
岩谷 良平(いわたに りょうへい)氏/K&BROTHERS株式会社 代表取締役社長
1980年、大阪府に生まれる。早稲田大学を卒業後、司法試験に挑戦するも1点に泣き挫折を味わう。2009年、行政書士事務所を開業。2011年、大阪府議会議員選挙に当選。その後、1期4年の任期満了により政界を引退。2016年、不動産デベロッパー会社の社長に就任。同年、K&BROTHERS株式会社を設立し飲食業界に参入。アメリカブランドの日本上陸に尽力し、本国で定着しつつあるフードホール導入にも着手。「FOOD HALL BLAST!(フード ホール ブラスト)」の東京・大阪の一等地での展開を成し遂げる。
岩谷氏は、2016年にK&BROTHERS株式会社を設立。『いつもの日常に新体験を提供する』をテーマに、「Greenberry’s COFFEE (グリーンベリーズ コーヒー)」「Chronic Tacos(クロニック タコス)」「Pizza Cucinova(ピッツァ クチノバ)」といった、アメリカで生まれたブランドのフランチャイズを、東京、大阪、兵庫、奈良、岡山などに展開。2019年2月には、それら自社運営ブランドを集めた、フードホール「FOOD HALL BLAST!(フード ホール ブラスト)」を新宿、なんばにオープン。まだ日本には馴染みのないブランドが一度に楽しめる話題のスポットとして注目を集めています。
彼が日本で広げようとしている“ファストカジュアル”とは一体どんなものか、今まさに日々奮闘を続ける岩谷氏にインタビューしました。
ご自身のクロニクル(年代記)も記事の最後にあります!
日本ではほとんど知られていないフードカルチャーを求めて海の向こうへ!
──クラフトカフェ、タコス、カスタムピッツァという、アメリカ生まれのブランドが話題です。まず、貴社が手がけるブランドがどんな特徴があるのか、それぞれ紹介してください。
では「グリーンベリーズ コーヒー」から。すでに日本に多数あるカフェと同じようなセルフのスタイルではあるのですが、アメリカでも未だ18店舗しかない小規模のチェーン店です。
何がよかったかというと、すごくクラフト、つまり手作りにこだわっている点です。コーヒーも丁寧に豆から焙煎していてフードもすべて手作り。これに尽きます。サンドイッチひとつとっても工場で作ったものを並べるお店にはしたくなかったんです。もともと、“クラフト”の流れが飲食業界にも来ているとは感じていて、ぜひ取り入れたいと思っていました。グリーンベリーズは、すごく僕の理想に近かったんです。
──私が初めて「グリーンベリーズ コーヒー」を訪れた時、コーヒーはもちろんですが、スコーンがすごく美味しかったのを覚えています!
ありがとうございます。スコーンは日本オリジナルで作っています。
原材料が手に入りにくいから、本店のものを日本でそのまんま作るのは難しいんです。なので日本独自で研究を重ね、オリジナルメニューを常に改善していっています。
──「クロニック タコス」ですが、日本ではタコス専門店はまだそこまで数がないですよね。新鮮さがあったのでしょうか?
実はタコスに関しては、レストランの視察リストの中から外そうとしていたジャンルだったんです。アメリカでは国民食になっていますし、世界でもブームから定着に向かっています。でも、日本での浸透は難しいんじゃないかと。
──好き嫌いが分かれそうですもんね。
そうなんです。僕もどちらかというと、あまり好きではなかったんです(笑)。ところが「クロニック タコス」を初めて食べたときに驚きました。今まで食べてきたメキシコ料理のなかでもダントツに美味しかったんです。
本国では60店舗展開しているブランドですが、本拠地はカリフォルニアのニューポートビーチという、海沿いの高級住宅街です。本場のメキシコ料理とは全然違う味とも言えるのですが、そのアメリカナイズこそが日本で受け入れられると思いました。
店名にある“クロニック”には「中毒」「やみつき」といった意味があり、その通り僕も“どハマり”してしまいました(笑)。安全でヘルシーな食材のみを使い、「Nothing to hide」(隠すものは何もない)をキャッチフレーズにしているところにも魅力を感じましたね。
──日本にも多いピッツァ業態の「ピッツァ クチノバ」は何故?
「クロニック タコス」はある意味、変化球の挑戦的なジャンル。それと反対に、日本でもマーケットがあって安定的に成長が見込める業態も必要だと考えていました。当てはまったのがピッツァ。実は起業する時から「やりたい!」と決めていたジャンルなんです。
──「ピッツァ クチノバ」を選ばれたのは?
「Sbarro(スバロ)」というニューヨーク式のスライスピッツァ店が、新業態として作ったブランドが「クチノバ」です。本拠地は「マイアミ」になります。
──スライスピッツァは、アメリカ映画によく出てくるような、ひと切れから購入できる、とても大きいピッツァですよね。
そうです。子供のころカナダへ旅行した時に初めて食べて、美味しくて感動したんです。子供心に「なんで日本にはスライスピッツァのお店がないんだろう?」とガッカリしていました(笑)。
「未だスライスピッツァは日本に浸透していない!」とアメリカに飛んだんですが、そこでスライスピッツァ以上に進化している“カスタムピッツァ”に出会いました。それが、アメリカ全土にすごい勢いで進出していた「ピッツァ クチノバ」でした。
──カスタムピッツァとは、どのようなものですか?
その言葉の通り、具材を自由に選べてソースからトッピングまで全てチョイスして好みのピッツアを注文できるスタイルのこと。その組み合わせ方は、1億通り以上といわれています。つまり、自分だけのピッツァを作れる(体験できる)ということ。実に楽しいスタイルなんです!
アメリカで100以上の飲食店を“新体験”
──アメリカのブランドにこだわったのには理由が?
どんな“食”が日本に持ち込めるかを模索していくなかで、初めはインドや東南アジアなど、いろんな国をまわりました。そのうえで僕がなぜアメリカにこだわったかというと、常に新しいことが始まっている感触があったからなんです。
“食の質”でいうと、世界を見ても日本はとても高い。ただ、“面白さ”や“感動”につながる「食の体験を提供する」という観点では、アメリカには圧倒的な魅力があるんです。
──スライスピッツァやカスタムピッツァと、ピッツァだけでも多様な“体験”がありますね。現地企業とのFC権の交渉は大変でしたか?
実際にアメリカに行って、お店で食べることからスタートしました。現地のエージェントに協力していただき、いくつか候補をピックアップしてもらうのですが、それでも渡米するたびに、100店舗以上のレストランをまわります。
そこで目をつけたブランドと交渉して、契約を交わします。「クロニック タコス」の場合はラッキーなことに、3日間お店に通っていたら、たまたま創業者のランディさんとお会いできたんです!話が弾んで、すぐに契約交渉に入れました。
実は、何より大変だったのが自分の体重管理です。100店舗まわると必ず増量して帰ってくることになるので。帰国後にしっかり戻すよう、気をつけています(笑)。
──食材は、現地のものではなく日本のものを使用されているのですね。
基本的には、全て日本で調達しています。原価も違うので。「グリーンベリーズ コーヒー」のコーヒー豆だけはアメリカから空輸しています。アメリカから豆をわざわざ空輸しているカフェは、国内ではなかなか珍しいと思いますよ。
──食材以外にもアメリカのブランドを日本に取り入れていく点での苦労は?
アメリカの直営店には決められたマニュアルがあるのですが、日本ではそのまんまは使えないことですかね。
特に日本とアメリカとの社会情勢や文化の違いが背景にあると思います。たとえば、安全マニュアルでは「拳銃を持った強盗が押し入った時はどうするか」ということが大きく書かれています。日本でのケースと異なることが多くて、そのままでは使えないんですよ(笑)。
“良いものを手軽に”。アメリカで急成長するファストカジュアル市場
──新規事業に飲食店のフランチャイズを選んだのは何故でしょう?
新規事業では「今までにないことをやりたい」とは思っていたんですが、飲食店を全くゼロから立ち上げるノウハウがあるわけではない。フランチャイズがいいのではないかと。
ただ、国内のブランドをやるには新しさに欠ける。だから海外ブランド、さらに日本ではまだ知られていないブランドなら、すごく面白いことができると思ったんです。
そして僕らの会社が手がける3つのブランドは、いわゆる“ファストカジュアル”。アメリカでこのジャンルが急成長しているのを目の当たりにしました。
──“ファストカジュアル”という言葉はまだ日本では馴染みがないように感じます。
今の時代、健康という側面で大きな関心を向けられているのが“食”です。健康や安全面への配慮があって高品質。しかも日常のなかで気軽に楽しめる。それが“ファストカジュアル”です。
アメリカでは、健康志向が定着し、ファストカジュアル市場もここ10年で確立されました。お金をたくさん払って「いいもの」を食べるのではなく、あくまでも日常的にカジュアルに選べる「いいもの」。それを日本で提供し、ファストフードに代わって“ファストカジュアル”を普及していくことが今の僕たちのミッションだと思っています。
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