和食給食

日本の伝統的食文化である「和食」。
栄養バランスに優れた独自の食文化は海外でも注目を集め、2013年にはユネスコ無形文化遺産に登録されました。

栄養面はもちろん文化的側面からも評価の高い和食ですが、日本では外食の増加や食生活の欧米化の影響で若年層を中心に和食離れが課題視されています。

そんな中、「次世代に和食という食文化を繋ぐこと」を目的に、学校給食を通して和食文化の継承活動を行う「和食給食応援団」が注目を集めています。
今回はその取り組みについてくわしく紹介していきます。

「和食給食応援団」とは?

2014年に結成された「和食給食応援団」は、「日本料理 賛否両論」の笠原将弘さんを中心に8人で始まった取り組み。

学校給食を通じて、未来を担う子どもたちに「和食」の素晴らしさを伝え、20年後の家庭の「和食」を育てることをコンセプトに、現在では北海道から沖縄まで約70名の料理人が参加し、学校給食の現場で多岐にわたる活動を行っています。料理人だけではなく企業も連携して、地域の課題や特性に寄り添った取り組みを展開しているのが特徴といえるでしょう。


魚をさばく様子

具体的な取り組みの一部を紹介します。

<和食給食応援団の取り組み実績>

◆和食料理人による和食給食献立開発サポート

実例1)
給食センターから最も遠い学校まで2時間かかる寒冷地、北海道での「冷めにくく、冷めてもおいしい和食給食」献立開発

実例2)
人生の節目や節句に食される日本の行事食を学校給食で学ぶための「年初めの給食で学ぶハレの日」献立開発

◆和食料理人が学校で行う調理授業

実例3)
生徒100人でチャレンジ!プロの出汁と地元の食材で郷土料理3品を作る食育授業

実例4)
小学校高学年の児童と一緒に!家庭でも再現しやすいオリジナルの「1.5番出汁」を作る食育授業

◆和食料理人と推進企業による食育授業

実例5)
なぜ、お節料理に「豆・昆布」が使われるのか。日本独自の文化「縁起物」について学ぶフジッコの食育授業

実例6)
器を通じて季節を感じ、自然に感謝を抱く心を学ぶ。九谷焼の一大生産地での食育授業

◆栄養士と調理員向けの調理実演会

実例7)
児童が食べたくなる和食の調理の基本を学ぶ勉強会(出汁の引き方〜苦手食材を克服するアイデア調理まで)

実例8)
離島でも充実した和食給食を安定提供するために調理技術とアイデアを学ぶ勉強会(長崎県学校栄養士会)

こうしたプログラムに共通するのは、和食の「文化」「伝統」「自然」「技術」を子どもたちが「座学」ではなく「体験」しながら学べるということ。
実際にプロの料理人による食育授業や献立開発では、出汁の香りやお皿に盛りつけられた食材の彩り、食べたときの食感や味など和食の魅力を五感で学んでいます。

給食現場で活躍する栄養士さんや調理員さんには、決まりごとや制約の多い学校給食の調理現場で役立つ和食調理の技術やアイデアが得られると好評です。また、プロの料理人の視点に触れることで、これまで当たり前と思っていたやり方や、制約やルールがあるから仕方ないと思っていたことなど、給食そのもののあり方を見つめ直すきっかけにもつながっているといいます。

和食を継承するために大切なのは、地道な食育

「心のこもった給食を作ることは、大人の義務です」と熱く語るのは、「和食給食応援団」西日本代表の「京料理 たか木」の高木一雄さん。
「和食給食応援団」発足前から、ライフワークとして地元兵庫県・芦屋の小学校で食育授業を行い、これまで多くの学校給食の質・味・技術の向上や和食文化の継承に力を注いでこられたそうです。

今回、高木さんには「和食給食応援団」の取り組みの中でも、和食の美味しさを伝えるために多くの小学校で繰り返し実施されているという「出汁」の授業についてお話をうかがいました。

鍋から昆布を引き上げる様子

和食の残食原因は「出汁」にあり!

学校給食の中でも子どもたちの食べ残し、いわゆる残食率が高いと言われるのが、和食メニュー。
「子どもは洋食よりも和食が苦手。和食の残食率が高いのはきっとどの学校にも共通することだと思います。でも、子どもたちは<和食>だから残すわけではなく、<おいしくない>から残しているだけ。おいしくない原因は<出汁>にあるんですよ」と高木さんは断言。

さらに「洋食には、人が美味しい!と感じる糖質と脂質が多く含まれています。一方、和食では油脂を使う量が少ないため、しっかり「うま味」を出汁から引き出さなければ、美味しいと感じてもらいづらいことになります。つまり、和食の「美味しさ」の一番のポイントは「出汁」なのです。」と高木さんは言います。

出汁のアップ

つまり、学校給食では「出汁」のおいしさが十分に引き出せていないことが、残食につながっているようなのです。

地域や学校によっても「出汁」の取り方などは様々ですが、多くの学校給食の現場では、水から昆布を入れて火にかけ、沸いたらすぐに昆布を引き上げてしまう出汁の引き方がほとんど。

ですがプロの和食料理人からすれば、これでは鍋の中に残っているのはただのお湯で、昆布のうま味を十分に水に落とし込めていないと言います。

プロのアドバイスする大量調理の学校給食における上手な「出汁」の引き方のポイントは3つ。

  • 大きな回転釜で出汁を取る場合は、昆布を入れたまま1時間以上煮出す
  • 昆布の味が十分に引き出せたら、鰹節を入れる
  • 鰹節を入れたらすぐ火を止めず、鰹の出汁をしっかり煮出す

昆布と鰹節の両方を使い、手間暇がかかるこの「出汁」は、「昆布に含まれるグルタミン酸と、鰹のイノシン酸が合わさることで、うま味が何倍もの相乗効果をもたらします」と高木さん。

多少贅沢な出汁の引き方であっても、うま味たっぷりの出汁を使うことで砂糖や醤油などの調味料が少量で済み、素材の味を十分に引き立すことができるのだとか。

子どもたちは本能でわかる!美味しい和食の香りと味


出汁の引き方を見る生徒たち

高木さんが小学校を訪問して行う授業では、子どもたちの目の前で「本物の出汁」の引き方を披露しています。家庭ではインスタントの出汁が多く使われる中、昆布と鰹で引く出汁を初めて見る児童も多いのだそう。

「出汁の香りが教室に漂うと、子どもたちは目を輝かせて『うまそう!』『これ絶対おいしいと思う!』『黄金の出汁だ!』と口々に言うんですよね。子どもたちには、何が美味しいものなのか、その香りを嗅いだだけで見極められる力がちゃんと本能として備わっているんですよ」と高木さん。

おいしい出汁を使うことができれば一番ですが、学校給食には1食分の予算上限があり、前日の仕込みができない、出汁ひとつ引くにも調理環境が十分でないなどさまざまな制約があるのも現実。
ですが、調理方法やアイデア次第で、制約内で美味しい出汁を引くための工夫などできることはまだまだあると高木さんは話します。

「和食給食応援団」が願う未来の食卓の姿

プロの料理人たちがこれまで培った技術や知識を駆使して、各学校の課題に即した授業や勉強会を提供するのが、「和食給食応援団」のプログラム。
その中にはどれも今の小学生たちが20年後に自分たちの子どもを育てる親になったとき、家庭できちんと「和食」が作れる未来がイメージされています。

給食という食卓で和食文化を継承することは、単に美味しい給食を提供することに留まらず、行事を大切にする心、自然の恵みを感じる心、季節を楽しむ心…和食にある「おいしい」の精神が受け継がれた20年後の食卓は、今よりも豊かに彩られているのかもしれませんね。

和食給食応援団ロゴ

「和食給食応援団」とコラボレーションしたい場合

「和食給食応援団」では、栄養教諭・学校栄養職員向けの講演・調理実演・調理実習や、学校を訪問しての児童生徒向け食育授業の申込を募集しています。
申し込みは「和食給食応援団」(合同会社五穀豊穣)が電話、FAXまたはメールにて受け付けています。実施に向けては、希望日程や内容、費用負担について選考があります。

2016年は300件ほど申し込みがあり、日本全国約100地域を訪問。これまでの実績や参加料理人、企業などの情報はHPに紹介されています。
ますます活躍が期待される「和食給食応援団」の今後の活動にも注目したいですね。

■取材協力:和食給食応援団
和食給食応援団webサイト
http://washoku-kyushoku.or.jp/
和食給食応援団Facebookページ
https://www.facebook.com/washokukyushoku

会社名:合同会社五穀豊穣
住所:〒104-0045 東京都中央区築地4-12-2-401
TEL:03-6264-1394
FAX:03-6893-6712
メール:info@gokokuhoujou.jp