、延長後の基本給が延長前より13%以上増額した者
  • 1週間あたりの所定労働時間を2時間以上3時間未満増やした日の前日から起算して過去6ヵ月以上継続雇用されている有期契約労働者で、延長後の基本給が延長前より8%以上増額した者
  • 1週間あたりの所定労働時間を3時間以上4時間未満増やした日の前日から起算して過去6ヵ月以上継続雇用されている有期契約労働者で、延長後の基本給が延長前より3%以上増額した者
  • 1週間あたりの所定労働時間を4時間以上5時間未満増やした日の前日から起算して過去6ヵ月以上継続雇用されている有期契約労働者で、延長後の基本給が延長前より2%以上増額した者

<助成金額>

1.有期契約労働者の一週間あたりの所定労働時間を5時間以上増やし、新たに社会保険の適用対象とした場合

1人当たり22万5,000円(16万9,000円)
※生産性の向上が認められる場合:28万4,000円(21万3,000円)

2.賃金規定等改定コースもしくは選択的適用拡大導入時処遇改善コースの適用とあわせて実施し、手取り収入が減らないよう有期契約労働者の一週間あたりの所定労働時間を1時間以上5時間未満延長することで、新たに社会保険の適用対象とした場合

1時間以上2時間未満 1人当たり4万5,000円(3万4,000円)
※生産性の向上が認められる場合:5万7,000円(4万3,000円)
2時間以上3時間未満 1人当たり9万0,000円(6万8,000円)
※生産性の向上が認められる場合:11万4,000円(8万6,000円)
3時間以上4時間未満 1人当たり13万5,000円(10万1,000円)
※生産性の向上が認められる場合:17万0,000円(12万8,000円)
4時間以上5時間未満 1人当たり18万円(13万5,000円)
※生産性の向上が認められる場合:22万7,000円(17万円)

※大企業は( )内の金額
※1年度1事業所当たり45人まで申請可
※1事業所につき支給回数は1回まで
※令和2年3月31日までの暫定措置

まとめ

目的に合わせて多彩なコースが用意されている「キャリアアップ助成金」。うまく活用すれば企業経営の貴重な運営資金ともなりえる制度と言えます。「キャリアアップ助成金」申請の流れ&注意ポイント【手続編】では、「キャリアアップ助成金」を利用する場合の必要書類や段取りについてご紹介しています。

※この記事内容は、2019年12月時点の情報となります。最新情報は別途ご確認ください。

<記事監修>

企業名 社会保険労務士法人クエスト 代表社員 本田忠行さん

<参考>

企業名 厚生労働省