
お花見シーズンが近くなると和菓子屋さんでよく見かけるのが、桜の葉に包まれた「桜餅」。春らしい色合いの、愛らしい和菓子ですよね。実はこの「桜餅」には、関東風と関西風があることをご存じでしょうか?ここでは、「桜餅」の材料や作り方の違い、名前の由来についてくわしくご紹介しましょう。
目次
「関東風」の桜餅
「桜餅」は、桜の葉で餡の入った生地を包んだ和菓子を指します。「関東風」の桜餅は、薄く焼いたクレープ状の生地で小豆餡を包んだスタイル。「長命寺」と呼ばれることもあります。その歴史は古く、江戸時代にさかのぼります。長命寺の門番をしていた山本新六が、隅田川の桜の落ち葉を塩漬けにして餅に巻き、門前で売り出したのが始まりとされています。当時、隅田川に集まる多くの花見客からとても喜ばれたそうです。
山本新六が創業者の和菓子店「長命寺 桜もち」が、今も向島にあります。小豆は北海道産のもので、「桜餅」の生地は一枚一枚手焼きで作られています。添加物を一切入れないこだわりの「桜餅」は、時代をこえ今も愛されています。
【関東風】主な材料、作り方、味について
「関東風」桜餅の主な材料は、塩漬けの桜の葉や小麦粉、小豆餡、砂糖、そしてクレープ生地を作る粉です。粉には、小麦粉を使うのが一般的ですが、白玉粉、餅粉、米粉なども使われます。複数の粉を混ぜて作ることもあります。
作り方はシンプルです。小麦粉や白玉粉を水とよく混ぜ、生地を薄くクレープ状に広げて焼いたら、小豆餡を二つ折りで包みます。仕上げに桜の葉で包めば完成。生地はもちもちとした軽い食感で、小豆餡の甘さと塩漬けの桜の葉のしょっぱさの両方を楽しめます。
家庭でも、ホットプレートやフライパンがあれば、関東風の桜餅を簡単に作ることができます。
「関西風」の桜餅
「関西風」桜餅は、道明寺粉で作った皮で小豆餡を包んだスタイル。関東のような二つ折りではなく、おまんじゅう状の丸い形が特徴です。「道明寺餅」もしくは「道明寺」と呼ばれることも。
道明寺粉とは、水に浸して蒸したもち米を干して粗挽きしたもの。つぶつぶの食感ともちもち感が特徴的です。おはぎにも使われています。道明寺粉の起源は古く、1000年以上前に大阪にある道明寺(尼寺)で最初に作られ、保存食として用いられていました。
京都に本店を構える和菓子店「仙太郎」では、二枚の葉に挟まれているタイプの桜餅を販売しています。やわらかい餅と滑らかなこし餡のバランスが絶妙で、リピーターも多い一品。東京なら、伊勢丹新宿店や東武百貨店池袋店などで購入することができます。
【関西風】主な材料、作り方、味について
「関西風」桜餅の主な材料は、塩漬けの桜の葉、小豆餡、砂糖、そして道明寺粉です。
道明寺粉はよく乾燥させてあるため、水と一緒に煮てから蒸します。沸騰したお湯に道明寺粉を入れ、焦げ付かないように混ぜながら、ふっくらと水気を含ませます。その後に蒸し器でもちもちに蒸しあげてから、小豆餡を包み、丸もしくは俵形に丸めます。最後に桜の葉でくるめば完成。生地には甘く味をつけているので、桜の葉の塩漬けの塩気が良いアクセントになります。
家庭で作る場合は、電子レンジを使うと簡単です。道明寺粉、砂糖、色粉、水をボウルに混ぜ、レンジで加熱するだけで生地を作ることができます。道明寺粉がない場合は、炊いたもち米を半潰しにしたもので代用可能です。
【豆知識】「桜餅」に欠かせない桜の葉
「桜餅」には塩漬けの桜の葉が欠かせません。
これは、見た目のインパクトを増すだけではなく、桜餅に桜の香りをつける、塩気が味のアクセントになる、桜餅の乾燥を防ぐ効果がある、食べるときに手が汚れにくい、といった、さまざまな利点があります。
もともと生の桜の葉には香りはありませんが、塩漬けにすることで豊かな香り(「クマリン」という芳香成分)が出ます。桜の葉の種類は、葉脈の柔らかいとされるオオシマザクラという古くからある桜が使われます。伊豆半島の松崎町で主に生産されています。
【番外編】桜の葉は食べる?食べない?どちらが正しい?
「桜餅」を食べるとき、桜の葉は食べたほうがいいのか、それとも食べないほうがいいのか、迷ってしまったことはありませんか?実はこの桜の葉、食べても取り除いてもどちらでもOKです。どちらもマナー違反ではありません。ただし、塩漬けの桜の葉に含まれる「クマリン」という芳香成分は肝毒性が懸念されるため、大量摂取することは好ましくないとされています。
「関西風」の桜餅の方がメジャーになった理由
桜餅には大きく2種類あると解説してきましたが、「関東風」よりも、「関西風」の道明寺で作られたものを「桜餅」として認識している人が多いようです。道明寺のほうが全国的に広く認識されている理由については、江戸時代までさかのぼります。
その昔、「関東風」の桜餅は関東から東北地方に伝わり、関西風の桜餅(道明寺)は関西から四国地方や九州地方に伝わっていきました。
江戸時代になると、「関西風」は北前船(瀬戸内海と北海道を結ぶ海上の交通手段)によって、関西からさらに北海道まで伝わったため、全国的に広まることになりました。当時、商売と流通の重要なハブ拠点だった関西から、「関西風」の道明寺の桜餅の方が日本各地に広まっていったと考えられています。
まとめ
「関東風」と「関西風」の桜餅の違いについてご紹介しましたが、いかがでしたか?
今回は基本的な「桜餅」をご紹介しましたが、和菓子店によっては塩漬けの桜の花を飾ったり、生のイチゴを入れたり、よもぎを生地に練り込んだり、多彩なバリエーションがあります。中身も、こし餡・つぶ餡、甘さや固さなどお店によってもさまざまです。
今では、関東風の桜餅が関西で販売されていることも珍しくありません。ぜひいろいろなお店の「桜餅」を食べ比べて、お気に入りを見つけてみてはいかがでしょうか?