チーズ工場貯蔵庫

食通が愛するオーベルジュの旅〜イタリア・パルマ地方でクラテッロを堪能!ではオーベルジュ「アンティカ・コルテ・パラヴィチーナ(Antica Corte Pallavicina)」と生ハムの王様「クラテッロ」について紹介しましたが、今回はチーズの王様「パルミジャーノ・レッジャーノ」を中心に、イタリアでの食文化体験についてレポートします!

2大名物「クラテッロ」と「パルミジャーノ・レッジャーノ」

イタリアで生ハムの王様と呼ばれる「クラテッロ(イタリア語:culatello)」と、チーズの王様と呼ばれる「パルミジャーノ・レッジャーノ(イタリア語:parmigiano reggiano)」。このイタリアの2大食材の産地が、エミリア・ロマーニャ州です。

今回宿泊したエミリア・ロマーニャ州のパルマ郊外のオーベルジュ「アンティカ・コルテ・パラヴィチーナ(Antica Corte Pallavicina)」では、この「クラテッロ」と「パルミジャーノ・レッジャーノ」の製造現場見学、そしてミシュラン一つ星レストランでのクラテッロとパルミジャーノ・レッジャーノを使ったメニューを学ぶお料理教室など、イタリアの食文化体験を楽しみました。


レストラン厨房入口

「パルミジャーノ・レッジャーノ」とは?

チーズの王様「パルミジャーノ・レッジャーノ」について、まずは紹介しておきましょう。

ご存知の方も多いかもしれませんが、「パルミジャーノ・レッジャーノ」は、イタリアのエミリア・ロマーニャ州の限られたエリアで作られ、DOPの認定を受けたチーズだけにつけられる名前です。


並ぶチーズ

12ヶ月熟成させたチーズはハンマーで叩いて内部の熟成を調べるなどの厳しい検査を受け、合格となったチーズには「パルミジャーノ・レッジャーノ」の検印が押されます。残念ながら不合格となったチーズは、表面を縞状に傷つけられ、「パルミジャーノ・レッジャーノ」として売ることはできないのです。

実はパルミジャーノ・レッジャーノは、この地域でつくられる生ハムの王様クラテッロの美味しさにも関係があります。
チーズの製造過程で発生する乳しょうという液体は、クラテッロになる豚の餌に混ぜられているのです。乳しょうは栄養価が高いので、豚にとっても良い栄養源になるそうです。

このような美味しさの連鎖が、この土地をイタリアきっての美食の地にしているのです!

年中無休の「パルミジャーノ・レッジャーノ」作りで大切なのは“情熱”

今回宿泊したオーベルジュでは、宿泊者を対象にしたパルミジャーノ・レッジャーノ工場の見学ツアー(参加無料!)を開催していました。

訪れたのはオーベルジュから車で10分ほどのCASEIFICIO CENSIという工場。ここで年間25,550個(1日70個)のパルミジャーノ・レッジャーノが製造されています。
工場はオーベルジュのすぐ近くにあるので、天気が良いと自転車に乗ってサイクリングをしながら訪れることも可能です。


チーズ工場外観

熟成中にチーズ表面のカビを拭く作業は機械化されていますが、1個30キロを超えるチーズを扱う工程のほとんどが手作業。しかも、チーズ作りに休みはありません。仕事は朝5時から始まり、クリスマスや新年など祝日は全く関係ないシフトで働き続けます。ガイドの女性が、チーズ作りには”情熱”が必要と語ってくれたのも納得です。

目の前に「パルミジャーノ・レッジャーノ」のタワー!

清潔な工場内では、男性従業員が黙々と作業をしていました。
(作業中でも笑顔で手を振ってくれ、出来たてのチーズを試食させてくれるなど、サービス精神旺盛です!)


チーズ作業風景

並べられた大きな銅釜には、近くの9つの牧場で前日の夕方搾った牛乳から脂肪分を取り除いたものが入っています。そこに、朝搾った牛乳を混ぜて温め、牛乳の中に含まれる乳酸菌と天然の酵素を加えます。100%天然成分のみ。製造方法は昔からずっと変わりません。

乳酸菌の働きで温められた牛乳は変化し、銅釜の底にはチーズとなる成分が沈殿します。この沈殿物をまず2つに分け、布に包み、持ち上げて水分を取り除き、型にはめて形を整えます。
雑菌の繁殖を抑えチーズに適した菌だけを残すため、その後20日ほど塩水に漬けられ、貯蔵庫で静かに熟成させます。作りたてのチーズの色は白ですが、熟成が進むと黄色がかった美味しそうな色に変化します。


チーズ型

検査に合格し、さらに熟成を進めるために貯蔵庫の天井までパルミジャーノ・レッジャーノがうずたかく積まれた光景は、美しいアート作品のようでもあり、圧巻でした。

塩は使わず、味付けは全て「パルミジャーノ・レッジャーノ」

オーベルジュ「アンティカ・コルテ・パラヴィチーナ(Antica Corte Pallavicina)」のレストランでは、宿泊者を対象としたクッキングクラスに参加しました。星付きレストランの厨房でシェフに教えてもらえるなんて、贅沢ですよね。


クッキングクラスシェフ

このレストランは食材へのこだわりが強く、自家農園で野菜やハーブ類を作るのはもちろん、白牛から絞った牛乳でバターを作り、卵は飼育する鶏から、肉類もほとんど飼育場で育てられています。

今回教えてもらったのは、豚肉、鴨、鶏を材料にした料理でした。


クッキングクラス

食材作りに手をかけているので、その美味しさをそのままいかす調理法でしたが、印象的だったのは、豚、鴨、鶏、すべての料理の味付けにハーブ、クラテッロ、そしてパルミジャーノ・レッジャーノが使われていたこと。
クラテッロとパルミジャーノ・レッジャーノにはしっかりとした旨味と塩気があるので、調味料が必要ないと言えばそれまでですが、あまりのシンプルさに驚きました。

クッキングクラスでイタリアの食文化を学ぶ

ユニークだったのは、近くを流れるポー川の泥を使った蒸し料理。まず鴨肉にローズマリーとコニャックで風味をつけ、クラテッロとパルミジャーノ・レッジャーノをのせ、粘土のような泥で包んで焼くのです。塩釜焼きならぬ粘土釜焼き。
クッキングクラスでその土地ならではの材料を使って作られる昔ながらの料理を学び、イタリア食文化に触れることができました。


粘土釜

16時からスタートするクッキングクラスは、レストラン従業員が出勤してくる18時前に終わります。
詳細なレシピも配布されず、ただシェフのデモンストレーションを見ながら、時々参加者も手を動かすというゆるい感じでした。
作った料理のうち、豚肉料理1品しか試食できなかったのが残念でしたが(一緒に参加したアメリカ人夫婦も、あれっ?すべて試食できないの?という表情を見せていました)、ディナー営業前のスタッフの仕込み風景を見ることもできたので、食に関心がある人にはたまらないのではないでしょうか。

人より大事にされるクラテッロ

ポー川とクラテッロに関係する興味深い話を、オーベルジュスタッフから聞きました。
この地域では、「ポー川が氾濫して地域一帯が洪水の被害に見舞われた時には、最優先で非難をさせるのはまずクラテッロ。そして続いて女と子ども、最後が男。」なのだそうです。
本当かどうかはさておき、この地域の人にとってクラテッロがいかに貴重なものであるかを知ることができるエピソードです。


ポー川

クラテッロとパルミジャーノ・レッジャーノを味わいつくす旅を終えて、一番心に残っているのは、土地のものを大事にしながら昔ながらの製法で美味しさを守るイタリアの人たちの真摯な姿です。

イタリアは遺跡や美術館、ショッピングなど観光スポットが豊富ですが、食もひとつの観光資源になっていると感じました。イタリアといえばミラノ、ローマなどが旅の中心になりますが、食いしん坊、食通、そして食文化に関心のある方には、生ハムとチーズの王様が作られるパルマ地方の旅、特にオーベルジュに泊まる旅はおすすめです!

<参考情報:ツアーなどの詳細・予約は下記にお問い合わせいただけます>
「アンティカ・コルテ・パラヴィチーナ (Antica Corte Pallavicina)」
Strada del Palazzo Due Torri, 3
43010 Polesine Parmense PR Italy
http://www.anticacortepallavicinarelais.com/