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自分だけの「バックグラウンド」とは?オンリーワンなルーツを知り、仕事そして自分と向き合う。
藪ノ:限られたリソース、自分に与えられた環境。その中で最大限のパフォーマンスをして、次の課題や目標を見つけ、挑み、気づけばちゃんとストーリーとして続いている…。その全てに、とてもポジティブな印象を受けました。そもそもすべてが揃っている状況の経営者などあり得ない。いかにその厳しい状況を楽しむか、最大のパフォーマンスをするかとうスタンスが求められますよね?
東山氏:ポジティブというか、使命感ですね。自分がどういう使命を背負って生まれてきたのか、そこに尽きます。人それぞれ、バックグラウンドは「オンリーワン」じゃないですか。私が中華街の人々との交流でバックグラウンドを感じられたこともひとつの使命ですし、持って生まれてきた宿命だとも思うのです。東山周平としてやらなきゃならないことって一体何だろうか、と。
それをまっとうすることが今、自分に与えられたビジネスだと思っています。今年で私も40歳。20歳から60歳の40年間は、仕事を通して、自分の生き方を問うていかなくてはならない時期だと思っているのですが、今がちょうど真ん中。ここからそれをどう体現していくことが出来るか…。今年から私がチャレンジすべきテーマだと思います。
藪ノ:つまり、<料理と人がひとつの【テーブル】で交流出来るような場を作る事>、そのミッションを通じてこれからの生き方を問う、ということでしょうか。
東山氏:そうですね。私だけのオンリーワンなバックグラウンドを原点に、いろいろ積み上げてきた結果、今の私があります。自分を築いてきた仕事を通じて、今後は自分の生き方とも向き合っていきたい、そう思っています。今後は日本おいては少子高齢化の中で、必然的に人材不足となっていきます。その結果、職場や組織は否応なしにグローバル化します。そのとき、単に出稼ぎするだけじゃなく、彼らが日本で学んだことを祖国に戻ってどうフィードバック出来るのか、私は彼らとの関わりでどういうバックアップが出来るのか、そこまで考えて会社を運営していきたいと思ってます。
また、若い日本人が海外でチャレンジしてみたいと思ったときに、きちんと学べるフィールド、国際人としての下地を作る場を提供していきたい。逆に、アジアの人たちが日本でチャレンジしたいと思った時も同様で、お金だけじゃなく、「付加価値」を持って国に帰って、新しいチャレンジができること、そうなれるようにしてあげたい。日本のきめ細かいサービスや商品作り、思いやり。日本人が誇れるものに感化され、自国へと持って帰ったとき、お金だけじゃなく「人間としての生き方」までも伝えてくれたなら、僕も嬉しく思います。
日本でも海外でも大切なのは、仕事に対する想いをちゃんと「伝える」こと。
藪ノ:社名の「アジアンテイブル」の由来だとか、大切にされている<料理と人との交流>というお考えは、一般の従業員の方、特に社会経験の浅い従業員の方に、どれくらい浸透出来ているとお考えですか?
東山氏:難しい問題ですし、永遠の課題ですね。まずは自分の信念とか理念とかを、きちん説いていくことから始めていかなければならないし、また若い人たちがわかりやすいように伝えていかなければならない。そのためにはまず、私自身が根気づよく、丁寧に語っていくことが大切だと考えています。そのあと私の下のメンバー、店長が、現場のアルバイトスタッフにまで“一緒の思い”を伝えていけるように。まるで金太郎飴みたいにどこを切っても同じ想いで語れるように。それが僕の仕事だと思っています。
藪ノ:海外の店舗では現地の方も雇われると思うのですが、その際の難しさとは、どんな点でしょうか?例えば、彼らの労働に対する考え方など、日本人との違いはありますか?
東山氏:違いは大いにあります、特に仕事に対する“ウエイト”の違いでしょうか。例えば、日本人は仕事に対してすごくウエイトを置きますよね。だけどアメリカ人は違う。やっぱりプライベートと仕事、すごく明確に分けているんですよ。だけど私自身が日本から持ってきた想いや、やりたいことをきちんと話せば、時間はかかるけれどもわかってくれる。彼らにとってみても、働くことに対して夢を持てることは嬉しい事なのです。
例えばグアム出身のスタッフは、ハワイやアメリカに行きたい、という夢があるのです。でもそのためには何が必要か、と考えたらまずここのお店を繁盛店にしかなきゃいけない。繁盛店を作るということは、お客様に感動してもらわなきゃいけない。感動してもらうには、いつも自分たちが出している商品を、もっともっと美味しく出来ないか、もっといいサービスが出来ないかと考えて、お客さんにハッピーになってもらわないといけない。だったらどうすればいいか…と、順に考えさせて、その答えを実行していかないといけない。この考え方をしっかりと教え込めばむしろ、日本人よりも楽観的なので楽しく働き始めるのです。怒られてても楽しそうだったりしていますよ(笑)。
藪ノ:根気よく伝えれば、外国人にも日本の働くスタンスは受け入れられるのですね。ちなみに今、御社のNo.2のスタッフさんがタイに行かれていますよね。着任後、何か変化は出ていますか?海外の自社店舗で勤務して初めて、自社の理念を理解し、“スッ”と腹に落ちるような体験をしているとか。
東山氏:多いにありますね。実は彼は海外自体行ったことがなくて、色んな意味で衝撃を受けたみたいです(笑)。「社長に巡り会わなければ、こういう体験は出来なかったと思います。この体験をさせていただいたことで、人間の可能性は無限にあるんだと感じました」と、嬉しいことを私に言ってくれたんです。だから、行かせたことは間違っていなかったと思います。
国内外問わず、展開していくために欠かせないのは、スタッフと交流出来る「仕組み」作り
藪ノ:今後、出店計画についてですが、海外はタイ、国内は大阪、それぞれに出店計画がおありですよね。今後は海外、国内、どちらにウエイトを置かれているのですか?
東山氏:両方ですね。海外では自分の故郷である台湾のほか、ベトナムやインドネシアなど。可能性はどんどん広げていきたいと思っています。とはいえ、礎となる拠点はしっかり作っていかなきゃ駄目だと思っているので、既に出店が決まっているタイをアジアの拠点に。アメリカはグアムでチャンスを頂けたので、そこを拠点にどんどん展開するつもりです。基本的な部分は、国内でしっかりと確立、地固めしていきたいと思っています。大阪の「アジアンテイブル」は新しい業態なので、ここも平行して全力で取り組みたいと思っています。
藪ノ:日本人のパスポート保有率は2割台とも言いますし、現実として全ての方が海外に行けるわけではないので、来店されたお客様があべのという土地で海外を感じられるのは非常に面白いですよね。しかも今後、海外に展開していくことを考えると、日本人が各国のマネージャーになったり、逆に現地の人が社長やマネージャーになったり、いろんな人の交流が考えられそうですよね。
東山氏:国の垣根を越えた人と人の交流は、おそらくですが5年~10年程度のスパンで、より現実的に、より当たり前になってくると思うのです。日本人が海外で、海外の人が日本で、より人材が流動化してくると思います。ただなぜここで頑張るのか、その思いをしっかりと底支えする信念がないとブレてしまうと思うのです。
例えば、中国人と仕事をするときもそうなのですが、私から自分の想いをちゃんと伝えると、中国人たちも誇りを持って仕事をしてくれる、そう感じます。つまり信念を伝える事が大切なのです。ただ今後の課題はその伝え方を「仕組み」化すること。今後100人、200人と外国人労働者が増えていったとき、どう伝えていくべきなのか。ひとりひとりと1時間や2時間など、語りたくても語れない。どうしても時間が限られてくる。その課題は必ず超えるべき壁、今からしっかり見据えていきたい課題です。
ビジネスの恩師、そして自分のルーツでもある父、祖父。たくさんの“メンター”の支えがあるから今がある
藪ノ:最後に東山さんご自身の“メンター”をお伺いしたいのですが、どなたでしょうか?
東山氏:間違いなく、渡邉明さんですね。筆舌に尽くせない程、たくさんの教えを頂きました。もっとルーツ的な部分で言うと、父。もっとさかのぼるなら、祖父でしょうか。バックグラウンドを知ったとき、自然に「食」という仕事を通して、人生にチャレンジできる道筋を与えてもらえました。実際に「食」をビジネスという観点からきちんと考えさせてもらえて、生き方を考えさせてもらえたのは、渡邉さんですね。
藪ノ:お父様とは自分のルーツや、事業に対する考え方を話し合われたりするのですか?
東山氏:たまに話しますよ。父は父の考え方があると思うし、揺るぎない意志の中で仕事をしてきた人だと思います。共通しているのは、台湾人という血を大事にしたいという気持ち。これは父もすごく感じているようです。また、祖父からの教えで心に残ってるのは「一期一会」という言葉。人と人って、縁がなければ出会わないじゃないですか。偶然じゃなく、きっと必然なんですよね。
例えば、仕事を一緒にやっていく人たちとは、縁がなければ出会うことすら出来ないわけで。何かの意味があって出会えているんだということを、すごく感じながら仕事に向かうようにしています。まだまだこれからの会社ですが、私の尊敬すべき“メンター”たちに教わった事を大切に、信念を持って進んでいきたいですね。
編集後記
東山さんにお話を聞いて強く感じたのは、“使命感”でした。我々日本人は、日本のことをよく知らないと言われて久しいですが、グローバル化において必要とされる最も基礎的な能力は、「自分は何者で、どんな価値や役割があり、それを高めたり実現するために何をしているのか?」を端的にアピールする力です。
ルーツやバックグラウンドを知ることは自分は何者かを知ること。歴史を学ぶことで、いち日本人としてこれからどこに進んでいくべきか、改めて学び考える機会を持つべきだと感じました。
(取材:クックビズ藪ノ)
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