シャーレにオレンジ色の菌が入っている画像

食中毒とは?

人は食事をした後におなかが痛くなったり、下痢をしたりすることがありますが、その原因のひとつとして考えられるのは「食中毒」です。「食中毒」とは、有害・有毒な化学物質等の毒素を含む飲食物を摂取することで起こる健康被害全般を指します。
食事をしてから1~3日以内にその症状が現れることが多く、嘔吐、下痢、腹痛などを引き起こし、ひどい場合は高熱が出るなど重症化することもあります。

軽い症状であれば時間の経過とともに改善することもありますが、人から人への二次感染などを引き起こす恐れもあるため、正しい知識と対処法を知っておくことは重要です。

施設別食中毒発生状況(厚労省2018年度データより)

2018年度の食中毒の施設別発生状況を見てみると、最も多いのは「飲食店・旅館(56.6%)」ですが、次いで多いのは「家庭(12.3%)」です。食中毒というと飲食店で発生するものというイメージを持っている方が多いかもしれませんが、家庭でも発生するということを忘れてはいけません。

原因と症状について

原因別発生状況(厚生省2018年度データより)

「食中毒」の原因としては、主に細菌、ウィルス、寄生虫など微生物などによるものと、自然毒、化学物質などが挙げられます。

2018年に起こった食中毒の内訳をみると、細菌が35.1%、ウィルスが19.9%、寄生虫が36.6%となり、その3つが原因で起こるものが9割を超えます。2014年の内訳を見ると、寄生虫の割合が少なかったのに対し、2018年にはその値が急増。これは、近年増えている海産魚や刺身などの生食に寄生するアニサキスに感染する人の割合が増えていることが原因と考えられます。

ではここで、食中毒の主な原因である細菌、ウィルス、寄生虫についてさらに詳しく解説していきたいと思います。

食中毒の主な原因物質の分類(厚生省2018年度データより)

細菌が原因となって引き起こされる食中毒は「毒素型」と「感染型」に分かれます。

毒素型」…食品中で大量に細菌が増殖し、その毒素を摂取することにより発病します。
感染型」…細菌が体内で増えて食中毒を起こします。

以下に食中毒の詳細と予防などについてまとめます。

お腹が痛そうな女性の画像

<毒素型食中毒菌>

■ボツリヌス菌

潜伏場所 土壌中や河川、動物の腸管など自然界。
主な感染経路 缶詰、瓶詰、真空パック食品、レトルト類似食品などにも注意。
症状 吐き気、嘔吐、筋力低下、脱力感、便秘、神経症状(複視などの視力障害や発声困難、呼吸困難など)。
対抗手段 容器が膨張している缶詰や真空パック食品は食べない。新鮮な原材料を用いて洗浄を十分に行う。低温保存と喫食前の十分な加熱。清浄化が必要。

■黄色ブドウ球菌

潜伏場所 人や動物に常在する。
主な感染経路 人・動物の粘膜から食品に感染し、食品内で増殖した菌が毒素を発生。その食品を食べることで感染する。おにぎりやサンドウィッチが感染源になることも。
症状 吐き気、嘔吐、腹痛、下痢。
対抗手段 指手の洗浄、調理器具の洗浄殺菌。手荒れや化膿創のある人は、食品に直接触れない。

<感染型食中毒菌>

■サルモネラ属菌

潜伏場所 人や家畜の腸内、河川・下水など。
主な感染経路 卵や牛、豚、鶏などの食肉などを食べることで感染。
症状 悪心、寒気、嘔吐、腹痛、発熱、頭痛、下痢、脱水。
対抗手段 卵や肉類はよく加熱調理する。鶏肉のサルモネラ属菌の感染率は20~30%もあるといわれており、特に注意。調理につかった器具なども洗浄、除菌するなど二次汚染にも気をつける。

■腸炎ビブリオ

潜伏場所 海水や海産の魚介類など。
主な感染経路 腸内ビブリオが付着した魚が流通過程や調理中などの不適切な扱いにより増殖し、それを食べることで感染。また、まな板や調理器具を介した二次感染もある。
症状 腹痛、下痢が主な症状、発熱や嘔吐をする場合も。
対抗手段 きちんと冷蔵庫(4度以下が望ましい)で魚介類は保存する。真水の中では腸内ビブリオは増殖しないため、調理前に流水で菌をよく洗い流すこと。

■カンピロバクター

潜伏場所 家畜、家禽、ペット、野生動物、野鳥等の動物の腸内。
主な感染経路 食肉(特に鶏肉)の生食や、鳥などの糞からの汚染、井戸水などの飲料水が汚染されていることもある。
症状 下痢(血便)、腹痛・寒気、発熱、嘔吐、頭痛、筋肉痛。カンピロバクターに感染した数週間後に手足の麻痺や呼吸困難をきたす「ギラン・バレー症候群」を発症する場合がある。
対抗手段 肉類は十分に加熱調理し、生肉は食べない。調理時には生肉と他の食品との接触を避ける。調理器具の洗浄、除菌。

■コレラ菌

潜伏場所 海産物で特に貝類、エビ、下水、養殖池など。
主な感染経路 日本国内では比較的少ないが、海外での生ものの摂取などによって感染。また感染者の腸内で増殖するため、便や嘔吐物などを介して口に入ることによる経口感染もある。
症状 痛みを伴わない水溶性の激しい下痢。嘔吐、脱水症状。
対抗手段 手洗いの慣行。特に熱帯地域や亜熱帯に広く発生するため、海外で生ものは極力避ける。

■赤痢菌

潜伏場所 海産物で特に貝類、水、生野菜など、人の腸管に入って増殖。
主な感染経路 汚染された食品、感染した人の便とともに排出されるため、それを触った手を介して経口感染していく。感染力が非常に強く、国内でも発展途上国からの帰国者などから患者が出ることが多い。
症状 大腸炎(粘膜の出血性化膿炎)、発熱、下痢、嘔吐、乳幼児の感染は死亡率が高い。
対抗手段 赤痢菌は熱に弱く、65度で死滅。食品を十分に加熱することや、手洗いの慣行が有効。汚染の可能性がある国では、生もの、水や氷などはできるだけ避ける。

<ウィルス>

殻付き牡蠣の画像

■ノロウィルス

潜伏場所 人の腸管内やカキなどの貝類内。
主な感染経路 カキなどの貝類、調理者を介入して二次汚染された料理などから感染。
症状 吐き気、嘔吐、下痢、腹痛、発熱。
対抗手段 牡蠣などの二枚貝は中心部までしっかり加熱。トイレ後、調理をする際は十分に手洗い。感染者の嘔吐物は塩素系漂白剤を含ませた紙や布で覆って消毒してから処理。

<寄生虫>

真さばが2尾ざるの上に載っている画像

■アニサキス

潜伏場所 魚介類。サバ、サケ、ニシン、スルメイカ、イワシ、サンマ、ホッケ、タラ、マスなど。
主な感染経路 アニサキスが寄生する魚介類を生で食べ、人の胃や腸に侵入し、食中毒を引き起こす。
症状 急性胃アニサキス症(食後数時間~10時間でみぞおちの激しい痛みと悪寒、嘔吐など)、急性腸アニサキス症(食後数時間~10時間で激しい下腹部の痛みと腹膜炎症状)
対抗手段 魚を生食するときは鮮度がいいものを使用。内臓があるものは素早く取り除く。目視でアニサキスの幼虫がいないかを確認する。

予防のポイント、かかってしまった場合の処置法、治療法

キッチンを消毒している画像

食中毒の予防には三原則があります。「つけない」「増やさない」「やっつける」です。
つけない」…まずは食品に菌を付けないよう、清潔な調理と環境を整えることに注意を払いましょう。調理器具などは用途によって使い分け、洗浄、消毒をこまめに行いましょう。また手洗いの慣行も必要です。

増やさない」…10度以上で細菌は増えやすくなるので、食品を迅速に冷却、加熱処理をする、調理後は早く食べることが大切です。

やっつける」…一般的に細菌は熱に弱いので、加熱が最も有効。中心部が75度で1分以上加熱が目安です。

食中毒はほとんどの場合、汚染された食品を食べることによって起こりますが、まれにコレラ菌、赤痢菌、ノロウイルスなどは感染力が強いため、嘔吐物や便などを介して人から人へうつる場合もあります。腹痛、下痢、などの異常がある場合、すぐに医療機関へ行き、人へ移さないように努めることも重要です。そして、感染した人の嘔吐物や便には直接触れないこと、ビニール手袋や塩素系漂白剤などを使い、処理には十分注意することが必要です。

中には、加熱に強いウェルシュ菌があることも最近話題になっています。
カレーやシチューなど、加熱後に室温で長時間保温されることにより菌が増殖するものもあります。食品を取り扱う時は、基本的に必要な分だけを調理し、早めに食べきることをおすすめします。

赤い鍋に入っているカレーの画像

まとめ

一口に「食中毒」といっても、その原因はさまざま。目で見ても臭いをかいでもわからないものも多数あります。そして、一年を通して発生することも理解しておかなくてはなりません。個々が病原体それぞれに対する知識をしっかりと身につけ、効果の高い予防対策を行うことが大切です。
それぞれの菌によって対抗手段が違うため、調理など食品に携わることが多い方は、適切な対抗手段を理解しておくことが何よりも重要です。