まだ食べられる食材を廃棄する「フードロス」が社会問題となっています。今、世界中で取り組んでいるSDGs(※)の課題として「飢餓」「食糧問題」などが挙げられる中、日本ではフードロスが年間522万トンにも及んでいます(消費庁・2022年9月資料)。
そんな社会の問題をビジネスとして取り組んでみようと、2022年2月、大阪に「フードロス専門料理店 Hi,KI(ハイキ)」がオープンしました。大阪駅から徒歩約10分。12席ほどのカウンターのみの店舗です。オーナーは25歳、シェフは26歳というZ世代のアイデアによって誕生したこの店には、ランチ時はラーメン好きな人が集まり、夜はアルコールと料理を目当てに夜な夜な人が集まり早くも人気店に。オーナーのルーキーこと森 悠汰さんにお話を伺いました。
※SDGs/人類がこの地球で暮らし続けていくために国連が提唱している持続可能な開発目標。2030年までに達成すべき目標にむけて世界各国で取り組んでいる。
ルーキー(森 悠汰)氏/「フードロス専門料理店 Hi,KI(ハイキ)」オーナー
1997年生まれ、神奈川県出身。高校で進学校に通うもバンド活動に明け暮れる。大学進学をやめて10代で無一文生活をアメリカで実践。高校卒業後、大阪に移住。社会主義国・キューバに1ヶ月滞在したことを機に、イベント企画を通じて、社会問題を解決するための仕事をしたいと思うようになる。20歳の時にその基地として「都会で村作り」をコンセプトにした「Uvillage(ユーヴィレッジ)Bar&GuestHouse」を開業。多彩なイベントを手掛ける。2021年「フードロス」をテーマにした飲食店の経営の事業化をめざす。2022年2月「フードロス専門料理店 Hi,KI」OPEN。
この料理がフードロスの食材から!?どんな理由で廃棄されているの?
──早速なんですが、フードロスの食材を使った料理というのが気になるのですが。
わかりました。では「酒アテ 5種盛り」をおつくりしますね。すぐできますよ。
卵は規格外のちいさい卵なんです。サイズはバラバラ。シラスは、大阪の岸和田漁港のものを扱う日もありますが、今日は愛媛産です。ただすべて廃棄食材というわけではなく、柿にのせているマスカルポーネなどは普通に仕入れたものです。
──シラスもポテトサラダも美味しいです。これがフードロスになる理由はなんでしょうか。
シラスもね規格外なんですよ。シラスは大きくなると価値が下がる食材なんです(※)。ポテトサラダに使っているじゃがいもは、規格外の大きさだったり、傷がついていたりするためフードロスになったものです。芽が出ているなど、味そのものに影響を与えるようなものは仕入れないようにしています。
※卵からかえって2㎝以内が「シラス」として流通される。
チャーシューは当店のメインメニューが「ラーメン」なので、その切れ端がたくさん余るんですよ。それを利用しています。
──お客様の反応はどんな感じですか?
「これが廃棄食材なの?」「普通に美味しい」という感じですよ。お昼はラーメンがメインの店で、夜はラーメンに加えて、お酒に合う料理を提供しています。ランチ時は周辺の会社員が中心で、おかげさまで回転はめちゃくちゃ速いです。夜もラーメンだけなら早いですけど、カウンターだけの店ですし、一人で来る人もいれば、2〜3人で連れ立ってのんびりお酒を楽しむ人もいてそれぞれです。
「食べて楽しんで社会貢献できる、そんな店があったらいいいよね」が出店のきっかけ
──そもそもなぜフードロス専門店を出そうと思ったんですか?
店を立ち上げるのは、これが初ではなくて5年ほど前に、世界中からいろんな人たちが気軽に訪れるゲストハウスとBARを作りたいと思い、仲間とクラウドファンディングで資金を集めて、「Uvillage(ユーヴィレッジ) Bar&GuestHouse」を開業しました。
そこではいろんなイベントを企画していて、社会問題について楽しみながら理解を深めるイベントを催していたんです。その中の1つにフードロスをテーマにしたイベントもありました。
日本でも大量の食べられる食材が捨てられていて、だったらそれを使った飲食店を開こう。フードロスの食材を食べて飲んで楽しむだけで、社会貢献になる店があったらいいんじゃないかと。
2021年から、現在、シェフを務める島村と準備を始め、クラウドファンディングで資金を集めて、2022年2月に「フードロス専門料理店 Hi,KI」を立ち上げました。
──フードロスの実情を知って「やらねば」と?
そういうタイプではないんですよ。メディアで取材を受けると「正義感が強い人」とか「熱量のある人」と思われがちなんですけど、そうではなくて「やってみたら、おもしろくなるんじゃないか」という感じですね。単純に面白いことをしたい人です(笑)。
今も「Uvillage(ユービレッジ)」の仕事を兼任しています。取り組みはすべて「好き」や「面白い」がベース。今はそっちはバーのみを営業していてイベントは仲間とみんなで決める感じですね。
フードロスの食材でも美味しさをとことん追求
──廃棄食材というと質が低いイメージですが、料理のクオリティが高いのに驚いてます。
料理は共同経営者であり、シェフのしまむー(島村)に任せています。ぼくは料理人として働いたことがなく、彼が作るレシピ通りに作ります。現在、アルバイト含め5〜6人いるのですが、そのレシピがあれば、誰がつくっても、フードロスの食材で美味い料理になります。
というか、味や食感が大きく左右されるような食材は仕入れないんですけどね。
しまむーはいつも食材や料理の勉強をしてますしね。料理に対する探究心はすごいです。
──フードロス食材でのメニュー考案の工夫やポイントはあるんですか?
あります。まずメニューは、なんといってもお店で提供した時にお客様に満足してもらえる商品作りが第一です。その中で現場のオペレーションや安定して同じクオリティのものを提供できるかなどを考えてメニューを作成してくれています。
工夫としては、フードロスならではというわけではありませんが、加工や処理の難しさでフードロスになってしまう食材が一部あるので、例えば筋ばっているお肉を圧力鍋で数時間煮込んだり、小骨が多い魚を素揚げした後に合わせ酢につけて食べやすくし、小骨の煩わしさを感じさせないようにする、などの調理を用いることがあります。
──料理の値段はどうやって決めるんですか?相場より安い気もしますが。
料理の値段、安いですか?そうかな。あくまでも原価とコスパをみながらですね。シラスなどは確かに正規品より、ぐっと安いのでね、モノによりけりです。
捨てられるものでも、食材の価値を見直してこの店で美味しい料理にすれば、お客様にとっても仕入れ先にとってもいい。だから生産者さんや事業主さんが損になるようなお取引はしないんです。
「Hi,KI」流、産地開拓。フードロスの食材をどうやって仕入れているの?
──どこから仕入れているのですか?
メインメニューのラーメンについていえば、スープの出汁は鯛のアラからとっているんです。それは高知や三重の水産加工会社から仕入れています。そこは鯛の身の部分だけを加工して出荷するので、工場が運転している限り、いつもアラなど大量に廃棄食材が生まれている状態です。
ほかにも高級路線の店は、品質が高く最上のものしか扱わないのでロスが出やすくなります。
例えば、今、召し上がった柿も単価の高いフルーツをメインに扱う高級果物店から仕入れたものです。少しの熟れすぎや傷なら、普通のスーパーだったら特価品にするなり、陳列棚に並んでいるぐらいのレベルですが、その店にとっては廃棄食材となるんです。
今日の黒板メニューになっている「日本産のステーキ」「牛タン」は、大阪市内の高級焼肉店の廃棄肉です。その店の客単価は3〜5万円。高級の牛肉を仕入れて最上の部分のみをメニュー化しているので、それ以外はいくら美味しくても廃棄扱いになるんですよ。
野菜などは農家さんとつながって産直で仕入れることもあれば、卸売市場に入っている八百屋さんとも取引がありますね。
──農家さんだけでなく、いろんなルートがあるから仕入れに困ることがないんですね。
食材に困ったということは、オープン以来一度もないです。常時、手に入る食材を使ってメインメニューのラーメンと、「酒アテ」を9品ほどをグランドメニューとして用意しています。黒板メニューにあるものが、現在、手に入るフードロス食材を使ったメニューです。こちらは“ある時”だけ。フルーツなども季節で変わりますね。
───仕入れ先の開拓はどうやってしているのですか。
ほぼ、紹介ですね。イベントを通じてフードロスや食材に関心のある方と知り合って生産者さんを紹介してもらったり、友人や、普通に店で飲んでいて知り合った方に紹介してもらうこともあります。
例えば、今こうして話してるみたいに会話が始まるとするじゃないですか。
「どちらの方ですか?」
「△△県です」
「だったら◎◎◎◎の野菜が有名ですよね?」
「そうなんですよ」
「作っている農家さん、知り合いにいないですか」と聞いてみる感じです。
あとは「フードロスとして仕入れたいんですけど」というふうに、こちらのコンセプトも話していきます。本当にこれぐらいのノリです。そうやって開拓してきました(笑)。シンプルに、地道に繋がっていく感じです。
───なるほど。生産者さんとつながるのは大変だといいますが、それなら言われた方も紹介できそうな人が頭に浮かびます。
そりゃスーパーや市場から仕入れられたら楽ですよね。ただ1つ1つそうやって、紹介してくれる方と繋がり、生産者さんとダイレクトに繋がっていっただけです。“つながるのが大変”というのは、それをやらないだけなんじゃないかなと。
それに紹介していただき、きちんとアポイントをとってからいくので、生産者さんや事業主さんに肩透かしをくらったり、商談できなかったということはありません。もちろんスジが入ったオクラなど使えない食材だったり、商談がうまくいかないことはあります。
───生産者さんからはどんな声がありますか?かえって人件費がかかるなど敬遠されませんか?
それはコスパの問題です。本来なら捨てるものがお金になりますし、コスパが合えば成立します。僕らの取引の多くは生産者さんに値段を提示してもらっています。後はこちらで使えるか使えないか決めるだけなので難しい商談になるというわけではないです。
農家さんだったら、数%でもロスはきっと出てると思うんです。出荷量の1%でも年間量にするとめちゃめちゃあるじゃないですか。だから「ありがたい」という声をもらうことが多いですね。
社会問題こそビジネスの需要がある
──今後、「フードロス専門料理店 Hi,KI(ハイキ)」がめざしていることは?
この店は継続してやっていくつもりですが、僕自身はまた新たなことをチームを組んでやろうと思っています。もともと企画やアイデアを形にすることが好きで、それでこの店もスタートしています。僕は愛想もないし、飲食店の店主は向いてないので運営は誰かに任せます(笑)。でも何をやるのかは全く未定です。
──例えばフードロスで子ども食堂を開くなど、社会問題と福祉を掛け合わせる取り組みは?
あくまでも持続的に成長していくためにはビジネス視点を大事にしていきたいと思っています。社会問題はビジネスとしての需要があると思うので、ボランティアにするつもりはないですね。
「Hi,KI(ハイキ)」で美味しい料理とお酒を楽しんでることが、フードロスに貢献していて、飲食店の強みであるリアルなコミュニケーションを通じて、フードロスを知る人を増やす場所になればいいかなと。基本、楽しいことが好きなんで。
──いいですね!本当に今日はお忙しい中、ありがとうございました。
まとめ
今回の取材で、フードロスは世の中のいろんなところで、いろんな理由でがあることを知りました。フードロスの専門店として続けている店はあまり例がないので、何が「難しい」のか「困難」 なのか知りたいとのぞみましたが、それに軽やかに応えてくださったルーキーさん。
「好き」や「面白い」がベースというだけで、今までになかった“ハイキ”という店を形にしてしまったことに最初は驚いていましたが、そこには、「食べる人も、生産者も、社会もみんなにとって良い形ならいいよね」というシンプルな考え方を軸にしているからこそ、深刻ぶらず、楽しい店なんだと感じました。
大量に捨てられるはずだった鯛のアラから生まれたラーメン、ぜひ食べてみてくださいね。徒歩5~6分にはBar「Uvillage(ユーヴィレッジ)」もあるので両方を楽しむのもおすすめです。
<インタビュー・記事作成:杉谷 淳子、撮影:Banri、画像協力/「フードロス専門料理店 Hi,KI」>