小鉢に入ったさまざまな突き出しの写真

日本の昔からの商習慣のひとつに「お通し」というものがあります(地域によっては、“突き出し”とも言います)。
お通しといえば、居酒屋や小料理屋でお酒を待つ間に出てくる小鉢料理なのですが、この「お通し」については戸惑いや誤解もあるようです。

特にインバウンドが増加傾向の昨今、日本のお通し文化を知らない外国人観光客とのトラブルも飲食店では増えてきているようです。

また、日本人の若者の間でも「金額がよくわからない」「苦手な食材のお通しを出されてもうれしくない」など、そもそもシステムとしてわからない、もしくは否定的な意見があるのも事実。

日本人でもわかりにくいと感じる人がいる「お通し」ですが、外国人観光客はどのように思っているのでしょうか。

そもそも「お通し」って何?

「お通し」は、居酒屋で注文を受けるまでに出す簡単な肴(さかな)のことを指します。
戦前の1935年頃から始まったのではないかという説があり、比較的新しいシステムのようです。

注文を受けてから料理を出すまでの間、先に提供されるお酒と一緒につまめるものが欲しいだろうというお客様への心遣いから生まれたものです。もともとは、”おもてなしの心”から生まれたものなのです。そのため、「お通し」は基本的にお酒によく合うものが提供され、出てくるのを待たされるということはほぼありません。

打ち出の小づちのような形の小鉢の画像

昔の日本では、今ほど飲食店の数も多くはなく、家の近くにある馴染みの店で呑むのが一般的でした。食材の種類も少なかったので、料理内容もおまかせ料理が主流でした。

今では当たり前のお品書きやメニューのようなものはお店に用意されておらず、お酒と一緒にその時あるものを酒の肴として出していました。客がこういうものが食べたいとお店にリクエストして出してもらったり、店側が相手の身なりや服装を見て、好きそうなものを提供していたようです。

どんな料理が提供されるのか、実際に店に入って料理が出てくるまでお客にはわかりませんでした。そのため、自慢料理を先に出して、“うちはこんな料理を提供する店なんですよ”ということを表していたのだそうです。最初に出した料理(お通し)が好みであれば、初めての店でも安心して注文できそうですよね。

とりあえず、まずはお酒と一緒にこれでも食べていてくださいね、と出されたのが「お通し」。そしてかつての名残りもあってか、「お通し」に関してはきちんとしたメニュー記載や値段表記のない店がほとんどなのです。

「お通し」ってお金がかかるの?

メニューに書かれていない「お通し」ですが、断ることができるのでしょうか?
実は、「お通し」は席料のような扱いになっているため、基本的に断れないことがほとんどです。
また、断りたいとお客様がリクエストしても店によって対応はさまざまで、統一されていないのが現状のようです。つまり、お客様が「お通し」を断れる店もあれば、断れない店もあるということです。

また、断ることでお金がかからない店もあれば、断っても席料としてお金をとる店もあります。「お通し」の値段はおおよそ300円から500円が一般的ですが、なかには1,000円のところもあります。ですが、そもそも「お通し」がない店や無料のところもあります。

生春巻きと冷奴の小鉢の画像

お店のこだわりを感じられる一品なら、お客の心をグッとつかむことも。

外国人観光客が戸惑う「お通し」のシステム

外国人観光客が増えるにつれて、日本独特のお通し文化をめぐって飲食店でのトラブルが増えてきました。こうした慣習に馴染みがなく、店側からの説明もそこまで明確でないケースが多いため、外国人観光客が「注文していない料理が勝手に出てきて料金を請求された!おかしい!」と戸惑うことが多いようです。

英語では、「お通し」という言葉がないため、「Appetizer(前菜)」「Small appetizer(小皿料理)」と説明するのもよいでしょう。時折「Compulsory Appetizers(強制的な前菜)」と翻訳されていることもあるようですが、チップの一種と捉える場合もあるようです。そのため、「チップなのに食事もついてくるからサービスがよい」と考える外国人もいるようです。

外国人には、お通しのことを「Table charge(席料)」に含まれているものとして説明する方がわかりやすいかもしれません。注文にかかわらず、すべてのお客様にかかるチャージであることが明確であれば、トラブルは避けられそうです。

切子のグラスと枝豆の画像

日本ならではの習慣に戸惑う外国人も多いですね。

しかし、国によっては「お通し」に似たものが無料で提供されることもあるようです。

たとえば、韓国の食堂では料理を注文すると、キムチやナムルなど小皿料理がたくさん出てきます。これらは基本的に料理を頼んだらもれなくついてくる無料のサービスです。また、イタリアでは料理が出てくる前にグリッシーニとオリーブオイルがサーブされることもあり、これはサービス料の一部だと考えられています。

ですが、自国の文化にはない「お通し」の慣習を理解できず、自ら頼んでいない料理に対して代金を請求されることは、外国人にとってはなかなか理解できないかもしれませんね。
お通し代を請求する場合は、あらかじめ貼り紙などで告知したり、メニューにわかりやすく記載するなど、工夫が必要となるでしょう。

まとめ

来日する外国人観光客の多くは「郷に入れば郷に従え」と考え、日本のお通し文化自体を否定してはいません。ただ、飲食店でのトラブルが増えていることも事実です。

事前に「お通し」のシステムについて知らされていないことがトラブルのもとになっていることからも、飲食店は席料としての事前説明を行なったり、強制サービスではなくお客様に選択してもらえるサービスへと変えることも含めて、検討が必要になるでしょう。

外国人観光客が今後さらに増えることが見込まれるので、このような対応はますます急務となりそうです。

■参考資料

居酒屋「お通し」に外国人観光客が困惑…注文していないのに、支払う必要は?(2017/3/26,弁護士ドットコムNEWS)
訪日外国人にもトラブルになっている居酒屋のお通しは本当に悪なのか?(2018/9/2,YAHOO!JAPANニュース)
居酒屋の「お通し」は訪日外国人にも不思議だ(2018/9/28,東洋経済ONLINE)
居酒屋の「お通し文化」外国人観光客はどう思ってる?意外にも「席料だよ」「代わりにチップが要らない」との理解が進んでる(2018/10/1,訪日ラボ)