
クックビズ株式会社は、2024年10月から富山県庁が実施する「寿司職人お試し就職支援事業」の採用支援を行っています。この事業は、求職者が富山県での暮らしを体験しながら、後継者を求める県内寿司店で短期就業(最短30日間、最長3ヶ月)を体験できるものです。
今回ご紹介するのは、45歳にして長年憧れ続けてきた「寿司職人」の道へ踏み出した甲斐 祐介さん。中国で15年間にわたり飲食ビジネスに携わってきた甲斐さんは、コロナ禍という大きな転機をきっかけに、自身のキャリアと向き合い直しました。そして出会ったのが、富山県の「寿司職人お試し就職支援事業」でした。初めての富山の地で、包丁一本から再出発した一人の見習い職人と、それを見守る企業(株式会社ビーライン)のリアルな声をお届けします。
今回、甲斐さんを受け入れたのは、株式会社ビーライン。専務取締役の嶋氏が中心となり、寿司職人の育成に取り組んでいます。
企業が見た「45歳新人」の可能性
──今回、未経験かつ45歳の甲斐さんを採用されました。決め手は何だったのでしょうか?
嶋専務:一番は、彼の「誠実さ」と「芯の強さ」ですね。面接を通して、非常にしっかりとした芯をお持ちの方だと感じました。40代半ばで、しかも北海道から縁のない富山へ飛び込んでくるというのは、相当な「覚悟」が必要です。その決意の重さが言葉の端々に表れていました。
──経験の有無よりも、その「覚悟」を重視されたのですね。
もちろん技術はこれからですが、甲斐さんには15年にわたる海外経験という独自のバックグラウンドがあります。これは他の若手にはない大きな武器です。単に寿司を握るだけでなく、将来的に私たちの会社で学んだ「寿司」という技術が世界へ展開され、その可能性を大きく広げてくれる存在になってくれるのではないか、という期待もありました。
──富山県が実施している今回の「寿司職人支援(お試し就職)」についてはどう感じていますか?
非常に画期的な取り組みだと思います。県が予算を投じ、事務局が親身に寄り添ってくれることで、採用する側としても安心感があります。何より、県全体で「寿司」を盛り上げようとする熱気があるおかげで、全国から職人を目指す人の分母が増えています。
──修業に励む甲斐さんへ、メッセージをお願いします。
まずは焦らず基礎を固め、一日も早くお客様の前で握れるようになってほしいですね。甲斐さんには「いつか中国で寿司店を」という夢がある。私たちの会社をきっかけに、富山の素晴らしい魚と技術を世界へ発信する、そんな職人へ成長してくれることを心から応援しています。
株式会社ビーラインが運営する「とやま鮨海富山」
45歳で手にした、一生モノの技術への挑戦
──飲食業界でのキャリアは長いとお聞きしましたが、なぜ今「寿司職人」だったのでしょうか?
甲斐さん:私にとって、寿司は飲食業界の中でもずっと「花形」といえる特別な存在でした。実は2006年頃から約15年間、中国に渡って飲食ビジネスの最前線でキャリアを積んできました。
現地では広州や深圳(シンセン)を拠点に、ラーメン居酒屋やとんかつ専門店、九州料理にもつ鍋、焼き鳥店など、多彩な業態で店長や経営に携わってきました。また、現場に立つだけでなく、日本食材の卸業や飲食コンサルタントとして、「日本食文化そのもの」を現地に広める活動を行い、あらゆる角度から食に関わってきた自負があります。その中で「寿司」の存在感だけは別格でした。
──中国で日本食の地位が上がっていく様を、まさに現場で体感されていたのですね。
私が行った当初、中国には生魚を食べる習慣はほとんどありませんでした。しかし、2013年に日本料理がユネスコ無形文化遺産に登録された時期とも重なり、お寿司の地位が一気に駆け上がるのを目の当たりにしました。ビジネスとして寿司がどれほど注目されても、私自身には技術がないため、お客様の前で寿司を握ることはできませんでした。
飲食店を統括し、食材を卸すプロでありながら、一番の花形である寿司に関しては何もできないという事実に、ずっともどかしさと、心のどこかでモヤモヤした想いを抱え続けていました。
──そこで、コロナ禍をきっかけに一歩踏み出されたのですね。
コロナ禍の影響により北海道へ帰国し、これまでの仕事ができなくなり、ゼロから何かを始めるチャンスだと思いました。「本当にやりたかったことは何だ?」と自問自答したとき、浮かんできたのが寿司職人の道でした。そんな時に、クックビズさんを通じて富山県の「寿司職人お試し就職支援事業」を知りました。
──45歳、未経験での修業。実際に現場に入ってみていかがですか?
正直なところ、毎日が驚きと発見の連続で、非常に密度の濃い時間を過ごしています。入社して2ヶ月が経ち、魚の三枚おろしや包丁研ぎといった基本をようやく身につけ、職人としての「第一歩」を踏み出したという実感があります。
45歳で、まったくの未経験からプロの世界に飛び込むことは大きな決断でしたが、現場の張り詰めた緊張感は想像以上に身が引き締まります。現在は仕込みが中心ですが、基本の「き」を一つひとつ体に染み込ませている真っ最中です。
隣でテキパキと魚を捌く先輩方の、無駄のない動きや素材に向き合う真剣な眼差しに触れるたび、その技術の高さに圧倒されます。「一日も早く自分もあの域に到達したい」という思いが、今の私の原動力です。日々の作業の中で少しずつ手応えを感じられる瞬間が増え、学ぶ姿勢にしっかりと向き合い、丁寧に指導してくださるこの環境に、心から感謝しています。
スタートラインは周りの若手と同じですが、これまでの社会人経験があります。その分、人一倍のスピードですべてを吸収し、早く成長したいという意気込みで、毎日包丁を握っています。
──これからの目標、そして同じように挑戦を迷っている方へメッセージをお願いします。
私の目標は、一刻も早く一人前の寿司職人としてカウンターに立ち、自分の握った一貫でお客様を笑顔にすることです。そしていつかは、富山で学んだ技術を海外や地元の北海道に持ち帰りたい。 私の座右の銘は「挑戦」です。一歩踏み出さなければ、何も動きません。今の時代、手を挙げれば道は開けます。やりたいことがあるなら、年齢を理由に諦めず、ぜひ飛び込んでみてほしいですね。
富山県の「寿司職人お試し就職支援事業」:なぜ全国から挑戦者が集まるのか?
──富山県の「寿司職人お試し就職支援事業」、利用者として、また受け入れ企業として、この制度をどう捉えていますか?
甲斐さん:私のように県外から挑戦する人間にとって、これほど心強いものはありません。知らない土地へ飛び込むのは不安ですが、県が予算を投じて滞在費などを助成し、事務局の皆さんが親身に寄り添ってくれる。その「官民一体のサポート」があったからこそ、45歳での決断ができたと思っています。
嶋専務:企業側としても、県が「富山の寿司」を強力にプロモーションしてくれている恩恵は大きいです。もともと寿司職人を志す人の分母は少なかったのですが、県が「寿司といえば、富山」というブランドを全国へ発信してくれることで、甲斐さんのような熱意ある人材が全国から集まる仕組みができています。
──「富山で寿司を学ぶ」ことの魅力はどこにあると感じますか?
嶋専務:富山には世界に誇れる豊かな海、漁港があり、それを支える富山の食文化があります。弊社もそうですが、単に伝統を守るだけでなく、富山の寿司を全国、そして世界へ発信したいという熱い想いを持つ企業が多いです。行政と民間が同じ方向を向いて取り組んでいる、その一体感こそが最大の魅力ではないでしょうか。
甲斐さん:実際に富山に来て驚いたのは、魚の質の高さはもちろん、それを扱う技術の深さです。例えば、北海道出身の私にとっても「昆布締め」などの技法は新鮮でした。こうした独自の技術を、県を挙げて「次世代につなごう」とする環境がある。本気で職人を目指す人にとって、これほど贅沢な場所はないと感じています。
編集後記
「挑戦に年齢は関係ない」。甲斐さんの言葉を裏付けるように、富山県では行政と企業が手を取り合い、新たな寿司職人の誕生を強力に後押ししています。45歳で長年憧れた寿司職人の道を歩み始めた甲斐さんの姿は、飲食業界において、これまでの経験を活かしながら専門性を磨き直す「新しいキャリア形成」の大きな可能性を示しています。
■「寿司職人お試し就職支援事業」とは
富山県が実施する、寿司職人を目指す方に向けた体験型の就業支援です。
参加者は、富山県での暮らしを感じながら、県内の寿司店で最短30日〜最長3ヶ月の短期就業を体験できます。実際に働きながら就職先を検討できるため、遠方からでも安心して参加できます。
該当サイト:https://www.pref.toyama.jp/102104/zinzaiikusei.html
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