グルメな人の旅計画は、観光名所やショッピングではなく、レストラン選びが中心となるでしょう。そんな美味しいものを求める旅で好んで利用されるのは、町郊外にある「オーベルジュ」。レストランに宿泊施設が併設されているので、心ゆくまで料理やワインを堪能し、そのままベッドに直行できるありがたい施設です。
今回はイタリアのエミリア・ローマーニャ州パルマ郊外の「オーベルジュ」についてレポートします!
目次
そもそも「オーベルジュ」とは?
レストラン評価のさきがけとも言える「ミシュランガイド」は、フランスのタイヤ会社ミシュランが作ったものです。遠方までドライブする人が増えればタイヤもさらに売れると考え、ドライブに役立つ情報(ガソリンスタンド、レストラン、ホテルなど)をまとめたのが始まりでした。
ミシュラン社は覆面調査員を組織し、フランス国内のレストランやホテルをすみずみまで調査。その情報が星付きでまとめられ、誰もが知る「ミシュランガイド」となりました。
もともと、ドライブを推進するために作られたガイドブックです。郊外や地方にあるレストランが次々に紹介されると、狙い通りに、人々は美味しさを求めてはるばる旅をするようになりました。
こうしたなかで、「オーベルジュ(Auberge)」が広く知られるようになるのです。
日本オーベルジュ協会は「オーベルジュ(Auberge)」を「郊外や地方にある宿泊設備を備えたレストラン」と説明しています。
フランス以外の欧州各地、そして日本にも「オーベルジュ」はありますが、どこもメインはレストランとそこでの食事。レストランで思う存分に食事を楽しんだ後、すぐに部屋で寝ることができる最高にうれしい環境ですが、宿泊設備が簡素なことも少なくありません。
今回訪れたイタリアの「オーベルジュ」は、ホテルと比べると小規模な宿泊設備でした。夕食と朝食以外は、最低限のサービスしかありませんでしたが、食が中心の旅にはそれがちょうどよいのかもしれません。
目指すは、生ハムの製造で有名なオーベルジュ
今回紹介するのは、北イタリアのエミリア・ロマーニャ州にあるオーベルジュ「アンティカ・コルテ・パラヴィチーナ(Antica Corte Pallovicina)」です。
生ハムで有名な町パルマから 北西に車で1時間程のところにあるパラヴィチーナ(Pallavicina)という場所にあります。フラットな土地に家がポツンポツンとあり、北海道のような解放感があります。
今回こちらを訪れたのは、生ハム好きの知人から「イタリアに行くなら、生ハムの王様クラテッロを食べなくちゃね~!」と言われたからでした。
このオーベルジュは、まさにこのクラテッロの製造で有名だったのです!
生ハムの王様「クラテッロ」って何?
はるばる食べに行きたいと思わせた、生ハムの王様「クラテッロ(culatello)」について、ここで紹介しておきましょう。
正式名称は「クラテッロ・ディ・ズィベッロDOP」。オーベルジュがあるズィベッロ(Zibello)周辺の8つの村でしか生産されていません。
生ハムと言えば「プロシュット(prosciutto)」が有名ですが、プロシュットが豚のもも肉を使うのに対し、クラテッロは豚のもも肉の中でも一番美味しい尻の部分のみが使用されます。スペシャルですよね〜!
クラテッロが作られる地域はいつも霧が発生し、湿度が高いそうです。この湿度と冬の寒さが、美味しいクラテッロを作るのだとか。
冬期に作られるクラテッロは、骨を外して独特の洋梨の形に整えられた後、10日ほど塩をなじませて豚の膀胱に詰められます。そして、ひもでしばり吊るされ、クーラーなど一切ない部室でゆっくり熟成されるのです。
念願のオーベルジュに到着!
さて、旅の話に戻ります。
今回の旅は宿泊とレストランなどすべて自力で予約手配しました。日本人向けのツアーがあるわけでもないので、オーベルジュのウエブサイト(イタリア語と英語のみ。日本語はナシ)からの申し込みです。
準備に手間はかかりますが、全ては美味しいクラテッロのため!
さて、ミラノからパルマまで電車で1時間30分。オーベルジュから事前にすすめられていた通り、パルマからはタクシーに乗り、のどかな風景を1時間ほど眺めているうちに、目的のオーベルジュに無事到着しました。
(途中でドライバーが道に迷いましたが、Googleナビがあって良かったです……。実際は、車を運転してくる宿泊客が多かったようです。)
オーベルジュは1320年に建てられた領主の館を復元した建物で、とても重厚な雰囲気です。
ゲートをくぐると右側にレストラン、左側に朝食などもいただけるオステリアがあり、宿泊客でなくても食事を楽しむことができます。レストラン横のあまり目立たない小さなドアを入った奥に小部屋で宿泊客はチェックインをします。ちゃんとしたフロントがないのもオーベルジュらしいです。
宿泊した部屋は、窓が少なくやや薄暗かったものの、ベッド、バスタブ、シャワーがあり快適でした(テレビはありません)。オーベルジュではレストランでの食事が主目的なので、このように施設は最低限しかないことがほとんどようです。
クラテッロ地下熟成庫に感動!
クラテッロ作りが売りの「アンティカ・コルテ・パラヴィチーナ」では、クラテッロの地下熟成庫の見学を楽しむことができました。地下熟成庫から少し離れた場所には、黒豚の飼育場とクラテッロ製造所、そしてさらに別の熟成庫があります。
特に、地下鍾乳洞のような熟成庫の天井や壁を覆い尽くすクラテッロは圧巻!!
既に有名レストランの売約済みの木札がつけられているものもありました。地下の熟成庫は熟成が進んでいるので、匂いはそれほど気になりませんが、農場近くの熟成庫は冬に製造された半年熟成のクラテッロがあり、肉特有の鼻を突くような匂いが充満していました。
オーベルジュに到着した後は、こうして地下熟成庫を見学したり、近隣レストランの農場にある黒豚や牛、カモ、鶏などの飼育場を訪問したり。中庭でアペリティフを楽しみながらゆったり過ごして楽しみなディナーへの期待を高めます。
旅のハイライト!クラテッロを堪能するディナー
いよいよ楽しみのディナーです。
オーベルジュ「アンティカ・コルテ・パラヴィチーナ」のレストランはミシュランガイドで1つ星を獲得した名店で、最高のクラテッロを味わうために世界中からグルメが訪れます。
クラテッロを堪能できるディナーコースは、クラテッロ3種盛り(白豚18ヶ月と27ヶ月熟成、黒豚37ヶ月熟成)からスタート。
今出回っているクラテッロは白豚がほとんどですが、「アンティカ・コルテ・パラヴィチーナ」では、昔ながらの味を求めて自分たちで黒豚を飼育し、黒豚のクラテッロを製造しています。
ここでこそ味わえるのが黒豚の37ヶ月熟成クラテッロなのです!
さて、そのクラテッロはどんな味かと言うと……
白豚より脂肪が多い黒豚の37ヶ月熟成は、日本で食べる生ハムとは全く異なる濃厚な味わいでした。この味を求め、イタリアの片田舎まで食通たちが車を走らせるのも納得です。
その土地の魅力を存分に味わえるのがオーベルジュ
私が訪れた5月上旬、朝起きるとうっすら霧がかかっていました。クラテッロを美味しくする霧です!
今回はオーベルジュに2泊したので、ディナーはレストラン、朝食は隣接するオステリアでいただきました。ランチは歩いて10分ほどの場所にあるトラットリアに行きました。
パルマからはタクシーを利用しましたが、車があれば近くのブッセート(Busseto)という街を観光するのも良いかもしれません。ブッセートはイタリアを代表する作曲家ジュゼッペ・ヴェルディが誕生した場所です。オーベルジュで働くスタッフも、ブッセートから通ってきていました。
ディナーのスタート時間が遅いヨーロッパで星付きレストランに行けるのもオーベルジュだからこそ。食事が終わったらすぐに泊まっている部屋に戻って休むことができるので、家族連れ、子連れの旅行でも安心です。
何もないイタリアの片田舎にあるオーベルジュは、敷地内に孔雀や犬や猫がいるのどかな雰囲気です。のんびりスピリッツを飲みながら食事まで過ごす穏やかな時間を持てるのも、オーベルジュらしい過ごし方かもしれません。
たまには、観光や移動にあくせくしない、のんびり郊外で食べることを楽しむ旅も良いものですね!
機会があれば、ぜひオーベルジュへの旅をおすすめします!
<今回紹介したイタリアのオーベルジュ>
「アンティカ・コルテ・パラヴィチーナ(Antica Corte Pallavicina)」
Strada del Palazzo Due Torri, 3
43010 Polesine Parmense PR Italy
http://www.anticacortepallavicinarelais.com/