第4回 エイジアキッチン株式会社/代表取締役 吉崎英司氏

今回お話を伺ったのは、渋谷や三軒茶屋など都内に4店舗を展開するエイジアキッチン株式会社 吉崎 英司社長。以前インタビューさせて頂いた焼とりの八兵衛(有限会社肉のやしま)の八島 且典氏がご推薦人です。

2010年にはアメリカハワイにも出店。海外に渡って活躍する若き飲食経営者に、クックビズ藪ノがせまります。

海外への憧れが、確かな目標に変わった20代。業界10年目に感じた独立へのターニングポイント。

藪ノ:御社のWEBサイトでも「アジアから世界へ!」とうたわれていましたが、独立する前から海外を見据えていたのですか?

吉崎氏:昔から海外で仕事をすることに漠然とした憧れを持っていました。僕らの世代は高校時代や大学時代、留学に行く人が少しずつ増えて来た時代。アメリカやオーストラリアへ行く友人も数多くいました。そんな周囲の環境が、海外への憧れの気持ちを強くしたのかもしれません。自分自身も20代に旅行でアメリカへ行くようになり、徐々に「アメリカで勝負したいな」と強く思うようになったのを覚えています。

藪ノ:28歳を独立のタイミングに選んだのには、何か理由があったのですか?

吉崎氏:高校時代からアルバイトを始めて社員になり、27歳まで勤めたのですが、「独立する年齢」というもの自体は、実はそんなに明確には決めていませんでした。ただその年はちょうど、飲食業界に入って10年目という節目の年。さらに時を同じくして結婚することに。じゃあこれからは、アメリカ進出を目指して自分でやろう!と心に決めたのです。自分なりに感じたタイミング、ですね。

藪ノ:従業員のまま飲食業界で生きる、という選択肢はなかったのですか?

吉崎氏:ゼロ、ではなかったです。元々働いていたのは、私の母親が経営する店で、そこに私の兄も他業界から戻って来て、一緒に手伝い始めたのです。しばらくは一緒にやっていたのですが、やはり男が兄弟ふたりでいると、意見も違ってきますよね。兄が社長で私が専務。二人三脚でやっていくのもひとつの道ではあったのですが、私は私でやりたい、と。これも独立を後押しした原因です。

知らない街・アメリカで勝負する難しさ。想定外の壁を乗り越え続けた海外進出。

藪ノ:ところで出店されているお店は皆、珍しい店名ですよね?どうやって決めているのですか?


吉崎氏:「成ル」は、【成せば成る】から、「巌」は岩のように固く不動なお店、そんなイメージでつけました。でも一番私らしさが出ているのは「三茶氣」のネーミングでしょうか。東京が実家の私にとって、「三茶氣」のある三軒茶屋は、昔から慣れ親しんだ場所。「サンチャ」という響きがスゴく好きで、昔から大好きな街なのです。この街に出すなら、「サンチャ」ならではの元気な感じ、“ちゃきちゃきっ!”としたイメージの店にしたかった。その結果、三軒茶屋+ちゃきちゃき=三茶氣(さんちゃき)になったのです。

藪ノ:東京育ちの方ならではなネーミングだったのですね。

吉崎氏:私が東京で独立する上で、実家が東京にある、という条件は非常に恵まれていたと思います。実家で生活していたので、開業資金も溜めやすかった。街のこともよく分かっていた。やはり知らない街でお金を貯めてお店を出す、というのは、若い人にとってはとてもハードルの高いことだと思います。

藪ノ:そう考えると2010年の未開の地・ハワイへの出店は、兼ねてからの憧れとはいえ、とても大きなチャレンジでしたね。当初から計画通りに進んだのでしょうか?

吉崎氏:計画通り、といえば計画通りでした。ただ想像以上に難しかった。特に人材。アメリカは就労ビザの許可がなかなかおりないので、こちらからスタッフを送り込みにくいのです。マネジメントする人材はどうにか許可が降りたので、これまでに2名が就労ビザをとり、ハワイで頑張ってくれています。でもスタッフはほぼ現地採用。日本からのスタッフは店長一人。全く知らない街で、言葉も通じにくい人たちと店をひとつ経営しているようなものです。

藪ノ:慣れ親しんだ街での経営とは、全く違う難しさがあるのですね。そこへ行くマネージャーはどう選定したのですか?

吉崎氏:やはり本人のやる気が大切なので、興味のあるスタッフに声をかけました。今、現地で店長をしているスタッフも英語は話せなかったのですが、比較的日本語も通じやすいハワイだし「なんとかなる!」とのアツい思いで向かってくれました。その時、彼は30歳。彼にとっても一生忘れられないターニングポイントになったと思います。

藪ノ:スタッフさんのやる気にも支えられた海外初出店。この2年間と国内での15年と比べてみて、今どんな感想をお持ちですか?

吉崎氏:渋谷での経営と、海外では全く違う、ということですね(笑)。まずお客様が違う。現地の味に慣れているお客様ばかりなので味は濃いめ。メニュー構成もサイドメニューにしようと思っていた餃子が、爆発的に売れて看板メニューになったり。またアルコールを呑まないお客様が多いのでドリンクの売上は全体の3割くらいかな、と思っていたら意外にも4割と高い数値をしめたり。嬉しい誤算とはいえ全てが想定外。とはいえ、私がずっと傍で見てあげられるわけではない。実感としては、海外での2年のほうが国内の15年よりも難しいと感じています。その分、今ハワイで頑張っている店長も、日本に帰って来る頃には一回り大きくなっているのではないでしょうか。

藪ノ:国内で頑張るほかのスタッフさんにとっても、よい目標になってくれそうですね

吉崎氏:当社には独立志向の人間が多く活躍しています。1店舗をまるごと運営しているハワイ店の店長は、皆のよい指標になっていると思いますよ。一般的な店長以上の経験をしているのですから。将来は自分の店を持ちたい、そう願うスタッフにとっても、よい刺激・目標になっていると思います。

これからは<自分たちの街>で<自分たちの店>を作る。家族的な絆を大切に、地域に根付いたお店作りを。

藪ノ:今後の展開としては、海外もしくは国内、どちらをお考えですか?

吉崎氏:両方でしょうか。ハワイでは今後、違う業態のお店もやっていこうかと思っています。ただ、もっと考えているのは国内。いま4店やっていますが、もう少し直営店を出して行きたいんです。場所はどちらかというとローカル沿線。出店後3~5年経って、ある程度、減価償却が終わった店舗は、委託契約を結んだスタッフに社内独立で渡していくつもりです。さらに店を渡された店長も実際にそこへ移り住むのです。やはり、これから渋谷などの都心に出すのは非常に難しい。私が独立前、育った街でお店を始めたように、一番強いのは<地元密着>。その町に住んで、その街の一番店にしていく。みんなでその連鎖を作っていけたらと考えています。

藪ノ:委託していく人材のことも考えながら出店計画を練る、というのはとても良いことですね。

吉崎氏:私が独立した10数年前と今とでは、状況がまったく違う。当時は「創作料理」が業界のトレンドだった時代。ネットもやっと普及しだした頃。それに比べて今ではモバイルで何でも情報が手に入る。時代の変化に合わせて、独立の仕方も変えていかないと。これからの時代、独立はどんどん難しくなると思います。作った時は新しくても3年たったら同じような店が出てくる。とはいえ個人でそう簡単に業態変更などできるはずもない。だから企業として、独立を支援する体制が欠かせないのです。

藪ノ:独立志向の方が多いとのことですが、スタッフさんはどんな風に集まって来られているのですか?

吉崎氏:東京や関東近郊、その他地域からなど、いろんなところから集まってきていますね。しかも結構、人づての紹介での入社が多いのです。知り合いの紹介で入社して、そのまた知り合いが入社したり。もちろん一般募集で入社しているスタッフもいますが、ほぼ紹介ですね。そしてなかなか辞めない。私が甘いのかな(笑)

藪ノ:飲食業界はどうしても、人材の定着率が悪い世界ですよね。なのに紹介で数珠繋ぎのように人がきて、しかも辞めない。素晴らしいですね。

吉崎氏:ただ、紹介で入社したから続く、という訳ではないと思うのです。紹介はあくまで入社のきっかけに過ぎなくて、知り合いだから辞めない訳ではない。では、なぜ辞めないか。それはやっぱりスタッフ同士が家族的な付き合いをしているから。これが5倍、10倍の人数になったらそうはいかない。僕はみんなとのこの距離感が大好きだし、大切にしたい。特に居酒屋という業態に関しては、この家族的な距離感が重要なんですね。

世界にも通用する日本の<居酒屋>。ハイレベルなサービスで飲食業界の地位向上を目指す

藪ノ:最後に。今、離職率が高いとされる若者。彼らに、飲食業界の良さを伝えるには、何をすべきだと考えますか?

吉崎氏:私たち業界人が「飲食はもっと世界に出て行ける業界だ」ということを、実際に示してあげるべきだと思います。飲食では経験が2、3年あれば、すぐ海外で勝負出来る。寿司もちょっと握れるなら、雇いたいレストランはいっぱいある。しかも日本人の給与帯で。いや日本よりもっともらえるかもしれない。しかも「レストランマネージャー」の地位と「居酒屋の店長」、ふたつを比べると日本ではまだまだ「レストラン」に軍配が上がりますがアメリカでは違う。アメリカでは居酒屋の店長とはいえ、一経営者として見てもらえる。それだけレストランビジネスは確立されているということですね。日本でももっと地位向上に努めたい。私たち業界人のつとめかもしれません。

藪ノ:「居酒屋」という文化、今後世界でも戦えるでしょうか?

吉崎氏:もちろん。実はハワイのレストランスタッフは、お客様からもらうチップが収入を左右するので、サービスマンとしての意識は非常に高いのです。でもそんな彼らと比べても負けてないくらい、日本の居酒屋のサービスはハイレベルなものだと考えています。さらに居酒屋では、お客様からの声を近い距離でいただける。それは私たちがアメリカだけでなく、他の国でも勝負していける、と実感できた理由です。さらに当社は、アメリカに持って行った独自の居酒屋のノウハウ、そしてアメリカで学んだサービス、その両方を兼ねそなえている。2年前のあの時、他社の進出がまだまだ少ない中、先陣をきって海外に出ていったからこそ得られた強み。海外でも通用するサービスを武器に、これからは海外・国内、ともにより良い、より強い店作りをしていきたいですね。

編集後記


「世界で活躍する飲食経営者 – 吉崎 英司」そんな肩書きとイメージから想像していたよりもずっと自然体で、フレンドリーなとてもカッコイイ大人の男性でした!
人材の定着率も高く、従業員と家族のような関係を築いており、求人広告を使っての人材募集も非常に稀だとのこと。
インタビューにもあるように、海外での出店経験が、国内の既存店舗をより強くする良い循環が確立されており、その自信が国内での更なる出店計画につながっている… いわば海外進出の理想形を見た気がしました。

「国内がダメだから海外に進出する」では通用しない、改めてその事を実感するインタビューでした。
(取材:クックビズ藪ノ)

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