自立心の強かった手島少年が、フランスでフレンチの料理人として働くまでの道のり

料理人になったきっかけをお聞かせください。

手島氏:とにかく独立したかったんです。その手段を模索しているうち、仕事として続けられて、かつ、独立することに近そうだったのが飲食業でした。料理人を目指したのは、16歳の時に友人が「コックさん」になったと噂で聞いたことがきっかけです。その響きのかっこよさになんだか嫉妬を感じ、フレンチ料理人を目指し始めました。

専門学校へは行かず、19歳で地元の老舗「高田屋」さんに勤めさせてもらい、19歳の頃から厨房に立っていました。このお店で直面した力量の差に、フランス料理は青天井だな、とフランス料理の深さを思い知らされたのです。

その後何軒かフレンチのお店で働き、フランスに渡るために、夜はワインバーのキッチンでシェフとして、昼は別の店でアルバイトをしてお金を貯めました。

そのあとすぐにフランスに渡ったのですか?

手島氏:フランスへ渡る前に、まずは東京に行かなくては、と東京に行きました。東京で「シェイノ」というレストランがあるのですが、先輩たち皆が崇拝しているクラッシックの王道といえるお店です。

「シェイノ」に紹介をしてもらえそうだったのですが、タイミングが合わず残念ながら働くことはできませんでした。

その時、ワーキングホリデービザというビザの存在を知り、そこで渡仏する決意をしました。

フランスでの修業と手島シェフに影響を与えた料理人

はじめてフランスで働かれることになり、いかがでしたか?

手島氏:三つ星レストランを含め数多くのレストランに何十枚も履歴書を送りました。フランス語も話せないから、面接では履歴書を読み上げるという有様だったのですが、「タイユバン」と「ルカ・カルトン」と「ギ・サヴォワ」から採用の通知が来たのです。その中で、「ルカ・カルトン」を選びました。

「ルカ・カルトン」を選ばれた理由は、ご自身がソムリエの資格もお持ちだからですか?

手島氏:そうです。「ルカ・カルトン」は、ワインペアリングを発案して広めたレストランで、ワインの品揃えも素晴らしいんです。そこで料理人として働けたら、と思ったのです。

その後、アラン・サンドランス氏が「ビストロを始めたい」と言って三つ星レストランの「ルカ・カルトン」からビストロ「サンドランス」に店名を変え三つ星も返上してビストロを始めた時期に働きました。ビストロと謳っていましたが、出していた料理はガストロノミックでしたね(笑)。

影響を受けた料理人さんをあげるとすれば、どなたでしょう?

手島氏:ミシェル・ブラス氏、アラン・パッサール氏、パスカル・バルボ氏、相田康次氏です。

ミシェル・ブラス氏の料理は衝撃的でした。彼の本『BRAS』は何度も読みました。彼の偉大なところは、料理人ではなかったのに自分で自分の料理を作り出したことだと思います。彼のように、料理人としての派閥には属さず、源流になれるような料理人になりたいと思いました。

オリビエ・ロランジェ氏も同じ理由で刺激になります。アラン・パッサール氏も師匠はいたけれど彼自身の独自のスタイルを築いている。バルボ氏も独自性がありますね。そういうところが純粋にかっこいいと思います。相田氏からは「いいものに触れなさい」といつも言って頂いていて、良い影響を与えていただいています。

画像提供:Restaurant PAGES

料理のインスピレーション、手島シェフの哲学

料理のクリエイションについてお話しください。

手島氏:料理を作るときに気をつけていることは、お客様一人ひとりのことを考えることです。お皿を作るときに、「この人が喜んでくれるかな。この人だけでなく、この人のお友達にも喜んでもらえるかな」と考えています。

盛り付けについてはみんなでやっています。お客様を待たせないためにもこれは重要です。最近はかけるべきところに時間がかけられるようになってきています。以前と比べると装飾的な部分は減ってきたと思います。

うちで料理を作ってくれているスタッフたちが「(自分の働く店に)食べに来たい。友達を呼びたい」と言ってくれて、それだ、と思いました。スタッフ自らがそう思える店にしたいと思っています。

インスピレーションについては、たくさん食べて食材の味わいを知ることが大事ですね。そして、食材を「もの」として見なければ、別に見えるものが出てきます。食材に関わる人、関わっている土壌、そういった食材の周辺の全てのものについて知る努力をして、それをイメージすることがインスピレーションになることもあります。

フランス料理というのは、芸術性が高い料理だと思います。単純にフランス料理というものがあるのではないんです。大きなカテゴリーとしてのフランス料理があって、実はその中には様々なスタイルがあるんです。フランス料理の偉大なところは、音楽にジャズやロックのようなカテゴリーのそれぞれの音楽スタイルがあるように、そういったものが料理にもそれぞれ独自にあるところです。そこがすごいんです。

「モダン」「ガストロノミークラシック」など様々な言葉で表現できる潮流があります。日本人料理人たちの料理は例えば「ジャパニーズポップ」のような感じでフランス料理の中に組み込まれています。そこに飲み込まれない「手島竜司の料理」を作りあげたいですね。

フランス料理を通じて、ある意味自己実現をしているんです。フランス料理で何ができるか。それを考えたときに、源流になれるような自分の哲学を反映した個性のある料理を作りたいと思ったのです。

料理の皿には哲学がないといけません。フランスでレストランのことをchez(シェ)〇〇、と言うでしょう。シェという言葉が「人の家」を意味しています。お皿は人の哲学やテーマがないといけないのです。

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