子供が3人嬉しそうなクリスマスの風景

キリスト教徒にとってはとても大事な年中行事がクリスマス。「クリスマス(英:Christmas)」は「キリストのミサ」という意味で、日本語では「降誕祭」、「聖誕祭」、「聖夜」と呼ばれますが、これはイエス・キリストの誕生を祝う日であって、誕生日ではありません
欧米ではクリスマスには家族で過ごし、クリスマスツリーの下にプレゼントを置き、サンタクロースがやってくる…そんなイメージを持たれている方も多いでしょう。

さて、日本のクリスマスケーキの定番といえば、何でしょう?イチゴと生クリームがサンドされたショートケーキや木の切り株を模したブッシュドノエルでしょうか。
では一方で、日本以外の国ではクリスマスにどんなケーキを食べていると思いますか?

皆さんは「シュトーレン」や「パネトーネ」といった名前は、聞いたことがあリますか?日本でも洋菓子店などで見かける機会はありますが、そのルーツを知る方は実は少ないのでは?

この記事ではイタリアやドイツなどヨーロッパを中心とした各国の伝統的なクリスマス菓子について、その歴史や魅力、楽しみ方などをご紹介していきます。

クリスマスシーズンを通して食する伝統的なお菓子

日本では、クリスマスを祝うのは12月24日・25日が主になりますが、キリスト教と深く関わるヨーロッパなどの地域では日本と過ごし方が異なり、「アドヴェント(待降節)」と呼ばれるクリスマスの約4週間前の準備期間からクリスマスシーズンが始まります。

クリスマスシーズンには、子どもたちも大好きなクリスマスならではのお菓子が登場!日本では、クリスマスのデコレーションを施した生クリームのケーキが定番ですが、世界中には多種多様なクリスマス菓子が存在します。
クリスマスシーズンを通して食される、魅力的なお菓子の代表的例をご紹介していきましょう。

暖炉をバックにクリスマスツリーが飾られてる画像

■クリスマス当日にかけて少しずついただくドイツの伝統菓子「シュトーレン」

ドイツで11月から焼き始められるお菓子「シュトーレン」。白い粉砂糖が全体にふりかけられた重厚感のあるお菓子で、12月にはパン屋さんやお菓子屋さんなどの店頭に並びます。
アドヴェントの期間、シュトーレンをスライスして、クリスマスに向けて毎日少しずついただくのが正式な食べ方。この時期の各家庭では、お客様にもシュトーレンでおもてなしするのが習慣だとか。
ラム酒などの洋酒に漬けたレーズンやオレンジピールなどのドライフルーツと、アーモンドやクルミなどのナッツが入っているのが特徴で、日が経つにつれ洋酒やフルーツの香りが馴染み、味わい深くなっていきます。

歴史としては14世紀、ドイツのザクセン州ドレスデンがシュトーレン誕生の地と言われ、粉砂糖がたっぷりかかった様子は、生まれたばかりのイエス・キリストを毛布でくるんだ姿をイメージしたとも伝えられています。また、キリスト生誕を祝福に来たゲストに、聖母マリアが焼いたお菓子とも言われています。

そのドレスデンでは、12月の第1土曜日に「シュトーレン祭り」が開催され、多くのパン職人によって作られた約3~4トンの巨大シュトーレンがパレードします。その後、ひと切れずつ販売されます。

最近では日本のお店でも販売される機会が増え、食べ比べのイベントなどが行われたり、人気のお店には行列ができたりすることも。ぜひ手に入れてみて、ご家族などで毎日シュトーレンをいただき、クリスマスに向けて気持ちを高めながら味わいの変化を楽しんでみてはいかがでしょうか。

シュトーレンが切り分けられている画像

■ふっくらと大きなイタリアの菓子パン「パネトーネ」

パネトーネ」はレーズンやサルタナ、レモン、オレンジなどのドライフルーツが入った、高さのある円筒形の大きなパン。糖分が多いものの甘すぎず、卵とバター、フルーツの穏やかな香りが魅力。食べ口も軽いのが人気の秘密です。

イタリアの各地でつくられ、別名「ミラノのドーム形の菓子」や「ミラノのカステラ風菓子」とも言われています。パネトーネの頭部には十字が刻まれたもの多く、これを縦に切り分けて皆でいただきます。

パネトーネがつくられるようになったのは3世紀や15世紀などとも言われ、仔牛の小腸から採取されるイーストである「パネトーネ種」が語源。このパネトーネ種を使うと保水性があり、独特の芳香で長期間保存できるのです。そのため、パネトーネは主にクリスマスプレゼントして使われています。実は、クリスマスにパネトーネを食べると恋が成就するという伝説もあるとか!
イタリアでは、クリスマスはもちろん、バレンタインやイースターなどお祝いの席にもパネトーネが登場します。

切り分けられたパネトーネの画像

■パネトーネと並びイタリアのクリスマスを象徴する「パンドーロ」

12月に入るとイタリアのスーパーや食材店に山積みにされるのは、「パネトーネ」と「パンドーロ」。一見、この2つの形は似ていますが、パンドーロは縦に“ひだ”が入っていることで、上から見ると星形が広がったように見えます。また、ドライフルーツが入ったパネトーネと異なり、パンドーロはシンプルなパウンドケーキ風の生地になっています。
「D’ORO(ドーロ)」とは黄金を意味し、別名「黄金のパン」とも呼ばれています。表面のこんがりとした見た目とは対象的に、中は黄色でキメ細かいスポンジのようです。

パンドーロの原型となったのはイタリアのヴェローナでつくられていた「ナダリン」というパン菓子と言われており、ヴェネツィアの「パン・デ・オーロ」やオーストリアのパン菓子、ブリオッシュの製法や材料などが組み合わされて、1900年頃に現在の形になったとか。

パンドーロは全体に粉砂糖を振りかけ、縦に切り分けていただきます。イタリアでは、スーパーなどでパンドーロを購入すると粉砂糖が別の袋に入っていることが多く、粉砂糖をふんだんに振りかけて、手も口も粉砂糖で白くしながら皆で楽しくいただくのが本場風だとか。チャレンジしてみたいですね!

クリスマスらしい飾りとパンドーロの画像

また、基本は縦切りですが、横向きにスライスすると断面が星形のようになり、少しずつスライスしてずらして重ねるとクリスマスツリーのようになってとってもキュート!スライスを重ねてその間に生クリームを挟んでデコレーションをするなど、“魅せ方”を工夫してみるのも楽しそうですね。

その他各国のクリスマス菓子いろいろ

他にも、世界各国のクリスマス菓子をご紹介!皆さんはどれを食べてみたいですか?

■フランス:熟成して味が変化する「ベラヴェッカ」

ベラヴェッカ」はフランス・アルザス地方の郷土菓子。
ドイツのシュトーレンのように、棒状のベラヴェッカを少しずつカットしていただきます。
ベラヴェッカは「洋ナシのパン」を意味し、スパイスと洋酒に漬け込んだ洋ナシやイチジク、プラム、アプリコット、レーズンなどさまざまなフルーツと、少量のパン生地を練り合わせて焼き上げます。少しずつスパイスが馴染み、日に日に熟成するように味が変化していきます。

■オーストリア・フランス:マリー・アントワネットが普及させた!?「クグロフ」

クグロフ」は帽子のような形の型で焼き上げる干しぶどう入りのブリオッシュ。一説ではフランスのアルザス、また一説ではオーストリアのウィーンで誕生したと言われているようです。マリー・アントワネットがお嫁入りする時に、クグロフをオーストリアからフランスへ持ち込んで普及させたという説もあるとか。

日本ではお菓子の一種としてとらえられていますが、塩やベーコンを使ったおかずパンのようなクグロフや、プレーンなクグロフをカットしチーズを乗せてクロックムッシュのようにして食べられることもあるとか。
このクグロフ、日本ではクリスマスのイメージが強いものの、現地ではクリスマスだけではなく誕生日やイースター、結婚式、クリスマスなどのお祝いの場面でも食されています。

クグロフと小さなツリーの画像

■スペイン:幸運が訪れる!?「ポルヴォロン」

スペイン南部のアンダルシア地方の修道院でつくられていたクリスマスのお祝いに欠かせないクッキーが「ポルヴォロン」。今ではスペインの各地でつくられています。
口に含むとすぐにほろほろと崩れる不思議な食感のクッキーで、崩れる前に「ポルヴォロン」と3回唱えることができれば幸福が訪れると言われているとか!

■イギリス:見た目も可愛い「ジンジャークッキー」

ヨーロッパを中心に古くから世界中で愛されてきた生姜入りのジンジャーブレッドの始まりは900年代とも言われています。
そして、お馴染みの人型の「ジンジャークッキー」になったのは16世紀頃。イギリスのヘンリー8世が、流行していたペストの予防に生姜を食べることを国民に推奨し、国民が国王に似せて焼いたのが始まりだとか。生姜やシナモンなどの強い香りのする香辛料は、魔よけの意味を持つことから、家族の無病息災を願ってクリスマスシーズンに作り、ツリーに飾るようになったとの言い伝えもあります。
クッキーの上にアイシングでデコレーションをするのも楽しいですね。誰でもつくりやすいので、挑戦してみてはいかがでしょうか。

さまざまな形のジンジャークッキーの画像

■スウェーデン:猫のしっぽのような「ルッセカット」

スウェーデン語で「ルッセのネコ」を意味する「ルッセカット」。猫のしっぽのような形の可愛い菓子パンです。
12月13日、スウェーデンではサンタルチア(聖ルッセ)を称えるお祝いをする「ルシア祭」が行われ、それに欠かせないのがルッセカット。バターとサフランをたっぷり練りこんだ甘い菓子パンですが、外側にレーズンを飾るのが特徴で、クリスマスシーズンになると家庭でもつくられています。

かごに盛られたルッセカットの画像

日本でも楽しもう!海外の伝統的なクリスマス菓子

ここでは、まだ日本人にはあまり馴染みのない海外のクリスマス伝統菓子を中心に紹介しましたが、いかがでしたか?知っているものはありましたか?

こうしたクリスマス菓子は、日本でも近年ではクリスマスの時期に洋菓子店やパン屋、デパートでも特集を組んで並べられるようになりました。
ぜひ、今年のクリスマスは海外のクリスマス菓子にも注目してみてはいかがでしょうか。そして、12月24日・25日だけではなく、少し前からゆっくりとクリスマスシーズンを楽しんでみれば、今までとは違った時間や気分を味わえるかもしれません。

料理を皆で分けて食べたり、長い時間をかけて食べ続けたりするものは、日本の古神道や古い儀式にも存在します。また、お節料理のゴマメやコブ、数の子など、食べ物の形や飾り付けに意味を持たせている日本料理も数多くあります。そう考えると、世界中で食文化は異なるものの、人々が食に寄せる想いは似ているのかもしれませんね。

<参考文献>

シュトーレンとパネトーネのお話」(ロワンモンターニュ)
クリスマスまで少しずつ楽しむシュトーレンの話」(OZmall)
つながる旅のキーワード vol.020 世界を旅している気分で。伝統のクリスマス菓子」(OZmall)
ヨーロッパで愛されるジンジャーブレッドの話」(OZmall)
パンドーロ」はイタリアのクリスマス伝統菓子!本場の食べ方とは」(All About)
ドンクのパン」(DONQ)
パンドーロ-クリスマスシーズンに食べられる「黄金のパン」-」(ナポリの窯)