2013年12月にオープンした「kitchen buzz(キッチンバズ)」は大阪、キタ梅田からひと駅向こうの福島駅からほど近い場所にあります。お店の周りには住宅や小さな町工場が密集しています。

今回はクックビズ総研編集部の松尾がオーナーシェフの岡本敦史さんにお話を伺ってきました。
岡本さんは20年以上の料理人を経験、さらにNPO法人食育インストラクターや国際薬膳食育師の資格を活かし、お店づくりをされています。

大きくなったらコックになるんだ!

───岡本さんがこの世界に入られたきっかけを教えてください。

岡本さん:ぼく、小学生のときからコックになるのが夢だったんです。高校に入ってから高校生でもコックのバイトができるお店を探し、ファミレスで3年間調理のバイトをし、専門学校に入るための資金を貯めました。当時はなんと時給480円でした(笑)バイトした甲斐もあり、念願かなって調理学校へ。

1年学び、卒業後は会員制のレストランで洗い物や下ごしらえ、買出しなどの下働きをしていました。でも、早朝から深夜までの過酷な労働時間、そのうえ月給5万円という悪環境でした。このままでは生活できないし、体を壊してしまうと思い、転職しました。

次に心斎橋にあったレストランバーで働きました。ここでは幅広いジャンルの料理が自由に作れたのでとても勉強になりましたし、自分のモチベーションもあがりました。とても働きやすい環境でした。

───最初の就職先と全然環境が違って、やりがいも感じられたんですね。ちなみにその頃ってバブル時代ですか?

岡本さん:そうですね。来てくださるお客様、みんなが楽しそうで、今とはまったく違う時代の雰囲気ですね。景気がよかったので仕事もイケイケドンドンな感じでした(笑)。でも、そんな時期は長く続かず、ぼくも大手のホテルに転職。

そして、縁あって今までとはまったく異なる業態、産婦人科でコックとして厨房を任されました。今のぼくがあるのは、そこでの経験があるからです。産婦人科での経験は、その後の独立に大きく影響しました。

───それまではレストランに来られるお客様にお料理を作っていたわけですが、産婦人科は入院されている女性に料理を出すって、まったくスタイルが異なりますよね。戸惑いや不安はなかったですか?

岡本さん:もちろん、ありました。まず、何より産婦人科では産後の女性の体をいたわる食事を作らなければならないということ。

お母さんが食べたものは母乳を通じて生まれたての赤ちゃんにまで影響するので、味付けや栄養バランスはもちろん大切なんですが、美味しいと五感で感じてもらえる食事をめざしていました。でも、最初は本当に試行錯誤の連続。

そんな時に思い出したのが、子どものころ、ぼくの祖母が作ってくれたごはんです。祖母はよく、和食を作ってくれました。煮物なんかは本当に薄味だけど、野菜やほかの素材の味がよく出ていてそれはそれは美味しかったんです。

産院の助産師さんが産前産後のお母さんに“赤ちゃんのために、母乳のためには濃い味のものは食べないで!和食中心の食事を摂って!カルシウムと鉄分が豊富なものを摂りなさい”って口すっぱく言うんですよ。

和食は栄養のバランスが非常によく整っていて、しかも薄味。祖母の味、そのものだ!と思いました。そこで、ストレス負担なく、どんなものが体によく、美味しく食べられる食事なのかを勉強しました。それもあり、“食育インストラクター”や“国際薬膳食育師”の資格を取得しました。

そして、その資格を活かし、産後のお母さんに体にも心にもやさしい食事を手がけていきました。

また、食事を作る役割だけでなく、産院で料理教室を開き、妊婦さんの体にいいものや、赤ちゃんに必要な離乳食をお母さんたちの伝えることもしました。

───料理人、食育インストラクターから学べる料理教室や、離乳食教室って説得力ありますね。

岡本さん:料理教室、離乳食教室で心がけていたのは食材や調味料、調理器具、コンロにいたるまですべて家庭にあるものと同じものを使って調理すること。お母さんに“プロが作るから美味しくできるんでしょ。家ではそんな味出せないでしょ”と思われたくなかったんです。

───なるほど。素人でもカンタンに家でも再現できることは大事ですね。教室で習っただけではなんの意味もなさないですもんね。わたしも通院していた産院で料理教室を受講したことがあるんですが、ふだん使わないような食材ばかりを使い、盛り付けもきれいで、作るのに工程が多く時間がかかる。受講中にもう、家では作らないなと思いましたよ。

岡本さん:産院にいたおよそ15年間、本当に学ぶことが多かったです。料理人とは違った目線での食事の大切さや、子どもを大切に思うがゆえの食事についての考え方を助産師さんや妊婦さん、産後のお母さんから学びました。

────そして、岡本さんは自分にしかできないレストランを開こう!と考え、2013年12月ついに『kitchen buzz』をオープンされます。

大阪市福島区鷺洲にあるkitchen buzz(キッチンバズ)の外観

自分の持ち味である、食育の知識や経験が活きた店

岡本さん:食育インストラクターという資格を活かす。ぼくの持ち味、“食育”や“薬膳”をぞんぶんに活かした店が『kitchen BUZZ』です。

また、野菜は契約農家『安田農園』のものを中心に使用しています。大阪府茨木市にある農園なんですが、安田さんが作る野菜が本当に美味しくて!できるだけ農薬を使わずに自然な栽培にこだわって、 旬のおいしい安全な野菜つくりをめざされているんです。『kitchenBUZZ』では『安田農園』さんを中心に各地の契約農家から少農薬、自然栽培にこだわった旬の野菜を使っています。

あとは、“美味しさの質”にこだわっています。飲食店って美味しくって当たり前なんです。だって、プロが作るんだから。しかし、外食すると必ずと言っていいほど、のどが渇くんです。それは味付けするのに大量の塩や化学調味料を使っているから。そうではなくって、素材そのものの味を存分に活かしてあげることが大切だと思います。

食育インストラクターや国際薬膳食育師の資格を強みに西洋料理でおもてなし

“食育”を最大限に活かして、店ができること

岡本さん:自分の得意分野を活かして、好きなことを仕事にできる。これほど、幸せで楽しいことはありません!

思い通りにはならない

岡本さん:毎日、自分の思い通りにはお客様は来てくれませんね。近所のお店の方にボソッと愚痴ると“まだ、たった3ヶ月でしょ!”とカツを入れてくださいました(笑)

リピートしてもらえる店をめざす!

岡本さん:オープンから3ヶ月なので、より多くのお客様に来てもらえるようにさまざまな工夫をしかけていきたいと考えています。

あとは、この辺りは住宅が多く、お子さんもたくさんいるので幼稚園などで食育アドバイスできるようなイベントや料理教室を通じて、食の大切さを伝えたいです。

そして、『kitchen buzz』って美味しかったな。またあの味が食べたいなと思い出してもらえる、他の店とはちょっと違うなと思ってもらえる店にしていきたいです。

人とのつながりを大切にすること

岡本さん:店を開業するのにはたったひとりではなんにもできません。飲食以外の業界の方からは違う視点でぼくの店を見てくれ、気づかないことにもたくさん、アドバイスしてもらいました。ぼくはたくさんの友人や家族に助けられました。

小さなお子様を連れたお母さんにもやさしいお店をめざす

“美味しいのは当たり前。美味しさの質にこだわらないと”というお言葉にドキッとさせられました。岡本さんは一番こだわられている野菜と日々真剣に向き合い、大切にされています。そういった部分と岡本さんのやさしくて、あたたかみのあるお人柄がお料理すべてに表現されているんだと感じました。
(取材・記事作成・編集/松尾)

<店舗情報>
kitchen buzz
住所/大阪市福島区鷺洲2-15-32
TEL/06-6454-2030
営業時間/ランチ11:30~15:00、ディナー17:30~23:00
定休日/日曜日

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