
三重県津市・久居二ノ町に店を構える「やきとり大吉 久居店」その焼き場に立つのが、店主の太田 徳明さん(42歳)。扉を開けると、まず目に入るのは隅々まで掃除の行き届いた店内の清潔感。
その空間からは、「やきとり大吉」への深い愛情と、太田さんの妥協のない姿勢が自然と伝わってきます。
「ここは、家よりも落ち着く場所です」そう語る太田さんにとって、この店は単なる職場ではありません。かつては陸上自衛官という厳しい規律の世界で生きてきた太田さん。そこから一転、今は毎日焼き場に立ち、一本一本の焼鳥と真剣に向き合い続けています。なぜ彼は、この場所を人生の舞台に選んだのか。自衛官から焼鳥職人へ。その転身の裏にある想いと、仕事に向き合う姿勢に迫ります。
常連客から店主へ。「やきとり大吉」の世界観に惹かれて
──飲食経験ゼロで、なぜ「やきとり大吉」を選んだのですか?
私は高校卒業後、約15年にわたり陸上自衛官として勤務し、飲食業の経験はまったくありませんでした。きっかけは、自衛官時代にお客さんとして通っていた近所の「やきとり大吉」での出会いでした。もともとお店の温かい雰囲気が好きでよく足を運んでいたのですが、ある日、店内に貼られていた開業募集のポスターがふと目に留まりました。その瞬間、「もし自分が店を持つなら、やきとり大吉がいいな」と自然と思いました。
こじんまりとした規模感や、大将が何かひとこと言ってお客さんが笑顔になる。大将とお客さんの間で生まれる「一体感」に強く惹かれたことが、開業を意識する最初のきっかけでした。
──開業までの流れはスムーズでしたか?
自衛官として勤務して10年を過ぎた頃から、少しずつ「いつかは独立したい」という思いが芽生えはじめました。転職情報誌などでさまざまな業種を調べる中でも、「自分の性格に一番合っているのは、やっぱり大吉だな」と感じるようになり、次第に気持ちが固まっていきました。
本部への申し込み自体はスムーズに進みましたが、想像以上に時間がかかったのが自衛官としての退職手続きでした。自分が任されていた仕事にしっかり区切りをつけ、最後までやり切ったうえで退職させてもらい、実際に退職するまでには、約8ヶ月を要しました。
退職後は、大吉の研修として、大阪の天神橋店、滋賀の矢倉店で経験を積みました。その後、大阪・枚方市で店主を任され、約6年間お店を経営しました。
そして「やるなら、ここでやりたい」と以前から決めていた三重県の久居の地で、オーナーとして改めて開業し、現在に至ります。
「やきとり大吉」の仕事観とストイックなこだわり
──「仕事」ではなく「日常」。定休日を設けないのはなぜですか?
この店は、僕にとって「一番好きな場所」です。正直、仕事をしているつもりはまったくなく「生活そのもの」みたいな感覚ですね。「今日は休み」と定休日を決めてしまうと、「休まないとダメな日」になってしまうのがどうしても性格に合わなくて。だから定休日は設けず、基本は「気が向いたら休む」というスタンスを続けています。結果的に、好きなことをしながら継続してきて、それがいつの間にか、私の生活そのものになっていました。
──休みの日は何をされていますか?
店に立っていない日でも、結局はお店のことを考えるのですが、気が向いた時に、ふと休む。そんな感覚に近いかもしれません。
休みの日には、釣りに出かけることが多いです。
もともと奈良の出身で海が近くになかったので、湖やダム湖に釣りに行ってました。今でもその名残で、釣りに行くだけでなく、ダムを見にふらっと出かけることもあります。
──太田さんが仕事において大切にしていることは?
仕事中に大切にしているのは、「当たり前のことを、当たり前にやる」ということです。
・焼き上がったら、すぐにお客様へ
・お皿が空いたら、迷わず下げる
・グラスが空いたら、自然に声をかける
特別なことではありませんが、忙しい時ほど、その「当たり前を崩さない」。お金をいただく以上、ちゃんとやるのは最低限のことだと思ってます。
スタッフへの指導で大切にしているのは、感情ではなく「理由」を伝えることです。「ダメだからダメ」と頭ごなしに否定するのではなく、「それをすると、お客さまはどう感じるのか」を丁寧に説明するよう心がけています。
こうしたコミュニケーションを積み重ねることで、自然とお店の雰囲気が整い、今では長く働いてくれるスタッフも増えてきました。
あとは、常連さんであっても、連絡先の交換はしないようにしています。
あくまで「店主とお客さん」という適度な距離感を大切にしています。この距離感があるからこそ、長く気持ちよく通ってもらえると思っています。
自衛官時代に身に付いた「継続力」と「規律」
──自衛官時代の経験は、今の店づくりにどう活きていますか?
自衛官時代は常に過酷な状況が多かったため、そこで身に付いた「継続力」と「規律」は、今の店の営業にそのまま活きています。毎日同じクオリティを出し続ける。その積み重ねが、今の店を支えている感覚があります。
また自衛官時代に身に付いた習慣の中で、今の店に特に活きていると感じるのが「掃除」と「環境づくり」ですね。営業が終わったあとも、仕込みの合間も、気になったところは必ずその場で掃除する。店に入った瞬間に「なんか気持ちいいな」と感じてもらえるような、そんな空間でありたいと思っています。
ここは、ただの「仕事場」ではなく、自分にとっては大切な場所です。だからこそ、掃除も中途半端では終われない。きれいにして、ちゃんと整った状態で一日を終える。それは自衛官時代から当たり前のようにやってきたことですが、今はそれが、この店を守ることにもつながっていると感じています。
太田さんの日常を支える”母親”の存在
──お母様はお店の経営においてどのような存在ですか?
仕込みは基本的に母親と二人でやっています。
今は奈良の実家を引き払って、久居で一緒に生活しています。僕自身、「一人が好き」な性格ですが、母親は僕の仕事も人生も一番近くで理解してくれている、唯一無二のパートナーです。仕事師の気質は母親の血筋だと思いますし、心強いですよ。
──職人の気質はお母様譲りですか?
それはもう、間違いないですね。僕は母方の血がすごく強いと思ってます。
母親の父親、つまり祖父も職人だったんですよ。ずっと仕事をしている人でした。
だから、そういう影響もあるのかもしれないですね。母親は文句も言わないし、弱音もほとんど吐かないし、気づいたら全部やってくれている、そういうタイプです。
そんな背中を見て育ってきたんだと思います。
店を増やさない理由。「一生、ここで焼く」
──今後の目標はありますか?
特に思い当たらないのですが、あえて言うなら、今の状態を継続させることです。
僕にとってこの店は、仕事であり趣味でもあり、日常そのものですから。だから、目標はただ一つ。できる限りここで焼鳥を焼き、日々息抜きにハイボールを飲む、そういう人生を送りたいです。気分転換に釣りへ出かけたり、外で食事をしたりすることもありますが、結局ここにいる。
家よりもここにいる時間のほうが長く、私にとってこの店は、何より大切で好きな場所ですね。
──太田さんの考える「商売で最も大切なこと」とは何でしょうか。
「始めること」は、誰でもできると思います。
でも、その後に大事なのは、いかに継続できるか。
自衛隊を辞めて、未経験の飲食の世界に飛び込んだとき、早く成長したいという一心でした。「やってみたい」という強い気持ちと、それを「継続する覚悟」があるかどうか。これが全てです。
僕は、「どこまでできるか試したい」という感覚で、技術を身につけ、感覚を研ぎ澄ませるため、当初は集中的に毎日焼き場に立ち続けました。続けることでしか見えてこない世界観、景色があります。10年やきとり大吉をやってきて、見える景色はだいぶ変わりました。
これはどんな仕事でも一緒で、とりあえず1年、2年、3年と続けてみる。それができないと、何も変わらないと思っています。僕にとっては、この店を継続し、守っていくことが全てです。
ありがたいことに、以前あった大吉のお客さんが、場所が変わっても「大吉あるやん」と来てくださる。僕のファンではなく、やきとり大吉のファンの方が来てくれる。その看板の力を最大限に活かし、ただただ自分の「好き」を貫いて、毎日を大切に続けていくだけです。
編集後記
今回のインタビューでは、「未経験からでも、自分の店を持ち、人生の軸となる場所を築くことはできる」ということを学びました。太田さんにとって、やきとり大吉は「趣味でもある」、お店は「人生そのもの」。この独自の信念を貫く自然体の姿勢こそが、久居店の最大の魅力です。自衛官の規律と、職人の「好き」を徹底的に追求する生き方が融合し、結果として妥協のないクオリティと、お客さんを惹きつける唯一無二の空間を生み出しているのだと感じました。
「継続こそが全て」と語る太田さんの焼き場には、熱い人生そのものが詰まっていました。
クックビズでは、「自分の店を持ちたい」という想いを、半世紀近くにわたり形にしてきた「やきとり大吉」の独立開業を、人材の視点から支援しています。
近年導入された「地元でリース方式」などの仕組みにより、未経験からでも、無理なく・現実的に独立を目指せる環境が整っています。
やきとり大吉での独立開業に興味がある方、まずは話を聞いてみたいという方からのご相談も随時受け付けています。
「自分の居場所を持ちたい」そんな想いを抱く方にこそ、知ってほしい選択肢です。



