
子孫繁栄を願う縁起物として、お正月のおせち料理には欠かせない数の子。(数の子画像提供:おいしい塩干教室、撮影:Ahlum Kim)
コリコリとした食感と、噛むほどにあふれる旨味。お好きな人も多いと思います!ですが、数の子に「日常の食卓には登場しない黄金色の高級食材」というイメージを持っている人もいるのではないでしょうか?
今回は、みなさんが知っているようで知らない数の子の魅力について、築地の目利きのプロにお話をお聞きしました。
今回お話をお聞きしたのは、築地の仲卸「株式会社ヤマセ村清」で、魚卵を専門にした目利きとして、これまで約20年間活躍された中島晋次郎さん。
普段から趣味で音楽バンド活動を行っていたそうですが、仲卸として取り扱ってきたさまざまな魚卵の中でも、まだまだ数の子は魅力が広く伝わっていないと感じたことがきっかけで、「魚河岸おじさん」というアーティスト名で、数の子をPRするキャンペーンソングを作詞作曲してしまった!というアツい“魚卵愛”をお持ちです。
(中島さんは築地市場の豊洲移転のタイミングで仲卸を辞められましたが、引き続き数の子をPRしていくために、現在は「数の子おじさん」のネーミングで活動を継続されています!)
ではさっそく、数の子の魅力を紹介していきましょう!
目次
数の子ってなんの子?
まず最初に、皆さんは数の子が何の卵か知っていますか?
いくらは鮭の卵、キャビアはチョウザメの卵、たらこはタラの卵ですが、数の子が何の魚の卵か、すぐには答えられない人もいるのでは?
意外に知られていないのですが…
数の子はニシン(鰊)の卵なのです!
中島さんが作詞作曲した数の子PRソングのタイトルは、「数の子なんの子」。
ウクレレの明るいメロディと、覚えやすい歌詞が印象的。歌詞の中には、数の子についての知識を盛り込んであるので、楽しく歌ううちに数の子への理解も自然に深められるように作られているのです!
ちなみにこちらの曲は、「北海道水産物加工協同組合連合会」がスポンサーになっているので、公式の数の子PRソングとなっています。
<数の子なんの子 歌詞抜粋>
作詞 作曲/しんじろう
歌手/魚河岸おじさん
歌手/ガズレレキッズ なっちゃん ひなたくん数の子なんの子 ニシンの子
意外に知らない ニシンの子
かずって魚は いないのよ
おぼえておいてね血液サラサラ 脳は活性化
プリン体は少ないよ! 誤解しないでね
あなたの健康が心配だから
毎日少しずつ 数の子食べてよ数の子なんの子 ニシンの子
意外に知らない ニシンの子
かずって魚は いないのよ
おぼえておいてね正月だけじゃなく ふだんの食事に
数の子食べてくれると おじさんうれしいな〜
みんなの笑顔が見たいから
毎日少しずつ 数の子食べてよ*歌詞は許可をいただいて掲載しています
子どもから大人まで楽しく歌える親しみやすいフレーズが人気の「数の子なんの子」は、2018年にリリースされ、東京のテレビの情報番組でも取り上げられました。
現在でも、数の子の加工量全国第一位の北海道・留萌では、スーパーでも常に流れている人気曲なのだとか!
ちなみに、毎年5月5日は「数の子の日」だってこと、知っていましたか?数の子おじさんは、この時期になると北海道の数の子イベントで毎年歌っているそうですよ!
移転前の築地場内市場で撮影されたプロモーションPVもぜひご覧ください。
<数の子なんの子 動画>
◎築地バージョン
◎キッズとダンスバージョン
数の子って実はすごいのに、誤解していました
「数の子なんの子、ニシンの子〜♪」というフレーズ、一度聴くと耳に残って離れなくなりますが、歌詞を聴いて、へぇ〜と思いませんでしたか?
数の子がニシンの子であることは知っていても、他の魚卵と比べプリン体が少ないことや、血液をサラサラにすると言われているDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)が多く含まれていること、お正月のイメージが強いですが、実は通年流通していることなど、初耳の方が多いのではないでしょうか。
ほかにも、数の子について、知らないことや誤解されていることはたくさんあります。
たとえば、
- 数の子の脂質全体に占めるEPA・DHAの比率はマグロのトロを上回る
- 数の子の油分には大豆油やイワシに負けない抗酸化物資のCo(コエンザイム)Q10が含まれている
- 数の子のコレステロールは魚卵の中では少なく、イクラの約半分
など。
北海道水産物加工協同組合連合会のHPには、数の子の優れた栄養面についてたくさんの情報が紹介されています。
数の子の日常的な食べ方&楽しみ方!
数の子がどうやって作られているか、知っていますか?
ニシンのお腹から取り出された魚卵は、選別され、血抜きや洗浄のプロセスを経て、塩水に3~5日漬け込まれます。その後、塩水に漬ける→洗浄のプロセスが何度か繰り返され、24時間ほどかけて塩で固められます。
プロセスの途中に、漂白や成形のプロセスが入ったり入らなかったりすることで、味や質感が変わってきます。
食べる前には、数の子を薄い塩水に一晩漬けて、塩抜きをする必要があります。薄皮が取れていない場合は、それを剥がします。
好みの塩加減になった数の子は、鰹節と醤油で食べたり、だし汁に漬けて味付け数の子にする食べ方が一番シンプルです。
「数の子おじさん」として活躍する中島さんの現在の目標は、お正月以外になかなか脚光を浴びにくい数の子を、”茹でダコ” のポジションにすること。茹でダコは、毎日ではないけれど、月に何回かは食卓に上がる食材。しかもいろいろなレシピに展開させて楽しめる!
数の子もそんな”茹でダコ”のような存在にしたいそうです。
では、数の子の食べ方について紹介していきましょう。
定番の食べ方
昆布、スルメ、人参や調味料で作った漬けだれで作る松前漬けがありますが、ほかにも応用範囲は広いそうです。
おすすめの食べ方
中島さんは、ネバネバ食材と数の子を一緒に食べるのが好みだそう。オクラ、山芋、マグロと一緒に数の子も刻み入れて混ぜるだけ!歯ごたえが良い食材の中に、アクセントとして数の子を入れるのがポイントだそう。
和え物の名脇役として
数の子は、和え物に入れるといい仕事をします。キムチと和えて韓国風にしたり、マヨネーズや野菜と和えて洋風サラダにしたり、ごま油やザーサイと和えて中華風にしたり。気軽に使えて便利!
応用編&上級編
数の子は、たこ焼きや餃子に加えたり(!)、アヒージョにしても美味しいそうです。どう使ったらいいかわからないときは、食感のよいタケノコの代わりの食材としてレシピを考えるのがおすすめ。独特の食感を生かして、炊き込みごはんやパスタに入れても美味しいそう!
ほかの魚卵と比べて栄養面でも優れている数の子。いろいろな料理への応用の可能性が広がりそうですね!
究極の数の子は「にぎりこ」
数の子を食べるのは実は日本人くらいだって、知っていましたか?
国産、カナダ産、ロシア産、アラスカ産…さまざまありますが、数の子の伝道師である中島さんが一番好きな数の子を聞いたところ「にぎりこ」という答えが返ってきました!
にぎりこ、って何でしょう?!
一般的な数の子は、冷凍ニシンから魚卵を取り出して、塩漬けや漂白をしますが、にぎりこは「生腹出し」とも言われ、それとはまったく別物。
そもそも、カナダやアラスカでニシン漁が解禁されるまでの間に、その年の産卵調査をするために漁獲された生のニシンからとった魚卵を、漁船上ですぐにそのまま塩漬けしてつくった数の子なのです。
にぎりこは、まっすぐキレイに成形されていないため、見た目は悪いですが、一般的な数の子のように色をきれいにするための漂白がされていないので、香りや風味がそのまま凝縮されているそうです。何よりも、口に入るまでに一度も加工されず、新鮮なうちに塩蔵されるため、卵の旨味がそのまま残っているのが特徴。鮮度が良いので、食感も抜群なのだとか!
ただし、獲れる漁が限られるため、市場にあまり出回らない幻の品。
希少なにぎりこ… 味も食感も別格らしいので、機会があればぜひ食べてみたいですね!
そして最後に、「数の子おじさん」についてご紹介しましょう。
33歳から築地で働き始めて魚卵一筋の「数の子おじさん」
数の子を愛して止まない中島さんは、東京生まれ。2018年8月まで20年間、築地市場の仲卸で働いていました。アメカジ全盛期にアメ横でスニーカーの販売をやっていたそうですが、33歳の時に縁あって築地で働くことに。
築地市場は言わずと知れた日本最大の卸売市場で、プロ中のプロが集まる場所。魚の知識を持たぬ者が働くには、かなりの試練があったそうです。
「最初は軽子(かるこ)と呼ばれる配達員でした。半年間は『はい』『すみません』しか言えなかったですが、今に見ていろと無我夢中で働きました。1年後に晴れて仲卸で売り手になれた時から、子持ち昆布や数の子を扱う魚卵担当。わからないことだらけで、荷受けと呼ばれる卸売業者を毎日質問攻めにして煙たがられるほどでした」
築地の目利きとしての真剣勝負の日々。売り方にも工夫を重ねたそうです。子持ち昆布は寿司屋などお客様の使いやすいサイズに合わせて事前にカットを施す工夫をしたところ好評を博したとか。
「一年中、さまざまな産地の数の子や子持ち昆布を毎日触っていたので、触っただけでどんな味かわかります。僕が築地で一番、数の子に触ったんじゃないかな。仲卸は荷を分ける仕事ですが、お客さまが買える値段で最高の物を出してあげなくてはいけない。1万円で買える人にはその中で、千円の人にはその中で最高のものを選ぶ。それを判断するのが目利きの役目です」
築地市場が2018年10月6日に閉場し、10月11日に豊洲市場が開場。「数の子なら中島さん」と築地で一目おかれる存在になった魚卵の目利き、中島さんは、一足早く仲卸を退社し、次の活動を開始しました。
それまでは「魚河岸おじさん」という名前で活動してきましたが、今後は数の子に注力して、「数の子おじさん」として数の子をPRするために全国を駆け回る予定だそう!
中島さんの想いが伝わり、一年中いつでもスーパーに数の子が並ぶようになる日が近いかもしれません。その時には「数の子なんの子?」と聞いても「ニシンの子!」と、誰もが言えるようになっているでしょうね!
取材協力
取材 | 数の子おじさん |
協力 | おいしい塩干教室 |
参考 | 北海道水産物加工協同組合連合会 |