大阪府ではカフェブランド『potto(ポット)』はじめさまざまな話題店を手がけ、石川県では若い観光客に人気の体験型レストランや郷土料理店を運営。
大阪・石川の2つの会社を経営するのは代表取締役の田端 弘一さん。
「いったい何屋さん?」「田端さんってどういう人なの?」
前編では田端さんに「働く女性」をコンセプトにした会社経営や設立の背景についてお伺いしました。
今回の後編では、ブランド開発における斬新でユニークな発想がどこから生まれてきたのか、そしてトリップアドバイザーにおいて石川県・金沢の飲食店で1位2位を独占。SNSを追い風に22年はトラベラーズチョイスアワードのW受賞に至った地方創生のノウハウと想いをインタビューしました。
▼前編はこちら
「働く女性」中心の外食企業ってどんな会社ですか?
田端 弘一(たばた ひろかず)氏/株式会社h,a,s!、株式会社SU-BEE 代表取締役社長
石川県加賀市出身。中京大学を卒業後、リゾート開発の営業職を経験した後、仲間と飲食事業を起業。副社長に就任。2011年に退職し、2013年に大阪市に本社を置く株式会社h,a,s!設立。2015年、石川県にて株式会社SU-BEE設立。現在、大阪・石川の二拠点生活を実践中。
トリップアドバイザー1位獲得!SNSが追い風に
──石川県を拠点にするSU-BEEですが、金沢の『COIL(コイル)』『TILE(タイル)』などは、SNSでの拡散を主体とした体験型の飲食店です。このようなスタイルはどこから生まれたんでしょうか?
今のSU-BEEの考え方になったのは、体験型レストランである「COIL」が始まりなんです。
それまでは、「都心と同じものを地方に」と考えていましたが、どうしたって地方の飲食店という事実は、これから先もゆるがない。それをポジティブにとらえようと思いました。
さらに金沢という街は基本的に、お金を持った年齢層の高い人が楽しむ観光地という状況がありました。
だから「COIL」をやるときに、金沢という伝統的な観光地を再定義する必要があったんです。
──「COIL」「TILE」は、世界的な旅の口コミサイトで知られるトリップアドバイザーの金沢の飲食店で1位と2位を独占。22年はトラベラーズチョイスアワードをW受賞しました(「COIL」は21年も受賞)。この賞は厳しい条件をクリアした飲食店しか受賞できないといわれています。
実はそこは最初から狙ったものなんです。都市型のカフェを運営していたときは、グルメサイトのレビューの点数を取らないといけないと考えていたんですが、マーケットが小さい地方だと、そもそもレビューする人が少なくて、評価が偏るんですね。
だから「COIL」では、グルメサイトは一切気にしないでおこうと決めました。それよりも、海外の観光客に強いトリップアドバイザーで1位を取ろうと決めたんです。海外からのお客様に向けた店にしたかったから。
だから金沢を再定義しようとなったときに、海外の方は、本当はそんなに生魚が好きじゃないだろうな、お茶も楽しみたいだろうし、お味噌汁も楽しみたい、巻き寿司の具材も生魚でなくてエビフライを巻きたいんじゃないとか、ばーっとアイデアが出ました。
※「COIL」動画
けれども2018年のオープン当初は、びっくりするくらいお客様が入りませんでした。社内は不安で沈んでいましたね。本当は僕もそわそわしていたんですが、ずっと「大丈夫だから!」と言って。
ところが4ヶ月ほど経って、急に国内の学生さんを中心に店に来てくれるようになりました。海外の観光客ではなく国内のZ世代が、「COIL」をSNSで広めてくれたんですね。それで外国人とZ世代の感度には、親和性があるんじゃないかと気づいたんです。
──「COIL」はInstagramやTikTokなどのSNSで評価が高いです。SNSを見ると卒業旅行で行く若い方が多いですね。
金沢では、金沢21世紀美術館に代表するようなアートカルチャーが根付いてきていました。それもあって「COIL」ではアート性を表現して、金沢に寄ったらまず21世紀美術館に行って、その後に「COIL」で食事する、という流れで来てもらえるようになったんです。
──SNSでの拡散・集客は計算にあったんですか?
もちろんです。その頃はまだTikTokの追い風はなくて、あとからついてきた感じ。
Instagramに関しては、「動き」にこだわりました。Instagramで評価されるには、動画にしてもらわないといけないんです。ということは、席に座って食事するだけでなく、「動き」が伴わないといけない。
そこで「お茶を汲みにいってもらう」という動きを取ってもらう工夫をしました。そのために、店内にお茶を淹れるスペースを設けて、席から移動してお茶を淹れてもらえるよう、100席だったのを60席にしたんです。
──「COIL」「TILE」、さらに「BUBBLES BURGER(バブルス バーガー)」もですが、食材を入れるのに四角いハコを使っています。食卓にもこだわりがありますね。
あのハコは全部、オーダーメイドなんですよ。自分だけが使っていいお道具箱の感覚です。
「COIL」の細巻き寿司の原点は「自分で作る」です。自分が作ったものだと、他人が作ったものよりも、なぜか美味しく感じるんです。本当に不思議な人間心理ですが、自分が選んだ具材で、自分で細巻き寿司を巻くと、誰もが「美味しい」と言うんですね。友達が作ったものには文句を言っても(笑)。
──発想の源は、田端さんが考えたものを形にしているんですか?
いつもこう仲間と一緒にたわいない話をしながら作っていく感じです。
とにかく脱線したいんです。
企画書として文字にせずに、「なんであれって美味しいんだろう?」とか「コーヒーのない店ってやったことないよね」とか「何をだそう?」「お茶かな」とか。
「お茶なんかにお金だしてくれる?」「千利休みたいに自分で淹れたら面白いんじゃない?」と、だらだらとしゃべるんです。それを繰り返します。今までなかったものを作り出す実験ですね。なにか発明できたらいいなという。
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