株式会社h,a,s!、株式会社SU-BEE田端代表前編アイキャッチ

前編トップ(株式会社h,a,s!、株式会社SU-BEE田端代表)

『potto(ポット)』ブランドのカフェを手がける大阪府の「株式会社h,a,s!(ハズ)」。
体験型レストランや郷土料理店を運営する石川県の「株式会社SU-BEE(サビー)」。

どちらの会社もそれぞれに個性を放つハイセンスでユニークなブランドを展開しています。この2つの会社を経営するのは代表取締役の田端 弘一さん。

「いったい何屋さん?」「田端さんってどんな人かしら?」
わきあがるナゾを解き明かすべく、田端さんにインタビューしました。

前編は「働く女性」をコンセプトにした飲食店ビジネスのあり方やその背景をお伺いしました。後編ではブランド開発やSNSでヒットに火をつけた地方創生の成功の秘密を語っていただいています。

▼後編はこちら
トリップアドバイザーで“すごい”賞を受賞!失敗してもいい。数字を目標にしない。SNSで<地方創生>成功のカギ

田端 弘一(たばた ひろかず)氏/株式会社h,a,s!、株式会社SU-BEE 代表取締役社長
石川県加賀市出身。中京大学を卒業後、リゾート開発の営業職を経験した後、仲間と飲食事業を起業。副社長に就任。2011年に退職し、2013年に大阪市に本社を置く株式会社h,a,s!設立。2015年、石川県にて株式会社SU-BEE設立。現在、大阪・石川の二拠点生活を実践中。

「よく分からない会社」は、モヤモヤから生まれた

まずは、株式会社h,a,s!(以下、h,a,s!)、株式会社SU-BEE(以下、SU-BEE)が展開するブランドをいくつか紹介します。

「COIL(コイル)」(石川県金沢市)

COILガラス張りエントランス

具材をチョイスし自ら手で巻いて「細巻き寿司」を楽しめる「COIL(コイル)」(石川県金沢市)

「TILE(タイル)」(石川県金沢市)

TILE内観

パスコードを入手して開くにじり口が目印の金沢薬味海鮮丼の店「TILE(タイル)」(石川県金沢市)

「BUBBLES BURGER(バブルス バーガー)」(福井県福井市)

植物由来で7色を彩るバンズに具材を選んで挟む「BUBBLES BURGER」(福井県福井市)

植物由来で7色を彩るバンズに具材を選んで挟む「BUBBLES BURGER(バブルス バーガー)」(福井県福井市)

──田端さんは大阪でh,a,s!、石川でSU-BEEという2つの会社を立ち上げ、それぞれに個性的な飲食店を手がけられています。とにかく尖った個性派ぞろいというか、調べるほどによく分からなくなってきて(笑)。

ははは(笑)。いや実は「この会社、何をやってるんだろう?」という風になりたいと思っているんです。でも最初からじゃなかったんですよ。

石川で展開している店舗にしても最初は、コンセプトはそれぞれあっても、いわゆる都心にあるカフェをそのまま地方に持ってきたような形でやっていたんです。

──都心のおしゃれなカフェが地方でも楽しめるというような。

そうです。眺めのいい場所であったり、植物をテーマにしたりして、「地方で暮らしていても、おしゃれなカフェに行けるよね」というような地元の若年層のニーズに応えるようなものを作りたいと思って。

BUBBLES BURGERデッキ。足羽山公園からの絶景

福井県福井市の足羽山公園にあるカフェ『足羽山デッキ』。現在は「BUBBLES BURGER」に業態変更。

都会的なものであったり、ハイセンスなものであったり、斬新なものを身近に提供したかったんですね。それぞれに評価もいただいていたし、収益も上がってはいたんです。

でもなんだかモヤモヤしていて。

──地元の若者の心をつかんでいたのに、モヤモヤが?

なんというか…、「消費されている感」を感じたんです。
東京や大阪のような都市と違って地方は人口5万人というようなマーケット規模です。なので常連さんを獲得していくことが収益モデルとなります。

だから地元の人たちが欲しがることをやろうとしていたんですね。たとえば常連のお客様から「セットメニューに110円でコーヒーがついたら嬉しい」というような声があれば、その声を採り入れて、ニーズに応えようとしてきました。それは悪いことではないんです。

だけどニーズに応えて、「コーヒー一杯で何時間でも過ごせる居心地いいカフェ」というものを追求していくと、大手のチェーンメリットと同じ理論になっていくんですよ。それはつまり、客単価も回転数も上げていくことができない状態。そうなれば、僕たちの小さな資本力では絶対に勝てないというジレンマが生まれます。

だから、そうではなくて僕らが主導権を握れるような店を作っていかなければならないと思いました。

94日後に閉店するローストビーフ食堂店内

「94日後に閉店するローストビーフ食堂」(大阪・南船場)。連日50m以上の行列ができた。実際にオープンから94日後の2021年12月19日に閉店。

──顧客の声に応えるのではなく、経営側が主導権を握って運営できるお店?

そうです。なぜ僕たちが主導権を握る必要があるのか。

たとえば、お客様の声に応えてメニューの単価を下げれば営業利益が下がります。そうすると会社の内部留保も小さくなっていき、給与として還元がしにくくなります。
※内部留保:配当・役員報酬などを差し引いた最終的な利益として社内に蓄積されたもの

何より問題なのは、投資ができなくなること。新しい業態や新しい商品の開発といった場面で、ある意味「失敗してもいい」ようなチャレンジができなくなるんです。チャレンジができないと、手堅い事の再現性ばかりを求めていくことになってしまうでしょう。

そんなことをしていたら、僕が今の会社を立ち上げた意味もなくなってしまうので。

「上場」という野心と、そこから降りたこと

──今の会社を立ち上げた意味とはなんでしょうか。

僕は前職でも仲間と飲食事業を立ち上げているんです。その時に、新卒では入ることができなかった上場会社というものに憧れを持ち、入れないのであれば「自分たちでつくる」と志して、実際に上場までこぎつけました。でもたどりついてみて、「本当に上場が必要だったのか?」という疑問を抱いたんです。

インタビューを受けるSU-BEE田端代表

僕は、ずっと現場に立っていたんです。年間に何十店舗もの立ち上げを、ほぼすべて立ち会っていました。

僕自身は全然平気で、がんがん働けていました。でも体力の問題や適した働き方というものは個人によって異なるものです。新卒の女性社員を毎年迎える中で、ホルモンバランスをくずして体調を悪くしたり、精神的にも疲弊する子が出てきたりしたんです。

そんななかで僕は働くことと人生は深くつながっていると、強く感じるようになりました。

「食堂カフェpotto関目店」にある子供用のプレイスペース。

食堂カフェpotto関目店」にある子供用のプレイスペース。

僕らのビジネスモデルはこれでいいのか。上場をしたら、決まった期間までに出店をしないといけない、いくらまで収益を上げないといけないといった制約がつきまとうわけで、さっき話したような再現性の高い店舗展開が重要になってきます。

上場して見えてきたことがたくさんあり、違うビジネスモデルがないか、自分なりに探してみたくなったんです。

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