数種類の山菜がかごに盛られている写真

サクサクと香ばしい揚げたての衣の食感とともに、ほろ苦い春の香りが口いっぱいに広がる山菜の天ぷら。大地の息吹をとじ込めた山菜ごはんや和え物。好みのお酒と山菜料理を楽しむ、そんな贅沢なひとときを心待ちにしている人も多いのではないでしょうか。

山菜料理が食卓に並ぶだけで、グッと季節感が高まり会話もはずみます。一方で口にする機会が限られるためか、その種類や食べ方など知らないことが多いのも事実。
そこで今回は、山菜の種類や特徴、おいしい食べ方などをご紹介しつつ、その魅力にせまります!

農家の愛娘「野菜」vs.大地の野生児「山菜」

食用植物の中で、畑などで人間が管理して育成するものを「野菜」とよび、自然環境の中で自生するものを「山菜」とよんでいます。
山菜は、海辺から都会、里山、高山にいたるまでさまざまな環境で自生していて(近年は人の手で栽培される山菜も増えています)、北海道から沖縄まで全国で食べられているものを数え上げると300種類以上にもなります。

品種改良をかさねて栽培されてきた野菜は、味がよく収穫量も安定していて、多くのものが季節を問わず流通しています。それに対して、野生植物である山菜はアクや苦みがあり収穫量は少なく、出回る季節が限られています。しかし、そこに独特の風味や季節を味わう楽しみがあり、いにしえより多くの人々に愛されてきました。

数種類の野菜と山菜がおさまっている写真

日本人に愛され、日本人を救ってきた山菜

はるか5000年以上前の縄文人も口にしていたと言われている山菜。
縄文遺跡の三内丸山遺跡(青森市)から、たらの芽の種が発見されて話題をよびましたが、縄文人は土器を使い山菜のアク抜きや塩漬けまでしていたのだとか。また、日本最古の歌集『万葉集』には27種もの山菜が登場しており、奈良時代の人々がさまざまな山菜を食べていたことがわかります。

さらに江戸時代には、天候不順で米や野菜が不作の飢饉の時、天災に強い山菜が多くの人々の命を救ったという記録が残っています。20世紀になっても、戦時中や戦後の食糧難の時期には、やはりたくさんの人々が山菜に救われました。

古来より日本人の食生活に欠かせなかった山菜ですが、高度経済成長期をへて食生活が豊かになると、「野菜」が食用植物の主役となり、山菜はしだいに食卓から姿を消していきました。しかし今でも山菜が多くの人々に愛されるのは、時代をこえて日本人の食卓を豊かに彩ってきた懐かしい記憶が、私たちのからだの中に残っているからかもしれません。

自生しているつくしの写真

これであなたも山菜通!人気の山菜10選

最近では、スーパーや百貨店の売り場でもさまざまな種類の山菜を目にします。数ある山菜の中から、人気の高い10種について、特徴やおいしい食べ方をご紹介します。

山菜の王様「たらの芽」

収穫時期:3月~4月初旬(山間部は6月頃まで)
「山菜の王様」として大人気。道路脇や林道などひらけた明るい場所を好みます。栽培ものは天然ものより少し早い2月~3月から店頭に並びます。

かごに盛られたたらの芽

■おいしい食べ方

天ぷら(葉が少し大きくなった状態が香り高く美味)、和え物(ごま和え、味噌和えなど)、炒め物、肉巻き、パスタ、シチュー、アヒージョなど

■調理のポイント

はかま(根元の固い皮)をはがし、天ぷらなどの揚げ物は洗ってそのまま使い、おひたしや和え物は熱湯でさっと茹でてアク抜きを。沸騰させた2%の塩水(水1Lに対し塩20g)で2~3分茹でて冷水にさらします。

■有効成分など

山のバターといわれるほど良質なタンパク質と脂質を含みビタミン豊富。カリウムやβカロテンを豊富に含んでいます。ほか、マグネシウム、リン、鉄分などのミネラルも。

春を告げる「ふきのとう」

収穫時期:2月~5月(雪解けの頃)
早春、土中からひょっこり顔を出す「春の使者」山菜。冬眠から目覚めた熊が一番初めに口にする食べ物といわれています。東北地方では「バッケ」の愛称で親しまれています。

土から顔を出すふきのとう

■おいしい食べ方

天ぷら、みそ汁、バッケ味噌(細かく刻んで味噌と和えた保存食。ご飯のお供に。)
炒め物、パスタ、グラタン、アヒージョなど

■調理のポイント

つぼみがまだ硬く閉じている小ぶりのものが美味。クセになるような強い苦みが特徴。沸騰させた2%の塩水で3~4分茹でて冷水にさらしアク抜きを。天ぷらはアク抜きせずにそのまま揚げます。

■有効成分など

カリウムを豊富に含んでいます。苦味成分はアルカノイドとケンフェノール。香り成分はフキノリドというもので、健胃効果があると言われています。

シャキシャキの食感がたまらない「うど」

収穫時期:4月~5月初旬
大きく成長すると食べられない(使いものにならない)ことから「うどの大木」などと言われますが、若芽は香り高くみずみずしく美味。深みのある味わいとほのかな苦味、しっかりとした歯ごたえが魅力です。

かごに盛られた山菜の「うど」

■おいしい食べ方

天ぷら、酢味噌和え・ごま味噌和え(香りと歯触りを楽しみます)、炒め物など。
採れたての薄色のウドは、皮をはがし味噌などをつけて生で食べるのも美味。

■調理のポイント

栽培ものが多く出回り身近な山菜となりましたが、やはり天然ものの“山うど”が断然風味豊か。皮の近くにアクが多いため(切り口の内側の円の部分まで)厚めに皮をむき酢水にさらす下処理を。アクが抜けて美しい白色に仕上がります。

■有効成分など

クロロゲン酸という抗酸化性を示す物質を含んでおり、日焼けによるメラニンの抑制などの効果があると言われています。豊富に含まれるアスパラギン酸は、疲れにくい体をつくるのに効果的と言われています。カリウムも豊富で、葉酸の含有量も多めです。

愛される山菜「わらび」

収穫時期:4月~5月
「五月わらびは嫁に食わすな」という諺があるほど長い間日本人に親しまれてきた、全国各地の山に自生する身近な山菜。独特の形と歯ごたえが特徴。地下茎でつくるわらび粉を使ったわらび餅も有名です。

かごに盛られた山菜の「わらび」

■おいしい食べ方

炒め物、ナムル、お浸し、天ぷら、炊き込みご飯、パスタなど。

■調理のポイント

茎がしっかりとしていて産毛が多いものが新鮮。首が上を向いてないものが柔らかくて美味。おいしさの決め手はずばりアク抜き。重曹と熱湯を入れた鍋にわらびを入れて一晩置き、ゆで汁をすて、さらに半日ほど水につければアク抜き完了です。

■有効成分など

ビタミンB2と葉酸が豊富。低カロリーで糖質も低いため、ヘルシーな山菜です。乾燥わらびにすると栄養価が高まり、カリウムや鉄分は生のものより10倍以上も増えます。

親しみやすさナンバーワン「こごみ」

収穫時期:4月~10月(赤こごみ)5月~6月(青こごみ)
ワラビやゼンマイと並び人気の高いシダ植物。アクやにおいが少なく下処理の手間いらず。収穫量が少ない赤こごみと異なり、青こごみは全国各地でとれ比較的身近な山菜。翼状の葉を広げた姿が美しく観葉植物としても人気です。

かごに盛られた山菜の「こごみ」

■おいしい食べ方

天ぷら、和え物(ごま和え、酢味噌和え、白和えなど)、お浸し、サラダ、パスタ

■調理のポイント

先端がよく巻かれ茎がしっかりした状態が新鮮。アクが少なく採れたてのものは生食も可。優しい歯ざわりがおいしく、生のまま天ぷらにしたり、軽く茹でて和え物、お浸しにするのもおすすめ。和え物やお浸しは独特のヌメリが美味。

■有効成分など

抗酸化ビタミンのβカロテン、ビタミンC、ビタミンEをバランスよく含んでいます。葉酸も豊富なうえ、不溶性の食物繊維が豊富なので整腸作用も期待できます。


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