今回お話を伺うことになったのは、以前インタビューさせて頂いた「鳥貴族」の代表取締役 大倉忠司氏からのご推薦。1993年の設立以来、東京を中心に「てやん亭゛」「ジョウモン」「MEAT肉男MAN(ミートマン)」など全6店舗を展開する、株式会社ベイシックス 代表取締役 岩澤 博氏です。
マニュアルは一切なし。スタッフの人間力を武器に売り上げを作りだす独特の経営スタンスに、クックビズ藪ノが迫ります。
目次
商売はセンス。センスがあればきっと伸びる。センスが無いなら、磨けばいい。
藪ノ:飲食業界では、大阪にいても「ミートマン」というお名前はよく耳にいたします。御社のように、全国にその名前を知られるようになるまで、ご商売を大きく育てるには、何が大切だとお考えですか?
岩澤氏:商売って「センス」だと思うんです。成功する・しないの価値観は人それぞれだけど、センスのいい人はそれなりにのびることは間違いない。スポーツでも、歌でもなんでも同様にセンスが大事。そう考えると商売はある意味、ひとつの芸術なのかもしれません。私はお金もない、センスもないところから、ひとりきりで始めた。だから、二倍三倍勉強して、努力して、センスを磨く必要があったのです。
私が独立した時よりも今のほうが、もっと大変な時代になっていると思います。消費税などの税制面も、これからますます厳しくなるでしょう。センス云々の以前に苛酷な環境が待ち構えているのは間違いありません。でもそれが今は当たり前な世の中なのだから、仕方ない。有利な状況はどんどん少なくなくなってくるこの外食産業で、いかにして勝ち残っていくか。それはいかにして商売の「センス」をいかに磨けるか、にかかっているのです。
藪ノ:センスを磨くために、御社ではどんなことを大切にされているのですか?
岩澤氏:すべて自由にやらせる、これがうちの基本です。メニュー構成もノータッチ。店長が自分で考えて、スタッフに指示をして、お客様に提供する。店をまるごと店長に任せているのです。飲食店の経営、ということに関して、これほど勉強しやすい環境はそう無いと思います。
藪ノ:メニューも店長が決めるのですね!なんだか個人店のオーナー店長みたいですね。
岩澤氏:一応、法人化して6店舗運営していますが、自分でもここは<岩澤商店>の集まりだと思っています。自分の店は自分たちのやりたいようにやるべき。大手の飲食チェーン店様などでは企画室で決められたメニューが、勝手に店に降りてくるだけでしょう?自分で考えないから、経営の勉強にはならない。だから店長には、やりたいようにやらせます。そのかわり「もし、売り上げ下がったら、会社ヤバくなるからね」、って脅すだけ(笑)。
でもおかげさまでどの店舗も、私が何も言わずとも、売り上げはしっかり守ってくれているんですよ。ありがたいことです。経営にはほんとにノータッチ。しいていえば、出張先で美味しいもの食べた時、「こんなんどう?旨かったよ」なんて教えるくらいでしょうか(笑)。
「店作りは、人作り」人を作るには、“丸投げ”して任せること
藪ノ:御社のWEBサイトで「店づくりは、人づくり」というお言葉を拝見しました。実は弊社では「良い街づくりは良い店作りから、良い店作りは良い人づくりから」という事業コンセプトを掲げています。非常に共通する思いを感じたのですが、なぜこの言葉を選ばれたのですか?
岩澤氏:この言葉が先にあったのではなく、気づいたらそうなっていたのです。19年前、たった1人で始めた1号店。最初は暇でしたし、9坪の小さな居酒屋でしたから、全部ひとりで出来ると思って始めた商売でした。しかし徐々にお店も忙しくなり、スタッフを数人採用、ようやく新メンバーで店が回りだした頃、不運にも(笑)私が大きな交通事故に遭遇してしまったのです。その後、しばらく入院生活を余儀なくされ、焦りながらもやっとの思いで体を治し店に戻ってみると、なんのことはない、店は私がいなくても問題無く営業できていたのです。
私無しで、売り上げも落とさず店をまわせるまで成長していた1号店のスタッフたち。その成長ぶりをみて「ああ、自分はこいつらの為に次の店をだしてあげないといけない立場になったんだ」という考えに変わりました。その後、出店したのが表参道。そこにも信じられないくらいの数のお客様が来てくださいました。20坪で売り上げは1000万くらい売っていたでしょうか。それがどんどん続いて、またスタッフが成長し、次の店を出した。気づけば現在の店舗数になっていたという訳。つまり、店の成長は、スタッフの成長。自ずとつながっているものなのです。
藪ノ:出店後は、どの段階から店長に任せていくのですか?
岩澤氏:お店を出してほんの少しの間だけは店に立ちますが、その後は丸投げします。店長自身のやりたいようにやらせてあげるのが一番いいのです。最初は苦労するでしょう。むしろ苦労して当然なのです。なぜならあえてお客様がこないような場所に出店するから。じゃないとお客さんがくるのが当たり前だと、店長が思ってしまうのです。
六本木のお店を出した当時は誰も歩いてない場所でした。「こんなとこへ、本当に人がくるのか・・・?」と、私でさえ不安に思う程。ほかの店も同様に集客には厳しいとされる立地にある店舗が多々あります。(風俗店が軒を連ねるビルの2階とか。)その厳しい環境下の店を「どうするか考える気持ち、頑張ろうと思える気持ち」を、店長たちからいかに引き出すか、それだけが私の仕事です。
いまでこそフェイスブック等のSNSもやってますが、それまではホットペッパーはもちろん、ぐるなびもやりませんでした。店長は最初、お客様が来ない中でもがき苦しみます。ただその中で成長していく事ができなければ、自分がオーナーで店を出したときもきっと駄目になる。飲食店には最初から成熟した町や、成熟した商店街の中に出すタイプと、何もないところに出して周りを活性化させるタイプとがありますが、私たちのやり方は後者。
自分たちが町をつくっていく、というくらいの気持ちで始めないと、今の時代残ってはいけないと考えています。新しく出来た吉祥寺の店長は今、悪戦苦闘しています。私はただ彼に「12月に1000万円売れ、そのためにどうするか考えろ」とだけ言っています。さて、どう頑張ってくれるか、楽しみですよね。
人作りは、まるで子育て!夢を追いかけるのではなく、現実をしっかり見つめる目を養う。
藪ノ:「店作りは人作り」を実行する上で、どんな課題がありますか?
岩澤氏:まさに子育てと一緒です。20歳すぎて性格もできた人間を、自分たちのカラーに染めていくのはきわめて難しいこと。無論、理解力に個人差もありますし。とはいえ、マニュアルを作ってしまうと、個々のボキャブラリーをつぶす事になる。いろんなタイプがいるから、教育は難しい。同じ生ビールのオーダーを受けるのでも、お客様の前にただ運ぶだけでなく、早く飲みたいだろうと、一杯目を小走りで持っていってあげられるか。いろんな性格がいるスタッフから、そんな気遣いができる人間を何人作れるか、その難しさが常にあるつきまとう課題です。
藪ノ:頑張る人を褒める評価制度はどうしてるのですか?
岩澤氏:まったくないです。むしろ僕はその方がいいと思っています。露骨に評価はしない。そもそも元から褒めない(笑)。「最高売り上げ行きました!」って店長が報告してきても「ふーん、よかったね」くらい。ただ、評価制度はないけどいろんなところへ連れて行って、現地でお酒を一緒に飲み、「こんなこと出来るって、商売って楽しいでしょ」って話はする。商売人の目線で話してあげたら、彼らも自ずとその喜びがわかるはずなのです。
藪ノ:どんなところへいくのですか?
岩澤氏:いまは博多や沖縄が多いです。博多はご飯がおいしいから。沖縄は心が洗われるから。こんな欲望と裏切りの町で働いていると、心が洗われます(笑)。しいていえば、これが社員教育でしょうか。
スタッフには言葉だけでなく、夢ではなく、現実の世界のものをいろいろ見せてあげて、いろいろ体験をさせてあげたい。商売して売れたから沖縄へも行ける、バーベキューも出来る、と。僕自身、「お前の夢はなんだ?」みたいなノリって苦手なんです(笑)夢なんて寝てるときに見るもんだ!なんて思ってしまうので。
藪ノ:マインドコントロールじゃなくて、愛情をリアルに伝えるのが大事なのですね
岩澤氏:そうなんです。僕自身、「もし夢はなんですか?」と問われたら「家族を大切に幸せにする事」と答えます。聞くと、夢じゃなくて当然のこと、現実的なこと、と思われるかもしれません。でもこれは一家の主にとって一番難しいこと。男って仕事して稼いだら、いい車に乗りたい、いい女と遊びたい、って思うものだからです。財を成し、気づけば家族が離れていってた、なんていう経営者は少なくないはず。
男が仕事でも成功して、遊びも満喫して、さらに家族を幸せに出来ること、それは一番大切で一番難しい、つまり夢といっても過言ではないのです。飲食店で成功するまではそう難しいことじゃない、現実に目の前にある、価値あるものを、大切にすることがなにより大切だと思うのです。
飲食人は常に「飽きること」と「自由であること」を大切にすべき人種
藪ノ:商売をする上で大切なコツ、みたいなものはあるのでしょうか?
岩澤氏:商売=あきない、ではなく、飽きること、が大切。「あそこの店はこの間行ったし、次は違う店に行こう」って思うのがお客様。お客様に先に飽きられる前に、自分たちが早く「飽きる事」それが、お客様を飽きさせないコツだと思います。
藪ノ:店舗展開する上で、そう考えてくれる優秀な人材を集め続けるには、やはり苦労しますか?
岩澤氏:してないですよ。なぜなら当社は採用が後づけだからです。店を出すから人を出す、じゃなくて<成長した人が増えてきたから、店をだす>、という考え方。でも「いい人材」になれるかどうか、と言う点では当たり外れがあります。その点では苦労している、といえるのかもしれませんが、それはどこも同じですよね。
藪ノ:これからその「いい人材」になろうとしている若手求職者へ、なにかメッセージをいただけますか?
岩澤氏:飲食人は自由人になれる、ということ。自分の好きなところに住めて、自分の好きなところにお店を出せて、自分の好きなときに仕事をできる。自由な気持ちを忘れてはいけない。それがサラリーマンの方には出来ない事であり、特権なのです。もし飲食人になって自由になれないなら、それは自分の責任。飲食人なら自由であれ、ということを忘れずに、商売に「飽き続け」ながら頑張ってほしいですね。
代表藪ノの編集後記
岩澤社長とお会いするのは今回がはじめてでしたが、関西から出てきた無名の私にも、丁寧にご自身の想いをお話してくださいました。マニュアルなしとは、個人店や小規模の外食企業にありがちな特徴なんですが、それを地で行き、ここまで強烈で魅力的な価値にまで昇華出来ている企業は非常に貴重だと感じました。
私も沖縄が好きで、毎年のように行きますが、「ガンさんと一緒に沖縄で酒を酌み交わしたい」そう強く感じたインタビューでした。