料理に長年たずさわっているけれど、「鰻は捌いたことがない」という料理人はとても多いようです。そもそも生物学の世界でも「鰻」がどこで生まれて、どこを泳いで、日本で捕れるのか、徐々に解明されてはいるものの、まだまだ謎だらけの食材といえます。和食が無形文化遺産になった今も、料理人にとって貴重な「鰻」の蒲焼の作り方についてご紹介します。
鰻の基本調理となる「捌き(さばき)・串打ち・焼き」について教えていただくのは「うなぎ四代目菊川」ミッドランドスクエア名古屋本店の料理長・吉田昌義さんです。今回は、腹開き、蒸さずに炭火での直火焼きによる調理法をレポート形式でお伝えます!
(取材:2024年9月5日)
用意するものは4つ!包丁・まな板・目打ち・串
世界に鰻を食す国は数多くありますが、身を開いて骨を取り、串を打って焼き上げる、いわゆる「蒲焼」スタイルは日本独自の料理法です。まず用意するものは、次の4つ。
・目打ち(なければ千枚通しでも代用可)
・まな板
・鰻専用包丁
・串
串は、蒸さずに炭火での直火焼きのみの調理の場合、竹串ではなく火力に強い金串を使用します。
鰻専用の包丁には、地域性があり、
・大阪裂
・名古屋裂
・京裂
・九州裂
・江戸裂
で、それぞれ形が異なっています。今回、使用するのは東海エリアで広く使われている名古屋裂の包丁です。刃先がスクエア型になっているのが特徴です。
活きの良さは、鰻の弾力と艶(ツヤ)で見極めろ!
まずは美味しい鰻の選び方です。
食べ頃・美味しい鰻を選ぶポイントは2つ。鰻の弾力と艶です。
鰻は、天然もの、養殖ものなどがありますが、主に産地、与えられる餌によって、身の柔らかさや皮の厚さが変わります。いずれにしても”いい鰻”は、押したときに弾力(ハリ)が感じられ、表面はテロッとした光沢があります。
鰻を選んだら、氷水に20~30分入れて締めます(仮死状態にする)。
炭火の場合は、火を起こして準備しておきます。
\ここがPOINT・吉田料理長/
鰻を持ってみよう
「鰻を持ってみると分かりやすいですよ。筋肉質になりすぎた鰻は身が堅く感じられます」
なめらかに捌く(さばく)には包丁の角度が重要
「捌き(さばき)」についても、地域によって異なり、関東は「背開き」、一方、関西は「腹開き」となっています。関東では江戸の武家文化が浸透していたため、腹開きは切腹をイメージすることから、背開きになったという諸説があります。今回は、腹開きの方法をお伝えします。
(1)目打ち
鰻は頭を右に置き、固定するために目打ちをします。
頭からすぐ左(画像下参照)の胸びれの右部分。上下に偏らず中央に目打ちをします。
(2)捌き(さばき)
①包丁を入れて腹を捌きます。
胸びれよりすぐ左の部分から包丁を入れます。
ポイントは包丁の角度。包丁は、通常の魚の三枚おろしのように寝かせて捌くのではなく、まな板に対して手前を約45度持ち上げて、右から左へ捌いていきます。
尾に近くなるにつれて、包丁を寝かせぎみにしていきます。
②内臓を取り除きます。
③背骨を取り除きます。
④頭を落とします。
\ここがPOINT・吉田料理長/
鰻の骨格を見極めながら、包丁を合わせよう
包丁の角度を変えながら捌く(さばく)理由は、通常の魚と違い、鰻の背骨の形状が三角(山のように)に隆起していて、尾に近い部分は通常の魚と同じく平たい形状になっているためです。
包丁を寝かせたまま使用すると、最初の包丁入れから骨にあたって、上手く捌くことができません。
串打ちは脂肪を狙って鰻に対して直角に
串打ちを行います。
鰻は、頭側を左に、尾が右になるように置きます。今回、使う串は6本。
①全体に均等な幅になるように刺していきます。
慣れるまでは画像のように仮置きしてイメージをつかむのもおすすめです。
②串は、左(頭側)から。皮と身の間の脂肪部分に刺します。鰻に対して、常に直角にまっすぐになるよう気を付けましょう。ほのかに色が変わる部分の下を狙って打つとよいでしょう。
③バランスよく串を打つために、端から左右交互に串打ちしていきます。
④串打ちが仕上がりました
料理長の鮮やかな手捌きで、わずか1分で終了しました!
\ここがPOINT・吉田料理長/
バランスよく串打ちをしよう
串が出てくる場所を想定して狙って打つと、脂肪部分にきれいに串打ちができます。串打ち部分を誤ると、次の「焼き」の工程で割けるなど不具合がでます。
美しい成形は「焼きはじめ」が肝心!
「焼き」についても、関東と関西で異なります。関東では鰻を蒸してから焼きますが、関西では蒸さずに「焼き」の工程のみとなります。これにも諸説ありますが、関東式の場合、蒸して下調理することで早くやわらかに焼き上がります。関西式の場合、表面はサクッと香ばしく、中はフワっとした食感に仕上がります。今回は関西式の「焼き」のみの工程で仕上げます。
(1)焼きはじめ
鰻の焼きは「皮」から行ないます(身が丸く縮まるのを防ぎます)。
2~3分で、手早く返します。
左右が丸まってくるので、串などで端を押さえると、きれいに焼きあがります。火が通りきる前に形を作ります。
「焼き」は炭火の管理が決め手
(2)焼き(前半)
焦げ目がつき始め、パチパチという音に変わってきたら、炭の様子に配慮します。焦げ目がつきすぎている箇所は、炭を移動させたり、焦げ目のない部分に炭を入れるなど、火力のバランスに気を配ります。
焦げ目を見極めながら何度か返します。
表面がてかり、細かな脂が泡だちはじめ、身にまとうようになってくると、「焼き」の前半終了のサインです。
鰻の脂を上手く使って「フワッ、トロッ」の食感をつくる
(3)焼き(後半)
後半は、「鰻を焼く」というより、身にコーティングされた熱い脂を、再び身に浸透させて、中まで熱を通していくというイメージです。脂がじんわりと身に入っていくことでフワッとした食感と、パサつき感のないトロッとした味わいになります。
さぁ、ここからが焼きの総仕上げです。
たっぷりのタレにつけて、照りを出しながら焼いていきます。
鰻の蒲焼の完成です
照りのある表面。食べたときの、サクッとした食感、フワッとした柔らかな身、口の中でトロッと広がる脂の美味しさ。美味しい鰻の蒲焼の出来上がりです。
\ここがPOINT・吉田料理長/
一番多い失敗は、焼き過ぎること。
「焼き」の工程では、「鰻を見る」より「炭火を見る」ことを心がけてください。
焼く技術より、まず炭を上手く扱えるようになることが大事です。
脂を落とさないよう、焦がさないよう、気を付けて下さい。
鰻の蒲焼に最適な温度は、600〜800度だといわれています。
<体感目安>
600〜800度/手をかざして1秒と我慢できない。
400~500度/手をかざせる。
炭の種類によっても、最高温度が変わります。
・備長炭/800度~1000度(風を送れば1200度に達することもある)
・オガ炭/600度~800度(風を送れば1000度に達することもある)
・黒炭 /400度~700度(風を送れば800度に達することもある)
鰻の調理:まとめ
鰻の捌き、串打ち、焼きにはそれぞれの大きなポイントがあります。
・捌き /鰻の骨格を知り、それに沿って包丁を入れること
・串打ち/皮と身の間の脂肪部分に、まっすぐ串を刺すこと
・焼き /炭の管理を徹底すること
見た目も美しく、美味しい鰻の蒲焼をぜひ作ってみて下さいね。
今回、手ほどきをしていただいた吉田料理長に、上手になるポイントをお伺いしたところ、一番は「鰻に慣れること」とのことでした。
鰻は鮮度が重要なため、仮死状態(生きた状態)のまま捌きます。包丁をいれると激しく動き出すため、慣れていない場合、捌きに時間がかかり味にも影響がでるそうです。鱧や穴子と似ていると思われがちな鰻ですが、「生きたまま捌く」ことが大きな違いだと教えていただきました。
また鰻に慣れることで、個体に多少の差があっても、その鰻に合わせた焼き方で、同じように美味しい蒲焼に仕上げていくことができるそうです。
吉田料理長、ありがとうございました。
<取材協力店>
店名 | 「うなぎ四代目菊川」ミッドランドスクエア名古屋本店 |
住所 | 愛知県名古屋市中村区名駅4丁目7-1 ミッドランドスクエア商業棟4F |
電話番号 | 052-433-1888 |
営業時間 | 【月〜金】11:00~15:00(LO14:00)17:00~22:00(LO21:00) 【土・日・祝】11:00〜22:00(LO21:00) |
定休日 | 不定休 ミッドランドスクエアに準ずる |
席数 | 68席(個室7室) |
平均予算 | ランチ 5,000円〜、ディナー 5,500円〜 |
公式サイト | 『うなぎ四代目菊川』公式サイト |