
2025年、コロナ禍が落ち着いた今、インバウンド需要も復活。日本は世界中から多くの観光客を魅了していますが、その大きな目的の1つが「食」です。日本の飲食業界では需要が回復しているように見えますが、次なる課題は。
今回、飲食店を国内外で展開する外食大手・株式会社オーイズミフーズ代表・大泉 賢治氏と、飲食業界に特化した人材サービスを手がける弊社・クックビズ株式会社代表・藪ノ 賢次が対談。コロナというパンデミックを経て、飲食業界の変革期を生き抜くために変化したこと、今の課題について意見交換しました。
(取材:5月12日、「ベンジャミンステーキハウス六本木店」にて 聞き手:岩野 珠子)
■株式会社オーイズミフーズ
1982年創業。食を通じて人々に幸せを提供することを目指している総合フードサービス企業。和風個室居酒屋「くいもの屋わん」、ステーキハウス「BENJAMIN STEAK HOUSE」、イタリアンレストラン「LOGiC」など、国内外に多彩な飲食店50業態約320店舗を直営で展開。
■クックビズ株式会社
2007年創業。飲食業界に特化した人材紹介、求人広告、スカウトサービス、RPO、教育研修、採用ブランディングを行う。2017年に東証マザーズ(現東証グロース)市場に上場。飲食業界の人手不足を解決する人材サービスや、DX事業、事業再生などを展開中。
コロナを経て再認識。「美味しい食事でお客様を笑顔にすること」が一番の醍醐味
──オーイズミフーズでは「くいもの屋わん」など旗艦ブランドに居酒屋業態が多数ありますが、コロナ禍を経て変化したことを教えてください
大泉氏:
当社は、居酒屋を主軸においた会社です。その当時、人の密集を避けるために20時までの営業時間の短縮をと国から協力要請されても、20時からがピークの商売だけに商売が成り立ちません。ですから期間中、閉めていた店も多かったですよ。
あれだけ活気のあった店に、お客様が来ない、来ることができない。コロナ禍で、たくさんの従業員が辞めました。
飲食業界で働く人の一番のやりがいは、お客様に美味しいものを食べてもらって喜んで帰ってもらうことです。お客様に何もできないんじゃ、やりがいはなくなります。
その時に「美味しい食事でお客様を笑顔にすること」がいかに大事かを改めて実感しました。
藪ノ氏:
コロナ禍で、飲食業界で働く醍醐味を改めて実感するきっかけになったのですね。
大泉氏:
それで基本に立ち返ったんです。
アルコール中心の業態に偏っていましたが、「食事」中心の展開にしようと。
もともと多業態展開をしていましたが、リスクヘッジのためにさらに多業態になっていきました。
藪ノ氏:
食事中心の業態が増えることで、現在の方が顧客単価が上がったのでは?
大泉氏:
そうですね。それに多業態のメリットはほかにもあります。
理由は大きく2つありまして、1つは経営面の話になります。
飲食店を経営するにあたり、私は物件が一番大事だと思っているんです。どういう物件を抑えるか、いくらの家賃で借りるか、ここでどういうブランド・業態を入れるのか。これで7割、勝負が決まると思っています。
あとの2~3割は、スタッフの魅力やサービス面ですね。
例えば、ビルが並んで隣り合わせで面積が同じでも、家賃が全く違うことがあります。こちらの物件は月の家賃50万円、あちらの物件は100万円というふうに。そこから、もうすでに50万円の差が生まれているんですよ。だから良い物件を抑えるのが鍵なんです。
加えて、そこに合うブランド、業態を合わせることが大事です。
だから業態を増やすと、手持ちのカードが増えるので合わせていきやすい=店舗展開しやすいというメリットがあります。
藪ノ氏:
確かにそうですね。
大泉氏:
そして2つ目としては、商業施設に出店しやすいということが挙げられます。
以前、居酒屋ブランドを多く展開していた頃は商業モールにはあまり出店していなかったんですよ。モールの良いところは、テナントミックスをしっかり考えてくれているところです。和食店、ラーメン屋、イタリアンなどバランスを考えて配置されています。モール内に同じ業態がかぶらないように配慮しているんです。だから、こちらとしては競合がいないので、経営面もうまくいきやすいというメリットがあります。これが街の中だと、周囲にラーメン屋が複数あったり、競合店が目にみえてありますからね。もちろん全体をみれば、人気店とそうでない店が生まれるけれども。
商業施設からオファーをもらうには、多くのカードを持っていたほうがいい。多彩な飲食ブランドがあればオファーが来やすいんです。そしていわゆる「名店」などへのオファーも多くあります。
藪ノ氏:
昨年(2024年)、新丸ビルにミシュラン大阪の常連、中華「エス・サワダ」が入店されましたね。
大泉氏:
そうですね。当社では「エス・サワダ」との業務提携があります。デベロッパーとしても名店を入れたいけれど、個人店と契約を結ぶのは…となる。ある程度の規模の会社との契約の方が、安心感があるんでしょうね。それで当社では、幅と奥行きを持たせた業態展開をするために、業務提携やM&Aをすすめることにしています。
名店1店舗だけでも、ブランドが際立っていて認知度が高い飲食店があります。話題性も富んでいますしね。
藪ノ氏:
今は、M&Aやライセンス契約などいろいろありますし、その方が機動性が増すんですね。イタリアンの「LOGiC」なんかもそうなんですね。学生の頃、よく利用していたんですよ。大阪・堀江の方にあったでしょう。
自分が足繁く通っていた「LOGiC」が数店舗しかなかったのに、オーイズミフーズさんの傘下に入ってめちゃくちゃうれしかったです。
大泉氏:
そうそう。今は海外にも出店しています。そのほかM&Aでは事業継承者が途絶えそうな飲食店も視野に入れています。
M&Aという突破口で新たな展開へ
藪ノ氏:
M&Aって企業文化が違うので、合併・買収後の統合プロセスで苦労はないですか。
大泉氏:
最初は、何もしないです。しばらくそのままにしています。
藪ノ氏:
それは面白いですね。最初が肝心といわれますが。
大泉氏:
いや、しばらく何もしないです。少しずつ当社の行事である、アワード…いわゆる表彰会など会社の行事に参加してもらいながら、こんなこともしているんですよって、ちょっとずつ当社の企業文化を共有していく感じです。
それからアワードも、はじめは子会社は子会社で行います。企業文化が浸透したところで、弊社と合同で行う流れです。
それで結果的に、統合した会社の従業員からも、オーイズミフーズに変わって良かったって言ってもらっています。
藪ノ氏:
それがオーイズミフーズ流なんですね。事業継承者のいない飲食店も多くなっていますし、M&Aで活性化したほうが飲食業界が活況しそうですね。
──クックビズがコロナ禍で変わったことは?
藪ノ氏:
当時、飲食業界がダメージを受けていたので、他の業種の人材サービスも手掛けてはどうかという案も出ました。コロナ禍で注目されたエッセンシャルワーカーという職業…、例えば介護業界などどうかと。しかし、そうすると“クック(cook)”ではなくなってしまう。
外食業界は真っ先に営業自粛の要請がありましたが、政府に外食で働く人はエッセンシャルワーカーではないといわれた際、憤りを感じました。僕は外食こそがエッセンシャルワーカーだと思っているんです。
クックビズには、「飲食業界を良くしたい」と考え、ビジョンに共感して集まった従業員が多数いるので、介護業界にも参入といっても、じゃあビジョンやミッションはどうするのかという議論もあり、それで実行せずに、いったん減収赤字を受け入れていたんです。
ただ、コロナ禍で「食」の業界で多角化ができていないことの問題が明らかになったし、上場前後からの宿題だったので、いいタイミングだと水産物の加工工場を取得し、「きゅういち」として北海道に帆立などを扱う工場を持ったり、DXのシフト管理アプリの会社を運営したり、コロナ後はきっと需要があると見込んで、特定技能人材紹介事業などを行っている会社をM&Aにより取得しました。
「飲食」1本だったクックビズが、コロナ後は対象を「食」に広げて多角化をめざしたんです。3社を持てて良いきっかけになりました。
飲食業界の人材確保に、リファラル採用、企業伴走型の人材サービス、そして次なる一手は…
──少子化で人手不足が慢性化する中、どのように人材を確保していますか?
大泉氏:
今、50ブランドほど運営していて、前述でご説明したように和食からイタリアンなど多彩な業態を持っており、価格帯も幅広い。それがちょっと人材戦略ではハードルになっていると感じています。
飲食業界、とくに調理の人は同じ業態で転職を繰り返すものなんです。だから社内で、なかなかほかの業態に異動させづらい。イタリアン業態の店舗、和食業態の店舗の中だけで異動させ続ける…これがけっこう難しいんですよ。
藪ノ氏:
募集側からみれば、業態が多い方が魅力的にみえるし、人を採りやすいイメージがあります。
大泉氏:
中には、いろんな業態を学びたい人もいるけれど少数派です。だから当社では、極力、社員が人を紹介するリファラル採用をすすめています。また調理人はアルバイト採用後、正社員登用する流れで人材を増やしています。
藪ノ氏:
現在、リファラル採用は何割ぐらいですか。
大泉氏:
2割強ですね。社内で紹介してくれた方にインセンティブを支給しています。最近はその額もアップしています。
藪ノ氏:
確かに、人材紹介会社に費用をかけるよりも、そのほうが従業員にもいいですね。
(一同:笑)
──クックビズは飲食特化の人材サービスを行っていますが、強みは?
藪ノ氏:
現在、クックビズがご提案している伴走型の人材サービス企画「採用総合パッケージ」は強みだと思っています。単に人を紹介して終わりではなくて、深く企業を理解しながら人材戦略に関わらせていただき、中長期で採用をお手伝いさせてもらうという商品です。お客様の会社と共に成長していけることは、業界に特化している1つの強みと自負しています。
そもそも飲食業界に特化した理由は、何より飲食業界の人が人材確保に困っていると感じたし、グローバルに世界に目を向けたときに、日本といえば、そして関西発でいえば「食」、だからどの業界に特化したらいいかと考えたときに、自然と私は「食」だと感じたんですよ。
大手人材サービス会社からすれば、飲食業界は苦戦する業界だと思うでしょうね。正社員よりアルバイトが多く、大小さまざまな店舗があるし、個人店もあれば、チェーン店もある、与信管理も難しいし、いろんな人に止めたほうがいいといわれたんですけど。でもやっぱり、この業界を強くしたいと思ったし、長くやってきたことで伴走型の企画が生まれたので、そこが強みだと思っています。
──飲食業界を担う若手に求めるものは?
大泉氏:
やっぱり誰しも働く環境が良いところで働きたいと思うんですよ。
働く環境は「人」が作っていくものなので、簡単にいうと「いい人」がほしい。
いい人がまた「いい人」を連れてくるものなので。面倒見がいいとか、誠実とか、スキルや能力は個人差があってもいい。要は「いい人」ってのが重要です。
藪ノ氏:
スキルは後からでもついてくるということですね。それより「いい人」が大事だと。
大泉氏:
そうそう。だからリファラル採用なんです。藪ノさんは、飲食業界でどういう人が活躍すると思います?
藪ノ氏:
ベースは、やっぱりオーイズミフーズさんと同じヒューマンスキルが高いことが大事ですが、これからの時代はどう生産性をあげていけるか。僭越ながら、お客様の体験価値と生産性を両立して考えられる、そういった人材の採用も課題だと感じます。
例えば飲食店で、どんな店でもモバイルオーダーできれば良いというものではなくて、DX化をお客様に押しつけているのはどうかなと。必要なスキルは、今後さらに複雑になっていくので、人材サービスをお手伝いする立場としては面白くなっていきそうです。例えばIT業界から飲食業界への転職とか。
接客が好き、料理が好き。だから飲食業界で働きたいという人は、もちろん多いだろうけれど、もっと飲食業界に参入する人の裾野を広げていきたいとは感じます。
大泉氏:
モバイルオーダーは、もちろん便利だからいいのですが、お客様との接点が減る。そうなると仕事が作業化しやすいというデメリットがあるんです。作業化すると働くのが楽しくなくなる。
当社ではメニューの中に、お客様との接点を作り、会話が生まれるような仕掛けを作るようにしています。例えば、お客様の目の前でチーズを振りかけるとか、石窯で焼くなど、そういったことも踏まえたメニュー開発に力を入れています。
藪ノ氏:
効率化したあとに、何に力を入れるのかということですね。時間あたりの付加価値をあげるのは大事ですよね。
御社の「くいもの屋わん」で、「ここの企業さん、優遇します」って言われました。お客様の会社名を聞いたり、名刺をもらって商売をするって、大箱の居酒屋で、スナックのような密なコミュニケーションの取り方ですよね。チェーン店と個人店の良さが融合しています。そういうのは社内からアイデアがでるんですか?
大泉氏:
店舗ごとに裁量権を持たせています。さっきの”お得意様企業を優遇しよう”というアイデアなどは、弊社で開催されるアワードで成功事例として発表・表彰もしています。で、いいものは横展開するという流れです。
──今後の採用の課題についてはいかがでしょうか
大泉氏:
今後の課題は、若い人の転職サイクルが早く、概ね飲食ではない業界への転職が多いことです。
藪ノ氏:
この1年ぐらいの悩ましい現状ですね。
大泉氏:
定着がテーマです。人材を定着させるのは難しいです。
だからリファラル採用や、アルバイトからの正社員採用が重要になってきています。
藪ノ氏:
定着してもらうには、組織全体のパフォーマンスをあげることも大事かと思いますが、どんな工夫をなさっていますか?
大泉氏:
アワードをうまく活用してますね。今はモバイルオーダーを利用しているので、顧客アンケートを実施し点数化しています。そこに向けて、みんなで励んでいますね。
当社では、「関わる全ての人にHappyを」という経営理念があり、お客様だけでなく従業員に対しても、人をhappyにできる人材の集団であることを目指して、クレド(行動指針)を掲げています。それに合わせて取り組みをしたものを表彰しているんです。
内容は9つあり、日報に今日の行動として、どれか1つでもいいのでクレド(行動指針)に沿った取り組みを書いてもらうようにしています。
藪ノ氏:
定着してもらうために、人材会社を子会社として御社に創設してはいかがでしょうか。従業員の離職相談も行うので他社への流出もその会社が担うという流れです。
大泉氏:
面白いですね。人事部の中でそういう事業をスタートしてみるというのは、将来的にはありかもしれませんね。ユニークな発想です。
藪ノ氏:
あるブライダルの会社で、クックビズが子会社の人材会社の立ち上げ支援をしたことがあります。3年ぐらい取り組んでいて、今は安定して紹介実績がでています。われわれのサポートがあるので、最少人数で事業部を構築できるという流れです。
だから、もしオーイズミフーズさんが社内に人材会社を作るなら、求職者はオーイズミフーズの従業員の相談窓口にもなりえますし、また単に人材の流出だけじゃなく、転職支援ですから送客も行えます。それに他社から人材を集めて、自社の店舗への入社も行えます。いわば通常の人事部的な動きもします。
今後、もし何かご協力できることがあればぜひ。
今日はお忙しい中、ありがとうございました。
編集後記
飲食業界に精通するトップ対談はいかがでしたか。
少子化で若手の採用が難しくなる中、今後の課題は人材の定着とのこと。自社で人材サービス会社を持つというのは、これまではメジャーではありませんでしたが、今後、増えるかもしれません。
お忙しい中、興味深いお話をありがとうございました。








