
飲食店でアレルギー表示を行うべきか、判断に迷っている経営者の方もいるのではないでしょうか。
2001年に容器包装加工食品についてはアレルギー表示が義務化されたことを背景に、飲食店でもアレルギーに対応する動きが活発化しはじめています。
では、飲食店ではアレルギー表示は義務化されているのでしょうか。
この記事では、飲食店におけるアレルギー表示義務の有無や、食品アレルギーとはどのようなものなのか、表示する際に気を付けておきたいポイントについて紹介します。
目次
飲食店でのアレルギー表示は義務化されている?
2021年5月現在、飲食店でのアレルギー表示は義務化されていません。義務となっているのは容器包装された加工食品であり、飲食店で提供されているものは該当しないためです。
しかし、お店にアレルギーがあるお客様が来店した際、どのような対応を行うかを事前に決めておく必要があります。
たとえば、アレルギー対応のメニューを出すのか、アレルギー表示のみを行うのか、尋ねられた際に回答するのかなど、対応方法はさまざまです。
飲食店で提供される飲食物は、その場で調理を行うためアレルゲンの検査が難しいことから、義務にはなっていません。
しかし、アレルギーがあるお客様にも対応できるようにしておくことで、安心して飲食を楽しんでもらえるお店づくりに役立てることができるでしょう。
食品によるアレルギーとは
食品によって症状が現れるアレルギーとは、具体的にどのようなものなのでしょうか。ここからは、食品アレルギーの症状や原因、注意すべき食品の種類について解説します。
食品アレルギーの症状
食品アレルギーでは、主に皮膚や消化器、呼吸器に症状が現れます。具体的には、じんましんや、くしゃみ、鼻水、呼吸困難、目の充血、口の中の腫れなどの粘膜症状などがその例です。こういったアレルゲンが体内に入ることで症状が発症することを「アナフィラキシー」といいます。
また、アナフィラキシーの中でも、特に命に危険が生じるほどの症状・重症化することを「アナフィラキシーショック」と呼びます。
アレルギー物質を避けることは、アレルギーをもつ人にとって命にかかわる非常に重要なことなのです。
急激に症状が悪化することもあり、下痢や嘔吐などを引き起こすこともあるので注意しなければなりません。
多くはアレルギーの原因となる食品をはじめて食べた子どもに多く見られますが、まれに大人が突然発症することもあります。
そのため、飲食店側として、食品アレルギーの症状が現れたときの対処法(救急車の手配など)についても検討しておくことが大切です。
食品アレルギーの原因
食品アレルギーの原因は、特定の食べ物に含まれるアレルゲン(アレルギー反応が出る物質)に対して体の免疫機能が過剰反応してしまうことです。
口からの摂取だけでなく、皮膚接触や吸入によって症状が現れる場合もあるので注意が必要になります。
直接料理に含まれていなくても、同じ調理工程の中で特定の食材を使用していることが原因で症状が現れるケースもあるということを知っておきましょう。
どんな食品に注意すべき?
食品アレルギーは、ある程度特定の食品が原因となっています。
容器包装加工食品において表示が義務化されている「卵・乳・小麦・そば・落花生・えび・かに」などは「特定原材料」と呼ばれ、食品アレルギーの中でもとくに該当する人が多い食材です。
そのほか、表示推奨とされている特定原材料に準ずるものとして、以下の21品目があります。
- アーモンド
- あわび、いくら、いか
- くるみ
- 大豆
- 牛肉
- 鶏肉
- 豚肉
- さば、さけ
- まつたけ
- やまいも
- キウイフルーツ
- オレンジ、もも、りんご、バナナ
- ごま
- カシューナッツ
- ゼラチン
これらの食材を料理に使用している場合は、アレルギーの表示やお客様にアレルギー症状が現れた際の対処法などを事前に検討しておくと良いでしょう。
飲食店でのアレルギー対策
飲食店でアレルギーに対応するためには、どのような対策を講じれば良いのでしょうか。ここからは、具体的に飲食店で取り入れておきたいアレルギー対策の方法や注意すべきポイントについて紹介します。
店舗ルールを作る
店舗内でアレルギーに対する対策ルールを作ることが大切です。アレルギーの対象となる食材の対応方法や、混入管理、除去希望者に対応可能かどうかなど、具体的なサービス提供に落とし込んで考える必要があります。
使用食材を最新の詳しい情報で正確に把握し、どのメニューに何の食材を使用しているかがわかるようにしておきましょう。
また、食品アレルギーに対応する責任者を決めておくと、従業員への周知や緊急時の対応分担などもスムーズに行えるでしょう。
スタッフ全員への食物アレルギー対策教育
食物アレルギーに対する正しい理解や知識に加え、店舗ルールに沿った対応を行うようにスタッフ全員で情報共有を行うことも大切です。
お客様へのアレルギー確認を行う際には、必ずメモを取ること、再確認を行うこと、可能であれば調理スタッフやアレルギー対応の責任者の同席が望ましいことなども周知する必要があります。
また、食物アレルギーに該当する食材を使用している場合、食材自体を取り除くことはできても調理器具が同じ場合などは、完全なアレルゲンの除去ができないことをお客様に必ず説明しましょう。
もし食物アレルギーの対応が不正確な場合や、調理工程の都合上対応できない場合は、きちんと対応できないことを伝え、事故を未然に防ぐ必要があります。
例えば、
「お客様の安全を第一に考え、やむを得ず食事のご提供をお断りすることがございます。その場合、食事の持ち込みをお受けいたしますので、事前にお申し出ください。」
などと伝えると良いでしょう。
お客様からアレルギーの情報を聞き取るためには、コミュニケーションが重要です。
具体的には、
- 原因食品(具体的にどの食品を除去すべきか)
- 摂取可能量(どのくらいだと食べることができるか)
- 発症症状(どのような症状が出るか)
- 食べられる食品(食べても問題ない食品はなにか)
について伺いましょう。
また、お客様自身にアレルギー食材を記入してもらい、間違いがないように確認ができる「アレルギーコミュニケーションシート」を活用するなどして、お客様・接客係・調理係の間で、正確に情報共有ができるように徹底することが重要です。
伝えもれや確認忘れなどによる事故を防ぐためにも、必ず複数回チェックできる体制を整えておきましょう。
食品アレルギーを表示する
食品アレルギーを表示するのも、飲食店のアレルギー対策として有効な方法のひとつです。
食品アレルギーの表示方法は、メニューや料理ごとに個別表示する方法(例:ジョリーパスタ)と、店舗で提供している料理全体について一括表示を行う方法(例:牛角)の二種類があります。
どちらでも問題ありませんが、個別表示を行う場合は調理工程で混入することがないように注意しなければなりません。
コンタミネーションに注意する
コンタミネーションとは、アレルギー物質が混入してしまうことを指します。たとえば、同じ調理器具を使用したことが原因で混入してしまうなど「取り除いたと思っていてもできていなかった」というようなケースです。
コンタミネーションを防ぐためには、スタッフにアレルギーに対する正しい知識を身につけてもらい、混入の可能性がある場合はきちんとお客様に伝える必要があります。
専用メニューを作成する
アレルゲン除去メニューや低アレルゲンメニューを提供する場合は、専用のメニュー表を作成するのもおすすめです。
専用メニュー表の作成にあたっては、お客様に専用メニューがあることが伝わるように、店頭に掲示したり入店時に伝えたりすると良いでしょう。
また、アレルゲン除去・低アレルゲンメニューを提供する場合、通常のメニューを調理する工程・器具とわけたラインで調理することが重要です。
コンタミネーションの予防にもつながるので、とくに除去メニューを提供する場合は、安心して飲食してもらえるように対策を徹底する必要があります。
小さなことからできる範囲で取り組む
はじめから完璧にアレルギー対策を行うのは難しく、またスタッフの教育などにも時間を要します。
そのため、まずは表示義務のある7品目の表示からはじめてみるなど、取り入れやすいところから着手しましょう。
アレルギーの事故を起こさないように、お客様からの使用食材に関する質問に対して、しっかり答えられるように徹底しておくことも、はじめやすい取り組みのひとつです。
さらに、コンタミネーション防止に配慮しながら、コンタミネーションの可能性についても伝えることができると良いでしょう。
アレルギーをもつ人にも安心して飲食を楽しんでもらえるような店舗づくりを目指すのであれば、最初から完璧な対策を目指すのではなく、まずは正確な知識を身につけることが大切です。
また、アレルギーをもつ人の意見を参考にしながら、どのようなサービスが喜んでもらえるか、安心して飲食してもらえるかを検討すると良いでしょう。
編集後記
アレルギー表示は、飲食店で義務化されてはいないものの、アレルギーをもつ人にも楽しんでもらえる飲食店を目指すうえで重要になるものです。
アレルギーをもつ人にとっては命にかかわる重要な情報になるため、対策が中途半端なものにならないよう、細心の注意を払いましょう。