食メンTOP「勝山-昭氏」

2005年、京都にサムギョプサル専門店「ベジテジや」の第一号店をオープン以来、約8年間で全国に22店舗を展開する株式会社ゴリップ

設立した当時、まだあまり日本では知られてなかった、韓国独自の料理サムギョプサルの名を全国的に広めたまさに、サムギョプサル界のリーディングカンパニーだ。この勢いある組織を精力的に牽引するのは、代表取締役 勝山 昭氏。その独自の視点、経営手法をクックビズ藪ノが探ります。

知り合いに頼る人材採用では通用しなくなった、それが成長過程でぶつかった最初の壁。

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藪ノ:京都から始まり、いまや全国に22店舗。すごい勢いですね!一般的なチェーン展開よりも本拠地、つまり関西圏以外への出店開始時期が早いとお見受けしていました。最近も出店ペースは、ますます早まっているんでしょうか?

勝山氏:いいえ、むしろ計画よりは遅くなっていますね。2012年の夏くらいから、出店を加速させていたんですが、10店舗を超えたあたりから、「壁」がでてきまして。

このまま店を増やしていくだけでは、ダメだと判断しまして、この数ヶ月間は意識的に出店をやめて、足元固めの時期にしていたのです。

藪ノ:どんな「壁」だったんですか?

勝山氏:数店舗で展開している段階では、なかった事態が起こり始めたんです。大きくは採用面。数店舗くらいまではアルバイトの採用にもあまりお金をかけないし、むしろかける必要もなかったんですが、10店舗から15店舗くらいの規模になったころ、急に離職率があがってきたのです。

それまでは大学1・2回生でバイトを始めてくれれば、大学卒業まではいてくれる。しかもその子たちが、友達もつれて来てくれて、欠員補充の必要もなく、好循環で回っていたのです。そのバランスが崩れだしたのが、ここ1・2年くらいのこと。結果的に、採用コストが上がっていることが、出店を止めている原因のひとつでもありますよね。

ただ、今は社内体制を固めようとしているだけなので、事業計画を止める、というよりもいったん出店を見合わせている、そんなイメージですね。落ち着けばまた、一気に進めていこうと思います。

藪ノ:何が問題だと思われますか?1号店や2号店の時代は、社長ご自身も店舗に立たれていて、離職率もさほど高くなかった。その当時と今とでは、どんな差が出てきたのでしょうか?出店のスピードに人材の成長が追いついてない、そういうことになるのでしょうか?

勝山氏:人材が育っていない、というよりは、コミュニケーションの取り方が変わったんだと感じています。私が現場に立っていた当時は、もちろん毎日店に顔も出すし、営業が終わればみんなでご飯を食べに行ったりもしていた。スタッフとトップとの距離が近くて、一緒に何かをする時間も多かった。

簡単に言えば、その時間を設けてやれば解決することなんですが、現在の店長たちは当時の私と同じように、身銭を切ってまでの接し方はなかなか出来ない。だって彼らは“経営者”ではなく、“従業員”なんですから。

前向きに考えると、小さな組織だった時代の成功パターンから、次のステージへと移るときがきたのでしょうね。今は、もっと労働環境をよくしたり、働きがいのある店にすること、そこに注力していますね。

藪ノ:人材のマンパワーに依存してた時代から、ある程度の仕組み化、環境の整備が必要な規模に成長してきた、ということですね。とはいえ、10店舗でも関西圏では難しいハードルだと聞きます。10店舗目までは、比較的スムーズに展開できたのでしょうか?

勝山氏:いいえ、人のことに関して、まったく何にも考えなくてよかったのは、5店舗目位までじゃないでしょうか。社員の採用も知り合いや、バイトの子が連れて来てくれたり、はたまたお客さんが働きだしてくれたり、パートナーの方が紹介してくれたり。本当に採用にお金がかからなかった。

でも、そのころから当然、5店舗から10店舗へ伸ばしたい、という考えはあったので、いずれにしてもこのままではだめだという思いはありました。とはいえ、採用費用がこんなにかかるのかと、今でも店長や人事とは常にせめぎ合いです。各店に補充の指示は出しつつも、採用コストには厳しい(笑)。店長も苦しみながら、試行錯誤してくれていると思います。

藪ノ:弊社も人材サービスの会社でありながら、こういうこと言うのも変なのですが、本来はやはり社長様とか役員の方とか、現役メンバーのネットワークで採用出来るのがいちばんいいカタチだと思うのです。ただ規模が大きくなると、どこかのラインでそのやり方には限界がくる。成長を続ける企業様には、さけられない壁なのでしょうね。

珍しい韓国料理=サムギョプサルではなく、目指すのは、日本の“日常食”の地位。

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藪ノ:出店計画を拝見していてひとつ気になった特徴をあげるならば、ドミナントせず、首都圏と地方都市中心に展開されているんだな、ということ。
確かに京都発祥ではいらっしゃるんですが、京都で4・5店舗やって、そこから大阪・東京・名古屋に、というのは比較的従来のチェーン展開とは違うのかな、と。今後はどんな戦略をお考えなんですか?

勝山氏:これからドミナントに入る感じですね。今期は東京に出店が続きますし、名古屋にも並行して出店が続きます。ただ、京都や大阪を中心に展開してきて分かったことですが、京都はこれ以上あまり市場がないと思っています。大阪も5店舗ありますが、これ以上は難しいかなと思っています。

藪ノ:難しいとお感じになるのは、どうしてですか?

勝山氏:ひとつの商品に対する目がシビア、という点からでしょうか。例えば「焼き肉」。大阪の京橋や鶴橋には昔から続く焼肉屋さんが、たくさんあります。しかも安くて美味しい。その状況を知っておられるお客様は、100円に対する価値基準が非常に高いんですよね。

より安くて美味しいお店をよく知っているから、簡単にはファンになっていただけない。しかも大阪には「地元意識」が強いお客様が多い。“ここは大阪の店じゃないんでしょ”という厳しい目線は、どうしても拭えないのかなと。

東京ではそのあたりが比較的、緩いですよね。いいお店もたくさんあるんですが、あまりお客様に「地元意識」を感じない。そういう意味で楽、というか、やりやすさはあると感じています。今後のベクトルを東京や名古屋に向けた要因のひとつでもありますね。

藪ノ:確かに東京と比べると、大阪は地元の人が多いですもんね。地元愛というのは、多少なりともありますし、わたしたちが京都に来ても、同じことを感じます。地方都市っていうのはどうしてもそうなってしまうのかもしれませんね。

勝山氏:そうなんです。逆に京都では、私たちもその地元愛を利用できていたのです。まだまだ大阪の人たちに根付いていない証拠ですね。

藪ノ:我々は年明けから、名古屋出店を本格化する予定なんですが、名古屋に関してはどんな印象をお持ちですか?現地の方へ伺うと、飲食にあまりお金をかけない文化があるとか、“よそもの”に対して、厳しいとも聞くのですが。

勝山氏:名古屋に感じるイメージは、私個人的にはすごくいいですね。名古屋の業績がいいからかもしれないんですが(笑)。名古屋に出店した時、みなさまから頂いたご意見の中に多くあったのは、名古屋のお客様は結構、ブランド志向の方が多いということ。だからお店もブランディングをしっかりして、付加価値を付ける必要があるなと、意識しながらすすめていました。

“有名な店が名古屋にきたぞ”と、しっかりブランディングして感度の高い人たちに、ちゃんと発信できれば、名古屋の人はちゃんと支持してくれると聞いていたのですが、まさにその通りでした。長く続けるのはこれからの課題ですが、今のところは成功していると言えますね。

藪ノ:なるほど、我々も名古屋進出の際の参考にします!(笑) ところで「サムギョプサルファクトリー」というイオンモールで展開されている業態は、まったく路面店と毛色が違いますよね。実際の業績はいかがですか?

勝山氏:比較的、調子は“いい”ですね。イオンモールで展開している「サムギョプサルファクトリー」は、レストラン業態以外で“サムギョプサルを伝える”というコンセプトのもと始まった業態なのです。たくさんで集まって食べるより、ひとりでも気軽にサムギョプサルを楽しめるスタイルを確立した方が、サムギョプサルが認知されるスピードは早まりますよね。

例えばうどんやラーメンは商業施設ではファストフードという立ち位置を確立している。サムギョプサルを広めるのには、ちょうど良い環境だと思ったのです。もちろん、現在の周りの環境をみたときには、ちょっと段階的には正直“早い”。ただ、待っていてもマーケットが広がらないのも事実。自分たちで動かなければと思ったのです。

藪ノ:“早い”とは、どういう意味で早い、のですか?

勝山氏:サムギョプサルがまだ、“尖った食べ物”だからです。例えば地方の人が東京にいくら憧れても、そんなにしょっちゅう東京には行けない。実際には自分の自宅に一番近い商業施設に行って、映画もショッピングも何もかも、済ませている。

“わざわざ”都会に行くより、近くて“簡単に”楽しめる、そんなレジャーや食べ物のほうが、圧倒的に利用頻度が高いのです。だからイオンに入っているフードメニューは、うどんやハンバーガー等、いわゆる日常食。サムギョプサルはまだまだ、簡単に食べたいとなる料理ではないから、早い、と言うワケなのです。

これから100年後も続く食べ物にするには、“わざわざ”食べるとがったものではなく、“簡単に”食べる日常食を目指さなければいけない。普通の日常食にする、ということが最終ゴールである我々にとって、イオンモールでの「サムギョプサルファクトリー」はその第一歩。イオンに来る日常のお客様、その方々に響かないということは、まだまだ最終的に日常食になってない、という答えになるから。

まずはイオンでやってみて、ひとりでサムギョプサルを食べるというお客様の行為が、周りの一般の買い物客にどういう影響を及ぼすのか、果たしてどの位置づけにくるのだろうか。今後のサムギョプサルの行方を見据える、投資の一つでもあったのです。

とはいえ東京のイオンのお店に行くと、お客様が並ぶのは日常食が中心でうどんがナンバーワン。なかなか「サムギョプサルファクトリー」を選んでもらえないんですが、それでも選んでくれる人はいる。ということは、やはり目指す価値はあるんだな、と。これからは僕らの力次第ですね。

藪ノ:フードコートにいかに馴染んでいくか、ということなんですね。

勝山氏:イオンへの出店は50年後の未来をみたときに、僕らがどのようなかたちでやっていけるのかという挑戦でもあるので、これからも挑み続けたいと思っています。

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