スライドの下でセッションをする2人の登壇者の写真

インターネット上、特にSNS上で批判的な情報が拡散する「炎上」。「炎上」は個人にとっても企業にとっても怖いものですが、飲食業界や食品関係のトピックスはその標的になりやすい分野です。
アルバイト従業員がモラルに反する行動をして写真や動画を撮り、SNSに投稿して炎上する「バイトテロ」の現場も飲食関係の店が多く、営業活動を妨害される事態も多く発生しています。

なぜ「炎上」が起きるのか。「炎上」にどう対応するべきか。2019年9月25日に行われたカンファレンスイベント「FOODIT TOKYO 2019」から、飲食業界と「炎上」のリスクについて語られたセッションの一部を紹介します。

「飲食店はリスクにどう向き合うのか~『ネット炎上』は防げるのか?」
トークセッション登壇者

株式会社MiTERU 代表取締役 おおつねまさふみさん

日経BP総研 サステナブル経営ラボ所長、中堅・中小企業経営センター長 戸田顕司さん

おおつねさんは炎上対策・リスク分析アドバイザーで、代表を務める株式会社MiTERUは炎上の予防策と炎上後の対応策のコンサルティングをになう会社です。
セッションはおおつねさんのプレゼンテーションを中心に進行し、元『日経レストラン』編集長の戸田さんが取材経験に基づいてコメントしました。
※この記事では、おおつねさんのプレゼンをまとめ、2人のトークを交えて構成しています。

飲食業界におけるネット炎上の歴史、2回のバイトテロブーム

まずは、ネット炎上の歴史を振り返ります。おおつねさんは、バイトテロブームが過去に2回あったと指摘します。

■第1次バイトテロブーム

SNSが広まり始めた2013年、飲食店やコンビニのアルバイト従業員が不謹慎な行動をし、その画像がTwitterで拡散した事件が続きました。

第1次バイトテロブーム(2013年)

2013年6月
コンビニエンスストアで、店員がアイスケースに入り込んだ写真を投稿

2013年8月
宅配ピザ店で、店員が生地を顔に張り付けた写真を投稿
ファミリーレストランで、店員が冷蔵庫に入った写真を投稿
そば店で、店員が食洗器や冷蔵庫に寝そべった写真を投稿
etc……

※おおつねさん資料より

■第2次バイトテロブーム

2019年にもバイトテロが続きました。2013年の第1次ブームと違うのは、写真ではなく動画が拡散した点です。

第2次バイトテロブーム(2019年)

2019年2月
ファミリ―レストランの厨房で店員がタバコを吸う動画を投稿
和食レストランで店員が不謹慎な行動をする動画を投稿
回転寿司チェーンで店員がゴミ箱に入れた魚の切り身をまな板に置く動画を投稿

2019年5月
ドーナツ店でアルバイトOBが調理器具を素手で握る動画を投稿
etc……

※おおつねさん資料より

第1次ブームはTwitterが広まり始めた頃に起こり、写真が拡散。第2次ブームはInstagramやツイキャスなどで動画の投稿が拡散し、炎上しました。
1次と2次の間には、メディアのトレンドの変化があります。

飲食業界が炎上しやすい理由

バイトテロブームを見てみると、その多くが飲食店や食品を扱う店で起きていることがわかります。飲食店は、そもそもネット炎上を引き起こしやすい業界です
おおつねさんの分析によれば、炎上しやすいのは公共性が高く責任が求められる業界やその関係者。例えば政治家、市町村長、公務員、芸能人のSNSは、メディアで名前と肩書きが報道される機会が多いということもあり、炎上のリスクが高いと言えます。
飲食業界は、命につながる“食べ物”を扱っているという点で公共性・責任を負っており、炎上しやすいのです。

また、お客様やユーザーが“食べ物”に対して強い関心を持っていることも炎上を招く要因に。テレビ番組で食べ物が紹介されると、「この後スタッフがおいしくいただきました」という注釈が表示されることがありますが、これは、食べ物を粗末にする行為に対しては視聴者から批判が出やすいから。おせちの通販で、見本と実物があまりにも違ったという件や、イベント会場で売られていた食べ物が値段の割に貧弱だった件なども大炎上したことがあります。

日本人は、食品に関わる人はちゃんとしていてくれなければ困る、という心理が強いですね」(おおつねさん)
飲食業界の人たちは、炎上しやすい業界だということに気づいていないんじゃないでしょうか」(戸田さん)

炎上のフロー、発見→共有→拡散へ

ネット上で情報が広がるプロセスには、段階があります。

ネットでの炎上のフローの図

<炎上のフロー>

  1. 不謹慎行動などの事象発生
  2. ネットユーザーが投稿を発見・指摘
  3. リツイートなどによる共感・共有
  4. 拡散

3と4の間に、炎上か炎上じゃないかの境目があると僕は思っています。4の段階になった後すぐに対応をしなければ、おさまらなくなります」(おおつねさん)
1の段階と、3の拡散するタイミングに開きがある場合がありますね」(戸田さん)
バイトテロブームで、不謹慎な動画がメディアで取り上げられると、まだ発見されていない不謹慎な投稿を見つけようと過去ログをあさる人が出てくるんです」(おおつねさん)
メディアとしては耳が痛いです。話題になるとどうしても取り上げようとしますし、実際にそういう記事がよく読まれるということもありますね」(戸田さん)

■メディアが拡散

4の段階の後は、メディアによってさらに拡散する場合があります。
メディアの拡散にも段階があり、ネットを毎日よく利用しているコアなネットユーザーたちが読むニュースサイトまでで留まることもあります。一般の人がスマホでよく読むヤフーニュースなどに取り上げられると、元の事象から離れて“炎上しているから炎上する”という状態になり、元の事象とは関係なくとにかくリツイートされてしまいます。

炎上させるのは誰なのか?

「炎上」を引き起こす人はどんな人なのでしょうか。イメージとしては、人の揚げ足を取ろうとする悪意のある人が浮かびます。
しかし実際は、正義感の強い人が情報を拡散させています

「正義感が強い人」と書かれたスライドの写真

「炎上」を引き起こす人には「不公正・不正を見逃さない」「集団内の秩序を守りたい」「失礼な発言や行いは許せない」という特徴があり、“炎上させよう”という明確な意思がないまま、正義感にかられて投稿をリツイートしたりシェアしたりする人が多数を占めます。

炎上にどう対応すればいい?過去の成功例・失敗例

万が一、ネット炎上してしまったらどう対応するべきなのでしょうか。ある食品メーカー2社の、炎上後の対応を比較してみます。

ある食品メーカー2社の、炎上後の対応を比較のスライドの写真

<失敗例:沈静化を図ろうとして逆効果に>

カップ麺に虫が混入していたとの投稿が拡散

製造会社は保証や対応を約束した上で、投稿者にこの事実を広げないようにオファー

投稿者がそのやり取りをSNSで公表し、事実の隠ぺいとして受け取られさらに炎上

<成功例:冷静な分析でユーザーが納得>

お菓子に虫が入っていた、という写真付きの投稿が拡散

メーカーはその商品の出荷時期等を明確に示し、写っている虫の成長段階と製造時期とのくい違いを指摘

ネットユーザーも製造後に混入したものだと納得し沈静化

起きたことをきちんと、正直に、正確に発表したかどうかが、2社の対応の違いですね」(戸田さん)
炎上対策については、『納得できるストーリー』を示すことを僕は提唱しているんです。問題を隠ぺいしたんじゃないか、となると、同じ食品を食べたいと思っている人にとって納得がいきませんね」(おおつねさん)

■対応の速さが大事

インターネット上でトラブルがあった時の対処は、明日やる、今週中にやる、という時間感覚では遅すぎます。時間感覚を間違えると、何の説明もない、とさらに批判がたまっていくだけです。できればトラブルが起きたその瞬間、分単位で。少なくとも数時間、24時間以内には「今確認しています」等でも、何らかのレスポンスや対応をしておく必要があります。

どうしても、理由を完璧にしてから発表したい、自分たちの正しさを表明したいと思ってしまいますが、そうしている間にどんどん炎上してしまうんですね」(戸田さん)
気が付いた段階で、すぐに反応するようにしないと間に合わないというのがネット上の時間感覚です」(おおつねさん)

飲食店でバイトテロを発生させないために

バイトテロや炎上を起こさないための予防策として第一にあげられるのは、ネットリテラシーを身につけ、高めることです。

株式会社MiTERU代表取締役・おおつねまさふみさんがマイクを持ち話している写真

株式会社MiTERU代表取締役のおおつねまさふみさん

バイトテロについて同世代と話しても、自分が10代のころだってああいう悪ふざけはしていたよ、という人が多いんです。昔と今で違うのは、露出して拡散されるかどうか。ですから、ネットリテラシーをあげていくしかないと思います。
24時間で消えるInstagramのストーリーズでも、ラインチャットでも、限られた仲間同士のやり取りだから大丈夫だと思って投稿した内容が、友達の友達の、そのまた友達から流出して拡散することがあるということを、従業員に啓蒙していくことが大事です」(おおつねさん)

日経BP総研 サステナブル経営ラボ所長 中堅・中小企業経営センター長・戸田顕司さんがマイクを持ちパソコンを開いて話している写真

日経BP総研 サステナブル経営ラボ所長 中堅・中小企業経営センター長の戸田顕司さん

若いときは、仲間と悪ふざけするのが楽しいですよね。それがネットメディアの普及で表に出るようになったというのは大きな変化です。
バイトテロの発端になる投稿をしてしまった学生は、名前も拡散して、メディアで報道されてしまう場合があります。彼らは自分の未来をどう描いていくのか。情報発信者のリスクもしっかり知らせていくべきだと思います」(戸田さん)

YouTubeで配信する料理動画、何に気を付けるべき?

トークセッションの最後に「YouTubeで料理動画を配信したいけれど、炎上しないように注意することはありますか」との質問がありました。

飲食業界の、YouTubeでの炎上のケースというのは結構あります。YouTubeでは、トークの内容や厨房の様子などについて、揚げ足をとるようなコメントがつきやすいんです。メディアごとにリテラシーの違いがあるので、続けていく中でその感覚を身につけていく必要があります。
フードロスや不謹慎なことはやっちゃいけないというのはどのメディアでも共通していて、このくらいはいいだろう、とつい踏み外すと炎上につながります。そこは気をつけるべきだと思います」(おおつねさん)

「改めて、ネット炎上は防げるのか?」と書かれたスライドの前で話す2人の写真

おおつねさんによれば、個人経営の飲食店が、バイトテロで炎上したことをきっかけに営業ができなくなり、ついに閉店にもちこまれたというケースもあるそうです。
飲食店にとってSNSは、情報発信や集客の手段として欠かせないツールとなっています。リスクを避けてうまく運用するために、経営側もメディアリテラシーを身につけ、スタッフと知識を共有することが大切でしょう。

■取材協力

イベント名 FOODIT
企業名 株式会社MiTERU
企業名 日経BP総研