株式会社TSUJIYA GROOVEのサムネ画像

株式会社TSUJIYA GROOVEの代表辻さん

辻 英知氏/株式会社TSUJIYA GROOVE 代表取締役
1975年、京都府生まれ。追手門学院大学卒。学生時代、アメリカ民謡研究部に所属しバンド活動に明け暮れる。卒業後、株式会社贔屓屋に入社。1年で店長に就任するも、本格的にミュージシャンを目指すためレーベル会社に転職。2003年、ロックバンド「Sign」でポニーキャニオンよりデビュー。その後、音楽の道から飲食業界へ。焼き鳥チェーンのFCオーナーを経て、2009年に自社ブランド「京都 炭火串焼 つじや」を創業。現在、京都で8店舗を運営中。ほかにも不動産や音楽、教育に関する業務も手掛ける。2023年春までにさらに2店舗出店予定。

最近よく耳にする10代〜20代半ばの「Z世代」が、ここ数年前から社会に進出。「なかなか若手を採用できない」「配属すると元気がなくなる」…新たな価値観を持った若手に戸惑い、そんな声を聞くことも。そんな中、10代〜20代がイキイキと活躍する飲食企業があります。それが株式会社TSUJIYA GROOVEです。

「京都 炭火串焼 つじや」をはじめ、舌の肥えた京都市民を魅了する焼鳥店を展開。京野菜、漬物、豆腐、日本酒など、地元・京都の食材に誇りをもち、最高級の炭火を使った焼鳥やおばんざいを提供しています。

元ロックミュージシャンでもある代表の辻 英知さんに、飲食業界に入った理由、コロナ禍での取り組み、若手の人材育成についてお聞きしました。

★今回、「Z世代」のスタッフにもインタビュー。
「働くことが楽しい」
「辛くても辞めようとは思わなかった」
その理由とはいかに?!

ミュージシャンから飲食業界へ。カウンターはまるでライブステージ!

──メジャーで活躍するミュージシャンだったそうですね

はい、ロックバンド「Sign(サイン)」というバンドです。ジャンルはうるさい系のロックで、私はヴォーカルを担当し作詞作曲を手がけていました。

aikoの前座などを務めたり、5,000人の前で演奏し、自分が考えた歌詞や音楽で「元気になりました」とファンの方が言ってくださることも。バンド活動は私にとってかけがえのないものでした。

バンドのステージ

観客とステージが「ワ~ッ」と一体になれる瞬間って本当に快感です。(左:辻 英知さん)
▲当時の事を振り返る「創業ストーリー」はHPにも掲載されています

──なぜ飲食業界をめざそうと?

飲食業界で働こうと思ったのは、実家が京都で喫茶店を営んでいたのでなじみがありました。親が頑張ってきたこの業界でリベンジするような気持ちもあったと思います。それに何より音楽のステージと、飲食店のカウンターというステージが似ているということに気づいたんです。

──ライブステージと飲食店のカウンターは同じだと?

そうですね。照明に照らされたステージは焼場前のカウンター。作詞・作曲は美味しいお料理の開発。ライブパフォーマンスは元気な「いらっしゃませ!」「ありがとうございます!」そして最高の笑顔です。

ポーズをとる辻さん

お客様が来たら自分がどんなに元気がなくてもその方を笑顔にしなきゃと思うし、繁盛店の活気といったら、まるでライブステージでのかけあいそのものです。
「ようこそ、何名様ですか!」
「〇名様カウンターによろしくー!」
「はい!こちらへどうぞー!」
なんてね。

──ライブのグルーヴ感ですね

そう、会社名の「TSUJIYA GROOVE」もね、『グルーヴする』という音楽用語から名付けました。
あの音楽で得た、嬉しさ、勢い、楽しさを忘れないように。音楽から学ぶことが多かったです。マーケティングなども学びました。

焼鳥を焼く手元

ライブ感満載!『京都 炭火串焼 つじや』の売れ筋はなんといってもお客様の目の前で焼き上げる焼鳥。

──マーケティングも?「つじや」でどう生かされていますか

自分の音源を売るためにレコード会社を自分で作りました。結婚費用のつもりで貯めていた200万円を全部突っ込んでCDを作りました。
メンバーで担当を決めてレコードショップやラジオ局、ライブハウスなんかをまわって、音源をかけてもらう。かけてもらえなければ、ミーティングを繰り返して成功事例を共有したり、PDCA(※)を回して、最終インディーズランキング2位まで行きました。その頃から売るのが好きだったんですね(笑)。
※PDCA=P(プラン・計画)・D(ドゥ・実行)・C(チェック・評価)・A(アクション・改善)を繰り返して業務を改善する方法

──売るのは大事ですね

でも今考えると本質からずれていたと思います。本来ミュージシャンがやるシゴトは、【良い歌詞】【良い曲】【良いパフォーマンス】です。
飲食店で言うなら、美味しいものをつくる前に広告をうったり、SNSで映えだけ意識して拡散するようなもの。マイナスプロモーションでしかありません。そりゃー売れるわけありませんね。本当に本質が大切だと気づかせていただきました。

テーブルについて語る辻さん

儲けは度外視!コロナ禍のアイデアが次の一手につながる

──コロナ禍はどうされていたんですか?

自粛要請期間は休業していました。それ以外はとにかく試せることは試そう!挑戦しよう!と奮闘しました。
最初は、店にある食材でお弁当やランチを提供。お総菜屋さんをしたり、親子丼屋さんをしたり、ハンバーグ屋さんに変身したり。お店の前に焼台を出して焼いていたら警察の方に怒られました。とにかくアイデアをたくさん出そう。それが後から力になるから!とスタッフたちを鼓舞していました。

そんな中、ある店長が「学校が休校で給食もないし、子どもたちのいる家庭に食事の提供がしたい」と申し出がありました。

──共働き家庭だったら、なおさらありがたいです

「おかあさん弁当」というお弁当を作り、価格は「100円」にしました。始めてみたら子どもたちが100円を握りしめて、おおぜい店に来てくれました。

カウンターに並ぶお弁当

「おかあさん弁当」を詰める作業には、志に共感したお客様も応援にかけつけた。

──100円だと大赤字ですよね?

と思うでしょう?それが最終収支がプラスマイナスゼロだったんですよ。理由はご近所の店や取引先が「つじやさん、がんばってね」といって材料をカンパしてくれたからです。

そのうちお客様から「何か手伝いたい」「私もお弁当詰めますよ」とボランティアで来てくれるように。

──やさしさの輪が広がってますね

夏はかき氷もしましたよ。これは無償で配りました。これも儲け度外視だから子ども達に大人気。時短営業が解除されるようになると、「いつも子どもがお世話になっています」と家族ぐるみでご来店いただくことが増えました。

私は、発案した店長のアイデア・行動力をみて、目先の利益じゃなく必要なものを欲しい人に届けることの大切さに気づかされました。やっぱり言葉通り「give-and-take」であって、「take-and-give」じゃない。与える事が先なんですよね。

店先のかき氷に並ぶ小学生

儲け度外視!店先でかき氷の屋台を実施。

──コロナ禍で人員削減などは?

社員さんに関しては一切ありません。コロナ禍に突入した時点で全員集合をかけて「お給料は全額支給し続けるので、みんなでのりきろう!」とお伝えしました。
アルバイトのシフトは減りましたが、店長がスタッフ一人ひとりに国の補助金の申請の説明をしたり、記載できる箇所は全て記載して「あとは名前を書くぐらいでええからな」って一生懸命サポートしてくれてましたね。

──コロナ禍で人が辞めずに成長の機会になっていますね

正直に言えば、コロナ禍で店を開けたほうが赤字です。しかしこの期間の過ごし方次第で、終息した後の会社の姿が変わると思っていました。社内外に挑戦する姿勢を見せたかったんです。

インタビュー風景

Z世代のやる気に灯をともす方法とは~楽しめる環境創り【安心】と【やりがい】

──今年度は出店続きだそうですね。人が育ってるからこそ出店も叶うのだと思います

おかげさまで10月に『ムゲン鶏餃子と焼鳥 つじや』、2023年4月頃には完全会員制でコース9,000円のみの『鶏匠 つじや 本店』をオープン予定です。
成長といえば、最近、20代のマネージャーも誕生しました。

──20代でマネージャーだと年下の上司になり「やりにくい」などの声があがりそうですね

基本ですが、
【評価(ルール)】
【見える化(共有・効率化・競争意識)】
【文化(コミュニケーション)】
です。基準をつくる事で年齢関係なく「ルールなんで。」と伝える事が出来ます。

LINEグループやDROPBOX、Googleカレンダー、オーダーアプリなんかを使い、情報を見える化し、共有したり、作業を軽減し売上を上げるアイディア出し、コミュニケーションに時間を使えるようにしています。
また店舗の成績(売上、FL、QSC)をポイント化し各店競っていただきます。その成績もLINEグループや社内新聞にして店舗に貼りだされています。感情の矢印が上司でや部下でなくポイントに行くので、争いで無く同じ方向を向き一丸となれます。

全社員LINEで日報を書いてもらうことで、その時の社員さん達の空気感を感じる事ができるので、上司や同役職がフォローに入れるようになっています

あと文化はとても大切にしています。
BBQや勉強会、社員旅行なんかを通じて、楽しむ文化も醸成されているので、一丸となりやすいのかなと思います。

従業員の集合写真

──日報は形骸化しやすいですが、いかがですか?

日報を出すことがゴールではありません。それを使ってコミュニケーションのきっかけにします。「今日も元気に頑張りました。明日も元気に頑張ります」と書くスタッフもいますよ(笑)。でもそれはそれでいいんです。「頑張ったって、何を頑張ったの?」と聞いてあげられるから。

──そうですね(笑)。でもZ世代は目立ったり、出る杭にはなりたくないという人も多いようです

『出る杭になれ!』で、なく
『出たくなる環境創り』と考えています。
出たくない人は面接で落とします(笑)。弊社は成長を大切にしていますので。しかし【豊かさ】が多様化したと感じていますので、入社時研修で「自分理念」を設定してもらいます。個人のエネルギーを最大限に使うために、自分の本当の喜びと向き合ってもらいます。

お店の外観

──「自分理念」とは自分が何のために働くのか、ですね

「自分理念」は例えば、「世界旅行がしたい」「お金持ちになりたい」などなんでもいいんです。働くエネルギーになってくれれば。「自分理念」を達成するための行動を「目の前の大切な人の笑顔のために」という「会社の理念」につなげてあげることで、ここで働く価値を感じてもらえたらと思って丁寧に面談します。

入社時以外にも、当社は、面談を3カ月に1回行っています。コロナ禍でとぎれることもありましたが、対話ができていたら、不安に思っていることも察してあげられるので面談は大事だと思いますね。副店長までは店長が面談し、店長はエリアマネージャーが面談。それが終わったあとに私が全員と面談します。

──人を理解するのに対話は大事ですね

そうですね。それにね、最近の10〜20代の「自分理念」はなんというのか“綺麗”なんですよ。

生産者の方が鶏を抱きかかえている

食材にこだわる「TSUJIYA GROOVE」では生産者との関係も大切にしています。

──“綺麗”というと?

私利私欲がないというか。例えば今の若い人は「親を喜ばせたい」や、「ごみを減らし環境問題に取り組む」など社会派な「自分理念」を掲げるスタッフもいます。

当社では環境問題にも取り組んでいて、車はお店の廃油を自社精製しバイオディーゼル燃料で走らせています。断っておきますが、違法ではないですよ(笑)。そのほかにも使った卵の殻を生産者さんの畑に持っていき、肥料として使っていただく取り組みも行っています。

若手の小さなアイデアに耳を傾け、会社の取り組みに採用していきます。このように自分の考えが会社の理念と共鳴しあい、

  • 自分がやりたいことをやれていること
  • 会社のためにも、周りや世の中のためになっていること

が働く楽しさにつながる。

お店で働いていた方の卒業式の様子

会社の自慢を尋ねると学生バイトを見送る「卒業式」(画像上)を挙げる人も。

──小さなアイデアをすくいとり、一緒にカタチにしていくことが、やりがいや感動につながるんですね

そのためにも店長が、人材育成のサークル(下部・表)の仕組みをきちんと捉えているかが大事になります。現在、アルバイト含め100人ほどスタッフがいますが、1人の100歩より100人の1歩が大事だと考えています。仕組み化し最低限のラインを担保することで【安心】を生み出します。そして各役割の中で自由度を持たせ、任せることで【やりがい】を生みます。

弊社では店舗ミーティングを必ずやっていただきます。やらなければ社員さんのお給料が下がります(笑)。しかしちゃんとやればやるだけ、売上が上がる事を知っているので、みなさん試行錯誤しながらミーティング内容のクオリティをあげ取り組んでくれています。

そこでも大事なのは楽しさです。
全員が発言できるように考えたり、懇親会を行ったり工夫してくれています。

「TSUJIYA GROOVE」のマネジメントサイクル

「TSUJIYA GROOVE」のマネジメントサイクル。入社時に説明する。

──だから社員だけでなく、アルバイトも一緒に目標に向かえるんですね

10代、20代の学生スタッフからは教わることばかりですよ。Instagramの使い方は上手いし、接客の動画マニュアルも作ってくれるし。うかうかしてると“おっさん”は置いて行かれますよ。いくつになっても過去に生きたら終わり。どんどん新しいことにトライしていかないとね。


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