大豆と味噌の画像

私たちにとって一番身近な調味料の「味噌みそ)」。味噌は日本人の食生活を支えてきた伝統食品であり、基礎調味料の「さしすせそ」の「そ」にあたるものです。実は、味噌は地域によって全然味が違う調味料。
どのような違いがあるのか。味噌の味の違いはどこで生まれるのか。歴史から日本各地の味噌の特徴まで、味噌の基礎知識を学んでみましょう。

味噌の歴史は1300年以上!ルーツは中国?韓国?日本?

■味噌の起源は中国説。中華料理には「醤」を使うものが多数

普段何気なく口にしている味噌には、長い歴史があります。もともと保存食として生まれた味噌の歴史はなんと1300年以上!味噌が生まれた場所には、中国、韓国、そして日本の3つの説があります。なぜルーツにさまざまな説があるのでしょうか。

人が定住し、農耕生活をするようになって誕生したのが「穀醤(こくびしお)」。穀醤をつぶしてペースト状にしたものが味噌の原型ではないかといわれています。

味噌の起源となった「醤(ひしお)」の文字が中国の古文書に登場したのは紀元前700年頃のこと。さまざまな中国文化が日本に伝えられた飛鳥・奈良時代に、「醤」も伝えられました。701年の大宝律令の中に記されている「未醤(みしお)」は中国から伝わった「醤」を日本独自の製法で生み出されたものと考えられています。

中国にとって「醤」はとても身近な調味料の一つ。豆板醤(とうばんじゃん)、甜麺醤(てんめんじゃん)など、醤を使った中国料理は数多くあります。そのため、味噌の中国発祥説が有力視されているのです。

麻婆豆腐の画像

■味噌の起源は韓国説。大豆の原産国は韓国?

次に紹介するのは味噌の起源を韓国とする説です。
大豆の原産地には諸説ありますが、紀元前3000年の古代朝鮮の時期にはすでに高度な農耕技術があり、大豆以外の五穀も存在していたことが遺跡の発掘からも分かっています。

朝鮮半島はさまざまな味噌汁が親しまれているだけでなく、豆に関することわざなども100種類以上ある地域。朝鮮半島の人々にとって大豆は関係の深い食材なのです。

ボウルに入った大豆の画像

■味噌の起源は日本説。どんぐりを原料にした縄文みそができたのは中国よりも前?

味噌の起源は日本だという説も見逃せません。なぜなら縄文遺跡から、どんぐりを原料にした「縄文みそ」と呼ばれる食品があったことが分かっているからです。

記録に残っているのは紀元前700年の中国が最古ですが、約1万2000年以上前の日本で味噌のようなものが食べられていたことが推測されています。

飛鳥・奈良時代に中国から伝わった味噌を参考に、日本で独自の味噌文化が花開いていったとも考えられます。

袋に入ったドングリの画像

■最初は贅沢品だった!?平安から戦国時代の味噌の歴史

米麹を使った味噌作りが始まったのは、平安時代後期に全国的に稲作が広まってからのこと。稲作に適していない地域では麦を使った味噌作りが行われました。当時の味噌の使い方はそのまま食べるか、他の食べ物につけるもの。酒のつまみとしても味噌は重宝されました。

平安時代の高級官僚の給与は、お金ではなく味噌やもち米。当時の味噌とは、庶民の口にはなかなか入ることのない贅沢品であったようです。

味噌汁が誕生したのは、鎌倉時代のこと。中国からやって来た僧侶の影響で、固形物の残っていた粒味噌をすりつぶした“すり味噌”が作られるようになりました。水に溶けやすかったすり味噌は、汁物との相性も抜群。鎌倉時代の武士の食事は一汁一菜。一汁は必ず味噌汁であったことから、食事の基本に味噌汁が据えられることになったのです。

一汁一菜のイメージ画像

ただし、味噌汁が一般にまで普及するのは室町時代になってから。農業の振興策で大豆の生産が増えたことで、農民たちも自家製のみそを作るようになりました。

味噌汁に加えてさまざまな味噌料理が誕生したのも、この頃です。柚子味噌やごま味噌などさまざまな種類が登場し、現代の味噌料理のほとんどがこの時代に作られたといわれています。醤油が誕生したのは、室町時代末期のことでした。

味の違いは何から?各地域の「味噌」の特徴とおいしく食べるコツ

日本全国にはさまざまな種類の味噌がありますが、大きく分けると3種類に分類することができます。原料の違いで見ると、米味噌、麦味噌、豆味噌。味で分類すると、甘味噌、甘口味噌、辛口味噌に分けられます。

味噌の基本的な原料は、大豆、塩、麹。麹に米を使っているのが「米味噌」、麦を使っているのが「麦味噌」です。「豆味噌」の主原料は大豆のみで、麹も大豆に麹をつけた豆麹を使います。味の違いは食塩の量だけでなく、原料の大豆に対して麹をどれだけ入れるのかを指す「麹歩合」によっても決まります。塩分が同じなら、麹の割合が高い味噌ほど甘くなります。

白味噌と赤味噌の画像

まずは日本で最も一般的な米味噌から見ていきましょう。米味噌は国内で流通している味噌の8割を占めるとされ、東日本、北陸、北海道、近畿地方で好まれています。米味噌は味にクセがなく、どんな料理にも合わせやすいのが特徴です。

麦味噌は九州や瀬戸内、四国などの地域で作られています。稲作の裏作で麦を作ることが多く、大麦の生産が盛んだった地域では米味噌よりも麦味噌の方が一般的なようです。塩分は比較的少なく、麹の割合が多いため甘みが強いのが特徴。独特の甘みと麦の風味が強いため、野菜との相性がよい味噌です。

豆味噌は東海地方で多く作られている味噌。原料は大豆、塩、豆麹、そして水。コクのある深い味わいが特徴で、甘みは少なめ。煮立てると香りの飛んでしまう米味噌や麦味噌とは違い、煮込めば煮込むほどおいしくなります。愛知の郷土料理である、味噌煮込みうどんや味噌おでんはまさに豆味噌のおいしさを引き出す料理といえるでしょう。

味噌煮込みうどんの画像

味噌の色は白いものから色の濃いものまでさまざま。熟成期間は2週間から数ヶ月、ときには数年かけて出荷されるものもあります。豆味噌は、米味噌や麦味噌よりも長い1〜3年ほどの熟成期間を経ています。

麹を多く含み、塩が少ないものは熟成期間が短く、色もほとんどついていません。反対に米麹が少なく、塩の多いものは長期保存が可能なので熟成期間が長くなるため、色が濃くなります。

世界中から注目!日本食こそ理想的な食だといわれる理由

今、世界中で味噌の健康効果が注目を集めています。昔から「味噌の医者殺し」という言葉があるように、味噌は古くから日本人の健康を支えてきました。期待できる健康効果にはさまざまなものがありますが、ここではそのうちの5つを紹介します。

  • 自律神経のバランスがとれる
  • 腸内環境が整う
  • 慢性疲労が改善
  • 老化のスピードが緩やかに
  • 生活習慣病が改善

(出典:NHK「毎日手軽に!日本の最強健康食『長生きみそ玉』

特に私たちの体にとってよいとされているのが、原材料の大豆です。大豆には、人の体づくりに欠かせないタンパク質、脂質、炭水化物がバランスよく含まれています。

植物性のタンパク質は肉や魚などの動物性タンパク質よりも吸収しにくいといわれていすが、大豆に関しては必須アミノ酸が多く含まれており、タンパク質のバランスのよさは動物性タンパク質に近いそうです。

大豆が発酵することで生まれた脂質の一種・レシチンには、高血圧症予防の効果が期待できます。同じく脂質のリノール酸には、心臓などの毛細血管を丈夫にする働きがあることもわかってきました。

和食の朝食のイメージ画像

1981年には、味噌汁を飲む頻度と胃がんとの相関関係も立証されました。このほかにも、味噌には美肌効果や消化促進の効果もあることが報告されています。

発酵により消化吸収されやすくなった大豆のパワーが、長い間日本人の健康を支えてきたのです。世界中でヘルシー志向が高まる中、大豆を中心に構成された日本食に注目する訳がわかりますね。

まとめ

私たちが毎日何気なく口にしている味噌の歴史は、少なくとも1300年以上。発祥の地は、中国、韓国、日本と複数説ありますが、長い年月を経て、日本人の食生活に深く浸透してきました。

味噌の基本的な原料は同じでも、麹の種類や、塩や麹の割合、熟成期間の違いによって味や風味に大きな違いがあります。その土地ごとの食文化によっても、使い方はそれぞれ異なります。

近年、味噌には多くの健康効果があることがわかってきました。日本人の食生活を支えてきた「味噌」。毎日の食生活に、積極的に取り入れてみてはいかがでしょうか。

◆参考資料

「みそがこの世に誕生して1300年以上!発祥地とルーツ秘話」(実践料理研究家 岩木みさきのみそ探訪記)

「みその履歴書〜平安時代から戦国時代」(実践料理研究家 岩木みさきのみそ探訪記)

「毎日手軽に!日本の最強健康食『長生きみそ玉』」(NHKオンライン)

「味噌のこと」(マルコメ株式会社)

「味噌・納豆・酢 伝統発酵食の健康効果と食べ方のコツ」(日経スタイル)